浮 き 世 の 諸 事 情 。
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#501 []
 
「香夜さん‥、」

昨日の雨も
夜中の内に上がり
澄んだ青空が広がった


―‥チュンチュン


「朝です、よ」

⏰:10/02/09 18:50 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#502 []
 
ベチンッ


「いぃったあぁい!!!」


またいつもの朝を迎えた
いつになったら
あたしは1人で起きられるのか

‥こんな毎日毎日
顔面叩かれてたら、腫れてしまう

⏰:10/02/09 18:50 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#503 []
 
そして今日も
壱助さんはお美しい

‥只でさえ朝早いのに
着物もきっちり来て
全く寝起きって感じがしない

やっぱり寝てないのかな?



ゆっくり体を起こす
夢にあの少年が出てきて
うなされたのか‥
少し体が汗ばんでる気もした

⏰:10/02/09 18:51 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#504 []
 
「‥」

無言で見つめる壱助さんの手には
空になったお茶の葉の袋


「あのぉ、」

「‥何、か」

何でいつもそう
仏頂面なのかしら‥。

⏰:10/02/09 18:51 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#505 []
 
笑ったりしたら絶対‥

‥笑わなくてももてるから
憎いんだった。


「お茶‥」

「買ってきてください、ね」

「そうじゃなくてぇ‥」

「買ってきてください、ね」

⏰:10/02/09 18:52 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#506 []
 
「‥もうちょっと」

「早く」

こう言うときだけ
笑顔を浮かべる


壱助さんは
笑わなくていいかも‥。

⏰:10/02/09 18:52 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#507 []
 
またぼうっと窓の外を眺めてる
そんな壱助さんを
ぼうっと見つめるあたし

こちらに目を向けてないのに
"何、か"と言う


背中にも目がついてるのかしら
未だに壱助さんは
沢山の謎に包まれています

⏰:10/02/09 18:53 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#508 []
 
「‥行って参ります」

そう言って
しぶしぶ布団から
出たその時であった


「‥あれ?」

足元がふわり浮くような
不思議な感覚に襲われ
頭が石のように重く感じ

そのまま意識が飛び
体が‥

⏰:10/02/09 18:53 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#509 []




一瞬どこかへ旅立った
自分を引き戻し
はっと目を覚ます

目の前には
切れ長の目の肌が白い‥


「壱助さん‥?」

はて‥
何があったんだろうか

⏰:10/02/09 18:54 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#510 []
 
「‥危なっかしいです、ね」

目を細めて、呆れた様子


今‥この体勢は‥
この頭に触れるのは‥


「ひざ‥膝枕」


思わず上擦った声に
ごくりと唾を飲んだ

⏰:10/02/09 18:54 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#511 []
 
壱助さんに
膝枕をしてもらうなんて
壱助さんの
お膝様をお借りするなんて


‥なんて命知らずなんだ


「わわっ
ごっごめんなさいこんなっ」

慌てふためくあたしの顔は
きっと真っ赤に染まってる
火がでるほど熱かった

⏰:10/02/09 18:55 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#512 []
 
下から見る壱助さんの姿は
彫刻みたいに鼻が高くて
また睫長くなってる気がして

たった一度だけ触れた唇が
あの優しい感覚を蘇らせた

‥同じ世界の人間か疑うほど
親の顔が見てみたい

「そんなに‥
か弱かったんですかい?」

「へ?」

⏰:10/02/09 18:55 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#513 []
 
すると見る見る内に
いい匂いと共に近づく
あの美しい顔

「ちょっちょっ壱助さんっ?!」


また消毒ですか?!
待ってよ心の準備ってもんが‥

⏰:10/02/09 18:56 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#514 []
 


‥コツン



え?

