浮 き 世 の 諸 事 情 。
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#257 []



「うわ‥雪だぁ!
壱助さん!雪だよっ雪!」

もう新年を迎えて睦月

次の年になったからといって
何かが変わるわけでもないけど
気持ちの切り替えのいい機会

‥今年の抱負は何にしよう

⏰:11/01/26 13:12 📱:D905i 🆔:MmQRKSWw


#258 []
 
「朝から‥騒がしい、ですね」

新年を迎えようが
壱助さんに変化はない
相変わらず冷静沈着です


この世が破滅の危機に直面しても
たぶん彼は変わらないだろう

⏰:11/01/26 13:12 📱:D905i 🆔:MmQRKSWw


#259 []
 
「積もるかなー積もるかなー?」


真っ白な雪は
ひらひらと舞う花びらのようで
春を先取りした気分になる

灰色の厚くて遠くまで続く雲が
もう地面にくっつきそうだ

⏰:11/01/26 13:13 📱:D905i 🆔:MmQRKSWw


#260 []
 
「雲って不思議ですよねぇ‥
ふわふわしてて綿飴みたいなのに
高い山に登ったって
絶対掴めないんですよ?」

「えぇ」

「それなのに、雨とか雪とか‥
一体どこに隠してるのかなー?」

囲炉裏から離れれば
空気はだんだん冷たくなって
鼻の先の感覚がなくなる

⏰:11/01/26 13:14 📱:D905i 🆔:MmQRKSWw


#261 []
 
指先も冷たくて
‥去年のことを思い出す

残念ながら、
いや‥嬉しいことに
今年は囲炉裏の前を陣取る彼は
ぴしっと着物を着用


今年の抱負は、
"脱露出狂"なのかしら‥。

⏰:11/01/26 13:15 📱:D905i 🆔:MmQRKSWw


#262 []
 
「そもそも雪って
何で降るんですかねー?
‥雨が凍ったの?
でもそしたら氷にならない?
あんなふわふわしないし‥」


脳を無理やりかき混ぜるように
あっちこっちに意識を飛ばして

無から有を作り出すのは
根本的に不可能だと落胆する

⏰:11/01/26 13:15 📱:D905i 🆔:MmQRKSWw


#263 []
 
「餓鬼を喜ばせる為です、よ」

背中でぼそっと呟いた

低くて鋭いくせに、
どこか柔らかいその声は
何を言ったって不快感を与えない

「餓鬼?」

「が き ん ち ょ」

壱助さんの口から放たれた
"ちょ"が妙に新鮮味を帯びて
何だか可笑しかった

⏰:11/01/26 13:17 📱:D905i 🆔:MmQRKSWw


#264 []
 
それを聞いてか何か、
色気を放ついつもの背中が
とても愛おしく見えた


「壱助さん、私もう‥」

性格は伴わないかもしれないけど
私も、もう十九だ

そもそも"がきんちょ"なんて
馬鹿にしてるようにしか思えない

⏰:11/01/26 13:18 📱:D905i 🆔:MmQRKSWw


#265 []
 
互いに背を向けて暖と冷
囲炉裏でぱちぱち音が鳴る
すきま風がひゅうと鳴る


火の紅と雪の白
紅白めでたい色だけど
この2つは一緒にはなれない
‥神様が決めた定め

この世のことは
先に神様が全部決めている

神様はいいなぁ‥
好き放題できてさ

⏰:11/01/26 13:19 📱:D905i 🆔:MmQRKSWw


#266 []
 
「‥香夜さん」

「っ‥何ですか?」


餓鬼じゃないなんて
言ったらたぶん笑われる

いや、壱助さんの場合は
笑いもせず
寝ぼけたことを言うあたしを
押し倒すに決まってるんだ

⏰:11/01/26 13:19 📱:D905i 🆔:MmQRKSWw


#267 []
 
とかなんとか言いながらも
今でも、あたしが
生娘であるということは
大切にされてるんだなーと思う


「今年の抱負を
‥お聞かせください。」

背中を向けたままだった

壱助さんの手は
何やら棒みたいなものを握り
何かをかき回してるようだった

⏰:11/01/26 13:20 📱:D905i 🆔:MmQRKSWw


#268 []
 
時折硝子に当たる音がする
瓶‥かな?


