記憶を売る本屋 2
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#345 [我輩は匿名である]
「いや…動かしすぎると、また左肩痛めそうだったからさ」

薫は答えながら、左の鎖骨辺りをさする。

その仕草を見て、響子は動きを止めた。

「……階段から落ちた時の、あの怪我の事?」

「…まぁ、な」

薫は誤魔化そうとしながらも頷く。

「“階段から落ちた”って…こいつ、あの階段事件で突き落とされた奴だったのか?」

「あぁーなるほどな」

2人の様子を見ながら、ピッチャーとキャッチャーが小声で話し合う。

⏰:10/06/08 17:15 📱:N08A3 🆔:JzbPbZSE


#346 [我輩は匿名である]
「……そっち痛める方が、絶対お前に怒られると思って」

薫は苦笑し、響子の頭を撫でる。

響子はしゅんとしたように下を向く。

「こいつ、あんたの為にあんな打ち方したんだぜ。

『俺の野球姿見て喜んでる奴がいるから』ってな」

キャッチャーがニヤニヤしながら響子に言う。

バラされると思っていなかった薫は、顔を赤らめて「ちょっと!」と彼を睨む。

響子はゆっくりと顔を上げ、薫を見る。

⏰:10/06/08 17:16 📱:N08A3 🆔:JzbPbZSE


#347 [我輩は匿名である]
薫は恥ずかしそうに顔を背けている。

それを見て、響子は嬉しそうに笑って薫に抱きついた。

「なぁ、その子がお前の彼女?」

2人がからかうように薫の肩を持つ。

いらん事を言わなきゃ良かった。薫は思いながら笑った。

「そうですよ」

断言する薫に、2人は絶句する。

⏰:10/06/08 17:16 📱:N08A3 🆔:JzbPbZSE


#348 [我輩は匿名である]
「いつまでいちゃついてんだ、あいつら」

「さぁ?ま、いいんじゃないの?」

彼らの微笑ましい様子を、直人や飛鳥は遠くから眺めていた。

⏰:10/06/08 17:17 📱:N08A3 🆔:JzbPbZSE


#349 [我輩は匿名である]
「やっと帰れるな」

帰り道、飛鳥は直人に話し掛ける。

奏子はバイトに行き、響子は薫の捻挫の手当てに付き添って

保健室に行っているため、2人で帰ってくる事になったのだ。

「そんなに帰りたかったのかよ」

「好きじゃないんだもん、運動」

「絶対人生損してるぞ」

「嫌いなもんは嫌いなんだよ!仕方ないだろ!

晶の時から運動大っ嫌いだったんだから!」

飛鳥は開き直ったように言い返す。

⏰:10/06/10 18:56 📱:N08A3 🆔:BePAOuBw


#350 [我輩は匿名である]
直人が笑って返事をしようとした時。

「ふぅん、意外だなー」

直人の背後で、若い男性の声がした。

振り向いてみるが、誰もいない。

「…今何か言ったか?」

「いや?」

飛鳥はきょとんとしている。

声も彼女のものではなかった。

「どうかしたの?」

⏰:10/06/10 18:57 📱:N08A3 🆔:BePAOuBw


#351 [我輩は匿名である]
「今、男の声が聞こえてきたんだけど。もしかして幽霊!?」

幽霊は怖くない直人は笑うが、飛鳥はかなり嫌そうな顔をしている。

「何だよ?」

「幽霊なんかいるわけないだろ!?変な事言うな!!」

飛鳥はものすごい剣幕で言い返してきた。

直人はきょとんとしてそれを見る。

「……お前、もしかして……幽霊怖い、とか?」

「…な…っ」

直人に図星を突かれて、飛鳥はちょっと顔を赤くする。

⏰:10/06/10 18:58 📱:N08A3 🆔:BePAOuBw


#352 [我輩は匿名である]
「そっ、そんな事…」

「はっはーん、そうか。お前お化け怖いのか」

「こっ、怖くない!」

ニヤニヤしてからかってくる直人に、飛鳥は大声で言い返す。

しかし、直人は全く信じない。

「そーゆーの全然平気そうなのにな。じゃああれか?

香月の前世が幽霊だった話とか聞いてる時も、怖がってたわけ?」

「………それは……」

「死にかけてる男の前で、悲しそうに立っている髪の長い女…。うはっ、怖ぇ」

⏰:10/06/10 18:58 📱:N08A3 🆔:BePAOuBw


#353 [我輩は匿名である]
もはや死神じゃねぇか、と直人は笑う。…が。

「(……悲しそうに立っている…髪の長い女…)」

飛鳥は真剣に想像する。

こういう事を考える時、何故かありえない程恐ろしい顔の幽霊が思い浮かぶもの。

頭の中で、もはや原型である今日子の顔からかけ離れた、気味の悪い女性が出来上がった。

「(………今日、お風呂入るのやめようかなぁ……)」

1人で勝手に暗くなっている飛鳥を見て、直人はちょっと慌ててフォローに入る。

「ま、まぁほら、香月みたいな奴が幽霊でも、全然怖くねぇけどな!

顔も可愛いし、背ちっこいし?むしろ薫の方が…」

⏰:10/06/10 18:58 📱:N08A3 🆔:BePAOuBw


#354 [我輩は匿名である]
「……月城が幽霊だったら…確実に呪い殺される……」

2人の頭の中に、血まみれの服に包丁を握り、半笑いで立っている薫の姿が思い浮かぶ。

「………やめよう。さすがに俺も怖くなってきた…」

「だから言ったじゃん…。夢に出てきたらどうしよう…」

泣きそうな顔で飛鳥はうつむく。

「でも何だったんだろ?俺が聞いた声。どっかで聞いた事ある気もしたけど…」

気まずくなってきたので、直人は話を戻す。

「……うめき声とか、そういうの…?」

飛鳥が恐る恐る尋ねる。

⏰:10/06/10 18:59 📱:N08A3 🆔:BePAOuBw


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