記憶を売る本屋 2
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#655 [我輩は匿名である]
前世の記憶が無くなるなんて、今になっては全く想像出来ない。
思えば、『あの本をもらった者は死ぬ』と言われていた都市伝説。
それに自分が巻き込まれるなんて、あの時は思いもしなかった。
それがいつのまにか、前世の記憶がある事が当たり前の生活になっていた。
明日からは、ただの普通の男子高校性に戻る事になる。
淋しくなるな。実感がまだ全くわかないながらも、直人は心から思った。
すると、遥か遠くの方に人影がいくつか見えた。
「着いたみたいだね」
助けに来た人を見た瞬間、どっと疲れを感じ、直人はその場に座り込む。
:11/01/08 22:46
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#656 [我輩は匿名である]
「…直人」
「ん?」
顔を上げると、要がこっちを向いていた。
「1つだけ、いい?」
「何だよ?」
「長生きしろよ。そして、…幸せになれ」
そう言って、要は笑った。
:11/01/08 22:47
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#657 [我輩は匿名である]
直人も笑い返し、返事をする。
「おう、雲の上からちゃんと見とけよな」
2人は最後に笑い合う。
その直後、直人は強烈な眠気に襲われ、そのまま気を失ってしまった。
意識の遠くの方で、「さようなら、直人」と言う、誰かの声が聞こえた。
:11/01/08 22:48
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#658 [我輩は匿名である]
「晶ちゃん」
誰かに名前を呼ばれて、飛鳥は静かに目を覚ます。
要がトラックにはねられて死んだ、あの横断歩道。そこに、飛鳥は立っていた。
そしてガードレールの所には、要が腰掛けている。
「要…」
「久しぶり、晶ちゃん。…いや………飛鳥ちゃん」
要は言い直し、飛鳥に微笑みかける。
ここは夢の中みたいだ。飛鳥はすぐにそう思った。
「……何で…?」
:11/01/09 17:36
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#659 [我輩は匿名である]
「…ちょっと、会いたくなって」
「…あたしも、会いたかった」
飛鳥はきゅっと、体の横で手を握る。
「ずっと…要に言いたい事があったんだ。でも、いつまでも言えないままで…」
要は飛鳥を見つめたまま聞いている。飛鳥の目に涙が浮かぶ。
「……ごめんなさい」
言うのと同時に、飛鳥の頬を涙が伝った。
「私があの時、要の話をちゃんと聞いてたら…信じてたら…!」
:11/01/09 17:36
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:HkzzrEHw
#660 [我輩は匿名である]
「飛鳥ちゃん」
要は立ち上がり、飛鳥と向き合う。
「良かったんだよ、これで」
下を向いて必死に涙を拭っていた飛鳥は、手を止めて顔を上げる。
「今の方が、きっと君は強くなれる。…直人と君を見ててそう思ったんだ」
「…見てたの?」
「まぁね。直人が言ってた幽霊って俺だもん」
なぜか自慢げに自分を指差す要に、飛鳥はきょとんとする。
:11/01/09 17:37
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:HkzzrEHw
#661 [我輩は匿名である]
「…でも、それも今日で終わり」
要はやはり、どこか名残惜しそうにため息を吐く。
「飛鳥ちゃん、俺が言う事…よく聞いてね」
「…うん」
「…君が目を覚ました時、水無月直人は前世の記憶を全部失くしてる」
要のその一言に、飛鳥は目を丸くする。
「…何…」
「俺の事も、晶ちゃんの事も、前世に関わる記憶は何もかもね。
…信じられないと思うけど、これが俺達のルールなんだ」
:11/01/09 17:37
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:HkzzrEHw
#662 [我輩は匿名である]
「ルールって…何…!」
言い掛けた瞬間、飛鳥の脳裏に、ある光景が広がった。
目の前にいる女性、交わした会話、示された“条件”…。
晶があの女性とした“取り引き”を、飛鳥は全て思い出した。
「……俺の言ってる事、わかるよね?」
全てを悟った飛鳥は、茫然としながらも静かに頷いた。
「大丈夫だよ、今の君なら」
要はぽんと、飛鳥の肩に手をおく。
:11/01/09 17:38
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:HkzzrEHw
#663 [我輩は匿名である]
「…要…」
「ん?」
涙を拭ききって、飛鳥は小さく笑みを見せる。
「ありがとう。今まで、一緒にいてくれて」
泣かないようにとこらえているが、声が震えている。
「私、これから頑張るよ。もう『死にたい』なんか言わない。
友達と喧嘩しても、家族に見下されても、自分で何とかする。
…だから、ちゃんと見ててね」
飛鳥のその言葉に、要はホッとしたように笑い返した。
:11/01/09 17:39
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:HkzzrEHw
#664 [我輩は匿名である]
「見てるよ、飛鳥ちゃんの事も、直人の事も」
そう言って、要はぺちっと、飛鳥の頬に両手をあてる。
「苦しくなったらまわりを見てみて。今の君には、支えてくれる人がたくさんいるから。
ここまで頑張って得た友達は、きっとずっと、君の宝物になる。
自信を持って」
:11/01/09 17:39
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