恐る恐る目を開けると
近すぎてぼやけて見えるが
やっぱり美しい壱助さんの顔

⏰:10/02/09 18:56 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#515 []
 
「な‥えぇ‥?」

触れていたのは
唇と唇ではなく額と額

残念ながら‥

いや、べ別に残念じゃないけど‥
消毒ではありませんでした

⏰:10/02/09 18:57 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#516 []
 
しばらくの間壱助さんは
寝てるのかと疑うほどに
ぴくりともしなかった

火照った頬を
くすぐる規則正しい呼吸

こっちは緊張しすぎて
息苦しいと言うのに‥

壱助さん
いろいろと手慣れすぎです

⏰:10/02/09 18:57 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#517 []
 
「壱‥助さぁん?」


すると
一時の眠りから覚めたように
目を開けてすっと顔を離した

それと同時にあたしは
その間呼吸できなかった分を
部屋の空気を全部吸い取るくらい
思いっきり体に取り込んだ

⏰:10/02/09 18:58 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#518 []
 
「‥全く、」

いやいや
いきなりそんなことされた
こっちが全くですよ


「たったあれ如きで‥
熱を出すとは、ね」

「熱?」

⏰:10/02/09 18:58 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#519 []
 
そう言われてみれば
朝からちょっと体が重かったかも

昨日の雨にやられたかな?


「情けない‥ですね」


はぁっとため息を吐くと

⏰:10/02/09 18:58 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#520 []
 
ガサッ

一気に目の前が暗くなった
‥お茶の匂い

間違いなく
今あたしに被さってるのは
さっきまで壱助さんが手にしてた
お茶の葉の空袋


そっか‥
じゃあ今日はお茶お預けかぁ

⏰:10/02/09 18:59 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#521 []
 
「‥ごめんなさい」

自分の声が袋中を駆け巡り
また耳の奥へ帰る

きっとお茶は
壱助さんの命の次に大切なもの

そう考えたら
何だか急に申し訳なくなった

⏰:10/02/09 18:59 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#522 []
 
グシャッ

耳を突き刺すような音と共に
朝と同じ激痛が顔面に走る


「ったぁあいぃ!!」


何でこうも壱助さんは
顔面攻撃が好きなんだろうか‥
ただでさえ不細工なのに‥もう

⏰:10/02/09 19:00 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#523 []
 
息つく暇もなく
壱助さんはやりたい放題


「うわっまぶしっ!!」

一気に袋を取り去られ
急にさす光の眩しさに
目の前が眩んだ

じーっとこちらを見つめる
美しい視線とぶつかった

⏰:10/02/09 19:00 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#524 []
 
まばたきもしないで
ただじっと‥


熱のせいか頭が働かない

いつもなら
考えなくとも口が勝手に
喋り出すのになぁ

⏰:10/02/09 19:01 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#525 []



「どんな‥夢を?」

先に口を開いたのは
壱助さんの方だった

ひんやりした雪のような手が
額にそっと触れた


‥心地いい

⏰:10/02/09 19:01 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#526 []
 
「昨日の‥少年の」

蚊の鳴くような声で答えると
"そうです、か"と
何かを考え込んでる顔で言った


壱助さんの手は
まるで魔法の手みたいで
熱を吸い取っていくような
‥そんな気がした

⏰:10/02/09 19:02 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#527 []
 
それから
何を言うでもなく‥
壱助さんは優しく
あたしの額辺りを撫でて
また空を眺めてた


「壱助さん‥空好きですよね」

大した答えなど
期待してなかった

「‥何か見えるんですか?」

返事のない横顔に続けて問った

⏰:10/02/09 19:02 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#528 []
 
「‥いえ、何も」

「どうしてそんなに
眺めてるんですか?いつも
何か考え事でも?」



するとぴたりと手が止まった

⏰:10/02/09 19:03 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#529 []
 
「何も‥考えたくないから
こうして居るんです、よ」


気のせいだろうか
いつもより少しだけ
横顔が寂しそうに見えた


‥見ていられなかった
今日のあたしはどうかしてる

⏰:10/02/09 19:03 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#530 []
 

――――‥


_

⏰:10/02/09 19:04 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#531 []
 
ふわりと
お茶の香りが宙を舞う

体が勝手に動いてしまった
‥きっと壱助さんが
その左手で魔法をかけたのだ


衝動的に起き上がり
壱助さんを
胸の中に押し込めた

⏰:10/02/09 19:04 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#532 []
 
ぎゅうっと綺麗な背中を
壊れそうなくらい
強く抱きしめると
壱助さんは力なく応えた

「‥泣いてるんで?」


わからない
わからないけど
‥涙が止まらなかった

⏰:10/02/09 19:05 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#533 []
 
「壱助さ‥ん
何処にも‥行かないで」

情けなく弱々しい声を
涙と一緒に落とした


何故そんなことを言ったのか
‥わからない

だけど急に不安になった
独りにされてしまいそうで

壱助さんはこんなあたしに
‥疲れているんじゃないかって

⏰:10/02/09 19:05 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#534 []
 

