浮 き 世 の 諸 事 情 。
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#501 [笹]
「香夜さん‥、」
昨日の雨も
夜中の内に上がり
澄んだ青空が広がった
―‥チュンチュン
「朝です、よ」
:10/02/09 18:50 :D905i :rBP2/YbM
#502 [笹]
ベチンッ
「いぃったあぁい!!!」
またいつもの朝を迎えた
いつになったら
あたしは1人で起きられるのか
‥こんな毎日毎日
顔面叩かれてたら、腫れてしまう
:10/02/09 18:50 :D905i :rBP2/YbM
#503 [笹]
そして今日も
壱助さんはお美しい
‥只でさえ朝早いのに
着物もきっちり来て
全く寝起きって感じがしない
やっぱり寝てないのかな?
ゆっくり体を起こす
夢にあの少年が出てきて
うなされたのか‥
少し体が汗ばんでる気もした
:10/02/09 18:51 :D905i :rBP2/YbM
#504 [笹]
「‥」
無言で見つめる壱助さんの手には
空になったお茶の葉の袋
「あのぉ、」
「‥何、か」
何でいつもそう
仏頂面なのかしら‥。
:10/02/09 18:51 :D905i :rBP2/YbM
#505 [笹]
笑ったりしたら絶対‥
‥笑わなくてももてるから
憎いんだった。
「お茶‥」
「買ってきてください、ね」
「そうじゃなくてぇ‥」
「買ってきてください、ね」
:10/02/09 18:52 :D905i :rBP2/YbM
#506 [笹]
「‥もうちょっと」
「早く」
こう言うときだけ
笑顔を浮かべる
壱助さんは
笑わなくていいかも‥。
:10/02/09 18:52 :D905i :rBP2/YbM
#507 [笹]
またぼうっと窓の外を眺めてる
そんな壱助さんを
ぼうっと見つめるあたし
こちらに目を向けてないのに
"何、か"と言う
背中にも目がついてるのかしら
未だに壱助さんは
沢山の謎に包まれています
:10/02/09 18:53 :D905i :rBP2/YbM
#508 [笹]
「‥行って参ります」
そう言って
しぶしぶ布団から
出たその時であった
「‥あれ?」
足元がふわり浮くような
不思議な感覚に襲われ
頭が石のように重く感じ
そのまま意識が飛び
体が‥
:10/02/09 18:53 :D905i :rBP2/YbM
#509 [笹]
:
:
:
一瞬どこかへ旅立った
自分を引き戻し
はっと目を覚ます
目の前には
切れ長の目の肌が白い‥
「壱助さん‥?」
はて‥
何があったんだろうか
:10/02/09 18:54 :D905i :rBP2/YbM
#510 [笹]
「‥危なっかしいです、ね」
目を細めて、呆れた様子
今‥この体勢は‥
この頭に触れるのは‥
「ひざ‥膝枕」
思わず上擦った声に
ごくりと唾を飲んだ
:10/02/09 18:54 :D905i :rBP2/YbM
#511 [笹]
壱助さんに
膝枕をしてもらうなんて
壱助さんの
お膝様をお借りするなんて
‥なんて命知らずなんだ
「わわっ
ごっごめんなさいこんなっ」
慌てふためくあたしの顔は
きっと真っ赤に染まってる
火がでるほど熱かった
:10/02/09 18:55 :D905i :rBP2/YbM
#512 [笹]
下から見る壱助さんの姿は
彫刻みたいに鼻が高くて
また睫長くなってる気がして
たった一度だけ触れた唇が
あの優しい感覚を蘇らせた
‥同じ世界の人間か疑うほど
親の顔が見てみたい
「そんなに‥
か弱かったんですかい?」
「へ?」
:10/02/09 18:55 :D905i :rBP2/YbM
#513 [笹]
すると見る見る内に
いい匂いと共に近づく
あの美しい顔
「ちょっちょっ壱助さんっ?!」
また消毒ですか?!
待ってよ心の準備ってもんが‥
:10/02/09 18:56 :D905i :rBP2/YbM
#514 [笹]
‥コツン
え?
