記憶を売る本屋 2
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#212 [我輩は匿名である]
「僕は…自分の一言で、僕のたった一言のせいで妻を死に追いやってしまった…。

大事な人も守れないような男に、そんな資格はありませんよ」

優也の言葉に、しばらく女性は口を閉じていた。

「……その奥様は、あなたをずっと待っていますよ」

女性ははっきりとそう言った。

いつの間にか下向いていた頭を、優也はハッと上げる。

「…今日子が…?」

女性は頷く。

「彼女はもう1度、あなたと会う事を強く望んでいます。あなたとの約束を果たすために」

⏰:10/05/17 09:21 📱:N08A3 🆔:jTxbwtII


#213 [我輩は匿名である]
優也は何も言わず、うつむく。

「(今日子…こんな俺でも、まだ傍にいてくれるのか…?)」

今日子を思いながらぎゅっと、体の横で両手を握り締める。

「……僕は…何を差し出せば良いんですか?」

しばらく考えて、優也は顔を上げる。

そう言った彼の瞳に、迷いはなかった。

女性はそれを見て、また少し笑みを浮かべる。

「……では、あなたが自慢に思っている事は何ですか?」

そう聞き返されて、優也は1度目を逸らして考え込む。

⏰:10/05/17 09:22 📱:N08A3 🆔:jTxbwtII


#214 [我輩は匿名である]
「……ガンになるまで、1度も病気も怪我もしなかった事、かな?」

「ふふ…そのようですね」

女性はまるで、何もかも分かっているかのように答える。

「…あなたはとても真っ直ぐで、人を恨む事も憎む事もほとんどしない。

私は、あなたのその汚れのない心が欲しい」

女性は言いながら、優也の胸部を指差した。

「(だったら最初からそい言えば良いのに)」

優也は真顔で思った。

⏰:10/05/17 09:23 📱:N08A3 🆔:jTxbwtII


#215 [我輩は匿名である]
「…いいですよ、何を失っても」

フッと小さく笑って、優也が答える。

「今日子ともう1度会うためなら、僕はどうなろうと構いません。

病気で何度死にかけようが孤独になろうが、今日子さえいてくれればそれでいい。

彼女の為なら…」

優也は話ながら、両手を大きく広げてニヤリと笑う。

「どんな醜い人間にでもなりましょう」

彼の答えに、女性も同じように笑い返した。

⏰:10/05/17 09:24 📱:N08A3 🆔:jTxbwtII


#216 [我輩は匿名である]
「……………っていうやり取りがあって」

薫はチョークでいろいろ描き足す。

直人と飛鳥はそれをまじまじと見つめる。

「…だからお前、毎年インフルエンザかかるんだな」

「つーか、あんた絵下手だね」

2人は声をそろえて薫に言う。

「絵なんか上手くなくても生きていけるから良いんだ」

薫はムッとしたように飛鳥に言い返す。

「つまりその“代償”って、人によって違うかもしれないって事か」

飛鳥はまた腕を組む。

⏰:10/05/20 22:46 📱:N08A3 🆔:PIPg2LvY


#217 [我輩は匿名である]
「多分な。あの人が誰なのかわからなかったけど…。

ただ、響子は看護師としての知識を全て無くしてるから、それが代償だったんだろう」

「ふぅん…」

「じゃあ俺、何取られたんだろ?」

直人もまた考える。

⏰:10/05/20 22:47 📱:N08A3 🆔:PIPg2LvY


#218 [我輩は匿名である]
「薫ー帰ろー」

考えたり、黒板を消したりしていると、響子と奏子がやって来た。

「あぁ、ちょっと待って」

「俺たちも帰るか」

「うん」

直人と飛鳥も鞄を肩に掛け、薫と共に教室を出る。

「何の話してたの?」

奏子が3人に尋ねる。

「あぁ、本の事でいろいろな」

直人がポケットに手を入れて答える。

⏰:10/05/20 22:47 📱:N08A3 🆔:PIPg2LvY


#219 [我輩は匿名である]
奏子は不満そうに「いろいろって?」と聞き直す。

「あ?んー…」

どう言えばいいのかわからず、直人は飛鳥に目をやる。

「なぁ、何だっけ?」

「……何で私に聞くの」

本の所持者だった事を奏子に話していない飛鳥は、逃げるように目を逸らす。

「お前から言い出しただろ?“代金”って何だったんだろうって」

そういう事には全く気が利かない直人は、怪訝そうに言い返す。

それを黙って見ていた奏子が口を開いた。

⏰:10/05/20 22:48 📱:N08A3 🆔:PIPg2LvY


#220 [我輩は匿名である]
「飛鳥、本の事に詳しいの?」

「え…」

ドキッとして、飛鳥は奏子を見る。

意外にも、奏子の表情は真剣そうで、飛鳥は再び目を逸らした。

「この間言っただろ、神崎も本もらったって…」

何も知らない直人は、ますます不思議そうに奏子に話す。

その直後、飛鳥は直人達には見えないように顔を背け、眉間にしわを寄せた。

「やっぱりそうだったんだぁ!」

そうとは知らず、奏子は驚いたように手をパチンとたたいた。

⏰:10/05/20 22:48 📱:N08A3 🆔:PIPg2LvY


#221 [我輩は匿名である]
響子は困ったように、薫と目を合わせる。

「何だぁ、何で言ってくれなかったの?

まぁ、何となくそうじゃないかなぁとは思ってたんだけどね」

奏子はポンと、飛鳥の肩に手を置く。

しかし、飛鳥は戸惑い、目を合わそうとしない。

「飛鳥の前世って、どんな感じだったの?すごい気になる!」

奏子は目を輝かせて食い付いてくる。

「どうかしたのか?」

直人は、急におとなしくなった飛鳥の様子が気になって、声をかける。

⏰:10/05/20 22:49 📱:N08A3 🆔:PIPg2LvY


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