「約束、したでしょう
独りにしない‥と」


包み込むように
ぎこちなくあたしを撫でた手に
一瞬にして不安が吸い取られた

⏰:10/02/09 19:06 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#535 []
 

あたしの、居場所は


―‥貴方の隣。

_

⏰:10/02/09 19:07 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#536 [笹]
第十四章 【寂しさ、溢れて】

*。*。*。*。*
続けてしんみり系
申し訳ない(´・ω・`)

壱助さんのそんな顔をみたら
急に不安や寂しさが
溢れ出してしまった香夜ちゃん

昨日の事で
精神的にやられてた模様。

だけど壱助さんがいれば
安心ですねーっ
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4676/

⏰:10/02/09 19:10 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#537 []
 
まだまだ子供な"飼い猫"が
ぼうっと空ばかり眺めて
雪を待ちわびているもんで‥



"色は思案の外"と
良く言われます故‥



―‥自分でも、
良くわかりゃしないのですが、ね

⏰:10/02/10 16:47 📱:D905i 🆔:yQPzNAIc


#538 []
 



雲が低い
空一面を灰色に染める


「‥雪ですか、ね」



冷えた空気が息を白く染めた

⏰:10/02/10 16:48 📱:D905i 🆔:yQPzNAIc


#539 []


「お帰りなさいっ」

窓から乗り出すような勢いで
雪が降るのを待ちわびていると
壱助さんが帰ってきた


「今日、雪降りますかねぇ?」

別に雪は珍しくない
だけど真っ白に染められた街に
なんだかとてもわくわくして
何時になっても
目を輝かせてしまうのだ

⏰:10/02/10 16:48 📱:D905i 🆔:yQPzNAIc


#540 []
 
「‥さぁ、ね」

後ろで聞こえた素っ気ない声に
着物と肌がすれる音が続く


「‥んう」

また黙って着替えて‥
着替えるときは声かけてって
あれだけ言ってるのに

気付かぬふりをして
じっと空とにらめっこ

⏰:10/02/10 16:49 📱:D905i 🆔:yQPzNAIc


#541 []
 
―‥だけど沈黙となれば
どこかむず痒い


「外、寒かったですか?」

「そりゃあ‥ねぇ」


今度は畳と着物がすれる音
どうやら着替え終わったらしい

⏰:10/02/10 16:50 📱:D905i 🆔:yQPzNAIc


#542 []
 
流石に手が冷えてきた
外へ向けた息も白い


「囲炉裏があると
やっぱり冬はいいですよねぇ」

なーんて
あたしにとっては珍しかった
囲炉裏に暖かさを求めて
振り返ってみたものの‥

⏰:10/02/10 16:50 📱:D905i 🆔:yQPzNAIc


#543 []
 
「壱助さん!!」

どうしてそうも貴方は‥

囲炉裏の前に立ちはだかる
壱助さんの背中


「ちゃ‥ちゃんと袖!!」


時々よくわかんない所で
壱助さんは半裸になりたがる
‥露出狂だ。

⏰:10/02/10 16:51 📱:D905i 🆔:yQPzNAIc


#544 []
 
そして何度見ても
この美しさには慣れない

雪みたいに真っ白だから
囲炉裏に近づいたら
溶けちゃうんじゃないかって
馬鹿みたいな心配をするほど


一気に火照った顔を
ぷいっと背けて
また空に目を向けた


雪‥やっぱり降らないかなぁ

⏰:10/02/10 16:51 📱:D905i 🆔:yQPzNAIc


#545 []



結局"まぁ、まぁ"と言って
言うことを聞いてくれず‥


って言うか
何が"まぁ、まぁ"よ!!

