浮 き 世 の 諸 事 情 。
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#1 []
 
「浮き世」とは
辛く儚い世の中または俗世間。

‥他にも意味がありますが、
説明するほどの物でも、



ないでしょう、ね

⏰:10/01/24 18:10 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#2 []
 
気が付いたら
生い茂った竹林の中

竹が風に揺れて
ミシミシ音を立ている


ぼやけた世界に
あたしは目をつむって‥

この世に別れを告げた。

⏰:10/01/24 18:12 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#3 []
『こっちに来るんじゃないよ!!
‥汚らわしい!!』

バチンッ

あたしは‥人間なのだろうか

『お前のせいで‥お前のせいで‥
父ちゃん死んじゃったじゃないか!

お前が殺したんだ!!化け物!!』

⏰:10/01/24 18:14 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#4 []
ドカッ ドカッ ‥


鈍い音と鋭い衝撃が体を伝った

あたしは何故生まれてきたのか‥


よく‥わからなかった

⏰:10/01/24 18:18 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#5 []
 
『いや‥やめてよお母さ‥』

『汚い声で呼ぶんじゃない!!
あたしはお前の母親じゃない!』


『‥ご‥めんなさい‥。』



幸せの意味を知らずに終わった
つまらない人生だったな‥

⏰:10/01/24 18:21 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#6 []
 





「‥ごめん‥なさいっ
ごめんなさい‥許し‥て」

‥あれ?
あぁ‥あたし死んだんだ

痛み無かったし‥

死ぬってそんな辛くないんだ‥

⏰:10/01/24 18:22 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#7 []
 
ぼうっと差し込む光に
思わず目を細めた

これから地獄行きか天国行きか
決めるんだろーなぁ‥

まぁ
あたしは地獄に決まってる‥


あたしは人殺しだもんね

⏰:10/01/24 18:23 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#8 []
 
ほら‥やってきたよ神様だ


神様って案外普通なんだなぁ‥
もっとこう‥何て言うか‥


あーでも‥綺麗な顔かも


神様ってこんな美形なんだぁ‥

⏰:10/01/24 18:25 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#9 []
 
「‥あぁ、やっと」

神様と目があった
なんだか胸が飛び跳ねた
恐怖じゃない何か別の‥


「本当に‥あんな所にいたら
今頃喰われてましたよ?貴女」


‥ん?

⏰:10/01/24 18:26 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#10 []
 
「運が良かったです‥ね」

ちょっと待てよ

「あのー‥」

恐る恐る声をかけてみた
起き上がろうとしたけど
体に力が入らなかった

「こら、病人‥動いたら死にますよ?」

もしかしたらあたし‥

⏰:10/01/24 18:27 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#11 []
 
「生きてます‥か?」

すると神様は切れ長の目で
こっちをじっーと見つめ
あたしの隣に腰をかけた


逆光でよくわからなかったけど
よく見ればかなり色白で鼻が高い

怪しい‥雰囲気

⏰:10/01/24 18:27 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#12 []
 
「あのまま‥置き去りにしても
よかったんですけど、ね」

クスっと鼻で笑い
これまた綺麗な手であたしの顔を撫でた

「助けて‥くれたんですか?
こんなあたしを?」

こんなボロボロの着物着て
髪もボサボサで化粧もしてない
こんな汚らしいあたしを‥

⏰:10/01/24 18:28 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#13 []
 
「拾っただけ、ですよ」

あぁ‥なんて優しい人なんだ
神様だ神様だ!!!

嬉しさのあまり涙を浮かべた
‥のもつかの間




神様はやっぱり存在しないのだ

⏰:10/01/24 18:29 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#14 []
 




「で?貴女、名前‥は?」

独特の語り口調の神様は
何とも落ち着いた様子で
お茶を入れている

あ‥睫毛すごい長い。
いーなー‥羨ましい
この人‥何才くらいなんだろう

⏰:10/01/24 18:35 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#15 []
 
「‥名前は、と聞いているんです
聞こえませんか?この耳、は」

ギュッ

「いぃいっっ!!!!
ちょっと何するんですかっ!!
は‥離してくださいっ」

神様はあたしの耳を右手で
それはもう思いっきり引っ張り
左手は全く別物かのように
湯呑みを口元に運んでいた

⏰:10/01/24 18:36 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#16 []
 
