記憶を売る本屋さん
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#374 [我輩は匿名である]
「お前は…香月は最初から“俺”と“霜月優也”を別にして考えてくれてた…。
……当たり前だよな…。長谷部今日子も霜月優也も、もう死んでこの世にいないのに…。
同じ人間がいるなんて事…あるわけないんだよな…。
…何でそんな簡単な事もわからなかったんだろうな…俺…」
薫はずっと頭を下げたまま話す。
あの体勢では、怪我した左胸が痛んでいるはずだ。
「…月城くん…もういいよ」
響子は止めようとするが、薫は頭を上げようとはしない。
:10/04/07 18:32
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#375 [我輩は匿名である]
今まで、響子は“月城薫”を好きでいてくれた。
“霜月優也”を好きなのは、彼女の記憶の中の、“別の女”だ。
余計にこんがらがりそうな頭の中を、薫は必死に整理する。
今まで自分の隣にいてくれたのは誰?
今まで自分に優しく笑いかけてくれたのは誰?
「(でも俺は…今まで今日子しか…)」
「その人はその人」
直人の言葉が頭に浮かぶ。
響子は、下を向いたまま考え込んでしまった薫を気にして、立ち上がって隣にやって来た。
:10/04/07 18:33
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#376 [我輩は匿名である]
「…大丈夫?」
「なんかもう…わからなくなってきた…」
薫は深刻そうな顔で考える。
響子はため息をつき、こんな事を言いだした。
「どうしても長谷部今日子の事しか考えられないなら、私が越えてやるわ。
月城くんが他に何にも考えられないぐらいの女になってやる。
そうすれば、月城くんもスッキリするでしょ?」
何を言いだすのかと、薫思わず顔を上げる。
響子は自信満々に笑っている。
それががおかしくて、薫も呆れたように笑い返した。
:10/04/07 18:43
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#377 [我輩は匿名である]
「出来んのか?お前に」
「私が『会いたくない』ってメールしただけで淋しがる男が何言ってるの?」
響子は怯むことなく言い返してくる。
「わからせてあげるわ。私は長谷部今日子とは違うって事」
「…まぁ、身長は伸びたもんなぁ。それでもまだまだチビだけど」
薫は意地悪そうに笑い返す。
「チビって言わないで!一応155cmあるんだから!」
「俺の中では160cmないヤツはみんなチビなんだよ」
「な…」
響子は悔しそうに腕を組んで、言い返す言葉を考える。
:10/04/07 18:43
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#378 [我輩は匿名である]
それを見て、薫は少し下を向いて笑った。
長谷部今日子は、こんなに言い返してくる性格ではなかった。
霜月優也は、そんなおしとやかな彼女が好きだった。
こんなくだらない言い合いをした事などない。
「(…確かに、あいつとは違うな…)」
「…何笑ってんの?」
少し顔を上げると、さっきまで怒っていた響子が、しゃがみこんでこちらを見上げている。
:10/04/07 18:44
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#379 [我輩は匿名である]
「…別に。何か面白くなっただけ」
薫はすました表情で言う。
響子も「…確かに」と返事をして笑う。
いつもの笑顔に、薫も何だかホッとして小さく笑い返した。
:10/04/07 18:44
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#380 [我輩は匿名である]
「そうだよな、要は要、俺は俺だよな!」
その頃、直人は清々しい気分でいっぱいになっていた。
携帯電話を枕元に放り投げ、寝転がる。
「(初めて薫に勝った気がするぞ…)」
今まで勉強でも運動でも薫に負けてきた直人は、大の字に寝転がってニヤける。
何だか自分に自信が湧いてきた。
さっきまでの不安も吹き飛ばして、早く明日にならないかと、直人は窓の外を見上げていた。
:10/04/07 22:00
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#381 [我輩は匿名である]
次の日。
直人はドキドキしながら本を見つめている。
果たして、晶との関係はどうなるのか。
深呼吸を1回して、直人は一気に本を開く。
:10/04/07 22:53
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#382 [我輩は匿名である]
要は早足でどこかへ向かっていた。
太陽はもうだいぶ高く上っている。
「えっ、何だよいきなり?どこ行ってんの?」
珍しく速く過ぎていく景色に、少し酔いそうになる。
「やっぱりおかしいよな…。何か怒ってたし…今日も結局来なかったし…」
要は小さく独り言を言いながら歩いていく。
「やっぱり来なかったのか…」
直人はため息をつく。
という事は、今は施設に向かっている途中なのだろう。
:10/04/07 22:54
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#383 [我輩は匿名である]
晶を説得しに行くのか、別れを告げるのか。
どうやら今日が正念場のようだ。
直人は思わず力む。
あの角を曲がれば、晶のいる養護施設だ。
要も直人も、ただ黙って突き進む。
そして。
「(いたいた…)」
晶は、今日は門の傍にボーッと座っていた。
:10/04/07 22:54
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