浮き世の諸事情｡

　
｢"外"に出たら‥いくらでも｣

｢それなら､あんたのは
一生お目にかかれないねぇ｣

嫌味ったらしく
目を細めて呟いた

ほう‥貴女も好き者です､か

　
｢まだ返し終わりません､か｣

心配そうに見つめれば
"一生だよ"と言う

この遊女には莫大の借金がある
自殺した父親の残したものだ

それを返すために
此処で体を売っていると言う

　
｢一生売ってもね､
終わらないんだよ､好き者さん｣

煙管を吹かして
煙を宙に漂わせる

それをぼうっと眺めて
消えるのを見送っていた

　
｢‥体に悪いですぜ？｣

｢知ってるさ､
これで死ねるなら‥死にたいよ｣

馬鹿なことを言う人です､よ

｢‥金なら､私が代わりに‥｣

すると大口を開けて笑った
他の女なら下品な姿だ

　
｢お節介は､よしとくれよ
あんたにゃ関係ないだろう？｣

曇った目の奥が
叫んでいるじゃあ､ないですか

"助けてくれ"と
言ってるっというのに

全く遊女は､演技が上手い

　
｢‥好き者さん？｣

最期だと甘えます､か

｢壱助と､申しまして｣

少し躊躇いやしたか
所詮私は貴女の"顧客"

　
｢壱助さん‥抱いとくれよ｣

真っ白な華奢な肩
何人がそこに触れましたか
‥私は､何人目で？

｢此処では‥控えます､よ｣

此を嫉妬と言うならば
‥受け入れ､ましょうか｡

　
｢‥汚いからかい？｣

｢いえ､｣

｢‥最期に､
あんたに抱かれたいんだよ｣

｢今日は､これで‥｣

あぁ‥貴女と言う人は
私の気持ちを知ってるくせに‥

涙に弱いと知ってお出でで？

　
｢嫌なんだよ‥
一度でいい‥壱助さん｣

やっと子供らしくなって
大きな雫をこぼして

"最期"などと言いますか

｢‥もう大人でしょうに､
みっともない､ですよ｣

　
力なく抱き締めると
しがみつくように
着物に爪を立ててただをこねる

｢馬鹿です､ね‥全く｣

軽く口元に口づけた