記憶を売る本屋さん
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#367 [我輩は匿名である]
「あぁ…あれは…」
薫は『どう言えばいいのか』と首をかしげる。
“いつになったら、俺が優也だと気付いてくれるのか”
もしかしたら、自分が名前を呼ぶ事で全て思い出してくれるのではないか…。
そういう思いもあった。
しかしそれよりも、薫は“香月響子=長谷部今日子”としか思っていなかったのだ。
「…私は…“長谷部今日子”じゃなくて、“香月響子”って言ってほしかったな」
響子はぽつりと言った。
薫はきょとんとする。
:10/04/07 18:24
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#368 [我輩は匿名である]
「…どういう意味?」
響子は少し淋しそうに下を向く。
「…だって、私は長谷部今日子じゃないから…」
響子が何を言っているのか、薫はわからなかった。
「…キョウコ…?」
「…月城くんの言う“キョウコ”は、どっちのキョウコなの?」
響子の言葉が、薫の胸に突き刺さる。
:10/04/07 18:25
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#369 [我輩は匿名である]
「確かに、私は長谷部今日子の生まれ変わりだよ?
顔もそっくりだし、同じだと思われても仕方ないと思う。
でも、私は香月響子だよ。長谷部今日子じゃない」
響子はぎゅっと、自分の両手を握り締める。
「私は、優也と月城くんを同じ人だと思わない。
“霜月優也”の記憶を持ってるだけで、あなたは“霜月優也”じゃない。
…私は…私が好きなのは、…“月城薫”だよ」
響子の声が震えている。
薫は何も言えなかった。
:10/04/07 18:25
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#370 [我輩は匿名である]
ベッドの上で携帯電話のバイブが鳴る。
手にとって見てみると、直人から電話がかかってきている。
「…出なよ、って言っても、ここでは電話出来ないけど」
響子はうつむいたまま言う。
「でも…」
「大事な用かもしれないよ。…私は、後でいいから」
響子は少し笑ってみせる。
が、薫の気持ちは電話どころではない。
:10/04/07 18:25
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#371 [我輩は匿名である]
:10/04/07 18:28
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#372 [我輩は匿名である]
薫は「何だったんだ…」と携帯電話を見つめる。
「(…“そりゃ怒るだろ”…か…。…そうだよな…)」
直人の言った事を、薫はもう1度思い返す。
そして、薫は来たときよりも早く車椅子を走らせて、病室に戻った。
響子は自分のベッドに転がっている。
「香月、ごめん」
帰って来て早々、薫は響子に頭を下げる。
響子は少し驚いたように起き上がる。
「…どうしたの?」
:10/04/07 18:31
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#373 [我輩は匿名である]
「…俺…おかしかった」
響子は黙って、薫を見つめる。
「俺、香月響子と長谷部今日子は同じだと思ってた。
自分の事も、“俺は霜月優也だ”としか思ってなかった…。
だから正直…お前を“香月響子”だと思って接した事はない。
今までずっと、お前を“長谷部今日子”だと思って傍にいたんだ」
薫は、響子に嫌われる事を承知で、全て話した。
:10/04/07 18:32
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#374 [我輩は匿名である]
「お前は…香月は最初から“俺”と“霜月優也”を別にして考えてくれてた…。
……当たり前だよな…。長谷部今日子も霜月優也も、もう死んでこの世にいないのに…。
同じ人間がいるなんて事…あるわけないんだよな…。
…何でそんな簡単な事もわからなかったんだろうな…俺…」
薫はずっと頭を下げたまま話す。
あの体勢では、怪我した左胸が痛んでいるはずだ。
「…月城くん…もういいよ」
響子は止めようとするが、薫は頭を上げようとはしない。
:10/04/07 18:32
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#375 [我輩は匿名である]
今まで、響子は“月城薫”を好きでいてくれた。
“霜月優也”を好きなのは、彼女の記憶の中の、“別の女”だ。
余計にこんがらがりそうな頭の中を、薫は必死に整理する。
今まで自分の隣にいてくれたのは誰?
今まで自分に優しく笑いかけてくれたのは誰?
「(でも俺は…今まで今日子しか…)」
「その人はその人」
直人の言葉が頭に浮かぶ。
響子は、下を向いたまま考え込んでしまった薫を気にして、立ち上がって隣にやって来た。
:10/04/07 18:33
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#376 [我輩は匿名である]
「…大丈夫?」
「なんかもう…わからなくなってきた…」
薫は深刻そうな顔で考える。
響子はため息をつき、こんな事を言いだした。
「どうしても長谷部今日子の事しか考えられないなら、私が越えてやるわ。
月城くんが他に何にも考えられないぐらいの女になってやる。
そうすれば、月城くんもスッキリするでしょ?」
何を言いだすのかと、薫思わず顔を上げる。
響子は自信満々に笑っている。
それががおかしくて、薫も呆れたように笑い返した。
:10/04/07 18:43
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