浮 き 世 の 諸 事 情 。
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#43 [笹]
「壱助さん?
如何なさいましたか?」
襖の向こうから
落ち着いた女の人の声が聞こえた
「あぁ‥いえ、
どうか、お気になさらず」
目に見えない向こうの人に
その人は律儀に頭を下げた
足音が遠ざかると
すっと口元から冷たい感覚が消え
妙な緊張と息苦しさに
深く息を付いた
:10/01/26 16:42 :D905i :3fGEyA9k
#44 [笹]
あ‥なるほど、
「壱助‥さん?」
馴れ馴れしく、だけどぎこちなく
「‥」
興味なさそうな
冷たい目がこちらを向いたが
‥あたしは見逃さなかった。
"壱助さん"の口元が
少しだけ、ほんの少しだけ緩んだ
:10/01/26 16:47 :D905i :3fGEyA9k
#45 [笹]
:10/01/26 16:55 :D905i :3fGEyA9k
#46 [笹]
浮き世、とは
辛く儚い世の中の事‥。
‥誰にでも
思い出したくない過去は
あるもの、ですよ
威勢の良い、この"捨て猫"も
また‥然り。
:10/01/26 22:25 :D905i :3fGEyA9k
#47 [笹]
:
:
:
どうやって逃げ出そうか‥
取り敢えずここは宿みたい。
さっきの女の人は
ここの女将さんのようだ
壱助さん、とやらは
逃げようと企んでるのをわかって
あたしから目を逸らさないのか‥
:10/01/26 22:29 :D905i :3fGEyA9k
#48 [笹]
「何か‥変ですか?」
様子を伺うように
恐る恐る目を合わせてみる
「いえ‥、何も」
真っ直ぐに伸びた長い睫
綺麗な首筋、透き通った肌
見れば見るほど美しくて、
ただ見てるだけで
惚れてしまいそう‥。
:10/01/26 22:32 :D905i :3fGEyA9k
#49 [笹]
って、何考えてるのよ!!
はっと我に返って
"そうですか"とぶっきらぼうに
目を伏せながら呟いた。
「ただ‥」
あの綺麗な手が
今度はあたしの髪を撫でる
外がだんだんと橙色に染まる
窓からの光が
壱助さんの横顔を染める。
:10/01/26 22:38 :D905i :3fGEyA9k
#50 [笹]
綺麗な夕日色に
壱助さんの美しさが
何とも、ぴたりと合っていて
女のあたしが嫉妬しそうなほど
色っぽく映し出した。
"ただ‥"の後に続く言葉を
あたしは黙って待った
普段はせっかちだから
こんなことは‥有り得ないのに
:10/01/26 22:41 :D905i :3fGEyA9k
#51 [笹]
「可愛らしいな、と‥」
_
:10/01/26 22:42 :D905i :3fGEyA9k
#52 [笹]
いや、まさかと思った。
‥お世辞に違いないのだ
こんな美しい人に
"可愛らしい"なんて言われても
正直、嫌味にしか聞こえない
そんなことを言って
あたしが油断したすきに
"喰ってしまおう"とか、
きっと考えているんだ‥。
そう疑わなければ、
自分を見失ってしまいそうで
急に忙しくなった鼓動に
気づかぬ振りをする
:10/01/26 22:46 :D905i :3fGEyA9k
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