恐る恐る目を開けると
近すぎてぼやけて見えるが
やっぱり美しい壱助さんの顔
:10/02/09 18:56 :D905i :rBP2/YbM
#515 [笹]
「な‥えぇ‥?」
触れていたのは
唇と唇ではなく額と額
残念ながら‥
いや、べ別に残念じゃないけど‥
消毒ではありませんでした
:10/02/09 18:57 :D905i :rBP2/YbM
#516 [笹]
しばらくの間壱助さんは
寝てるのかと疑うほどに
ぴくりともしなかった
火照った頬を
くすぐる規則正しい呼吸
こっちは緊張しすぎて
息苦しいと言うのに‥
壱助さん
いろいろと手慣れすぎです
:10/02/09 18:57 :D905i :rBP2/YbM
#517 [笹]
「壱‥助さぁん?」
すると
一時の眠りから覚めたように
目を開けてすっと顔を離した
それと同時にあたしは
その間呼吸できなかった分を
部屋の空気を全部吸い取るくらい
思いっきり体に取り込んだ
:10/02/09 18:58 :D905i :rBP2/YbM
#518 [笹]
「‥全く、」
いやいや
いきなりそんなことされた
こっちが全くですよ
「たったあれ如きで‥
熱を出すとは、ね」
「熱?」
:10/02/09 18:58 :D905i :rBP2/YbM
#519 [笹]
そう言われてみれば
朝からちょっと体が重かったかも
昨日の雨にやられたかな?
「情けない‥ですね」
はぁっとため息を吐くと
:10/02/09 18:58 :D905i :rBP2/YbM
#520 [笹]
ガサッ
一気に目の前が暗くなった
‥お茶の匂い
間違いなく
今あたしに被さってるのは
さっきまで壱助さんが手にしてた
お茶の葉の空袋
そっか‥
じゃあ今日はお茶お預けかぁ
:10/02/09 18:59 :D905i :rBP2/YbM
#521 [笹]
「‥ごめんなさい」
自分の声が袋中を駆け巡り
また耳の奥へ帰る
きっとお茶は
壱助さんの命の次に大切なもの
そう考えたら
何だか急に申し訳なくなった
:10/02/09 18:59 :D905i :rBP2/YbM
#522 [笹]
グシャッ
耳を突き刺すような音と共に
朝と同じ激痛が顔面に走る
「ったぁあいぃ!!」
何でこうも壱助さんは
顔面攻撃が好きなんだろうか‥
ただでさえ不細工なのに‥もう
:10/02/09 19:00 :D905i :rBP2/YbM
#523 [笹]
息つく暇もなく
壱助さんはやりたい放題
「うわっまぶしっ!!」
一気に袋を取り去られ
急にさす光の眩しさに
目の前が眩んだ
じーっとこちらを見つめる
美しい視線とぶつかった
:10/02/09 19:00 :D905i :rBP2/YbM
#524 [笹]
まばたきもしないで
ただじっと‥
熱のせいか頭が働かない
いつもなら
考えなくとも口が勝手に
喋り出すのになぁ
:10/02/09 19:01 :D905i :rBP2/YbM
#525 [笹]
:
:
「どんな‥夢を?」
先に口を開いたのは
壱助さんの方だった
ひんやりした雪のような手が
額にそっと触れた
‥心地いい
:10/02/09 19:01 :D905i :rBP2/YbM
#526 [笹]
「昨日の‥少年の」
蚊の鳴くような声で答えると
"そうです、か"と
何かを考え込んでる顔で言った
壱助さんの手は
まるで魔法の手みたいで
熱を吸い取っていくような
‥そんな気がした
:10/02/09 19:02 :D905i :rBP2/YbM
#527 [笹]
それから
何を言うでもなく‥
壱助さんは優しく
あたしの額辺りを撫でて
また空を眺めてた
「壱助さん‥空好きですよね」
大した答えなど
期待してなかった
「‥何か見えるんですか?」
返事のない横顔に続けて問った
:10/02/09 19:02 :D905i :rBP2/YbM
#528 [笹]
「‥いえ、何も」
「どうしてそんなに
眺めてるんですか?いつも
何か考え事でも?」
するとぴたりと手が止まった
:10/02/09 19:03 :D905i :rBP2/YbM
#529 [笹]
「何も‥考えたくないから
こうして居るんです、よ」
気のせいだろうか
いつもより少しだけ
横顔が寂しそうに見えた
‥見ていられなかった
