浮き世の諸事情｡

　
｢‥｣

無言で見つめる壱助さんの手には
空になったお茶の葉の袋

｢あのぉ､｣

｢‥何､か｣

何でいつもそう
仏頂面なのかしら‥｡

　
笑ったりしたら絶対‥

‥笑わなくてももてるから
憎いんだった｡

｢お茶‥｣

｢買ってきてください､ね｣

｢そうじゃなくてぇ‥｣

｢買ってきてください､ね｣

　
｢‥もうちょっと｣

｢早く｣

こう言うときだけ
笑顔を浮かべる

壱助さんは
笑わなくていいかも‥｡

　
またぼうっと窓の外を眺めてる
そんな壱助さんを
ぼうっと見つめるあたし

こちらに目を向けてないのに
"何､か"と言う

背中にも目がついてるのかしら
未だに壱助さんは
沢山の謎に包まれています

　
｢‥行って参ります｣

そう言って
しぶしぶ布団から
出たその時であった

｢‥あれ？｣

足元がふわり浮くような
不思議な感覚に襲われ
頭が石のように重く感じ

そのまま意識が飛び
体が‥

：
：
：

一瞬どこかへ旅立った
自分を引き戻し
はっと目を覚ます

目の前には
切れ長の目の肌が白い‥

｢壱助さん‥？｣

はて‥
何があったんだろうか

　
｢‥危なっかしいです､ね｣

目を細めて､呆れた様子

今‥この体勢は‥
この頭に触れるのは‥

｢ひざ‥膝枕｣

思わず上擦った声に
ごくりと唾を飲んだ

　
壱助さんに
膝枕をしてもらうなんて
壱助さんの
お膝様をお借りするなんて

‥なんて命知らずなんだ

｢わわっ
ごっごめんなさいこんなっ｣

慌てふためくあたしの顔は
きっと真っ赤に染まってる
火がでるほど熱かった

　
下から見る壱助さんの姿は
彫刻みたいに鼻が高くて
また睫長くなってる気がして

たった一度だけ触れた唇が
あの優しい感覚を蘇らせた

‥同じ世界の人間か疑うほど
親の顔が見てみたい

｢そんなに‥
か弱かったんですかい？｣

｢へ？｣

　
すると見る見る内に
いい匂いと共に近づく
あの美しい顔

｢ちょっちょっ壱助さんっ？!｣

また消毒ですか？!
待ってよ心の準備ってもんが‥