浮き世の諸事情｡

　
｢んう‥｣

しなびた声が耳にかかる
こちらに現れた小さな白い手

生娘が男を‥襲う気ですかい？

後ろから抱きついた貴女は
何を思ってるのか‥

いつもなら頬を染めて
嫌だと喚くと言うのに

　
全く､酒は人を変えます故‥
そのせいで虚しくなるのも
また‥然り

｢‥壱助さん｣

背中に響く声が
こんなにも､こんなにも‥

｢何､か｣

色めいて聞こえるのも

　
｢‥寂しかった｣

‥酒の力ですか､ね

小さく震える体を
抱き締めてやりたいのに
どうしてこうも､躊躇うか

‥情けないもんです

：
：

｢‥馬鹿です､ねぇ｣

答えるような幼い寝息
月明かりに照らされた肌に
そっと触れる

呆れるほどに無防備で
着物を掴んだ柔らかな手が
ぴくりと呼吸した

　
｢‥放って､置けやしない｣

他の輩の前で
酒など飲ませてたまるかと
仕様もない独占欲に駆られ

‥小さな体を思い切り抱き寄せた

：
：

久しぶりに眠りに付いた
目を覚ますと
長い睫を伏せた"猫"

昨晩の艶やかさは何処へやら
‥何時ものあどけなさを残す姿

はだけた浴衣から
美しい鎖骨が見え
小さく微笑み遠慮がちに触れた

　
｢ん‥う｣

眩しそうに目を細めた酔っ払い

ちょいと間を置いて目を見開き
どうやら我に返った様子

｢あ‥え？そそ‥添い寝？!｣

　
色気のない声を出し
あたふたする姿を見て
何故か安堵を覚えたもので‥

｢壱助さん‥え？やだぁっ｣

頬を紅くして
布団に顔をうずめた

何を考えたんですか､ね

そんな簡単に
手なんか出しやしない‥ですぜ

　
｢あたし‥何かしました？｣

しかし覚えてないとなると

｢昨夜は‥
楽しませていただきました､よ｣

ちょいと悔しい物があるもんで

　

｢嘘‥うそぉおお!？｣

貴女の恥じらい困惑する顔を
見たくなって‥しまう｡

意地の悪い男‥です､よ