記憶を売る本屋 2
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#325 [我輩は匿名である]
「……何だ?あいつ」
「喧嘩でも売られてるんじゃないの?」
2人が何を話しているのかわからず、直人達は遠くからそれを見つめている。
「………あの人さぁ」
黙って薫の話し相手を見ていた奏子が口を開く。
「知ってんの?奏子」
「この間まで野球部キャプテンだった、ピッチャーの人じゃない?」
奏子の言葉に、3人は一瞬きょとんとする。
「…マジで!?」
「じゃあ絶対喧嘩じゃん。『お前調子乗んなよ』…みたいな」
:10/06/06 13:54
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#326 [我輩は匿名である]
直人と飛鳥は奏子と話し合う。
が、響子はじーっと、審判と話している薫達を見つめる。
しばらくして、グラウンド中にアナウンスが流れた。
『野球の決勝試合では、一部の生徒のみ、
“スローボールしか投げてはいけない”というルールから除外される事になりました』
「…はぁ…?」
直人は思わず首をかしげる。
同時に、ギャラリーも「何事か」とざわつき始めた。
「何だ?どういう事だ?」
「ようするに、手加減抜きで投げてくるって事じゃないの?」
:10/06/06 13:55
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#327 [我輩は匿名である]
「えっ!?そんなん有りかよ!?
あいつキャプテンなんだろ?ピッチャーなんだろ!?ヤバいじゃん!!」
「年上の人の事『あいつ』とか言わない」
ギャーギャー騒ぐ直人の横で、飛鳥が冷静に言い返す。
「でも、薫も結構やる気みたいよ」
ほら、と、響子は薫を指差す。
:10/06/06 13:56
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#328 [我輩は匿名である]
「…ギャラリーがうるさいな。本当にいいんだな?」
投げる前に、元キャプテンが薫に呼び掛ける。
「いいですよ。思いっきり投げて下さい」
薫も、元キャプテンに届くように、少し声を大きくして答えた。
元キャプテンは笑って、地面を踏みしめてボールを構える。
そして、大きく肩を回して、キャッチャー目がけて思いっきりボールを投げた。
パァン!という音がして、ボールがキャッチャーのグローブにあたる。
薫はバットを振る素振りを見せず、キャッチャーに捕まれたボールを横目で見る。
「…手が出なかったか?ストレートだぞ」
ボールをピッチャーに返しながら、キャッチャーが薫に言う。
:10/06/06 13:57
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#329 [我輩は匿名である]
「……速いですね。125km/hってとこですか?」
「………はっ、見てただけかよ」
薫の表情を見て、キャッチャーは呆れたように笑う。
ピッチャーはまた、ボールを構え、投げてくる。
薫は飛んでくるボールを目で追い、勢いよくバットを振った。
カン!と音がして、ボールがバットに当たる。
しかし、ボールはラインの外に転がっていった。
「……ファールか」
薫は小さく舌打ちをして構え直す。
:10/06/06 13:57
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#330 [我輩は匿名である]
「おい…勝てんのかよ?」
直人達はハラハラしながら薫を見つめる。
「お前、薫が負けたら絶対あのピッチャー殺しに行くだろ」
「どうでもいいわ、ピッチャーなんて」
直人に言われて、響子はきっぱりと答える。
「野球に燃える薫、かっこいい…♪」
「…燃えてんの?あれ」
「燃えてるじゃない!」
「わかんねーよ!!」
直人が響子に言い返した瞬間、再びバットの快音が響き渡った。
:10/06/06 13:58
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#331 [我輩は匿名である]
ギャラリーが声を上げる中、4人はそろって視線を戻す。
ボールが二塁と三塁の間を抜けている間に、薫は一塁まで走る。
「おー!すげぇ!!」
「かっこいい薫ー!!!」
「(延長戦とかなったら嫌だなー…)」
興奮している3人を尻目に、ボールがくる前に一塁に着いた薫は、右手で左肩をさする。
:10/06/06 13:59
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#332 [我輩は匿名である]
「(……さすがに、使いすぎると違和感あるな…)」
骨折から2〜3ヶ月経ち、リハビリも終えているが、やはりまだ少し違和感を感じる左鎖骨。
さっきから感じていたのだが、今のバッティングで増強した気がするらしい。
「(…あんまり振らない方がいいな…。次はバントでいくか…?
でもランナーがいないと意味ないし…)」
そう考えている間に、仲間達が次々にアウトを取られていく。
:10/06/08 17:09
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:JzbPbZSE
#333 [我輩は匿名である]
「(………ホームランでも打たない限り、勝てそうもないな。
また痛めると響子が心配するだろうし、今回は無理しないでおくか…)」
ちょっとつまらないが、仕方がない。
薫は小さくため息をつきながら、空振り3振するクラスメイト達を見ていた。
結局、3回裏が終わって0対3。おまけにノーランナーでツーアウト。
「(……ここで打たなきゃ終わりだな…)」
バットを構えながら、薫は肩を落とす。
ここでつなげないと、おそらく5回に自分の打席は回ってこない。
:10/06/08 17:09
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:JzbPbZSE
#334 [我輩は匿名である]
「……大変だな、頑張ってんのによ」
「支えるのが1人じゃ勝てませんよ」
薫は苦笑してキャッチャーに言う。
ピッチャーは大きく振りかぶって、ボールを投げてくる。
打てる。
そう思ったが、薫はバットを持つ手を動かさず、
ボールはキャッチャーのグローブに吸い込まれるようにおさまった。
:10/06/08 17:09
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