記憶を売る本屋 2
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#515 [我輩は匿名である]
直人は小さく息をついて立ち上がり、飛鳥に歩み寄る。

「神崎」

直人に話し掛けられ、飛鳥は少しだけ顔を上げる。

昨日とは違い、疲れ果てたような、生気がなくなったような、そんな表情。

「…どうしたんだよ」

彼女のその表情に少し驚きながら、直人はまた問いかける。

飛鳥はしばらく、目を逸らして黙る。

「………もうだめだ、あたし」

やっと口を開いたかと思ったら、呆れたような顔でそう呟いた。

⏰:10/11/09 21:57 📱:N08A3 🆔:elepWMVo


#516 [我輩は匿名である]
「何だよ?昨日はあんなに…」

「1位とったんだよ、あいつが」

「…え…」

直人は言葉を失った。

1位なんて取られると、それ以上上はない。

こちらも1位を取ろうとすると、良介や薫を抜かなければならない。

⏰:10/11/09 21:58 📱:N08A3 🆔:elepWMVo


#517 [我輩は匿名である]
そんな事、飛鳥の学力では到底無理だ。

「…ごめん、応援してくれてたのに…」

飛鳥は再び俯きながら直人に言った。

「別に…謝る事じゃないだろ」

そう励ましたが、飛鳥はもう顔を上げる事はなかった。

⏰:10/11/09 21:58 📱:N08A3 🆔:elepWMVo


#518 [我輩は匿名である]
「もうちょっとでクリスマスだねー」

放課後、響子は薫と2人、階段に腰を下ろして話していた。

「そうだな」

「ところで!」

響子は鞄の中から1冊の雑誌を取り出す。

その表紙にはデカデカと『北海道』と書いてある。

「何?それ」

「ほら、来月スキー実習でしょ?どこ行こうかなぁって」

⏰:10/11/09 22:20 📱:N08A3 🆔:elepWMVo


#519 [我輩は匿名である]
「あぁ、もうそんな時期か」

いろいろあって、スキー実習の事などすっかり忘れていた。

「それでね」

響子は楽しそうに笑いながら、付箋が張ってあるページを開く。

そこには、ガラスで作られた飾り物やアクセサリーがたくさん載せられていた。

「私、ここ行きたいんだ」

「…あぁ、好きそうだな。1日目が観光だったっけ」

「そう♪で、2日目と3日目がスキー!」

今からでも心待ちにしている響子を見て、薫も自然と顔がほころぶ。

⏰:10/11/09 22:20 📱:N08A3 🆔:elepWMVo


#520 [我輩は匿名である]
「…飛鳥ちゃんも奏子ちゃんも、楽しめるかな?せっかくの旅行なのに…」

ふと飛鳥たちのことを思い出して、響子の表情が曇る。

今日も昼休みに一緒に昼食を摂ったものの、終始暗かった飛鳥。

奏子も相変わらず、まだ仲直りはしていない。

「……まぁそうだけど、クラス違うだろ」

「違っても心配なの!」

世話焼きな響子は、勢い良く本を閉じる。

「…まぁ、今全員問題持ちだもんなぁ…」

⏰:10/11/09 22:21 📱:N08A3 🆔:elepWMVo


#521 [我輩は匿名である]
薫と響子は良介、飛鳥と奏子は互いの喧嘩、直人はその他いろいろ…。

このままでは、せっかくのスキー実習が楽しめずに終わってしまう。

響子はそれが心配で仕方がないらしい。

「どうにかなるだろ。今までもどうにかなってきたんだし」

薫は小さく笑い、ポンと響子の頭をたたいた。

⏰:10/11/09 22:21 📱:N08A3 🆔:elepWMVo


#522 [我輩は匿名である]
「はぁ…」

一足先に学校を出た直人は、ぼちぼち歩きながら家に向かう。

「…なぁ、どうすればいいと思う?」

誰もいないのを良いことに、直人は口に出して尋ねる。

「神崎の事?」

直人の問いに、要が聞き返してくる。

「あぁ。他にどうやって見返してやれば良いんだよ…」

弟の巧が学年トップを取った今、追い抜くことが出来なくなった。

同じトップを取ろうとも、上には薫たちがいる。

⏰:10/11/09 22:21 📱:N08A3 🆔:elepWMVo


#523 [我輩は匿名である]
要も考えているのか、返事が返ってこない。

「…………そんなに成績が大事なのかな?」

しばらくして、要が言った。

「今更そこかよ」

直人も呆れたように言い返す。

「あいつの家族が成績しか見てないんだから、大事なんだろうよ」

「まぁそれはそうだけど…。

でも、成績意外にも見返す方法はないのかなってさ」

まぁ確かに。直人も頷く。

⏰:10/11/09 22:22 📱:N08A3 🆔:elepWMVo


#524 [我輩は匿名である]
しかし、成績しか見ない彼らを、どうやって見返せるのだろうか。

「………ま、ぼちぼち考えていくかな」

「面倒見るのはほどほどにするんじゃなかったの?」

「……まぁそうだけどさぁ…、今のあいつ見てると…」

「下手すると、俺達みたいになっちゃうよ?」

その言葉に、直人は足を止める。

「でも…」

「ほっとけないんだろ?俺もそうだったよ。だからああなった」

声だけではわからないが、要はきっと、後悔しているのだろう。

⏰:10/11/09 22:22 📱:N08A3 🆔:elepWMVo


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