あたしだって暖まりたいのにぃ‥

⏰:10/02/10 16:52 📱:D905i 🆔:yQPzNAIc


#546 []
 
「雪が降りそうだって言うのに
何でわざわざ‥
着物下ろすんですかぁ?」

少し乱暴に唇を尖らせて
後ろにある背中に訴えると


「いいじゃあ、ないですか」

と、満足げな声が返ってきた

⏰:10/02/10 16:53 📱:D905i 🆔:yQPzNAIc


#547 []
 
ちらりと少し顔を向けて
横目で様子をうかがえば
胡座をかいた片膝に
頬杖を付いてくつろいでいる


あったかそう‥
行きたい‥けど
そんな半裸の男の人の
隣になんか並べない!と言う

‥生娘の葛藤。


ただただ時間が過ぎ
体が冷え行くだけだった

⏰:10/02/10 16:53 📱:D905i 🆔:yQPzNAIc


#548 []



「‥へっくしゅん!!」


このままじゃ風邪引く‥
冷えた手を口元の前で握りしめ
はぁーっと息を吹きかける


「やれ、やれ」

⏰:10/02/10 16:54 📱:D905i 🆔:yQPzNAIc


#549 []
 
やれやれって‥
そもそも壱助さんが
変態な趣味持ってるからよ!!


最早此処まで来ると
動いてたまるかとヤケになるもの


「仕方のない人、ですねぇ」

_

⏰:10/02/10 16:55 📱:D905i 🆔:yQPzNAIc


#550 []
 



――‥ ギュウゥ



一気にあたしの体を温めたのは
後ろからいきなり
抱きついてきた壱助さんだった

⏰:10/02/10 16:55 📱:D905i 🆔:yQPzNAIc


#551 []
 
「維持など張らずに‥
此方に来れば良いものを」

首を抱くようにして
絡みつく腕が
男らしいくせに美しくもある


「べ‥別に、維持なんて‥」


言い訳を並べようとした口に
華奢な指が触れた

⏰:10/02/10 16:57 📱:D905i 🆔:yQPzNAIc


#552 []
 
「ほぉう‥」

「壱助さんが‥
あく‥悪趣味だから」

いつもと違って
暖かい壱助さんの体に
とても違和感を覚えて


なんだかいつもとは
別の人のような気もして‥

乱れる鼓動を
止めてしまいたかった

⏰:10/02/10 16:57 📱:D905i 🆔:yQPzNAIc


#553 []
 
「‥こいつぁ、手厳しい」


急に横で見せた含み笑いに
いつもより瞬きを多めにして
顔を背けてみる


「おや‥顔が赤く‥」

「言わないで下さいぃっ!!」


もう‥香夜は溶けそうです。

⏰:10/02/10 16:58 📱:D905i 🆔:yQPzNAIc


#554 []
 
そんな火照った顔を見るために
出し惜しみしてたかのように
ちらちらと粉雪が舞う


「雪だぁあっ!!
ほらっ壱助さん雪‥」


降り出した雪が
あたしを子供にさせたから

夢中にさせたから

横にいた貴方をも
消してしまったから

⏰:10/02/10 16:59 📱:D905i 🆔:yQPzNAIc


#555 []
 


 ――――――‥




_

⏰:10/02/10 16:59 📱:D905i 🆔:yQPzNAIc


#556 []
 

「おや、おや
随分と大胆‥ですねぇ」


意識が飛びそうなほどに
唇から伝った熱で



‥早くも、雪解けの予感です。


_

⏰:10/02/10 17:00 📱:D905i 🆔:yQPzNAIc


#557 []
 
【 お ま け 】

「あ‥あれは事故‥」

「事故?‥ほぉう」

「そうです事故です事故っ!!」

「‥あの後
物足りずに自ら唇を‥」

「言わないでぇえぇぇえっ!!!」


‥めでたし、めでたし。

⏰:10/02/10 17:04 📱:D905i 🆔:yQPzNAIc


#558 [笹]
番外編 【待ちわびて】

*。*。*。*。*。*
急に寒くなったので
甘甘をご提供 ////

なんかいろいろとあれですが←
あくまで番外編なので
好きにさせていただきましたw

外ばっかり見てる上に
意地っ張りな香夜ちゃんに
してやったりの壱助さん

香夜ちゃん案外大胆w
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4676/

⏰:10/02/10 17:07 📱:D905i 🆔:yQPzNAIc


#559 []
 
貴女がそうしたいと言うならば

私は何も言いません、よ



"去るもの追わず"

⏰:10/02/14 01:33 📱:D905i 🆔:AHFqEp8k


#560 []
 
「‥」

あの日から
口数が確実に減った

何を考えているのか‥
正座したまま虚ろな目

「どうか‥しました、か」

「‥いえ、別に」

不思議なほど此の調子
此方の調子が狂います、よ

⏰:10/02/14 01:34 📱:D905i 🆔:AHFqEp8k


#561 []
 
