記憶を売る本屋 2
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#641 [我輩は匿名である]
「あぁ、そうだな」
確かに、そこから話した方が順序よく話が進みそうだ。
「てか、お前だけだよな、この時代にいるの。
石川晶も、薫と香月の前世もいないのに、なんでお前だけ?」
「うーん…。それは、さっき言った通り、俺達が“特別”だからだよ」
それだけではわからず、直人は首を傾げる。
「それさぁ、どう意味?つか、俺“達”って、俺も入ってる?」
「入ってるよ」
少し前を歩きながら、要は頷く。
:11/01/06 18:23
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#642 [我輩は匿名である]
「だって直人は元々、前世を知る予定じゃなかったんだから」
こっちを向いてそう言った要に、直人はぽかんとする。
「……は?」
「前世の記憶を持つのは、前世に“未練”があった人の生まれ変わりだけだ。
晶ちゃん、霜月優也、長谷部今日子。みんな何かしら死ぬ時に未練を残したまま死んで、
それを晴らすために前世を知り、その記憶を持ったまま生きていくんだ。
まぁ、前世の遺志を受け継ぐかどうかはその人次第だけどね。
でも俺はそうじゃない。晶ちゃんなら大丈夫だと、そう思いながら死んだ。
だから未練なんかなかった。…晶ちゃんが自殺したって知るまではね」
:11/01/07 13:49
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#643 [我輩は匿名である]
要の話を、直人は黙って聞いている。
「じゃあ何で直人が前世を知る事になったのかって話になるよね。
もう知ってると思うけど、前世を背負ったまま生まれ変わって生きるためには、
それなりに何かを差し出さないといけないんだ」
そういえば、以前薫が“自分は何を払ったのか”という話をしていた。
しかし、飛鳥だけは何を払ったのかを覚えていなかった。
「じゃあ、晶は何を払ったんだ?」
「何も」
「へ?」
「払わなかったっていうより、払えなかったんだ」
:11/01/07 13:53
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#644 [我輩は匿名である]
払わなかったら前世を知って生きる事は出来ないんじゃないのか?
直人はますますわからなくなり、顔をしかめる。
「あの時の晶ちゃんに、差し出せるものは何もなかった。
それでも、晶ちゃんはもう1度やり直したかったんだ。
強い人間になって、今度は頑張って生きたいって思ったんだよ。
その気持ちが、あの人に認められたんだ」
「“あの人”…?」
「神様、みたいなものだと思う。顔は見えないけど、落ち着いた女の人。
その人が前世と後世の記憶を管理するんだ」
:11/01/07 13:54
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#645 [我輩は匿名である]
そういえば前に説明してくれた薫も、女性の(ような)絵を描いていた。
前世を思い出させる程の力を持っているのだから、神様と言っても過言ではないだろう。
「晶ちゃんはその人に、『もう1度要に会いたい。
要に、自分が強くなるところを見ていてほしい』って言ったらしい」
「あーなるほどな。だから俺が本もらう事になったのか」
直人は納得したように頷く。
「それで、その女の人は晶ちゃんに言ったんだ。
『いいでしょう。では、長月要の生まれ変わりの者にも前世の記憶を与えます。
その代わり、その者が前世の記憶を無くしても耐える事。
それで再び自殺を図った場合、何度生まれ変わっても同じ苦しみを味わう事になるでしょう』」
:11/01/07 13:54
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#646 [我輩は匿名である]
最後まで聞いて、直人は足を止めた。
足音が聞こえなくなったのを感じて、要も足を止めて振り返る。
「……今、何て言った?」
直人はおそるおそる口を開く。
「『その者が前世の記憶を無くしても』って…どういう事だ…?」
「…最初に言ったじゃないか」
真剣な顔で、要は答える。
:11/01/07 13:55
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#647 [我輩は匿名である]
「『前世の記憶を持つのは、未練を持ったまま死んだ人だけだ』って。
俺達は、晶ちゃんが神崎飛鳥としてやり直すための“特別措置”なんだよ。
あの子を支えるために、一時的に俺はここにいるし、お前に前世の記憶がある。
だから彼女が過去に打ち勝った時、お前の中から前世の記憶は消えなければいけない。
…本当は、お前は前世を知らないはずの人間なんだから」
想像もつかなかった話に、直人は言葉を失う。
今更前世の記憶が無くなるなんて。
急にそんな事を言われても、「はい、そうですか」で終わらせられるわけが無い。
:11/01/07 14:08
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#648 [我輩は匿名である]
ショックを隠せない直人に、要は言う。
「…それに、いつまでも“俺”がいたら、あの子はきっと強くなれない」
そう言った要の顔は、どこか悲しそうに見えた。
直人はちらっと、飛鳥の寝顔を見る。
「(……俺から前世の記憶が無くなったら…俺はどうなるんだろ…。
いや…俺だけじゃなくて、神崎も絶対ショック受けるはず…)」
直人は少しの間茫然と考えてから、顔を上げた。
それよりも先に、自分にはやらなこればいけない事がある。
:11/01/07 14:10
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#649 [我輩は匿名である]
「行こうぜ、要。…今はそんな事考えてる暇ねぇよ」
「…そうだね」
要は頷いて、また歩きだした。
「……なぁ、『何度でも同じ苦しみを味わう事になる』ってどういう事だ?」
歩きながら、直人は要の背中を見て尋ねる。
「『何度生まれ変わっても自ら死を選ぶ運命を背負う事になる』って意味だよ」
要は怯む事なく答える。
「(じゃあ…もし前世を忘れた俺が神崎を見捨てるような事をしたら…
また神崎が自殺を考えるようになったら…)」
:11/01/08 12:33
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#650 [我輩は匿名である]
昨日から考えていた事と重なり、直人は更に考え込む。
『もし前世の記憶がなかったら、自分は誰を好きになるんだろう』
前世の記憶が無くなったら、もしかしたら奏子と付き合うのかもしれないし、
あるいは全く違う人と付き合う事になるのかもしれない。
そうなった時、飛鳥は…。
「(いや…神崎はもう今までの神崎じゃない。そんな事でへこたれる奴じゃないはずだ)」
信じるしかない。直人は何度も自分にそう言い聞かせた。
:11/01/08 12:34
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