「抱負‥?えーっと
大人な女性になりたいです!」

「大人‥ほぉう」

尚もかき回す
その腕を上げたり下げたり
様子が把握できない
此方から見れば、変な光景

⏰:11/01/26 13:21 📱:D905i 🆔:MmQRKSWw


#269 []
 
「内面的にはもちろんですけど
見た目も、女性らしく‥はい」


何をしているのか気になって
背後から、四つん這いになって
そっと覗き込む

何してるのか問ったって
大した答えが返ってくるとは
思えなかったのです。

⏰:11/01/26 13:22 📱:D905i 🆔:MmQRKSWw


#270 []
 
今までの経験上
ちゃんとした返答があるのは
極々稀なことだから‥はは


「女性らしく、か」

何か引っかかるものがあるのか
壱助さんは
"なるほど"やら"はい、はい"やら
ぶつぶつ呟いている

⏰:11/01/26 13:22 📱:D905i 🆔:MmQRKSWw


#271 []
 
その内
彼の横顔が見えるようになる

気のせいかな?
何だか楽しそうに見えた


仏頂面にも一応
喜怒哀楽があることを発見
宝物を発見したかのように
何故かわくわくした

⏰:11/01/26 13:23 📱:D905i 🆔:MmQRKSWw


#272 []
 
「もう、
十九になったんですから‥」

呟くように、しかし手は止めず


少し開いた唇が色っぽく
着崩した襟元から覗く胸板は
男らしさを漂わせ

壱助さんは
人類最強な気がするもんです

⏰:11/01/26 13:23 📱:D905i 🆔:MmQRKSWw


#273 []
 
「ちょいと、手をかけるだけで
‥十分に魅力はあります、よ」


急に此方を向くから
どきっとしてしまう

何をするにも急だ
振り向く時に随時報告されても
おかしな話だけれど

⏰:11/01/26 13:24 📱:D905i 🆔:MmQRKSWw


#274 []
 
目を合わせて、あまりに彼が
真っ直ぐ見つめるものだから
急に恥ずかしくなって

あたしの視線は
彼と自分の手元に行ったり来たり

壱助さんは、微笑む
恐ろしいくらい美しかった

⏰:11/01/26 13:25 📱:D905i 🆔:MmQRKSWw


#275 []
 
瓶の中には黄金の液体
綺麗に伸びたあの指がそこに沈む

包み込むように
まとわり付くように
待ちわびて居たかのように
たっぷり黄金が絡みつく


そして、もう片方の手が
あたしを引き寄せた

⏰:11/01/26 13:25 📱:D905i 🆔:MmQRKSWw


#276 []
 
「冬は‥乾燥しますから、ね」

「ん‥」

黄金を纏った人差し指が
あたしの唇を優しく撫でた


甘ったるい香りと
ぬめっと貼り付くような感覚
隙間から流れ込んだものは
春が溶け込んだ甘みをおびて

⏰:11/01/26 13:26 📱:D905i 🆔:MmQRKSWw


#277 []
 
「はちみつ‥?」

囲炉裏の熱に温められて
丁度人肌と同じくらいの心地よさ

どうやら‥
これを溶かしていたらしい

「保湿効果があるようで、ね」

十分にあたしの唇に塗りたくって
指に絡み付いた余りを
舌で丁寧に舐めとっていた

官能的で、胸騒ぎ

⏰:11/01/26 13:27 📱:D905i 🆔:MmQRKSWw


#278 []
 
「保湿‥
確かに最近、乾燥してたかも」

「まぁ、関係あるのは
私だけですから‥
別に、乾燥していようがいまいが
どうってこと、ないのですが‥」


そう言い終わる前に
あっさり抱き寄せられてしまう

⏰:11/01/26 13:28 📱:D905i 🆔:MmQRKSWw


#279 []
 
この人はいつも完璧で
何でもあっさりやってのけて
あたしの心を何度も奪う
‥時々、憎らしい


「ちょいと、
塗りすぎちまったようで‥」

柔らかい吐息が頬をかすめて
口元をゆっくり垂れる甘い蜜に
引き寄せられるようにして
彼の舌が唇の横を這う

⏰:11/01/26 13:28 📱:D905i 🆔:MmQRKSWw


#280 []
 