夜になれば寝付きもせず
声を殺して泣く、ときた

‥どうしたもんか、ねぇ


「‥壱助さん」

畳に話しかけて‥
私は此方なのですが

⏰:10/02/14 01:34 📱:D905i 🆔:AHFqEp8k


#562 []
 

「何、か」

「壱助さんは‥」


言葉が途切れた
いや‥躊躇っているのでしょう
小さく喉が動いた

⏰:10/02/14 01:35 📱:D905i 🆔:AHFqEp8k


#563 []
 
「壱助さんは‥本当にあたしと
ずっと一緒に?」

「居ます、よ」


嫌だとでも言いますかい?
去る者は追わぬ主義ですが‥


「恋仲の人が出来たら‥
あたし、邪魔ですよね?」

⏰:10/02/14 01:35 📱:D905i 🆔:AHFqEp8k


#564 []
 
そんな事で‥
今まで泣いてたの、か

全く‥貴女と言う人は


「ほう‥」

「あたしなんかと居たら
一生結婚できませんよ?
壱助さん‥絶対いい人に‥」

⏰:10/02/14 01:36 📱:D905i 🆔:AHFqEp8k


#565 []
 
「其れならば‥去る、と?」

「‥んう」

下を向いて肩を震わせる


本当に意地が悪い奴です
貴女を何処までも困らせたい

⏰:10/02/14 01:36 📱:D905i 🆔:AHFqEp8k


#566 []
 

「香夜さん次第です、よ」

「‥足手纏いな気がして」


悩みなど無さそうな顔を
している人ほど
押し潰されそうになっている

‥そんな物です

⏰:10/02/14 01:37 📱:D905i 🆔:AHFqEp8k


#567 []
 
「あたし、どじだし‥五月蠅いし
色気もないし、使えないし‥」


自分を何だとお思いで?
ちょいと安く見積もりすぎでは‥


「どう‥したいんで?」

貴女は私を苦しめる

⏰:10/02/14 01:38 📱:D905i 🆔:AHFqEp8k


#568 []
 
「‥」

何処までも、何処までも

「答えられぬと言うなら‥」


「一日‥時間を下さい」


お考えになろうと‥いうこと、か

別れもそう遠くはない、と

⏰:10/02/14 01:38 📱:D905i 🆔:AHFqEp8k


#569 []



背を向けて眠りにつく

香夜さんが悩んでいる事は
正直言えば下らない
無駄な心配でしかない

しかし貴女にとっては
大問題なのでしょう


‥本当に鈍い人だ
だから放って置けないと言うのに

⏰:10/02/14 01:39 📱:D905i 🆔:AHFqEp8k


#570 []
 
後ろの気配が息を潜めて
ゆっくりと布団から抜け出した

小さく鼻を啜り
着物がはらりと脱げる音

帯をきっちりしめて


‥音が止まる

⏰:10/02/14 01:40 📱:D905i 🆔:AHFqEp8k


#571 []
 
闇に包まれて
何も見えないはずなのに

何故でしょう、ね
貴女の泣き顔が目に浮かぶ‥


"行くな"と声をかける事も
抱き寄せる事も
肝心な時に限ってできずに
体が動かなくなる

⏰:10/02/14 01:40 📱:D905i 🆔:AHFqEp8k


#572 []
 
私は、
何に躊躇っているのでしょう、ね



―‥ 足音が消えた

⏰:10/02/14 01:40 📱:D905i 🆔:AHFqEp8k


#573 []



一睡もできずに
唯ぼうっと
月明かりが照らす畳の網目を
雑に何度も目で追った

重い体を起こし
消えた隣の温もりに
そっと手を添える


「‥馬鹿です、ね」

⏰:10/02/14 01:41 📱:D905i 🆔:AHFqEp8k


#574 []
 
枕元に置き手紙

『最後の挨拶くらい
しっかりしたかったのですが
壱助さんの顔を見たら
辛くなると思ったので‥

どうか、お許し下さい。
本当にお世話になりました』


綺麗に整った文字が
一カ所滲んでいた

⏰:10/02/14 01:41 📱:D905i 🆔:AHFqEp8k


#575 []
 
