浮 き 世 の 諸 事 情 。
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#892 []
 
黙って聞く壱助さんは
いつもみたいに睫を伏せて
だけど少しだけ唇が弧を描いて

笑ってる‥?


「目の前で家族を‥」

「失った‥か」

あたしの言葉に付け足すように
そうぽつり呟いた

⏰:10/03/18 15:45 📱:D905i 🆔:WpH3kYYs


#893 []
 
貴方の目が見れない

震えだした唇を
無理やり噛み締めて堪えた



だって壱助さん、貴方といると
とても辛いんだもの‥

⏰:10/03/18 15:45 📱:D905i 🆔:WpH3kYYs


#894 []
 
「同じ境遇‥故に
心惹かれたと、言うんで?」

そうだとしたら
この感情は同情なのか

寂しさを苦しさを
共有したがる弱さなのか


あたしは弱い
そんなのはわかってる

⏰:10/03/18 15:46 📱:D905i 🆔:WpH3kYYs


#895 []
 
ぐるぐると渦を巻く
灰色の何かが
だんだんと暗くなる


強くなったつもりだよ
強くなったはずだった

どうしてこうも上手くいかない
結局誰かにすがりつかなきゃ
生きていけない

⏰:10/03/18 15:46 📱:D905i 🆔:WpH3kYYs


#896 []
 
「‥あたし、」


左手首の落ち着いた傷たちが
疼き始めて痛い

壱助さんに出会ってから
傷は増えることがなかった

あたしを心配して
止めろと言ってくれた

⏰:10/03/18 15:47 📱:D905i 🆔:WpH3kYYs


#897 []
 
「香夜さん」


頭がぼうっとする
昨日からずっと

体と心が全く別物
宙に浮かんで掴めない


畳の網目をなぞってた右手が
左手首に爪を立てた

⏰:10/03/18 15:47 📱:D905i 🆔:WpH3kYYs


#898 []
 
「‥香夜さん」


少し引っ掻いただけで
血が滲みはじめて
久しぶりの感覚にぞっとした



真っ赤な液体が
爪の間をすり抜けて滲みた

⏰:10/03/18 15:48 📱:D905i 🆔:WpH3kYYs


#899 []
 
「あたし‥どうかしてる
どうかしてる‥よ、
もう‥消えちゃいた‥」


『「‥香夜っ!!」』


はっとした
また父親と重なった声

⏰:10/03/18 15:48 📱:D905i 🆔:WpH3kYYs


#900 []
 
壱助さんが声をあげた
思わず顔を見上げれば
どこかそれは悲しそうな顔で

しわの寄った眉間
鋭いのに優しい目


「契りを交わしたはず、ですよ
そのお命‥無駄にはしない、と」

⏰:10/03/18 15:49 📱:D905i 🆔:WpH3kYYs


#901 []
 
今あたしを叱ってくれるのは
貴方だけで‥

真剣に向き合ってくれる
その瞳で包んで

「本当に‥世話が焼ける」

「い‥ち助さん」

流れるような細い指で
手首を包み込まれれば
どくどくと生命が鳴いてる

⏰:10/03/18 15:49 📱:D905i 🆔:WpH3kYYs


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