今日のあたしはどうかしてる
:10/02/09 19:03 :D905i :rBP2/YbM
#530 [笹]
――――‥
_
:10/02/09 19:04 :D905i :rBP2/YbM
#531 [笹]
ふわりと
お茶の香りが宙を舞う
体が勝手に動いてしまった
‥きっと壱助さんが
その左手で魔法をかけたのだ
衝動的に起き上がり
壱助さんを
胸の中に押し込めた
:10/02/09 19:04 :D905i :rBP2/YbM
#532 [笹]
ぎゅうっと綺麗な背中を
壊れそうなくらい
強く抱きしめると
壱助さんは力なく応えた
「‥泣いてるんで?」
わからない
わからないけど
‥涙が止まらなかった
:10/02/09 19:05 :D905i :rBP2/YbM
#533 [笹]
「壱助さ‥ん
何処にも‥行かないで」
情けなく弱々しい声を
涙と一緒に落とした
何故そんなことを言ったのか
‥わからない
だけど急に不安になった
独りにされてしまいそうで
壱助さんはこんなあたしに
‥疲れているんじゃないかって
:10/02/09 19:05 :D905i :rBP2/YbM
#534 [笹]
「約束、したでしょう
独りにしない‥と」
包み込むように
ぎこちなくあたしを撫でた手に
一瞬にして不安が吸い取られた
:10/02/09 19:06 :D905i :rBP2/YbM
#535 [笹]
あたしの、居場所は
―‥貴方の隣。
_
:10/02/09 19:07 :D905i :rBP2/YbM
#536 [笹]
:10/02/09 19:10 :D905i :rBP2/YbM
#537 [笹]
まだまだ子供な"飼い猫"が
ぼうっと空ばかり眺めて
雪を待ちわびているもんで‥
"色は思案の外"と
良く言われます故‥
―‥自分でも、
良くわかりゃしないのですが、ね
:10/02/10 16:47 :D905i :yQPzNAIc
#538 [笹]
:
:
雲が低い
空一面を灰色に染める
「‥雪ですか、ね」
冷えた空気が息を白く染めた
:10/02/10 16:48 :D905i :yQPzNAIc
#539 [笹]
:
:
「お帰りなさいっ」
窓から乗り出すような勢いで
雪が降るのを待ちわびていると
壱助さんが帰ってきた
「今日、雪降りますかねぇ?」
別に雪は珍しくない
だけど真っ白に染められた街に
なんだかとてもわくわくして
何時になっても
目を輝かせてしまうのだ
:10/02/10 16:48 :D905i :yQPzNAIc
#540 [笹]
「‥さぁ、ね」
後ろで聞こえた素っ気ない声に
着物と肌がすれる音が続く
「‥んう」
また黙って着替えて‥
着替えるときは声かけてって
あれだけ言ってるのに
気付かぬふりをして
じっと空とにらめっこ
:10/02/10 16:49 :D905i :yQPzNAIc
#541 [笹]
―‥だけど沈黙となれば
どこかむず痒い
「外、寒かったですか?」
「そりゃあ‥ねぇ」
今度は畳と着物がすれる音
どうやら着替え終わったらしい
:10/02/10 16:50 :D905i :yQPzNAIc
#542 [笹]
流石に手が冷えてきた
外へ向けた息も白い
「囲炉裏があると
やっぱり冬はいいですよねぇ」
なーんて
あたしにとっては珍しかった
囲炉裏に暖かさを求めて
振り返ってみたものの‥
:10/02/10 16:50 :D905i :yQPzNAIc
#543 [笹]
「壱助さん!!」
どうしてそうも貴方は‥
囲炉裏の前に立ちはだかる
壱助さんの背中
「ちゃ‥ちゃんと袖!!」
時々よくわかんない所で
壱助さんは半裸になりたがる
‥露出狂だ。
:10/02/10 16:51 :D905i :yQPzNAIc
#544 [笹]
そして何度見ても
この美しさには慣れない
雪みたいに真っ白だから
囲炉裏に近づいたら
溶けちゃうんじゃないかって
馬鹿みたいな心配をするほど
一気に火照った顔を
ぷいっと背けて
また空に目を向けた
雪‥やっぱり降らないかなぁ
:10/02/10 16:51 :D905i :yQPzNAIc
#545 [笹]
:
:
結局"まぁ、まぁ"と言って
言うことを聞いてくれず‥
って言うか
何が"まぁ、まぁ"よ!!