 
 
嫌な‥
   予感‥
      がします‥。

⏰:10/01/24 18:37 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#17 []
 
「うぅ‥っかや!!‥かやです!!」

涙をいっぱいに溜めて叫んだ


途端に神様のお仕置きは終わった

い‥痛い‥痛すぎる

⏰:10/01/24 18:38 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#18 []
 

「ほう、"かや"とは‥
どんな字を‥あてるのですか?」

ズズズーっと茶をすする音が
部屋中に響き渡った



「‥"香"る"夜"です」

⏰:10/01/24 18:39 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#19 []
 
「‥」

「‥香る‥よ‥」

「何とも‥、夜が期待できそうです、ね」


顔をゆっくりこちらに向けて
意味ありげに怪しく笑った

⏰:10/01/24 18:39 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#20 []
 
「な‥//
べべ‥別にそういう‥
ヤらしい名前じゃ‥」

「誰が‥
"ヤらしい"と言いました?」


あたし‥からかわれてる?
てか‥何なのこの人 !!

この余裕綽々なかんじ‥

⏰:10/01/24 18:40 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#21 []
 
「‥あ‥貴方のお名前は?」

話を切り替えるので
‥精一杯なほど

この人は話がうまいというか
川が流れていくように
するする進んで
いつの間にか自分もその流れに‥

「名前?‥何故言わなきゃいけないのですか?」

何故って‥この人

⏰:10/01/24 18:41 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#22 []
 
 
 
―‥ 一体、何なの ?


_

⏰:10/01/24 18:42 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#23 []
 




「あぁ‥そうだ」

「‥な、何ですか?」

「私が‥香夜を‥」

そう言いながら
ミシミシと近づいて

「拾った、わけですから‥」

遂には吐息がかかるくらいにまで
何故か高鳴る鼓動

⏰:10/01/24 19:06 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#24 []
 
「だ‥だから何ですか?」


飛び出した自分の声が
震えていたのがわかった


喰われそうな‥




気もしなくもなかった

⏰:10/01/24 19:08 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#25 []
 
「今日から貴女は‥








私の、所有物です」

⏰:10/01/24 19:08 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#26 []
 
しょ‥しょ‥

「所有物?!‥何ですかそれ!!」

ふ‥ふざけないでよ
あたし一応人間よ?

こんな訳の分からない人の
所有物になんかぁ‥

⏰:10/01/24 19:09 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#27 []
 
「所有物の意味も知らないんですか?」

なんとも悠長に
普通のことかのように
振る舞ってるけどこの人‥

「わかります!!
馬鹿にしないでください!!」

「ほう、
それならお分かりでしょう?
‥今日から貴女は私の‥」

誘拐よ!!監禁よ!!
犯罪だわ‥こんなの!!

⏰:10/01/24 19:10 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#28 []
 
「べ‥別に!!
誰も‥助けてなんて
言ってないじゃないですか!!」

さっきまでは
あんなに感謝してたのに‥はは


だけどこんなの納得いかない!!

⏰:10/01/24 19:11 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#29 []
 
 
「自分の立場‥
お分かりで、お出でで?




それなら‥死にます、か?」

⏰:10/01/24 19:12 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#30 []
 
人の言葉に
こんな凍り付いたことはない

この表情‥この目つき


本気‥だっ‥!!

思わず声を失った



あたし‥殺される‥?

⏰:10/01/24 19:13 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#31 []
 
「そうですねぇ‥
選ぶ権利を与えましょう、か

首絞めも結構
殴る蹴るその他も結構
刃物で刺すも結構‥

あぁ‥
切腹と言う手もありますねぇ

いや、しかし‥
私の着物が汚れるのは‥
ちょいと厄介ですからぁ‥ねぇ」

冷たい手があたしの首を這う
え‥苦しいの‥やだよ?

