浮 き 世 の 諸 事 情 。
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#62 []
 
頬を伝う冷たいものを
恐る恐る手で拭い
涙だとわかって安堵した。


結局誰かに捕まるなら、
あの時連れ去られてしまえば
お父さんは生きていたのかも‥


「‥痛い、」

母親が残した体中の傷が疼いた

⏰:10/01/27 00:54 📱:D905i 🆔:.cEN1Iy.


#63 []
 
着物で隠せるのが唯一の幸い
背中だから、時々
寝返りをうつと痛むけど‥

ふぅっと息を吐いて
鏡越しに醜い背中を眺めた

‥痛々しい傷
爪を立てられたり
刃物を振り回されたり

今思えばあの時の母は、
何かに取り憑かれてたんじゃないかと疑ってしまうほどだ

⏰:10/01/27 01:02 📱:D905i 🆔:.cEN1Iy.


#64 []
 
「化け物は‥」

「母親の方‥ですか?」


振り返ると
いつ帰ってきたのか
‥壱助さんの姿が

足音くらい立ててよ‥
びっくりしたぁ


「お‥お帰りなさい」

「‥折角、良い隙をあげたのに」

⏰:10/01/27 13:12 📱:D905i 🆔:.cEN1Iy.


#65 []
 
壱助さん
あんた訳わかんないよ‥

捕まえて"所有物"だ"夫婦"だ
逃げられないと言っておきながら

あたしに逃げるための
時間を与えるなんて‥ねぇ。


「言い付けは守る主義ですから」

急いで腕を通した着物の胸元を
忙しなく直しながら言った

⏰:10/01/27 13:15 📱:D905i 🆔:.cEN1Iy.


#66 []
 
"それは、それは"と満足そうに
少し距離を置いて正座する、

壱助さんは無関心なのか
ただ口数が少ない方なのか
よくわからない


「勢いの良い、"猫娘"」

「へ?」

「かと、思いきや」

「や?」

「傷を負った"捨て猫"と、きた」

⏰:10/01/27 13:21 📱:D905i 🆔:.cEN1Iy.


#67 []
 
それでいて、
口を開いたかと思えば
訳のわからないことばかり

「‥何の話ですか?」

「幼き頃のその傷は、」

「だから何の‥」

「少々貴女には深すぎた」

「‥」

見透かされたのか、
独り言を聞かれたのか、
そんなことは気にならない

⏰:10/01/27 13:25 📱:D905i 🆔:.cEN1Iy.


#68 []
 
自然と口が開く

「でも、あたしには‥
この傷を背負う義務がある」

「義、務」

ぽつり、呟いた壱助さんの口が
少し歪んで見えた

「"生きたい"って思わなければ
何もかもが上手くいったんです。
あたしさえ犠牲になれば‥
死ななくて済んだ‥。」

情けない自分の声が憎らしい

⏰:10/01/27 13:30 📱:D905i 🆔:.cEN1Iy.


#69 []
 
「母を許そうとは思いません。
そこまで出来た人間ではないし

自分の事も‥許せないんです
だから‥仕方ない事です」

ぷつり、ぷつりと
出た言葉を紡ぎ合わせると


壱助さんは目を細めた。

⏰:10/01/27 13:34 📱:D905i 🆔:.cEN1Iy.


#70 []
 
「ほぅ‥興味深いです、ね」

本当に興味あるのかな‥
目をこちらに向けもせず
お茶を入れる姿は
どうも、そうは見えない‥。


「香夜さんが、助けを求めた時
代わりに父親が殺されると‥
予期していたなら、

貴女は確かに‥人殺しです」

胸が痛む。息が少し上がった
何故‥知ってるの?

⏰:10/01/27 16:56 📱:D905i 🆔:.cEN1Iy.


#71 []
 
「しかし‥その様なことは
貴女でなくても、考えませんぜ

よって、罪意識は無用です、よ」


わからない。
今まであんなに自分を攻めてきた
そう思って‥孤独に生きてきた
母の暴力にも耐えたのに‥


「貴女は、悪くない‥香夜さん」

⏰:10/01/27 17:01 📱:D905i 🆔:.cEN1Iy.


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