記憶を売る本屋さん
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#351 [我輩は匿名である]
今日はそこまでだった。

直人は頭を抱える。

「…俺は…俺だよな…」

そう言いながら、直人は携帯電話に手を伸ばす。

⏰:10/04/06 20:46 📱:N08A3 🆔:Q2X/nrjY


#352 [我輩は匿名である]
「なぁ」

部屋の窓から夕日を眺めながら話していた薫は、ふと響子に言う。

「ん?」

「…そろそろ…“月城くん”って呼ぶの、やめないか?」

いきなりの申し出に、響子は隣できょとんとする。

が、すぐに優しい笑顔を浮かべた。

「…私の事、まだ“長谷部今日子”って呼ぶくせに」

⏰:10/04/07 10:42 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#353 [我輩は匿名である]
「…あれは…」

薫は「うーん…」と首をかしげる。

“いつになったら、俺が優也だと気付いてくれるのか”

もしかしたら、自分が名前を呼ぶ事で全て思い出してくれるのではないか…。

そういう思いもあった。


しかしそれよりも、薫は“香月響子=長谷部今日子”としか思っていなかったのだ。

「…私は…“長谷部今日子”じゃなくて、“香月響子”って言ってほしかったな」

響子はぽつりと言った。

薫はきょとんとする。

⏰:10/04/07 11:00 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#354 [我輩は匿名である]
「…どういう意味?」

響子は少し淋しそうに下を向く。

「…だって、私は長谷部今日子じゃないから…」

響子が何を言っているのか、薫はわからなかった。

「…キョウコ…?」

「…月城くんの言う“キョウコ”は、どっちのキョウコなの?」

響子の言葉が、薫の胸に突き刺さる。

⏰:10/04/07 11:00 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#355 [我輩は匿名である]
「確かに、私は長谷部今日子の生まれ変わりだよ?

顔もそっくりだし、同じだと思われても仕方ないと思う。

でも、私は香月響子だよ。長谷部今日子じゃない」

響子はぎゅっと、自分の両手を握り締める。

「私は、優也と月城くんを同じ人だと思わない。

“霜月優也”の記憶を持ってるだけで、あなたは“霜月優也”じゃない。

…私は…私が好きなのは、…“月城薫”だよ」

響子の声が震えている。

薫は何も言えなかった。

⏰:10/04/07 11:00 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#356 [我輩は匿名である]
ベッドの上で携帯電話のバイブが鳴る。

手にとって見てみると、直人から電話がかかってきている。

「…出なよ、って言っても、ここでは電話出来ないけど」

響子はうつむいたまま言う。

「でも…」

「大事な用かもしれないよ。…私は、後でいいから」
響子は少し笑ってみせる。
が、薫の気持ちは電話どころではない。

⏰:10/04/07 11:01 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#357 [我輩は匿名である]
何か言おうとするが、響子が先に、ベッドのナースコールを押す。

それに出るより早く、受け持ちの看護師がやってきた。

「どうしました?」

「電話しに行きたいらしいんですけど…」

「あぁ、電話ね。座れる?座れそうなら車椅子持ってくるけど…」

「え、あぁ…はい…」

うわの空のまま薫が答えると、看護師は「じゃあちょっと待っててね」と、車椅子を取りに行ってくれた。

看護師が戻ってくるまで、薫も響子も、何も言わないまま目を逸らしていた。

⏰:10/04/07 11:01 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#358 [我輩は匿名である]
「…あぁ…病院だし、電話すんのはマズかったかなぁ…」

直人は、メールじゃなく電話をかけた事を後悔した。

考え直して、メールを作成し始める。

すると、途中で薫から折り返しの電話がかかってきた。

「もしもし?」

「…ごめん、病室じゃ電話出来ないから、移動してた」

そう言った薫の声が、昼に比べて暗かった。

「もしかして、寝起き?」

「…いや…起きてたけど」

⏰:10/04/07 11:02 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#359 [我輩は匿名である]
「そうか?なんか暗そうだけど」

「そんな事より、どうした?」

薫は直人の話を遮るように聞き返す。

「え、あぁ…」

何から言えばいいのかわからず、直人は焦る。

「…お前さぁ、本の中の自分の事、すぐ“自分の前世だ”って思えた?」

「…どういう意味?」

薫はまた聞き返す。

思うように伝えられず、直人は頭を抱える。

⏰:10/04/07 11:02 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#360 [我輩は匿名である]
「なんか最近、本読んでたら、変な感じがするんだ。

今までは、要と考える事も、言いたい事も一緒で、『こいつが俺の前世なのかぁ』って思ってたんだけど…

なんか、そう思いたくなくなってきたんだよ。

自分が自分じゃなくなってきそうな気がしてさ…。

どう言えばいいのかわかんねぇけど…“俺はあいつじゃない”っつーか…。

“俺は俺だ”って言い聞かせとかないと…気分悪くなってくるんだよ」

「…“俺は俺”…」

薫はぼそっと、それだけ繰り返した。

⏰:10/04/07 11:02 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


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