記憶を売る本屋 2
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#335 [我輩は匿名である]
「(……速いな…。あの時この骨折ってなかったら、楽に打てるんだろうが…)」

「諦めたのか?」

キャッチャーが尋ねてくる。

「……いえ、ちょっと」

薫は短く答え、再びバットを構える。

痛みは感じないが、あまり使いたくない。

1回のスウィングに賭けるか、諦めるか、それとも…。

⏰:10/06/08 17:10 📱:N08A3 🆔:JzbPbZSE


#336 [我輩は匿名である]
「(くそ…あの大橋とか言う女…見かけたらバットで殴り殺してやるのに…)」

薫が骨折する原因である女子生徒・大橋怜奈は、事件後退学処分となっている。

久しぶりに彼女の事を思い出し、薫は不機嫌そうにピッチャーを見つめる。

「(……なんだ?いきなりキレてるような顔して…)」

ピッチャーは薫に睨まれているような気がしつつも構える。

「……やっぱりキャプテンは格が違いますね」

薫はボソッと呟く。

「ん?」

「…あと1年遅く生まれてくれたら、もう1回勝負出来てたのにな」

⏰:10/06/08 17:10 📱:N08A3 🆔:JzbPbZSE


#337 [我輩は匿名である]
何を考えているのかと、キャプテンはきょとんとする。

ピッチャーが球を投げてくる。

が、薫はまたもバットを振らず、ストライクボールを見送った。

「何やってんだ?あいつ!やる気あんのかよ!?」

フェンスを掴み、直人が声を荒げる。

しかし、響子は無言のまま薫を見つめる。

⏰:10/06/08 17:10 📱:N08A3 🆔:JzbPbZSE


#338 [我輩は匿名である]
「どうしたんだ?やる気失せたか?」

急に打たなくなった薫に、ピッチャーがたまらず声をかける。

「やる気はありますよ、身体がついてこないだけで」

薫は一旦バットを下ろして答える。

「(…怪我でもしたのか?)」

ピッチャーは思いながら、薫の身体を見るが、一見異常なさそうに見える。

「…代打出すか?」

「ははっ、冗談止めて下さいよ」

薫は笑いながら、再びバットを構える。

⏰:10/06/08 17:11 📱:N08A3 🆔:JzbPbZSE


#339 [我輩は匿名である]
「俺の野球姿を見て喜んでる奴がいるんでね。死んでも代打なんか出しませんから」

ピッチャーもキャッチャーも、一瞬ぽかんとして薫を見る。

しかし、ピッチャーはニッと笑い、「いいだろう」とボールを構える。

「へっ、彼女かよ」

キャッチャーも皮肉をこめた笑みを浮かべる。

「…まぁ、そんなところですかね」

投げるモーションに入っているピッチャーを見ながら薫は言う。

その直後、ピッチャーがボールを投げた。

⏰:10/06/08 17:12 📱:N08A3 🆔:JzbPbZSE


#340 [我輩は匿名である]
クラスメイト達は、祈るような気持ちで薫を見つめる。

しかし、薫はバットを振る瞬間、左手を離した。

「ちょっ、お前…!」

びっくりして、キャッチャーが思わず声を漏らす。

薫は右手だけで金属バットを振ったのだ。

ボールは見事にバットに当たり、右手首に痛みが走る。

そのまま無理矢理打ち飛ばしたボールは、まっすぐ飛んでいく。

⏰:10/06/08 17:13 📱:N08A3 🆔:JzbPbZSE


#341 [我輩は匿名である]
ピッチャーが手を伸ばせば、充分に届く距離に。

パシッという音を立てて、ピッチャーのグローブがボールを掴む。

ギャラリーも選手達も、息を呑んでそれを見つめていた。

「アウト!チェンジ!」

審判の声が響き渡る。

相手チームの外野たちが、もう試合が終わったかのように、はしゃぎながら走ってくる。

⏰:10/06/08 17:13 📱:N08A3 🆔:JzbPbZSE


#342 [我輩は匿名である]
「はぁ…」

薫はため息をついて、左手にバットを持ちかえながらベンチに戻る。

「悪い。捻挫したから、二塁の守り代わってくれないか?」

補欠の男子にそう言って、薫はベンチに腰を下ろす。

そして、0対5まで点差が開いた後、試合は終わった。

⏰:10/06/08 17:13 📱:N08A3 🆔:JzbPbZSE


#343 [我輩は匿名である]
「礼!」

「ありがとうございました!」

審判の声に合わせて、選手達は互いに頭を下げる。

「もったいないな。お前が野球部に入ってくれれば、安心して卒業出来るのに」

挨拶を終え、ピッチャーが薫に話し掛けてきた。

まるで死ぬような言い方だな。薫は小さく笑う。

「坊主にすると、俺多分殺されますから」

「…誰に?」

⏰:10/06/08 17:14 📱:N08A3 🆔:JzbPbZSE


#344 [我輩は匿名である]
「こいつ、彼女いるらしいぜ」

キャッチャーも話に入ってきた。

「…え、マジで?」

「薫!!」

薫の背後で声がした。

振り向いてみると、響子がかなり怒った顔で立っている。

「…例の彼女か?」

「何であんな打ち方したのよ!?手痛めるの当たり前でしょ!?」

響子は怒鳴り付けながら薫に詰め寄る。

⏰:10/06/08 17:15 📱:N08A3 🆔:JzbPbZSE


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