浮 き 世 の 諸 事 情 。
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#103 []



それは季節に似合わず
肌寒い日だった


「財布‥落としましたぜ」

財布と言うか
小さな巾着袋が
金物がこすれる音を立てて
その主の袖口からこぼれた

⏰:10/05/02 20:51 📱:D905i 🆔:sxqRlBYk


#104 []
 
「あぁ!これは申し訳ない!!
俺としたことが‥」

拾い上げて埃をはらったそれを
手のひらに乗せてやれば
かしこまって頭を下げられる

「いえ、いえ」

緩く微笑み背を向ければ
軽く引かれた着物の袖

⏰:10/05/02 20:51 📱:D905i 🆔:sxqRlBYk


#105 []
 
「一杯‥どうですか?」

できた笑い皺
人の良さが滲み出る

先程の巾着を持ち上げ
"おごらせてくれ"と言った


小さな木枯らしが
肌をかすめた夕暮れ

⏰:10/05/02 20:52 📱:D905i 🆔:sxqRlBYk


#106 []



「あんた面白い人だなぁ!!」

「いえ、いえ」

相手方の男は
どうやら"出来上がった"ようで
首や耳のあたりまで赤くして
ぐいっと肩を組んできた

⏰:10/05/02 20:52 📱:D905i 🆔:sxqRlBYk


#107 []
 
「いいなぁ‥旅かぁ」

完全に緩みきった顔
男に抱かれたって嬉しかない
そっちの気は
流石にありゃあしない


抱き寄せられた体を
投げるようにして任せれば
にこにこと笑い満足げ

⏰:10/05/02 20:52 📱:D905i 🆔:sxqRlBYk


#108 []
 
「俺も旅したいさぁー。
できるなら、あんたみたいに
1人でいろーんなとこ‥」


馬鹿でかかった声は一転
萎んで終いにはかすれて消えた

もう片方の手で酒瓶を握り
何かから逃れるように
喉の奥に流し込んでいた

⏰:10/05/02 20:53 📱:D905i 🆔:sxqRlBYk


#109 []
 
「何か、厄介なことでも
‥あるんで?」

横目で問えば
困ったように笑ってた

「んあぁ‥んん」

「まぁ、誰にでも‥
そんなものは有ります、よ」

「あぁそうだ!!
聞いてくれるか?あんちゃんよ」

⏰:10/05/02 20:53 📱:D905i 🆔:sxqRlBYk


#110 []
 
肩に乗っていた手に
ぐいっと引き寄せられた

酒の甘ったるい臭いが
顔にかかる

自分もこんなに酒臭いのかと
少しばかり気落ちした


「娘がな、居るんだけどな」

⏰:10/05/02 20:54 📱:D905i 🆔:sxqRlBYk


#111 []
 
溢れんばかりの笑み
この先の言葉に
だいたいの検討はつきますが‥


「それがさ、もう‥
可愛くて可愛くて仕方ないんだ!」

そんな事を言われて
抱き寄せられた私に
あんたは何を求めてるんだ‥

⏰:10/05/02 20:56 📱:D905i 🆔:sxqRlBYk


#112 []
 
「ほぉう」

「もう今年で十になるんだが
最近じゃあお姉さんになって‥」

「へぇ、はぁ」

「ほんとに何というか‥
いい子でなぁ、」

その瞬間
父親の目つきになった
力強く、その上暖かい

⏰:10/05/02 20:57 📱:D905i 🆔:sxqRlBYk


#113 []
 
「危なっかしい所もあるが、
責任感と正義感が強くて‥
唯一の‥励みなんだ」

少しばかり低くなった声
読みとれるのは
暗闇に埋もれた絶望


娘を語る口調は
暖かくも悲しみに濡れていた

⏰:10/05/02 20:57 📱:D905i 🆔:sxqRlBYk


#114 []
 
「そりゃあ‥いい娘さん、ですね」

「‥」

その男は突っ伏したまま
ぴくりともしなかった

人々の騒がしさに埋もれた姿は
たった独りだけ
取り残されたような
別の空気をまとって見えた

⏰:10/05/02 20:58 📱:D905i 🆔:sxqRlBYk


#115 []
 

酔いつぶれた‥か


ため息ひとつ
猪口を持ち上げ飲み干す液体

普段よりも苦味を感じた

⏰:10/05/02 20:58 📱:D905i 🆔:sxqRlBYk


#116 []



「なぁ‥あんちゃん。」

‥起きてたんですか

「あんた、名前は?」

「壱助‥と申します」


突っ伏したままの頭に答えれば
"ふぅん"と弱々しく唸った

⏰:10/05/02 20:58 📱:D905i 🆔:sxqRlBYk


#117 []
 
「なぁ‥壱助」

「何、か」

「頼みが‥あるんだ」


少しばかり嫌な予感がした
酔った勢いだと
投げてしまえばそれまでだが

口調は先ほどより
はっきりしている

⏰:10/05/02 20:59 📱:D905i 🆔:sxqRlBYk


#118 []
 
「俺に‥もしものことがあったら」

「娘を頼む‥とでも?」

否定を求めて問ったんですが、ね

「あぁ‥何でわかった?
やっぱりあんた、徒者じゃないな」

「‥奥さんは?」

⏰:10/05/02 20:59 📱:D905i 🆔:sxqRlBYk


#119 []
 
「死んだよ。娘を産んですぐに‥
今は‥別の女と暮らしてんだ」


そしてまた酒を口にした
小刻みに震えていた手が
苦しみのあまり
酒に逃げ続けた事を物語っていた

⏰:10/05/02 21:00 📱:D905i 🆔:sxqRlBYk


#120 []
 
「娘には、その女が母親だって
‥そう言ってある。」

「何、故」


「可哀想だった‥。
何も知らずに"お母さんは?"って

‥"死んだ"なんて、言えなかった」

⏰:10/05/02 21:00 📱:D905i 🆔:sxqRlBYk


#121 []
 
途切れ途切れの言葉が
妙に奥に突き刺さった

何とも言えない
もどかしさを覚えた


「幸せになってほしいんだ
香夜には‥妻の分まで‥」

やっと顔を上げ
此方に向けられた顔は
父親の顔だった

⏰:10/05/02 21:01 📱:D905i 🆔:sxqRlBYk


#122 []
 
最愛の人の死を迎え
絶望に満ちたその瞳は
守らねばならぬものを
確かに持っていた


「香夜に何一つ‥
父親らしいことを
‥してやれなかった。
仕事ばかりで、あまり時間も‥

だからせめて
守りたいんだ。あの子を」

⏰:10/05/02 21:01 📱:D905i 🆔:sxqRlBYk


#123 []
 

「あんた‥もしかして」



ふと過ぎるのは暗黒の世界
目に浮かぶは褐色の液体

鼓動が乱れた

⏰:10/05/02 21:02 📱:D905i 🆔:sxqRlBYk


#124 []
 


「壱助‥香夜を頼む」



決意に満ちた目は
恐怖に脅えてなどいなかった

ただ一心にひたすらに‥

⏰:10/05/02 21:02 📱:D905i 🆔:sxqRlBYk


#125 []
 


香夜さん‥私には任務がある



―‥貴女を守る任務が、ね

_

⏰:10/05/02 21:03 📱:D905i 🆔:sxqRlBYk


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