浮 き 世 の 諸 事 情 。
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#128 []
*゚*。*゚*

「あれ‥?
ない‥ないない‥」

「朝から騒がしい、ですね」


それはある雨の日のこと

いつものように
壱助さんの顔面攻撃を食らい
目を覚ましたわけですが‥

⏰:10/05/03 22:20 📱:D905i 🆔:92Bmo8C2


#129 []
 
「ないんですぅーっ!!」

「‥」

もう今は
そんな呆れた視線なんて
気にもならない

ないんですよ‥あたしの‥

「か ん ざ し ーっ!!!」

⏰:10/05/03 22:21 📱:D905i 🆔:92Bmo8C2


#130 []



雨音が強くなる

屋根にぶつかる雫は
ばちばちと打ち抜くようで
液体だということを
忘れさせるくらいだった


「あたしの簪!!
‥知りませんか?
確か昨日枕元に‥あれぇ?」

⏰:10/05/03 22:21 📱:D905i 🆔:92Bmo8C2


#131 []
 
枕元を見ても
枕を持ち上げて揺すって見ても
どこにも見当たらない


部屋中をじっと見回し
昨夜の記憶を辿る

⏰:10/05/03 22:21 📱:D905i 🆔:92Bmo8C2


#132 []
 
「簪くらい‥
いいじゃあないですか、ねぇ」

「よくなーいっ!!
お気に入りなのに‥」


何処までもこの人は悠長で
興味がないのか何なのか
どうせ人事だと思ってるんでしょ

もー‥。

⏰:10/05/03 22:22 📱:D905i 🆔:92Bmo8C2


#133 []
 
少し膨れっ面で髪をかきむしれば
壱助さんが自分の枕を見つめた

「形見か‥何かですかい?」

そう言って
とりあえずと言った様子で
枕を持ち上げた

絶対探す気ないわ‥

⏰:10/05/03 22:22 📱:D905i 🆔:92Bmo8C2


#134 []
 
「いや‥ただ
可愛いから気に入ってたんです」

「ほぉう‥
そりゃあ、どんな?」

結局すぐに枕を下ろし
いつものように茶を煎れはじめ

「えっと‥
簪自体は黒くて、
飴色の硝子玉の飾りが‥」

⏰:10/05/03 22:23 📱:D905i 🆔:92Bmo8C2


#135 []
 
「飴色‥ねぇ」

少し考えるようにして
顎に添えられた細長い指

そしてつられるように
艶容な唇が弧を描いた


「‥はぁ。
もういいです。
自分で捜します、自分で」

⏰:10/05/03 22:24 📱:D905i 🆔:92Bmo8C2


#136 []
 
茶を啜り一息つく姿を見ると
ひとりで騒いでる自分が
惨めに思えてくる


無くしたあたしが悪いんです
自分の物は自分で管理しろ
そういうことですよね


雨音がさらった
少しばかりの心意気

⏰:10/05/03 22:24 📱:D905i 🆔:92Bmo8C2


#137 []
 
湿気に犯された畳を拭うように
着物が擦れる音がした


「ちょいと、野暮用に‥」

「え‥
あたしの簪は??」

「今、自分で捜すと
仰ったじゃあ‥ないですか」

⏰:10/05/03 22:24 📱:D905i 🆔:92Bmo8C2


#138 []
 
「うぅん‥
でも外雨降ってるし‥ねぇ?」


ちらり外に向いた壱助さんの視線
右手に握られた真っ赤な番傘

ガサッと紙が擦れるような音
こんなもので
何故雨を防げるのかと
不思議に思う

⏰:10/05/03 22:25 📱:D905i 🆔:92Bmo8C2


#139 []
 
そして此方に向けられた視線は
相変わらず鋭いもので

「ちょいと‥野暮用に」

「‥い、いってらっしゃい」


雨の中に埋もれた真っ赤な色は
遠く遠くに姿を消した

⏰:10/05/03 22:26 📱:D905i 🆔:92Bmo8C2


#140 []
 
「んうぅ‥簪‥」

雑に髪をたくし上げ
そのまま手を離せば

切りっぱなしの
伸びかかった黒髪が
だらしなく揺れていた

⏰:10/05/03 22:26 📱:D905i 🆔:92Bmo8C2


#141 []



「はぁ‥やっぱりない」

部屋中いたるとこを捜した
なのにない

なんで?なんで?

「まぁ‥あれも
だいぶ使い込んで‥
飾りの部分が欠けてたんだけど」

⏰:10/05/03 22:27 📱:D905i 🆔:92Bmo8C2


#142 []
 
新しいの買い直そうかなぁ‥


ふと後ろに気配を感じ
振り返れば

「うわっ!!
お‥お帰りなさいっ」

髪が濡れていた
ぽたり落ちた雫が頬を伝った

⏰:10/05/03 22:27 📱:D905i 🆔:92Bmo8C2


#143 []
 
「壱助さん?
傘‥さしてたんじゃ?」

水も滴るいい男。
うん‥悪くないかも

真っ白な首筋から一滴
胸元をすり抜けて
着物の奥に消えた

それを目で負えば
雫の行方が気になって
胸が高鳴る

⏰:10/05/03 22:28 📱:D905i 🆔:92Bmo8C2


#144 []
 
「ちょいと‥
破れちまいやして、ね」

やはり紙は脆いのか‥
にしても
どれだけ大きな穴が‥

「ふぅん‥ほんとに?」

「まぁ、いいじゃあないですか」

⏰:10/05/03 22:29 📱:D905i 🆔:92Bmo8C2


#145 []
 
壱助さんの声が
上から降り注いで

後ろから
ぎゅうっと抱きしめられた

湿った着物が首筋に貼り付く


「んえ‥あの‥」

⏰:10/05/03 22:29 📱:D905i 🆔:92Bmo8C2


#146 []
 
「まるっきり同じとは
‥なかなか言えませんが、」

少し冷えた手がうなじに触れた


綺麗な指に絡まる髪
高く持ち上げられれば
首筋にすうっと空気が抜けた

⏰:10/05/03 22:30 📱:D905i 🆔:92Bmo8C2


#147 []
 
「飴色‥ですぜ」

華奢に鳴いた硝子玉
鏡を覗けばきらきら光った

「壱助さん‥これ‥」

「さすがにもう‥これじゃあ」

「あ‥それ」

⏰:10/05/03 22:30 📱:D905i 🆔:92Bmo8C2


#148 []
 
今にも硝子玉が落ちそうに
ぷらぷらとだらしない簪

鏡越しに見つめれば
すっと壱助さんの懐の中へ

「もしかして‥わざわざ」

「香夜さん‥」

「‥はい?」

⏰:10/05/03 22:31 📱:D905i 🆔:92Bmo8C2


#149 []
 
「ちょいと体が‥冷えます故‥」

優しく首元を抱いた腕は
雨に濡れて冷たくて


「今暫く‥このままで」



たった一時の、幸せを‥

⏰:10/05/03 22:31 📱:D905i 🆔:92Bmo8C2


#150 []
【おまけ】
「本当に穴開いたんですか?」

「‥人助け、ですよ」

「はぁ?何ですかそれ」

「あの番傘も‥
綺麗な娘さんの手に渡り
さぞかし‥幸せでしょう、ね」

「‥色男め」

⏰:10/05/03 22:36 📱:D905i 🆔:92Bmo8C2


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