浮き世の諸事情｡

　
そして何度見ても
この美しさには慣れない

雪みたいに真っ白だから
囲炉裏に近づいたら
溶けちゃうんじゃないかって
馬鹿みたいな心配をするほど

一気に火照った顔を
ぷいっと背けて
また空に目を向けた

雪‥やっぱり降らないかなぁ

：
：

結局"まぁ､まぁ"と言って
言うことを聞いてくれず‥

って言うか
何が"まぁ､まぁ"よ!!

あたしだって暖まりたいのにぃ‥

　
｢雪が降りそうだって言うのに
何でわざわざ‥
着物下ろすんですかぁ？｣

少し乱暴に唇を尖らせて
後ろにある背中に訴えると

｢いいじゃあ､ないですか｣

と､満足げな声が返ってきた

　
ちらりと少し顔を向けて
横目で様子をうかがえば
胡座をかいた片膝に
頬杖を付いてくつろいでいる

あったかそう‥
行きたい‥けど
そんな半裸の男の人の
隣になんか並べない!と言う

‥生娘の葛藤｡

ただただ時間が過ぎ
体が冷え行くだけだった

：
：

｢‥へっくしゅん!!｣

このままじゃ風邪引く‥
冷えた手を口元の前で握りしめ
はぁーっと息を吹きかける

｢やれ､やれ｣

　
やれやれって‥
そもそも壱助さんが
変態な趣味持ってるからよ!!

最早此処まで来ると
動いてたまるかとヤケになるもの

｢仕方のない人､ですねぇ｣

_

　

――‥ ｷﾞｭｳｩ

一気にあたしの体を温めたのは
後ろからいきなり
抱きついてきた壱助さんだった

　
｢維持など張らずに‥
此方に来れば良いものを｣

首を抱くようにして
絡みつく腕が
男らしいくせに美しくもある

｢べ‥別に､維持なんて‥｣

言い訳を並べようとした口に
華奢な指が触れた

　
｢ほぉう‥｣

｢壱助さんが‥
あく‥悪趣味だから｣

いつもと違って
暖かい壱助さんの体に
とても違和感を覚えて

なんだかいつもとは
別の人のような気もして‥

乱れる鼓動を
止めてしまいたかった

　
｢‥こいつぁ､手厳しい｣

急に横で見せた含み笑いに
いつもより瞬きを多めにして
顔を背けてみる

｢おや‥顔が赤く‥｣

｢言わないで下さいぃっ!!｣

もう‥香夜は溶けそうです｡