記憶を売る本屋 2
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#646 [我輩は匿名である]
最後まで聞いて、直人は足を止めた。
足音が聞こえなくなったのを感じて、要も足を止めて振り返る。
「……今、何て言った?」
直人はおそるおそる口を開く。
「『その者が前世の記憶を無くしても』って…どういう事だ…?」
「…最初に言ったじゃないか」
真剣な顔で、要は答える。
:11/01/07 13:55
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#647 [我輩は匿名である]
「『前世の記憶を持つのは、未練を持ったまま死んだ人だけだ』って。
俺達は、晶ちゃんが神崎飛鳥としてやり直すための“特別措置”なんだよ。
あの子を支えるために、一時的に俺はここにいるし、お前に前世の記憶がある。
だから彼女が過去に打ち勝った時、お前の中から前世の記憶は消えなければいけない。
…本当は、お前は前世を知らないはずの人間なんだから」
想像もつかなかった話に、直人は言葉を失う。
今更前世の記憶が無くなるなんて。
急にそんな事を言われても、「はい、そうですか」で終わらせられるわけが無い。
:11/01/07 14:08
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#648 [我輩は匿名である]
ショックを隠せない直人に、要は言う。
「…それに、いつまでも“俺”がいたら、あの子はきっと強くなれない」
そう言った要の顔は、どこか悲しそうに見えた。
直人はちらっと、飛鳥の寝顔を見る。
「(……俺から前世の記憶が無くなったら…俺はどうなるんだろ…。
いや…俺だけじゃなくて、神崎も絶対ショック受けるはず…)」
直人は少しの間茫然と考えてから、顔を上げた。
それよりも先に、自分にはやらなこればいけない事がある。
:11/01/07 14:10
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#649 [我輩は匿名である]
「行こうぜ、要。…今はそんな事考えてる暇ねぇよ」
「…そうだね」
要は頷いて、また歩きだした。
「……なぁ、『何度でも同じ苦しみを味わう事になる』ってどういう事だ?」
歩きながら、直人は要の背中を見て尋ねる。
「『何度生まれ変わっても自ら死を選ぶ運命を背負う事になる』って意味だよ」
要は怯む事なく答える。
「(じゃあ…もし前世を忘れた俺が神崎を見捨てるような事をしたら…
また神崎が自殺を考えるようになったら…)」
:11/01/08 12:33
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#650 [我輩は匿名である]
昨日から考えていた事と重なり、直人は更に考え込む。
『もし前世の記憶がなかったら、自分は誰を好きになるんだろう』
前世の記憶が無くなったら、もしかしたら奏子と付き合うのかもしれないし、
あるいは全く違う人と付き合う事になるのかもしれない。
そうなった時、飛鳥は…。
「(いや…神崎はもう今までの神崎じゃない。そんな事でへこたれる奴じゃないはずだ)」
信じるしかない。直人は何度も自分にそう言い聞かせた。
:11/01/08 12:34
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#651 [我輩は匿名である]
しばらく黙って歩いて、直人はまた口を開く。
「そういえば、何でさっき神崎の場所がわかったんだ?」
「俺には、神崎飛鳥を手助けできるように特別な力があるんだ。
まぁ言っちゃえば幽霊みたいなものだからね、俺。
幽霊がポルターガイスト起こせるのと同じような感じだと思うよ」
「…そんなもんなのか」
「期待外れ?」
「…ちょっとな」
直人は小さく笑う。
:11/01/08 12:34
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#652 [我輩は匿名である]
「あんまり使い過ぎるのも神崎飛鳥の為にならないから、
必要以上に使わないようにしてたんだ。直人と話して助言する事は何回かあったけどね」
「……お前、最初から俺の中にいたのか?」
「うん。直人が全部思い出してから、ずっとね。
喋れる事に初めて気が付いたのは運動会の時だったけど」
「(運動会?あぁ、球技大会の時のあれの事か)」
「おかげで神崎飛鳥には幽霊だって恐がられるようになっちゃったけどねー」
2人は笑いながら話す。
思えば、こうやって要と話すなんて、あり得ない事だ。
:11/01/08 12:35
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#653 [我輩は匿名である]
前世の自分と、生まれ変わった姿の自分。
「なんかでも…すげぇよな。前世とその生まれ変わりが一緒にいるんだぜ?」
「はははっ、そうだね。俺達だけじゃないの?」
「だろうな。でも…お前の事忘れるって事は、この事も忘れるんだよな…?」
「まぁ、そうなるね」
「あーあ、なんか残念だし、淋しいな」
「そうだね。それも今だけだよ。記憶が無くなれば、もう思い出す事はないんだし」
「……いつなんだよ?前世の記憶が無くなるの」
:11/01/08 12:35
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#654 [我輩は匿名である]
「………今日、かな」
しばらく間を置いて、ぽつりと要が言った。
「お前なぁ、そういう事はもっと早く言えよ」
「あんまり早く言ったら、考え込んで元気無くなっちゃうじゃないか。
だから、わざわざショック受けてる時間が短くて済むように黙ってたんだよ」
「…それにしても急すぎだろ」
「本当はもっと早く消えようと思ってたんだけどね。でも良かったよ。今日まで残ってて」
「あぁ。お前がいてくれて良かった」
直人にそう言われて、要も小さく笑った。
:11/01/08 22:46
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#655 [我輩は匿名である]
前世の記憶が無くなるなんて、今になっては全く想像出来ない。
思えば、『あの本をもらった者は死ぬ』と言われていた都市伝説。
それに自分が巻き込まれるなんて、あの時は思いもしなかった。
それがいつのまにか、前世の記憶がある事が当たり前の生活になっていた。
明日からは、ただの普通の男子高校性に戻る事になる。
淋しくなるな。実感がまだ全くわかないながらも、直人は心から思った。
すると、遥か遠くの方に人影がいくつか見えた。
「着いたみたいだね」
助けに来た人を見た瞬間、どっと疲れを感じ、直人はその場に座り込む。
:11/01/08 22:46
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