浮 き 世 の 諸 事 情 。
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#851 []
 
「あたし‥香夜と申します!!
お金もないし、色気もないけど
お裁縫は得意なので‥
お着物の解れなど有りましたら
‥な、何なりと!!」

案の定
男性からはクスッと笑い声


本当にあたしって役立たず
俯き指で畳の網目をなぞった

⏰:10/03/11 13:53 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


#852 []
 
「自分は"幸太郎"と申します
年は‥香夜さんより
一回りくらい上です、たぶん
不器用なもんで‥
裁縫は苦手ですね」

柔らかい笑顔を浮かべた

一回りくらい上なら
お父さんと同じくらいかな‥
生きてたら‥、
幸太郎さんと同じくらい

⏰:10/03/11 13:53 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


#853 []
 
催眠術にかかったように
頭の中がぽーっとした

もう与えられることのない
父からの愛情を‥
今目の前に見てしまう


「今は、一人暮らしですが‥
自分には妻と娘が居ました。」

何故かその時胸が泣いた

⏰:10/03/11 13:54 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


#854 []
 
幸太郎の姿が
亡き父と重なってしまった


隠れていた寂しさが
奥の方から湧き上がる

「もう、十年も前ですか‥
三人で暮らしていた住まいが
‥火事に遭いまして
全焼でした、
真っ黒な炭になった木材が
ぼろぼろと崩れていく光景は
本当に‥見てられませんでした」

⏰:10/03/11 13:54 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


#855 []
 
遠くの過去が
最早思い出となってるのか
ほんのり浮かんだ悲しげな笑みが
胸を突き刺した


「自分は丁度出掛けてまして‥
帰ってきたら‥"それ"だけ。
逃げ切れなかった妻と娘は‥」

⏰:10/03/11 13:55 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


#856 []
 
その現場に
居合わせたわけじゃないのに
鮮明に目の前に広がる
悲惨な光景

目を、耳を塞ぎたくなるような‥


「‥何故、自分だけ
助かってしまったのか、
そう‥何度も思いました。」

⏰:10/03/11 13:56 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


#857 []
 
「家族が目の前から
急に‥いなくなるのは
つらいですよね、本当に」


悲しみが極限を超えて
無になった時

この上ない恐怖が襲う

⏰:10/03/11 13:56 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


#858 []
 
「娘は‥生きてたら
貴女と同じくらいでした。
とても天真爛漫でね、
優しくて、気配り上手で‥」


『香夜は優しいなぁ!!』

『香夜は気配り上手だ!!
いい嫁さんになれるぞっ』

『香夜‥』

⏰:10/03/11 13:57 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


#859 []
 

「おと‥さん」


正気を失った
自分でもわかってる

だけど気持ちが飛んでいく


あたしが求めてたのは
単なる愛情じゃない

‥お父さんからの愛情なんだ

⏰:10/03/11 13:57 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


#860 []
 
「香夜さん‥?」

幸太郎さんの声が
やんわりと耳をすり抜け
穏やかな思い出と溶け合った


お父さんは
子供みたいな人だった

あたしと一緒に騒いで
‥泣いて笑って

⏰:10/03/11 13:58 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


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