記憶を売る本屋さん
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#357 [我輩は匿名である]
何か言おうとするが、響子が先に、ベッドのナースコールを押す。

それに出るより早く、受け持ちの看護師がやってきた。

「どうしました?」

「電話しに行きたいらしいんですけど…」

「あぁ、電話ね。座れる?座れそうなら車椅子持ってくるけど…」

「え、あぁ…はい…」

うわの空のまま薫が答えると、看護師は「じゃあちょっと待っててね」と、車椅子を取りに行ってくれた。

看護師が戻ってくるまで、薫も響子も、何も言わないまま目を逸らしていた。

⏰:10/04/07 11:01 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#358 [我輩は匿名である]
「…あぁ…病院だし、電話すんのはマズかったかなぁ…」

直人は、メールじゃなく電話をかけた事を後悔した。

考え直して、メールを作成し始める。

すると、途中で薫から折り返しの電話がかかってきた。

「もしもし?」

「…ごめん、病室じゃ電話出来ないから、移動してた」

そう言った薫の声が、昼に比べて暗かった。

「もしかして、寝起き?」

「…いや…起きてたけど」

⏰:10/04/07 11:02 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#359 [我輩は匿名である]
「そうか?なんか暗そうだけど」

「そんな事より、どうした?」

薫は直人の話を遮るように聞き返す。

「え、あぁ…」

何から言えばいいのかわからず、直人は焦る。

「…お前さぁ、本の中の自分の事、すぐ“自分の前世だ”って思えた?」

「…どういう意味?」

薫はまた聞き返す。

思うように伝えられず、直人は頭を抱える。

⏰:10/04/07 11:02 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#360 [我輩は匿名である]
「なんか最近、本読んでたら、変な感じがするんだ。

今までは、要と考える事も、言いたい事も一緒で、『こいつが俺の前世なのかぁ』って思ってたんだけど…

なんか、そう思いたくなくなってきたんだよ。

自分が自分じゃなくなってきそうな気がしてさ…。

どう言えばいいのかわかんねぇけど…“俺はあいつじゃない”っつーか…。

“俺は俺だ”って言い聞かせとかないと…気分悪くなってくるんだよ」

「…“俺は俺”…」

薫はぼそっと、それだけ繰り返した。

⏰:10/04/07 11:02 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#361 [我輩は匿名である]
「薫は、そんな事思った時なかった?」

直人が尋ねるが、薫から返事はない。

「…薫?」

「え?あぁ、ごめん、…もう1回言って」

「だぁかぁらぁ、薫はそう思った事なかったか?って」

直人は少し強めの口調で言い直す。

「…俺は…なかったな…。ただ黙って、何も思わないまま、目の前の事を見てるだけだった…」

薫の言い方が、まるで後悔しているように聞こえる。

いつも何でも知っている薫がこれでは、自分が正しいのか正しくないのかわからない。

⏰:10/04/07 11:03 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#362 [我輩は匿名である]
「なぁ、何かあったのかよ?元気ないだろ?お前」

直人は問いただすように尋ねる。

「…お前は…」

薫はそれだけ言って、また黙ってしまった。

「もう!何なんだよ!?言いたい事あるならさっさと言えよ!」

短気な直人は、イライラしたように声を上げる。

「…何かもう、わからなくなってきた」

薫は弱々しく言った。

⏰:10/04/07 11:03 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#363 [我輩は匿名である]
「何が」

「…さっき、キョウコに…香月に言われたんだ。

“私は月城薫が好きだ。でも月城くんが言うキョウコは、どっちのキョウコなのか”

…って」

直人は、最初は意味がわからなかった。

思わず「は?」と聞き返す。

「…香月は…“霜月優也”じゃなくて、“俺”を見てくれてる。

でも俺は…誰を見てるんだろう…。そう思ったら、もうわからなくなってきてさ…」

⏰:10/04/07 11:04 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#364 [我輩は匿名である]
直人には、薫の話がバカらしく聞こえて仕方がなかった。

「…お前って、そんな失礼な奴だっけ?」

直人はストレートに言い返す。

「そりゃお前、“お前より前の女の方が好きです”って言ってるようなもんだろ。

しかもあいつは、前の夫より“お前”が好きだって言ってくれてんだろ?

そりゃあ、香月が怒るのも無理ないだろ」

薫は「響子が怒っている」とまでは言わなかったが、直人はそこまで言い切る。

⏰:10/04/07 11:04 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#365 [我輩は匿名である]
「それに…名前忘れたけど、前の嫁はもう死んだんだぞ?

いつまでもその人ばっか考えてたってしょーがねぇだろ。

その人はその人、香月は香月だろ」

そして、言った自分もハッとする。

「直人…」

「そうだ!やっぱそうだよな!」

直人は自分で納得し、ガッツポーズをする。

「何…」

「わりぃ!自己解決したわ!じゃあな!」

直人は大声で言って、一方的に電話を切った。

⏰:10/04/07 11:05 📱:N08A3 🆔:yPxyjGr2


#366 [ま]
うっへーい

⏰:10/04/07 16:47 📱:P04A 🆔:tadRV.Mw


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