「ん‥」

一度顔を離したかと思えば
今度は唇に吸い付いた

蜂蜜のねっとりした感触が
何故かあたしを高揚させる
体全体が熱くなって
どうしようもなく愛おしくなる


「ふ‥、」

息をつく隙を与えないほど
長い、甘い口づけ

頭がぼうっとする

⏰:11/01/26 13:29 📱:D905i 🆔:MmQRKSWw


#281 []
 
自然と舌が侵入してきて
初めてなくせに
すんなりと受け入れてしまう

歯並びを確認するように
丁寧にゆっくり伸びてきて
上顎を優しく撫でられる


脳内まで犯されて、
思考が止まりそう‥
崩した足の先から
じわじわと快楽が込み上げる

⏰:11/01/26 13:30 📱:D905i 🆔:MmQRKSWw


#282 []
 
羞恥に目を潤ませてみても
柔らかい唇を何度も重ねられ
少し斜めに傾いた
壱助さんの首筋が艶容で‥


やっと唇が離れた頃には
あたしはすでに彼の下
見下げる視線が柔らかい

つり上がった口元が
意地悪そうな笑みを作る
まるであたしをからかうように

⏰:11/01/26 13:31 📱:D905i 🆔:MmQRKSWw


#283 []
 
「壱助さんって‥
甘いもの‥苦手なんじゃ?」


あっという間に
黄金に濡らされたはずの唇は
彼に染まって

もどかしい余韻を残したまま

「其れと、此とでは‥訳が違う」

「はちみつ、
‥わざわざ買ってくれたの?」

⏰:11/01/26 13:32 📱:D905i 🆔:MmQRKSWw


#284 []
 
まだ整わない呼吸をよそに
目を細めて含み笑い

「食後の甘味として‥
今後、如何なものかなと‥ね」

「毎回、こうするんですか?」


優しく髪を撫でられる
これも神様が決めたこと?

⏰:11/01/26 13:32 📱:D905i 🆔:MmQRKSWw


#285 []
 
「気に食わない、と」

「いいえ、
‥保湿は大事でしょう?
大人の女性にとっては」


時折あたしは素直じゃない
それは壱助さんも同じよね?

「まぁ、ね
今宵、十九になったのですから‥
後は老いて行く一方、ですよ」

「まだまだ若いですぅ!」

⏰:11/01/26 13:33 📱:D905i 🆔:MmQRKSWw


#286 []
 
毒を吐く前にさらりと言ったけど


「壱助さん‥もしかして
今日があたしの‥」

「なぁに‥
それくらいの日付くらい
誰でも覚えられるもんです、ぜ」

本当は泣きたいくらい嬉しいよ
誰かに誕生日を
祝ってもらうのは約10年ぶりだ

⏰:11/01/26 13:34 📱:D905i 🆔:MmQRKSWw


#287 []
 
これを祝ってもらったと
言うかどうかは別として


「‥ありがと、壱助さん」

大人ぶってみても
やっぱり頬が緩んでしまうの

「では、記念に"これ"‥
全身に塗りたくりましょう、か」

今度は手を丸々突っ込んだ
透き通った黄金が輝く
その奥で、いつもの怪しい笑み

⏰:11/01/26 13:34 📱:D905i 🆔:MmQRKSWw


#288 []
 
「記念って‥何記念?!
ちょ‥壱助さんっ‥本気?!」


「大人記念、ですよ」


_

⏰:11/01/26 13:35 📱:D905i 🆔:MmQRKSWw


#289 []
 
ねぇ、神様

何でも全部が既に決まってて
時々あたしは悲しくなります。
悔しくもなります。


だけど
この世に生を受けたことを
悲しいことだとは思いません


愛する喜びも、愛される喜びも
あたしは教えられたからです

⏰:11/01/26 13:35 📱:D905i 🆔:MmQRKSWw


#290 []
 
「壱助さん‥?」

「何、か」


あたしの呼びかけに
答えてくれる人がいるからです

⏰:11/01/26 13:36 📱:D905i 🆔:MmQRKSWw


#291 []
 



「‥大好き」


運命があってもなくても
ずっと一緒にいたいと思える人

_

⏰:11/01/26 13:36 📱:D905i 🆔:MmQRKSWw


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