記憶を売る本屋 2
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#541 [我輩は匿名である]
「ごめん……ちょっと…あろいろありまして……」

「また例の弟か?」

「うん…。でも…今日はちゃんと言い負かして来たよ」

飛鳥は息を切らしながらも、吹っ切れたような笑みを見せた。

直人達はきょとんとする。

「マジで!?やるじゃんお前!」

直人はまるで自分の手柄のように喜び、飛鳥の肩を叩く。

2人の様子を、薫と響子も笑って見ている。

どんな言い合いだったのか、直人は飛鳥の話を聞きながら神社に向かって歩きだした。

⏰:10/11/25 20:32 📱:N08A3 🆔:7I8QaZgA


#542 [我輩は匿名である]
神社に着いた時、1から10まで喋らされた飛鳥はクタクタになっていた。

「……はぁ…疲れた…」

「そりゃあんだけ喋れば疲れるわよねぇ。

ちょっと休んでたら?私トイレ行きたくなっちゃった」

「あ、俺も!」

直人も手を挙げる。

「じゃあ行って来いよ、俺達ここで待ってるから」

薫の言葉に、ドキッとしたように飛鳥が彼の顔を見上げる。

が、鈍感な直人がそれに気付くはずもなく、響子とトイレに歩いていってしまった。

⏰:10/11/25 20:32 📱:N08A3 🆔:7I8QaZgA


#543 [我輩は匿名である]
「あそこに座って待っとくか」

薫は傍に木で出来た長椅子を見付け、そこに腰を下ろす。

立っていても仕方がないので、飛鳥もしぶしぶ、少し間を空けてそこに座った。

⏰:10/11/25 20:32 📱:N08A3 🆔:7I8QaZgA


#544 [我輩は匿名である]
「人が多いと思ったら、日本には初詣というものがあったんだなぁ、ポチ」

同じ頃、良介は犬の散歩で近くを歩いていた。

大事に育てているらしく、他の犬や人を見ても全く吠えない。

代わりに口笛を吹きながら歩いていると、

薫と飛鳥が並んで椅子に座っているのを見付け、驚いて足を止めた。

「(……な、なな何だあの組み合わせは!?

響子ちゃんは!?まさかあいつ、浮気か!?)」

良介は勝手に勘違いし、2人の声が聞こえる場所に、見えないようにしゃがみこむ。

⏰:10/11/25 20:33 📱:N08A3 🆔:7I8QaZgA


#545 [我輩は匿名である]
2人はしばらく黙っていた。

しかし、飛鳥には以前から、薫に聞きたい事があった。

いい機会と言えばいい機会なのだが、なかなか言いだせない。

「…何か言いたそうだな」

飛鳥の様子を見て察したのか、薫が先に話し掛けてきた。

「え!?あ、いや、あるっちゃ…ある…けど…」

「…何だよ、言えよ」

焦っている飛鳥を見て、薫も何だか落ち着かない。

こういう空気になってしまったら、言うしかない。

⏰:10/11/25 20:33 📱:N08A3 🆔:7I8QaZgA


#546 [我輩は匿名である]
飛鳥は心を決めて口を開く。

「……あたしの事、殺したかったんでしょ?」

単刀直入すぎて、薫も、見ていた良介も目を丸くする。

が、薫はすぐにいつもの涼しげな表情で答えた。

「…あぁ、殺したかったよ」

やっぱり。わかってはいたが、やはりショックは隠せない。

⏰:10/11/25 20:34 📱:N08A3 🆔:7I8QaZgA


#547 [我輩は匿名である]
「…何やってんの?あんた」

盗み聞きしていた良介に、誰かが話し掛けてきた。

慌てて振り向いてみると、そこには奏子が立っていた。

「……な、何だ…君か…」

「…相変わらず変だねぇ…ん?」

奏子も飛鳥と薫を見つけ、一緒にしゃがみこんだ。

「何してるの?あの2人」

「それが…」

⏰:10/11/25 20:34 📱:N08A3 🆔:7I8QaZgA


#548 [我輩は匿名である]
「それぐらいあたしの事恨んでたのに、何で許せるようになったんだろうって。

なんか前にちょっと聞いたけど、やっぱ気になっちゃってさ」

飛鳥に正直に問い掛けられて、薫も真面目な顔で答えはじめた。

「…確かに、前世の事を思い出して、お前が石川晶だと知ってから、ずっと恨んでた。

お前さえいなければ、今日子は死なずにすんだんだからな」

見られているとは知らず、薫は飛鳥に言う。


「響子が死んだ?何の話?」
『キョウコ』という名前を香月響子しか知らない2人は、顔を見合わせる。

⏰:10/11/25 20:35 📱:N08A3 🆔:7I8QaZgA


#549 [我輩は匿名である]
「でも…変な言い方だけど、お前が今日子を巻き添えにしてくれて良かったのかも知れないと思ったんだ」

どういう事なのか。飛鳥は小さく首をひねる。

「今日子が死んでも死ななくても、俺が癌に侵される事は変わらない。

今のように医療が進歩していたら変わったかもしれないが、

少なくともあの時代では、癌は不治の病と言われていた。

だからもし今日子が生きていたら、いつか遺されるのは今日子になる」

「……あぁ…そっか…」

「あの時、俺達はまだ20代だった。俺もただのサラリーマンだったから、貯金も生命保険も少ししかなかった。

精神的に辛い上に、産まれたばかりの子どもを抱えて、今日子は生きていかなければならなくなる。

…そうなるなら、遺されたのが俺で良かったんだと思った」

⏰:10/11/25 20:36 📱:N08A3 🆔:7I8QaZgA


#550 [我輩は匿名である]
そう言って、薫は小さく笑った。

「それにお前を殺しても、あの日に戻れるわけでもないし、

俺が霜月優也に戻るわけでも、響子が長谷部今日子に戻るわけでも、

直人が長月要に戻るわけでもない。だったら何のメリットもないだろ。

…まぁ、だからといってお前が自殺したのが正しかったとは思わないけどな」

「あぁ…それは…そうだと思う…」

薫にそう付け足されて、飛鳥は少し肩をすぼめる。

⏰:10/11/25 20:36 📱:N08A3 🆔:7I8QaZgA


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