「もうだいぶ
連れ添ったと言うのに‥
淡泊な別れです、ね‥香夜さん」



目を細めて
ぼやけた文字を撫でた

⏰:10/02/14 01:42 📱:D905i 🆔:AHFqEp8k


#576 []
 

本当に意地っ張りな人だ



最後の最後まで
香夜さん‥

貴女は貴女でした、ね

_

⏰:10/02/14 01:43 📱:D905i 🆔:AHFqEp8k


#577 [笹]
第十五章 【温もり、消えて】

*。*。*。*。*。*
バレンタインなのに
えぇえーっな展開w

香夜ちゃんどーしたのっ?
ねぇどーしたのっ?!
壱助さん止めなさいよっ
抱きしめちゃいなさいよっ
あんたいつから
奥手になったのよw

不安定な、お2人様です
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4676/

⏰:10/02/14 01:46 📱:D905i 🆔:AHFqEp8k


#578 []
 
自分で腹を括ったって

後悔は
情が籠もれば籠もるほど
溢れかえってくるもので

何度泣いても泣き足りない

でも、泣くことしか
あたしにはできないのだから‥

"声涙、倶に下る"

⏰:10/02/14 22:37 📱:D905i 🆔:AHFqEp8k


#579 []



理由は簡単で

これ以上
迷惑をかけたくなかった

あの日あたしの居場所は
壱助さんの隣しかないって
そう思った

だけど‥だけど違う
今までとは確実に何かが違う

⏰:10/02/14 22:38 📱:D905i 🆔:AHFqEp8k


#580 []
 
いけないことに
気がついてしまった気がして


もう一緒に居られないって
‥そう思ったの



できるならこんなこと
したくなかった‥
離れたくなかった

⏰:10/02/14 22:38 📱:D905i 🆔:AHFqEp8k


#581 []
 
意地悪だけど根は優しいし

あたしを認めてくれたから
あたしを助けてくれたから


「はぁ‥」

もう泣きそうだ
家出てから
泣かないって決めたのに‥

壱助さんといたら
すぐ泣いちゃう
‥居心地いいんだよね、それだけ

⏰:10/02/14 22:39 📱:D905i 🆔:AHFqEp8k


#582 []
 
「猫ぉ‥
これからどうしよう」

野良猫がすり寄ってきた
そんなに可哀想に見えたかな

「‥行くあてがないや」

飢え死にするかも‥
んう‥壱助さぁん

「ミャァウ」

真っ黒な瞳が
こちらを覗き込む

⏰:10/02/14 22:40 📱:D905i 🆔:AHFqEp8k


#583 []
 
「お前も‥独りかぁ」


思いっきり撫でてやる

毛の下から伝わる暖かさに
何故か胸が苦しくなった



‥また遊女屋かなぁ

⏰:10/02/14 22:40 📱:D905i 🆔:AHFqEp8k


#584 []
 
「‥香夜ちゃん?」




「‥伊代さぁああぁん!」

⏰:10/02/14 22:41 📱:D905i 🆔:AHFqEp8k


#585 []



「でもさぁ香夜ちゃん?
壱助さん心配するだろう?」

不安そうな顔で
伊代さんはお茶を差し出した

「でも‥
去るのもあたし次第だって
壱助さん言ってたし‥」

「んん‥まぁねぇ
あの人も‥」

そう言って眉を下げて
緩く微笑んだ

⏰:10/02/14 22:41 📱:D905i 🆔:AHFqEp8k


#586 []
 
「‥?」

「香夜ちゃんと"同じ"さぁ」

「同じ?」

意味深な言葉を残し
頬杖を尽きながら団子を食らう


伊代さんはいつも幸せそう

⏰:10/02/14 22:42 📱:D905i 🆔:AHFqEp8k


#587 []
 
湯飲みの中をぼうっと覗き込む

深い緑色の奥に
自分のみっともない顔が
ぼやけて映し出された


お茶‥まだ大丈夫だよね
この前買ってきたばかりだし

「‥はぁ」

体に染み付いた習慣が
余計虚しくさせて、ため息

⏰:10/02/14 22:42 📱:D905i 🆔:AHFqEp8k


#588 []
 
