記憶を売る本屋さん
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#56 [我輩は匿名である]
どうしてここまで入れ込んできているのか、わからない。

しかし、あの2人には幸せになってほしい。

そう思った。

「直人ー!ご飯ー!」

ドアの向こうから母親の声がする。

「あーい」

直人は大きく返事をし、再び起き上がって部屋を出た。

⏰:10/03/23 13:25 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#57 [我輩は匿名である]
同じ頃、1人の女子生徒が、重い足取りで家路についていた。

直人達のクラスメイトの、あの金髪女である。

「おぅい、お嬢さん」

その声に、金髪女は足を止める。

「お嬢さん、本は読まんかなぁ?」

後ろから、しゃがれた男の声がした。

金髪女は黙って振り返る。

「…別に」

「ほぉう。まま、わしがやる本読んでみないか?」

見るからに怪しげな老人。

さすがに金髪女も不審だと思ったのだろう。

「いらない」と言って背を向けた。

それを見て、老人はニタッと笑う。

⏰:10/03/23 13:27 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#58 [我輩は匿名である]
「人と付き合うのが怖い」

老人のその一言に、金髪女は再び足を止める。

「何でかわからんがぁ、人と接するのが怖い。君、そうだろうぅ?」

金髪女は何も言わずに振り向く。

そこには、青い本を差し出している小汚い老人がいた。

「この本読んだら、何で人と付き合えない理由、わかるかもねぇ」

金髪女は、話に食い付いたようにハッとする。

そして、ちょっと間考えた後、それを受け取った。

「…命は粗末にしない方がいいよぅ?お嬢さん」

「…は?」

金髪女は睨み付けたが、老人は構わずに背を向け、去っていった。

⏰:10/03/23 13:27 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#59 [我輩は匿名である]
昨日はボーッとしていた直人が、

今日は朝っぱらから腕を組んで考え込んでいる。

薫はそれを見ながら、忙しい奴だな、と思った。

「(…ま、邪魔せずにいてやるか)」

朝礼が始まるまで、あと10分ある。

薫は暇つぶしに、あるところへ行ってみようと教室を出た。

この高校では屋上が解放されている。

転落防止のための高い柵が設置されており、

生徒でも入れるようになっているらしいのだ。

たまたまそんな話を耳にした薫は、

1度屋上に上ってみたいと思ったらしい。

⏰:10/03/23 13:28 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#60 [我輩は匿名である]
階段を上って、静かにドアを開ける。

同時に、春の暖かい空気が薫を包み込む。

「(…意外と人いないんだな)」

まだ朝だからか、誰もいないようだ。

ちょっとうれしく思いながら、薫は2、3歩進んでみる。

「こんにちは」

突然、女の声がした。

薫はびっくりして周囲を見回すが、誰もいない。

「ははっ。こっちこっち」

よく聞けば、上から聞こえるような気がする。

⏰:10/03/23 13:29 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#61 [我輩は匿名である]
薫はドアの屋根になっている所をを見上げる。

そこには、寝転がって肘をついてこっちを見る少女がいた。

薫のネクタイと同じ赤いリボンをしており、同級生のようだ。

薫を見てニコニコ笑っている少女を見て、薫は一瞬の間にいろんな事を思った。

「彼女には会ったことがある」

1番強く感じたのは、それだった。

少女もまた、黙って薫を見下ろしている。

まさか。薫は思った。

「…どこかで会った事ある?」

先にそう切り出したのは、少女の方だった。

⏰:10/03/23 13:30 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#62 [我輩は匿名である]
「…ない、はず。でも…俺もそんな気がする」

驚きながらも、薫は答える。

「あんた、名前は?」

「私?私は、カヅキ キョウコ」

少女の名前に、薫はハッと目を見開く。

「キョウコ!?昨日今日の“今日”に、子どもの“子”か!?」

少女もまたびっくりしつつ、「違うよ」と返事をした。

「“響く子”って書いて、“響子”。カヅキは“香る月”」

「…そ、そうか」

落ち着け。薫は自分に言い聞かせる。

「自分も名前が変わっているじゃないか」と。

⏰:10/03/23 13:31 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#63 [我輩は匿名である]
「あなたは?」

香月響子が聞き返してくる。

「あぁ…俺は、月城薫。あんたの“月”に、…えー、

シンデレラ城の“城”に、骨董品の“薫”」

言いながら、もっと良い言い方はなかったのか。

「シンデレラ城」と言った後に、薫は自分に呆れた。

響子もそれを聞いて笑っている。

「可愛いね、シンデレラ城って」

「そ、それしか出て来なかったんだよ!」

恥ずかしくなって、薫は少し顔を赤くして言い返す。

⏰:10/03/23 13:31 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#64 [我輩は匿名である]
「…月城くん、何組?」

「8組」

「遠いね。私4組」

「あー…遠いな」

もう少し近ければ…。薫は小さくため息をつく。

「なぁ、香月。いつも朝はここにいるか?」

「ん?うん、いるよ」

響子は頷く。

「月城くんも来る?」

「…そうしようかな」

薫は小さく笑って答える。

それを聞いて、響子もまた、嬉しそうに笑い返した。

⏰:10/03/23 13:32 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


#65 [我輩は匿名である]
タイミングを見計らったかのように、学校中に予鈴が鳴り響く。

「あ。教室に帰らないと」

そう言うと、響子は後ろにある梯子を降りて、薫の横に来た。

「行くか」

「うん」

2人は一緒に歩きだしたが、1歩踏み出した所で響子が足を止めた。

振り返って見ると、響子は眉間にしわを寄せて、頭の側面を押さえている。

「どうした?大丈夫か?」

「うん…ちょっと、急に頭痛くなって。でも、大丈夫。行こ」

今度は先に響子が歩きだした。

薫は心配に思いながらも、彼女について階段を降りていった。

⏰:10/03/23 13:33 📱:N08A3 🆔:0nKseeu.


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