あたしだって暖まりたいのにぃ‥
:10/02/10 16:52 :D905i :yQPzNAIc
#546 [笹]
「雪が降りそうだって言うのに
何でわざわざ‥
着物下ろすんですかぁ?」
少し乱暴に唇を尖らせて
後ろにある背中に訴えると
「いいじゃあ、ないですか」
と、満足げな声が返ってきた
:10/02/10 16:53 :D905i :yQPzNAIc
#547 [笹]
ちらりと少し顔を向けて
横目で様子をうかがえば
胡座をかいた片膝に
頬杖を付いてくつろいでいる
あったかそう‥
行きたい‥けど
そんな半裸の男の人の
隣になんか並べない!と言う
‥生娘の葛藤。
ただただ時間が過ぎ
体が冷え行くだけだった
:10/02/10 16:53 :D905i :yQPzNAIc
#548 [笹]
:
:
「‥へっくしゅん!!」
このままじゃ風邪引く‥
冷えた手を口元の前で握りしめ
はぁーっと息を吹きかける
「やれ、やれ」
:10/02/10 16:54 :D905i :yQPzNAIc
#549 [笹]
やれやれって‥
そもそも壱助さんが
変態な趣味持ってるからよ!!
最早此処まで来ると
動いてたまるかとヤケになるもの
「仕方のない人、ですねぇ」
_
:10/02/10 16:55 :D905i :yQPzNAIc
#550 [笹]
――‥ ギュウゥ
一気にあたしの体を温めたのは
後ろからいきなり
抱きついてきた壱助さんだった
:10/02/10 16:55 :D905i :yQPzNAIc
#551 [笹]
「維持など張らずに‥
此方に来れば良いものを」
首を抱くようにして
絡みつく腕が
男らしいくせに美しくもある
「べ‥別に、維持なんて‥」
言い訳を並べようとした口に
華奢な指が触れた
:10/02/10 16:57 :D905i :yQPzNAIc
#552 [笹]
「ほぉう‥」
「壱助さんが‥
あく‥悪趣味だから」
いつもと違って
暖かい壱助さんの体に
とても違和感を覚えて
なんだかいつもとは
別の人のような気もして‥
乱れる鼓動を
止めてしまいたかった
:10/02/10 16:57 :D905i :yQPzNAIc
#553 [笹]
「‥こいつぁ、手厳しい」
急に横で見せた含み笑いに
いつもより瞬きを多めにして
顔を背けてみる
「おや‥顔が赤く‥」
「言わないで下さいぃっ!!」
もう‥香夜は溶けそうです。
:10/02/10 16:58 :D905i :yQPzNAIc
#554 [笹]
そんな火照った顔を見るために
出し惜しみしてたかのように
ちらちらと粉雪が舞う
「雪だぁあっ!!
