浮 き 世 の 諸 事 情 。
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#66 [笹]
"それは、それは"と満足そうに
少し距離を置いて正座する、
壱助さんは無関心なのか
ただ口数が少ない方なのか
よくわからない
「勢いの良い、"猫娘"」
「へ?」
「かと、思いきや」
「や?」
「傷を負った"捨て猫"と、きた」
:10/01/27 13:21 :D905i :.cEN1Iy.
#67 [笹]
それでいて、
口を開いたかと思えば
訳のわからないことばかり
「‥何の話ですか?」
「幼き頃のその傷は、」
「だから何の‥」
「少々貴女には深すぎた」
「‥」
見透かされたのか、
独り言を聞かれたのか、
そんなことは気にならない
:10/01/27 13:25 :D905i :.cEN1Iy.
#68 [笹]
自然と口が開く
「でも、あたしには‥
この傷を背負う義務がある」
「義、務」
ぽつり、呟いた壱助さんの口が
少し歪んで見えた
「"生きたい"って思わなければ
何もかもが上手くいったんです。
あたしさえ犠牲になれば‥
死ななくて済んだ‥。」
情けない自分の声が憎らしい
:10/01/27 13:30 :D905i :.cEN1Iy.
#69 [笹]
「母を許そうとは思いません。
そこまで出来た人間ではないし
自分の事も‥許せないんです
だから‥仕方ない事です」
ぷつり、ぷつりと
出た言葉を紡ぎ合わせると
壱助さんは目を細めた。
:10/01/27 13:34 :D905i :.cEN1Iy.
#70 [笹]
「ほぅ‥興味深いです、ね」
本当に興味あるのかな‥
目をこちらに向けもせず
お茶を入れる姿は
どうも、そうは見えない‥。
「香夜さんが、助けを求めた時
代わりに父親が殺されると‥
予期していたなら、
貴女は確かに‥人殺しです」
胸が痛む。息が少し上がった
何故‥知ってるの?
:10/01/27 16:56 :D905i :.cEN1Iy.
#71 [笹]
「しかし‥その様なことは
貴女でなくても、考えませんぜ
よって、罪意識は無用です、よ」
わからない。
今まであんなに自分を攻めてきた
そう思って‥孤独に生きてきた
母の暴力にも耐えたのに‥
「貴女は、悪くない‥香夜さん」
:10/01/27 17:01 :D905i :.cEN1Iy.
#72 [笹]
いきなり救われてしまっても、
自分への対応の仕方がわからない
「忘れられない過去も、
思い出したくない過去も、
誰にでも有るじゃぁないですか
もっと‥肩の力、抜きましょう」
目の奥が痛いくらいに熱くなる
目の前の壱助さんが
‥一気にぼやけた
:10/01/27 17:06 :D905i :.cEN1Iy.
#73 [笹]
あぁ‥もう
人前で泣かないと決めたのに。
「一つだけ、忘れなければ‥」
懸命に涙を拭ってみても
指の隙間から溢れ出る
何が悲しいの‥?
何が辛いの‥?
どうして‥こんなに‥。
「父上に救われた、その命
無駄な物に‥してはいけない」
:10/01/27 17:11 :D905i :.cEN1Iy.
#74 [笹]
壱助さんは
今どんな顔をしてるのかな‥
どんな思いで、どんな表情で‥
「死のう、なんざぁ‥
もう‥これっきりに、」
壱助さんの冷たい手が
あたしの手首を掴む
「‥っ」
恥ずかしくて堪らない
お父さんに、申し訳ない
「‥しましょう、か」
:10/01/27 17:16 :D905i :.cEN1Iy.
#75 [笹]
手首の腫れ上がった傷口を
細い指が撫でる
お父さん‥お父さん
‥ごめんなさい
「う‥っ‥グズ」
必死に声を殺しても
ただただ辛いだけで、虚しくて
悔しいだけだった
:10/01/27 17:20 :D905i :.cEN1Iy.
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