⏰:10/01/24 19:14 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#32 []
 
「何でもよいのなら‥
首をちょいと‥」

「やややややっ!!
やめて下さいぃいっ!!」

「それでは‥
所有物、と言うことで‥契約を」


ニコッと愛想良く笑ったが
なんと言うか‥心晴れず。

⏰:10/01/24 19:15 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#33 []
 
「‥って言うか!!
話逸らさないでくださいよ!!」

「さぁ‥」

むくっと立ち上がって
また壁にもたれかかり
‥ぼうっと空を眺めてた


無理矢理に体を起こしてみるが
やっぱり重い

⏰:10/01/24 19:16 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#34 []
 
「名前です!!貴方の!!」

「名前‥
何故"所有物"に教えな‥」

「名前無くちゃ‥
呼べないじゃないですか!!
ふ‥不便です!!」


なんかイライラしてきた‥
ほんとに何なのよ!!
もう‥嫌

⏰:10/01/24 19:18 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#35 []
 
「不便‥ねぇ
そうですね‥呼び名、か」

こうやってもったいぶるのも
あたしを馬鹿にしてるんだわ


逃げ出さなくちゃ‥!!



「逃げようなんて‥無駄、ですよ」

⏰:10/01/24 19:18 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#36 []
 
背筋がぞっとした
何かが不気味な冷たい物が
這い上がってくるような‥

「に、逃げようなんて‥!!」

「‥思っていらっしゃる」

鋭い眼差しが捉えて離さない

"イケない物に出くわした"
そんな気もしたけれど

美しすぎて、見とれてしまって

動けなくなっていた。

⏰:10/01/26 16:10 📱:D905i 🆔:3fGEyA9k


#37 []
‥見透かされてる?
特別な力でも持ってるの?

「あの‥」

だらしなく開けたままの口から
間の抜けた声が出た

その人は表情を全く変えずに
ゆっくりとこちらに視線を落とす


「何か、」

捕まえておきながら
その関心なさそうな声‥

⏰:10/01/26 16:15 📱:D905i 🆔:3fGEyA9k


#38 []
 
「どうするつもりですか?」

すると
やっと眉間がピクリと動いて
また同じ口調で"何を、"と言う

きっとこの人とあたしの性格は
正反対なのだと思う
ここまで白けてる人‥初めて

⏰:10/01/26 16:20 📱:D905i 🆔:3fGEyA9k


#39 []
 
ムスッとして少し睨みつける

‥動じない。


もっと睨みつける

‥全く。



ここまで来ると‥
何故か芽生える、寂しさ

⏰:10/01/26 16:21 📱:D905i 🆔:3fGEyA9k


#40 []
 
「どう、されたいんで?」

お茶をすすって放った声は
すごく低くて部屋中に響き渡った


「どうって‥
どうされたいも、こうされたいも
言わなくてもわかるでしょう?

所有物なんて嫌です!!絶対に」

つい声が大きくなってしまった
はっとして咄嗟に下を向く

⏰:10/01/26 16:26 📱:D905i 🆔:3fGEyA9k


#41 []
 
―‥沈黙
何故か急に恥ずかしくなる



「では‥夫婦にでも、なりますか?」

「め‥め、おと?!
ふざけるのもいい加減に‥」



と、言い終わる前に
あの綺麗な手で塞がれた馬鹿でかい声は情けなく語尾を弱めた

⏰:10/01/26 16:32 📱:D905i 🆔:3fGEyA9k


#42 []
 
「あまり大きな声を出されると‥」

ばつが悪そうに
眉を下げて小声で‥

初めて人らしい振る舞いを見た


「ほら‥、」

足音が近づいてきた襖に目をやる

⏰:10/01/26 16:37 📱:D905i 🆔:3fGEyA9k


#43 []
 
「壱助さん?
如何なさいましたか?」

襖の向こうから
落ち着いた女の人の声が聞こえた

「あぁ‥いえ、
どうか、お気になさらず」

目に見えない向こうの人に
その人は律儀に頭を下げた


足音が遠ざかると
すっと口元から冷たい感覚が消え
妙な緊張と息苦しさに
深く息を付いた

⏰:10/01/26 16:42 📱:D905i 🆔:3fGEyA9k


#44 []
 
あ‥なるほど、

「壱助‥さん?」

馴れ馴れしく、だけどぎこちなく

「‥」

興味なさそうな
冷たい目がこちらを向いたが

‥あたしは見逃さなかった。


"壱助さん"の口元が
少しだけ、ほんの少しだけ緩んだ

⏰:10/01/26 16:47 📱:D905i 🆔:3fGEyA9k


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