ほらっ壱助さん雪‥」
降り出した雪が
あたしを子供にさせたから
夢中にさせたから
横にいた貴方をも
消してしまったから
:10/02/10 16:59 :D905i :yQPzNAIc
#555 [笹]
――――――‥
_
:10/02/10 16:59 :D905i :yQPzNAIc
#556 [笹]
「おや、おや
随分と大胆‥ですねぇ」
意識が飛びそうなほどに
唇から伝った熱で
‥早くも、雪解けの予感です。
_
:10/02/10 17:00 :D905i :yQPzNAIc
#557 [笹]
【 お ま け 】
「あ‥あれは事故‥」
「事故?‥ほぉう」
「そうです事故です事故っ!!」
「‥あの後
物足りずに自ら唇を‥」
「言わないでぇえぇぇえっ!!!」
‥めでたし、めでたし。
:10/02/10 17:04 :D905i :yQPzNAIc
#558 [笹]
番外編 【待ちわびて】
*。*。*。*。*。*
急に寒くなったので
甘甘をご提供 ////
なんかいろいろとあれですが←
あくまで番外編なので
好きにさせていただきましたw
外ばっかり見てる上に
意地っ張りな香夜ちゃんに
してやったりの壱助さん
香夜ちゃん案外大胆w
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4676/:10/02/10 17:07 :D905i :yQPzNAIc
#559 [笹]
貴女がそうしたいと言うならば
私は何も言いません、よ
"去るもの追わず"
:10/02/14 01:33 :D905i :AHFqEp8k
#560 [笹]
「‥」
あの日から
口数が確実に減った
何を考えているのか‥
正座したまま虚ろな目
「どうか‥しました、か」
「‥いえ、別に」
不思議なほど此の調子
此方の調子が狂います、よ
:10/02/14 01:34 :D905i :AHFqEp8k
#561 [笹]
夜になれば寝付きもせず
声を殺して泣く、ときた
‥どうしたもんか、ねぇ
「‥壱助さん」
畳に話しかけて‥
私は此方なのですが
:10/02/14 01:34 :D905i :AHFqEp8k
#562 [笹]
「何、か」
「壱助さんは‥」
言葉が途切れた
いや‥躊躇っているのでしょう
小さく喉が動いた
:10/02/14 01:35 :D905i :AHFqEp8k
#563 [笹]
「壱助さんは‥本当にあたしと
ずっと一緒に?」
「居ます、よ」
嫌だとでも言いますかい?
去る者は追わぬ主義ですが‥
「恋仲の人が出来たら‥
あたし、邪魔ですよね?」
:10/02/14 01:35 :D905i :AHFqEp8k
#564 [笹]
そんな事で‥
今まで泣いてたの、か
全く‥貴女と言う人は
「ほう‥」
「あたしなんかと居たら
一生結婚できませんよ?
壱助さん‥絶対いい人に‥」
:10/02/14 01:36 :D905i :AHFqEp8k
#565 [笹]
「其れならば‥去る、と?」
「‥んう」
下を向いて肩を震わせる
本当に意地が悪い奴です
貴女を何処までも困らせたい
:10/02/14 01:36 :D905i :AHFqEp8k
#566 [笹]
「香夜さん次第です、よ」
「‥足手纏いな気がして」
悩みなど無さそうな顔を
している人ほど
押し潰されそうになっている
‥そんな物です
:10/02/14 01:37 :D905i :AHFqEp8k
#567 [笹]
「あたし、どじだし‥五月蠅いし
色気もないし、使えないし‥」
自分を何だとお思いで?
ちょいと安く見積もりすぎでは‥
「どう‥したいんで?」
貴女は私を苦しめる
:10/02/14 01:38 :D905i :AHFqEp8k
#568 [笹]
「‥」
何処までも、何処までも
「答えられぬと言うなら‥」
「一日‥時間を下さい」
お考えになろうと‥いうこと、か
別れもそう遠くはない、と
:10/02/14 01:38 :D905i :AHFqEp8k
#569 [笹]
:
:
背を向けて眠りにつく
香夜さんが悩んでいる事は
正直言えば下らない
無駄な心配でしかない
しかし貴女にとっては
大問題なのでしょう
‥本当に鈍い人だ
だから放って置けないと言うのに
:10/02/14 01:39 :D905i :AHFqEp8k
#570 [笹]
後ろの気配が息を潜めて
ゆっくりと布団から抜け出した
小さく鼻を啜り
着物がはらりと脱げる音
帯をきっちりしめて
‥音が止まる
:10/02/14 01:40 :D905i :AHFqEp8k