「でも、どうするんだい?
これから一人じゃあ‥」

「んー‥」

出された団子に目もくれず
緑色をじっと見つめる


「あたしんちでよけりゃあ‥
汚いけど、使うかい?」

「え?!いいんですかっ?」

⏰:10/02/14 22:43 📱:D905i 🆔:AHFqEp8k


#589 []
 
思わず身を乗り出した

しかしすぐさま冷静になり
この朗報の穴に気づく


「でも‥壱助さん
来ますよね‥此処」

見つかっては
合わせる顔がないの
もう会わない
迷惑かけないって決めたから

⏰:10/02/14 22:43 📱:D905i 🆔:AHFqEp8k


#590 []
 
結局飢え死に‥
じゃなきゃ、遊女屋

でも遊女屋だって
壱助さん来るかもしれない‥


何を考えても
壱助さんばかり絡んで

情けないほどに
自分は頼ってばかりだったと
改めて実感するのだ

⏰:10/02/14 22:44 📱:D905i 🆔:AHFqEp8k


#591 []
 
「まぁ‥来るけどさぁ
部屋貸すから、ね?」


母親のような笑みを
此方に向けた伊代さん

母親の笑みなんて
あたしにはわからないけど

⏰:10/02/14 22:45 📱:D905i 🆔:AHFqEp8k


#592 []
 
「でも‥タダで借りるなんて」

「それなら、うちで雇うよ?
裏方ならできるだろう?」


裏方‥そっか
表にでなきゃいいんだ


「よろしくお願いします!!」

⏰:10/02/14 22:45 📱:D905i 🆔:AHFqEp8k


#593 []
 
いつか壱助さんが
迎えに来てくれたら‥なんて
仕様もない希望を抱いていた


日が経てば経つほどに
このもどかしさは
恐ろしいくらいに膨れ上がり

壱助さんは
‥あたしを蝕んでいくの

⏰:10/02/14 22:46 📱:D905i 🆔:AHFqEp8k


#594 [笹]
第十六章 【嘆いてみても】

*。*。*。*。*
遂に絡みがなくなったw
あー早く絡ませたい←
いやでも
これからどうなるかは
あたしの頭の中次第w

2人の絡みが好きな皆様
もう少々お付き合いください
(´・ω・`)ね
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4676/

⏰:10/02/14 22:51 📱:D905i 🆔:AHFqEp8k


#595 []
 
去るものは追わぬ主義

確か‥
私はそう言いました、ね



"乙に澄ます"のも


終わりにしやしょう、か

⏰:10/02/14 22:57 📱:D905i 🆔:AHFqEp8k


#596 []



「香夜ちゃーん!!」

「はぁい!」

あれから一週間
あたしの知る限りでは
壱助さんは此処には来ておらず

伊代さんと伊代さんのご家族に
本当に親切にしてもらい
不自由なく生活してます

⏰:10/02/14 22:57 📱:D905i 🆔:AHFqEp8k


#597 []
 
だけどやっぱり
忘れることができなくて

夢に見ては
涙に濡れた頬を拭う


夢の中でしか会えないなら
ずっと眠りについてたいくらい

⏰:10/02/14 22:58 📱:D905i 🆔:AHFqEp8k


#598 []
 
朝独りでに目が覚めて

笑いもせずにあたしを見下ろして
"朝です、よ"って言う
そんな声を脳裏から
無理矢理に引っ張り出せば

虚しさが増すばかり


‥馬鹿だなぁ、あたし

⏰:10/02/14 22:58 📱:D905i 🆔:AHFqEp8k


#599 []
 
「ちょいと、
買い出し行ってくるから
その間店番‥お願いできる?」

店番‥
表にでなきゃ、か‥


「あぁ‥はい!」

お世話になってるんだもの
しっかり働かなきゃ

⏰:10/02/14 22:59 📱:D905i 🆔:AHFqEp8k


#600 []



「‥あぁああ」

独りになると‥貴方ばかり

会いたくない
合わせる顔もない

‥だけど何処かで
ふらりと現れる壱助さんに
期待してるみたい

⏰:10/02/14 22:59 📱:D905i 🆔:AHFqEp8k


#601 []
 
「もぉ‥わかんないよぉ」

前のめりに突っ伏して
頭を掻きむしる


木の独特の慣れない香りに
顔をしかめ
恋しくなるは貴方の香り


‥こんな気持ち初めて

⏰:10/02/14 23:00 📱:D905i 🆔:AHFqEp8k


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