Traumerei‐トロイメライ‐
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#27 [moeco◆eedZl7e0Rw]
突然、黒木は谷川の右肩を凄まじい力で掴んだ。
谷川のきゃしゃな肩がギリギリとひねりあげられ軋んだ。
「い……痛い! は、放してくださ……」
「純は……どこだ……」
うなるように低い声で黒木が呟いた。
谷川が黒木の手から逃げようと暴れるほど、黒木はさらに強く肩を握りしめた。
:10/04/01 18:11 :N03A :XtlM9Yjo
#28 [moeco◆eedZl7e0Rw]
「じゅ、ジュン? 落ち着いてください! 大丈夫ですから……大丈夫ですからっ……い……痛い!」
「純はどこなんだ……!」
あわただしくバタバタと、血相をかえた数人の看護師たちが廊下をかけてきた。
その誰もが黒木の姿を見るなり驚きの声や表情をあらわにした。
まさか、こんなことが……!
:10/04/01 19:13 :N03A :XtlM9Yjo
#29 [moeco◆eedZl7e0Rw]
「黒木さん、落ち着いてください! じっとしていてください」
看護師長が黒木に近づき、谷川の肩を今にも潰す勢いで掴む黒木の手をどかそうとした。
しかし剥がれない。
黒木は苦しげに歯ぎしりをしながら、鋭いギラギラとした目で看護師長をみていた。
まるで捕えた獲物を逃がすまいとする飢えた獣のようだった。
看護師長はそのあまりにも本能的な恐ろしさに思わず身震いをした。
:10/04/01 19:52 :N03A :XtlM9Yjo
#30 [moeco◆eedZl7e0Rw]
看護師の一人が呼び出した院長が黒木の病室に飛び込むなり、彼もまた絶句した。
はっきりとした意識をもって、黒木が動いている。
これは日本の――いや、もはや世界を揺るがす回復劇だった。
遷延性意識障害、いわゆる植物状態に陥ると脳幹以外の脳機能は動かなくなるか死滅する。
一概には言えないが、三ヶ月を目安に回復率は下降する。
回復例はいくらかあるが黒木のように昏睡状態から六年経ち、なおかつ目覚めしなにこれだけ動けるとは……。
黒木に奇跡の神が加担したとしか考えられない。
:10/04/01 23:19 :N03A :XtlM9Yjo
#31 [moeco◆eedZl7e0Rw]
「彼をICU(集中治療室)へ運びなさい。私もすぐ行く」
院長は言った。
担架に乗せられて病室から運びだされる黒木は、まだ暴れていた。
同じ名前を繰り返しながら。
黒木は暴れる彼をなだめようとした看護師の一人の腕に噛みつき、あらんかぎり吠えた。
「純はどこだぁぁっ! そこにいるはずだろぉぉ……出てこい、出てこないかっ……純んん!」
黒木の声はむなしく響いた。
:10/04/01 23:27 :N03A :XtlM9Yjo
#32 [moeco◆eedZl7e0Rw]
第一部
第一章【出会い】
:10/04/02 12:46 :N03A :vPG502HI
#33 [moeco◆eedZl7e0Rw]
真夏日。
とにかく暑い。
騒がしいセミの鳴き声が、いよいよ夏のうだってしまいそうな暑さをかきたてる。
太陽が駐車場のアスファルトを照りつけて蜃気楼が揺れていた。
:10/04/04 19:34 :N03A :fRcR2/pM
#34 [moeco◆eedZl7e0Rw]
「おい、宇佐美」
ゴミ箱の分別をしていると店長がずかずかと近くへやってきた。
顔を見るかぎり僕に良くないことだと今までの経験による直感で知って、気分がますます下がった。
店長は汚いものを見るような目で僕をにらみつける。
僕も黙ってにらみつけた。
「お前昨日ゴミ箱の口、ちゃんと縛ってなかったろ」
:10/04/04 19:35 :N03A :fRcR2/pM
#35 [moeco◆eedZl7e0Rw]
「縛りましたよ」
「ウソつけ。昨日オレが倉庫にゴミ袋移動しようとしたとき持ち上げただけで中身が出ちまったんだよ。お前の縛りが緩かったからじゃねーかコラ」
店長は握りこぶしを僕の胸にぐいっと押しあてた。
またいつものいちゃもんづけが始まった。
毎日やっててよく飽きないよな。
僕はため息をついた。
:10/04/04 20:37 :N03A :fRcR2/pM
#36 [moeco◆eedZl7e0Rw]
「カラスが空に群がってましたから、あいつらがつついて破ったんでしょ。なんなら」
僕は店長の毛深い握りこぶしをつかみ、強く押し返した。
「僕が確かめてきますよ。倉庫」
「……ああ? ……めんどくさいからよけいなことすんじゃねぇ。それよりお前、なに襟のボタンあけてんだ。バイトのくせして……最近のガキ(高校生)は制服もきちんと切れねーのか」
:10/04/04 20:39 :N03A :fRcR2/pM
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