#571 [笹]
闇に包まれて
何も見えないはずなのに
何故でしょう、ね
貴女の泣き顔が目に浮かぶ‥
"行くな"と声をかける事も
抱き寄せる事も
肝心な時に限ってできずに
体が動かなくなる
:10/02/14 01:40 :D905i :AHFqEp8k
#572 [笹]
私は、
何に躊躇っているのでしょう、ね
―‥ 足音が消えた
:10/02/14 01:40 :D905i :AHFqEp8k
#573 [笹]
:
:
一睡もできずに
唯ぼうっと
月明かりが照らす畳の網目を
雑に何度も目で追った
重い体を起こし
消えた隣の温もりに
そっと手を添える
「‥馬鹿です、ね」
:10/02/14 01:41 :D905i :AHFqEp8k
#574 [笹]
枕元に置き手紙
『最後の挨拶くらい
しっかりしたかったのですが
壱助さんの顔を見たら
辛くなると思ったので‥
どうか、お許し下さい。
本当にお世話になりました』
綺麗に整った文字が
一カ所滲んでいた
:10/02/14 01:41 :D905i :AHFqEp8k
#575 [笹]
「もうだいぶ
連れ添ったと言うのに‥
淡泊な別れです、ね‥香夜さん」
目を細めて
ぼやけた文字を撫でた
:10/02/14 01:42 :D905i :AHFqEp8k
#576 [笹]
本当に意地っ張りな人だ
最後の最後まで
香夜さん‥
貴女は貴女でした、ね
_
:10/02/14 01:43 :D905i :AHFqEp8k
#577 [笹]
:10/02/14 01:46 :D905i :AHFqEp8k
#578 [笹]
自分で腹を括ったって
後悔は
情が籠もれば籠もるほど
溢れかえってくるもので
何度泣いても泣き足りない
でも、泣くことしか
あたしにはできないのだから‥
"声涙、倶に下る"
:10/02/14 22:37 :D905i :AHFqEp8k
#579 [笹]
:
:
理由は簡単で
これ以上
迷惑をかけたくなかった
あの日あたしの居場所は
壱助さんの隣しかないって
そう思った
だけど‥だけど違う
今までとは確実に何かが違う
:10/02/14 22:38 :D905i :AHFqEp8k
#580 [笹]
いけないことに
気がついてしまった気がして
もう一緒に居られないって
‥そう思ったの
できるならこんなこと
したくなかった‥
離れたくなかった
:10/02/14 22:38 :D905i :AHFqEp8k
#581 [笹]
意地悪だけど根は優しいし
あたしを認めてくれたから
あたしを助けてくれたから
「はぁ‥」
もう泣きそうだ
家出てから
泣かないって決めたのに‥
壱助さんといたら
すぐ泣いちゃう
‥居心地いいんだよね、それだけ
:10/02/14 22:39 :D905i :AHFqEp8k
#582 [笹]
「猫ぉ‥
これからどうしよう」
野良猫がすり寄ってきた
そんなに可哀想に見えたかな
「‥行くあてがないや」
飢え死にするかも‥
んう‥壱助さぁん
「ミャァウ」
真っ黒な瞳が
こちらを覗き込む
:10/02/14 22:40 :D905i :AHFqEp8k
#583 [笹]
「お前も‥独りかぁ」
思いっきり撫でてやる
毛の下から伝わる暖かさに
何故か胸が苦しくなった
‥また遊女屋かなぁ
:10/02/14 22:40 :D905i :AHFqEp8k
#584 [笹]
「‥香夜ちゃん?」
「‥伊代さぁああぁん!」
:10/02/14 22:41 :D905i :AHFqEp8k
#585 [笹]
:
:
「でもさぁ香夜ちゃん?
壱助さん心配するだろう?」
不安そうな顔で
伊代さんはお茶を差し出した
「でも‥
去るのもあたし次第だって
壱助さん言ってたし‥」
「んん‥まぁねぇ
あの人も‥」
そう言って眉を下げて
緩く微笑んだ
:10/02/14 22:41 :D905i :AHFqEp8k
#586 [笹]
「‥?」
「香夜ちゃんと"同じ"さぁ」
「同じ?」
意味深な言葉を残し
頬杖を尽きながら団子を食らう
伊代さんはいつも幸せそう
:10/02/14 22:42 :D905i :AHFqEp8k
#587 [笹]
湯飲みの中をぼうっと覗き込む
深い緑色の奥に
自分のみっともない顔が
ぼやけて映し出された
お茶‥まだ大丈夫だよね
この前買ってきたばかりだし
「‥はぁ」
体に染み付いた習慣が
余計虚しくさせて、ため息
:10/02/14 22:42 :D905i :AHFqEp8k
#588 [笹]
「でも、どうするんだい?
