記憶を売る本屋さん
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#412 [我輩は匿名である]
「…へ?」
「薫もだけどね」
「え!?」
唐突な話に、奏子はぽかんとする。
「でも、2人とも死んでないじゃん!」
「あの本は…読んだ人を死なせる本じゃない。
前世での記憶を思い出させるもの…。
悲しい過去を持つ人に与えられる本。
…前世の自分が死ぬ時が本の終わり」
誰から聞いたのか、響子は言う。
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#413 [我輩は匿名である]
「自殺したり、人を殺そうとする人は、その過去に耐えられなかった人。
耐えられた人も、一応いる。ほんの一握りだけね」
「…何で響子ちゃんがそんな事…」
奏子は茫然としながら尋ねる。
「…私も似たようなものだから」
響子は小さく笑う。
「…俺…」
直人はうつむきながら言う。
「俺の…前世の奴が、昨日、トラックにはねられて…死んだんだ」
彼の話に、奏子はまた驚き、響子は黙って耳を傾ける。
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#414 [我輩は匿名である]
「…その瞬間が…俺、ずっと忘れられなくて…。
俺じゃないのに、俺が死んだような気がして…。
違うって思えば思うほど、気分悪くて吐きそうになってくるし…」
「…それ、どんな感じで見えるの?」
奏子は恐る恐る尋ねてくる。
「…トラックが迫ってきて…鼓膜が破れそうなぐらいでかいブレーキの音が耳元でして、…それだけ」
「…怖かったでしょ」
響子は、直人の気持ちを理解したように、優しく声をかける。
:10/04/08 22:51
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#415 [我輩は匿名である]
「……お前は?飛び降り自殺に巻き込まれて死んだんだろ?」
奏子は今度は響子を見つめる。
「そうなの…?」
「…うん」
響子は頷く。
「怖かったよ、私も。…でも、水無月と同じ“怖さ”とは違うと思う。
…私は…好きな人を悲しませる事が、怖かった」
響子は少し下を向き、口を閉ざした。
「…あ、あの子は?」
「…そうだ、薫は…?」
:10/04/08 22:51
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#416 [我輩は匿名である]
響子の前世の最期は薫から聞いた事があるが、薫は自分の事は一言も話した事はない。
直人は気になった。
「…薫の前世の人は、前の“私”の旦那さんだった。
彼女が死んだ2ヶ月後に、肺がんで亡くなった」
奏子も直人も、言葉が出なかった。
“薫”が病死だったなんて…。予想外の話に、何も考えられない。
「…月城くん、だっけ?よく耐えれたね」
今度は奏子が口を開く。
:10/04/08 22:52
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#417 [我輩は匿名である]
「え?」
「だって、奥さんはその…誰かの自殺に巻き込まれて死んで、すぐ自分も癌だとか言われて…。
私なら無理だね、絶対」
「…彼は死ぬ直前、彼女に約束したの。
『生まれ変わったら、お前を探しだして、もう1度プロポーズする』。
薫は…それしか考えてなかったみたいだから…」
響子は呆れたように少し笑う。
「…だから、死にたくなってる場合じゃなかった…って事か」
奏子は自分で言いながら整理する。
:10/04/08 22:52
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#418 [我輩は匿名である]
彼には1つ、大きな目的があった。
だから薫は乗り越える事が出来たのだ。
しかし、直人にはそんなものはない。
「水無月くんは、死にたいと思ってる?」
響子はまっすぐに尋ねてくる。
「…死にたいとは思わない…。でも…何で俺が…本をもらえたのかわからない…」
直人は思った事をそのまま口にする。
「薫には、奥さんを見つけるって目的があった。
…でも、俺には何もない。なのに…」
:10/04/08 22:53
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#419 [我輩は匿名である]
「…明日、薫が退院するのは知ってる?」
響子は、一見あまり関係ないような話をした。
直人は「あぁ」と頷く。
「だったら、退院してから、薫に話を聞きに行ってみて。
もしかしたら、見つかるかもしれないよ。本をもらった理由が」
響子は笑って言った。
「…あの子何でも知ってるね」
奏子は「すごいわ…」とため息をつく。
:10/04/08 22:53
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#420 [我輩は匿名である]
「…そういえば、いつから名前で呼ぶようになったわけ?」
「一昨日から♪」
響子はのろけて、満面の笑みを浮かべて答える。
「告られたの?てか、前からそーゆー雰囲気だったけど」
「んー、そうでもないけど…。むしろ私が告った感じ?」
「…え…?」
奏子は「何で?」という目で響子を見る。
「というか、私が傍にいないと淋しがるんだもん。
月城薫という男は」
「なんだそりゃ…」
笑顔で言い切った響子に呆れて、奏子はもう1度ため息を吐いた。
:10/04/08 22:54
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#421 [我輩は匿名である]
直人もフッと小さく笑う。
「何かわかんねぇけど、元気出た。ありがとな」
「どーいたしまして」
「お前じゃねーし」
「はぁ?」
直人と奏子が、しょうもない言い合いを始める。
「…なんかお似合いだね、2人とも」
「似合ってない!!」
直人と奏子は声を揃えて否定する。
「(絶対お似合いだと思うけどなぁ…)」
響子はこの間の薫と同じ事を思いながら、2人の様子を眺めていた。
:10/04/08 22:54
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