記憶を売る本屋さん
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#409 [我輩は匿名である]
しかし、退院出来るようになったなら良かった。
薫には、聞きたい事も、聞いてほしい事もたくさんある。
ほんの少しホッとして携帯電話をしまう。
そして教室を出ようとすると、ドアから室内を覗いている響子と奏子の姿があった。
「…あ!いたいた」
直人と目が合い、奏子が声を上げる。
2人は小走りで直人に駆け寄る。
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#410 [我輩は匿名である]
「香月…いつ退院したんだよ?」
「昨日ね。私はほとんど無傷だったし、検査でも異常なしだったから」
「…そっか…良かったな」
直人は元気なく笑う。
「で…俺に何か用…?」
いつもとは全く違う直人の様子に、2人は顔を見合わせる。
「今日の朝、学校行ってたらあんた見つけてさ。
でもなーんか元気無かったから、何となく気になって」
そう言ったのは、奏子だった。
否定できず、直人は「あぁ…」とうつむく。
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#411 [我輩は匿名である]
何か悪い事を言ってしまったのかと、奏子は少しおどおどする。
「…本を読み終えたの?」
響子はそれだけ直人に尋ねた。
直人はハッと顔を上げる。
「本…?」
事情を知らない奏子は、何の事かと首をかしげる。
「奏子ちゃん、呪いの本の話知ってる?」
「あぁ、変なおっさんが話し掛けてくるっていう、あの話?」
「…まぁ、そう。その呪いの本を、水無月くんが持ってるの」
:10/04/08 22:50
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#412 [我輩は匿名である]
「…へ?」
「薫もだけどね」
「え!?」
唐突な話に、奏子はぽかんとする。
「でも、2人とも死んでないじゃん!」
「あの本は…読んだ人を死なせる本じゃない。
前世での記憶を思い出させるもの…。
悲しい過去を持つ人に与えられる本。
…前世の自分が死ぬ時が本の終わり」
誰から聞いたのか、響子は言う。
:10/04/08 22:50
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#413 [我輩は匿名である]
「自殺したり、人を殺そうとする人は、その過去に耐えられなかった人。
耐えられた人も、一応いる。ほんの一握りだけね」
「…何で響子ちゃんがそんな事…」
奏子は茫然としながら尋ねる。
「…私も似たようなものだから」
響子は小さく笑う。
「…俺…」
直人はうつむきながら言う。
「俺の…前世の奴が、昨日、トラックにはねられて…死んだんだ」
彼の話に、奏子はまた驚き、響子は黙って耳を傾ける。
:10/04/08 22:51
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#414 [我輩は匿名である]
「…その瞬間が…俺、ずっと忘れられなくて…。
俺じゃないのに、俺が死んだような気がして…。
違うって思えば思うほど、気分悪くて吐きそうになってくるし…」
「…それ、どんな感じで見えるの?」
奏子は恐る恐る尋ねてくる。
「…トラックが迫ってきて…鼓膜が破れそうなぐらいでかいブレーキの音が耳元でして、…それだけ」
「…怖かったでしょ」
響子は、直人の気持ちを理解したように、優しく声をかける。
:10/04/08 22:51
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#415 [我輩は匿名である]
「……お前は?飛び降り自殺に巻き込まれて死んだんだろ?」
奏子は今度は響子を見つめる。
「そうなの…?」
「…うん」
響子は頷く。
「怖かったよ、私も。…でも、水無月と同じ“怖さ”とは違うと思う。
…私は…好きな人を悲しませる事が、怖かった」
響子は少し下を向き、口を閉ざした。
「…あ、あの子は?」
「…そうだ、薫は…?」
:10/04/08 22:51
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#416 [我輩は匿名である]
響子の前世の最期は薫から聞いた事があるが、薫は自分の事は一言も話した事はない。
直人は気になった。
「…薫の前世の人は、前の“私”の旦那さんだった。
彼女が死んだ2ヶ月後に、肺がんで亡くなった」
奏子も直人も、言葉が出なかった。
“薫”が病死だったなんて…。予想外の話に、何も考えられない。
「…月城くん、だっけ?よく耐えれたね」
今度は奏子が口を開く。
:10/04/08 22:52
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#417 [我輩は匿名である]
「え?」
「だって、奥さんはその…誰かの自殺に巻き込まれて死んで、すぐ自分も癌だとか言われて…。
私なら無理だね、絶対」
「…彼は死ぬ直前、彼女に約束したの。
『生まれ変わったら、お前を探しだして、もう1度プロポーズする』。
薫は…それしか考えてなかったみたいだから…」
響子は呆れたように少し笑う。
「…だから、死にたくなってる場合じゃなかった…って事か」
奏子は自分で言いながら整理する。
:10/04/08 22:52
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#418 [我輩は匿名である]
彼には1つ、大きな目的があった。
だから薫は乗り越える事が出来たのだ。
しかし、直人にはそんなものはない。
「水無月くんは、死にたいと思ってる?」
響子はまっすぐに尋ねてくる。
「…死にたいとは思わない…。でも…何で俺が…本をもらえたのかわからない…」
直人は思った事をそのまま口にする。
「薫には、奥さんを見つけるって目的があった。
…でも、俺には何もない。なのに…」
:10/04/08 22:53
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