これから一人じゃあ‥」
「んー‥」
出された団子に目もくれず
緑色をじっと見つめる
「あたしんちでよけりゃあ‥
汚いけど、使うかい?」
「え?!いいんですかっ?」
:10/02/14 22:43 :D905i :AHFqEp8k
#589 [笹]
思わず身を乗り出した
しかしすぐさま冷静になり
この朗報の穴に気づく
「でも‥壱助さん
来ますよね‥此処」
見つかっては
合わせる顔がないの
もう会わない
迷惑かけないって決めたから
:10/02/14 22:43 :D905i :AHFqEp8k
#590 [笹]
結局飢え死に‥
じゃなきゃ、遊女屋
でも遊女屋だって
壱助さん来るかもしれない‥
何を考えても
壱助さんばかり絡んで
情けないほどに
自分は頼ってばかりだったと
改めて実感するのだ
:10/02/14 22:44 :D905i :AHFqEp8k
#591 [笹]
「まぁ‥来るけどさぁ
部屋貸すから、ね?」
母親のような笑みを
此方に向けた伊代さん
母親の笑みなんて
あたしにはわからないけど
:10/02/14 22:45 :D905i :AHFqEp8k
#592 [笹]
「でも‥タダで借りるなんて」
「それなら、うちで雇うよ?
裏方ならできるだろう?」
裏方‥そっか
表にでなきゃいいんだ
「よろしくお願いします!!」
:10/02/14 22:45 :D905i :AHFqEp8k
#593 [笹]
いつか壱助さんが
迎えに来てくれたら‥なんて
仕様もない希望を抱いていた
日が経てば経つほどに
このもどかしさは
恐ろしいくらいに膨れ上がり
壱助さんは
‥あたしを蝕んでいくの
:10/02/14 22:46 :D905i :AHFqEp8k
#594 [笹]
:10/02/14 22:51 :D905i :AHFqEp8k
#595 [笹]
去るものは追わぬ主義
確か‥
私はそう言いました、ね
"乙に澄ます"のも
終わりにしやしょう、か
:10/02/14 22:57 :D905i :AHFqEp8k
#596 [笹]
:
:
「香夜ちゃーん!!」
「はぁい!」
あれから一週間
あたしの知る限りでは
壱助さんは此処には来ておらず
伊代さんと伊代さんのご家族に
本当に親切にしてもらい
不自由なく生活してます
:10/02/14 22:57 :D905i :AHFqEp8k
#597 [笹]
だけどやっぱり
忘れることができなくて
夢に見ては
涙に濡れた頬を拭う
夢の中でしか会えないなら
ずっと眠りについてたいくらい
:10/02/14 22:58 :D905i :AHFqEp8k
#598 [笹]
朝独りでに目が覚めて
笑いもせずにあたしを見下ろして
"朝です、よ"って言う
そんな声を脳裏から
無理矢理に引っ張り出せば
虚しさが増すばかり
‥馬鹿だなぁ、あたし
:10/02/14 22:58 :D905i :AHFqEp8k
#599 [笹]
「ちょいと、
買い出し行ってくるから
その間店番‥お願いできる?」
店番‥
表にでなきゃ、か‥
「あぁ‥はい!」
お世話になってるんだもの
しっかり働かなきゃ
:10/02/14 22:59 :D905i :AHFqEp8k
#600 [笹]
:
:
「‥あぁああ」
独りになると‥貴方ばかり
会いたくない
合わせる顔もない
‥だけど何処かで
ふらりと現れる壱助さんに
期待してるみたい
:10/02/14 22:59 :D905i :AHFqEp8k
#601 [笹]
「もぉ‥わかんないよぉ」
前のめりに突っ伏して
頭を掻きむしる
木の独特の慣れない香りに
顔をしかめ
恋しくなるは貴方の香り
‥こんな気持ち初めて
:10/02/14 23:00 :D905i :AHFqEp8k
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