記憶を売る本屋さん
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#301 [我輩は匿名である]
口に押しつけていた服の袖が血で汚れる。
「……お前はもう…俺の事…嫌いに…なったかも…しれないな…。
でも…俺は…もし人が…生まれ変わるのなら……もう1度……お前を探すよ……」
響子にはもう、優也の顔がはっきり見えなくなっていた。
「嫌いになるわけないよ、大好きだよ」と言って、今すぐでも抱き締めたい。
そう思うと、もう涙が止まらない。
:10/04/05 09:26
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#302 [我輩は匿名である]
「お前を見つけて……もう1度…プロポーズして……結婚して…次はちゃんと…あの子を…生んでやらないと…な…。
子どもは……2人が…いいな…。男の子と…女の子…。
男の子には…俺が…野球を…教えて…
女の子は…そうだな……今日子が…料理とか…教えるのも…いいかも…しれないな…。
子どもが大きくな…て……独り立ちしたら……俺達2人……いろんな所に…旅行に行こう……。
新婚旅行しか……どこにも…連れて行って…あげれなかった…から…」
優也の声が、息遣いが、だんだん小さくなってきている。
もうもたない。響子は思った。
息をする度に、ヒューヒューと苦しそうな音が、響子まで聞こえてくる。
何とか出来るなら何とかしてあげたい。響子はやるせなさでいっぱいだった。
:10/04/05 09:27
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#303 [我輩は匿名である]
痰が絡んでももう咳をする力も無くなってきたのか、優也は下を向く。
「(…優也…もう息が…)」
さっきまで肩で必死に息をしていたが、今はそうではなくなってきている。
「…今日…子……、…ごめん…ごめん、な……」
優也はそれきり、もう何も話さなかった。
:10/04/05 09:27
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#304 [我輩は匿名である]
「…うー」
不意に、赤ちゃんが声を出した。
目が潤んだまま視線を下ろすと、赤ちゃんはじっと、優也の方を見ている。
普通この小さならまだあまり目が見えないはずだが、赤ちゃんはまっすぐに彼を見ていた。
「…君のお父さんだよ」
響子は小さく笑う。
「次に生まれて来た時は…いっぱい抱っこしてもらおうね」
響子の腕の中の赤ちゃんは、まるでその言葉がわかったかのように、にっこり笑った。
:10/04/05 09:28
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#305 [我輩は匿名である]
響子は静かに目を覚ます。
目の前には、真っ白い天井。家の天井ではない。
「あっ、目、覚めました?ここ病院ですよ」
足元で女性の声がする。
「病院…?」
「大丈夫?どこか痛む?」
声の主は、看護師だった。
「え…?」
「だって、涙出てるよ?」
そう言われて、響子は目の辺りを触る。確かに、両目に一筋の涙のあとがある。
:10/04/05 21:49
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#306 [我輩は匿名である]
それも、まだ出来たばかりの。
「い…痛いんじゃないんです…」
響子は慌てて涙を拭く。
「そ、それより!」
ハッと思い出して、響子は飛び起きる。その拍子にベッドがギイッと音を立てる。
「私、私と一緒に、男の子が運ばれてきませんでしたか!?月城薫っていう子!」
急に声を上げたため、看護師は驚いている。
「…その子なら」
目をぱちくりさせつつ、看護師は響子に背を向け、響子の前のベッドを指差す。
:10/04/05 21:50
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#307 [我輩は匿名である]
「そこのベッドにいるわよ。あなたより重症だけど、結構早く目を覚ましてたよ」
カーテンで仕切られていて、このベッドの外が見えない。
しかし、カーテンの外が明るいのはわかる。
「…今、何時ですか?」
「今?今ねぇ、朝の9時過ぎ」
「…朝?えっ、朝ですか?」
「えぇ、香月さん、昨日階段から落ちてからずっと寝てたのよ。大丈夫?」
「へ?はぁ、何ともないです」
「そう。ちょっと頭打ってたみたいだから、それでかな。一応今日検査の予定が入ってるから」
「検査…はい、わかりました」
:10/04/05 21:50
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#308 [我輩は匿名である]
いまいちよくわからないまま、響子は了承する。
看護師はホッとしたように、響子の検温を始めた。
:10/04/05 21:51
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#309 [我輩は匿名である]
検温が終わり、看護師が部屋を出て行った。
血圧も体温も呼吸数も脈拍も、全て問題無い。
怪我も、薫がかばってくれたからか、かすり傷で済んでいる。
「(はっ!月城くんは!?)」
響子はベッドの下に置いてあるスリッパを履き、一応挿してある点滴を引っ張って薫のベッドに向かう。
響子のベッドのカーテンを開けると、薫のベッドのカーテンも閉まっていた。
何だか少し緊張する。
が、今そんな事を言っている場合ではない。
響子はゆっくりと、薫のベッドのカーテンを開ける。
:10/04/05 21:52
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#310 [我輩は匿名である]
「…よぉ」
薫は、意外にも元気そうに挨拶してきた。
が、頭には包帯を巻かれ、左肩はギプスをした上に、腕ごと牽引されている。
ベッドも30度程頭を上げてある。
看護師の「重症」と言う事葉を思い出す。
「…月城くん…」
「…あぁ、何か結構ひどいな、俺」
薫は苦笑しつつ、自分の体を見る。
:10/04/05 21:52
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