記憶を売る本屋 2
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#100 [我輩は匿名である]
「あいつが納得するとかしないとか、どうでもいいだろ!」

「前みたいな目には遭いたくないんだよ」

薫は少しきつく言い返した。

そう言われて、直人はやっと、少し黙り込む。

確かに、怜奈のような行動に出られてはいろいろと面倒だ。

薫は1人で、そこまで考えていたのだろう。

そう思うと、直人はそれ以上何も言えなかった。

⏰:10/04/29 13:15 📱:N08A3 🆔:VvK4rUGI


#101 [我輩は匿名である]
「ねぇ、飛鳥」

バイトに行く途中、奏子は飛鳥に尋ねる。

「水無月が、前に変なおっさんから、前世の本もらったって話、知ってる?」

「…知ってるよ」

飛鳥は少しきょとんとした顔で答える。

「…飛鳥って、その、水無月の前世の話に関係あったりする?」

奏子は続けて聞く。

「…なんで?」

今度は飛鳥が聞き返す。

⏰:10/04/30 20:32 📱:N08A3 🆔:ue2rV2uc


#102 [我輩は匿名である]
「なんか、この間うちのおばあちゃんと会ったじゃない?

その時に、2人とも何か知ってそうだったからさ」

そう言われて、飛鳥は少しの間黙り込む。

「……私さぁ」

飛鳥がなかなか答えようとしないため、奏子が口を開く。

「最近、水無月の事、気になってるんだ」

その言葉に、飛鳥はハッと奏子を見る。

「……好き、って事?」

「……多分」

⏰:10/04/30 20:32 📱:N08A3 🆔:ue2rV2uc


#103 [我輩は匿名である]
まだはっきりしないのか、奏子は曖昧な言い方をする。

「…それで…何であの本の話…?」

飛鳥は少し動揺しながら、奏子に尋ねる。

「なんか、気になったからさ。水無月の事、いろいろ知ってるのかなぁと思って。

元気づけてもらったとか、前言ってたじゃん?」

奏子は明るく笑ってみせる。

しかし、飛鳥は何故か、ショックを受けたような顔で黙っている。

⏰:10/04/30 20:33 📱:N08A3 🆔:ue2rV2uc


#104 [我輩は匿名である]
直人の事で、知っている事はいろいろある。

でも、飛鳥は何も教えたくなかった。

直人の過去を知ってるのは、自分だけの特権。

何もない自分にある、たった1つの小さな自慢。

「まぁまた、いろいろ相談乗ってね♪」

奏子は笑って、飛鳥に頼む。

飛鳥はしぶしぶ、「うん…」と頷くしかできなかった。

⏰:10/04/30 20:33 📱:N08A3 🆔:ue2rV2uc


#105 [我輩は匿名である]
次の日。

飛鳥はじっと、4組の教室を覗く。

幸い、響子と奏子が別々の子と話している。

飛鳥は気付かれないようにササーッと、早足で響子に近づく。

「響子…」

背後から声がして、響子は振り返る。

「うわっ!びっくりした…」

響子は、いつの間にか背後にいた飛鳥に驚いて声を上げる。

「どうしたの?昨日のバイトで、また何かやらかした?」

⏰:10/04/30 20:34 📱:N08A3 🆔:ue2rV2uc


#106 [我輩は匿名である]
「違う……事もないけど」

飛鳥はやつれたような表情で答える。

確かに、昨日奏子の突然の告白に動揺していた飛鳥は、

皿は割るわ、カップから紅茶を溢れさせて床をボトボトにするわ、

レジ操作を誤って1000円以上の現金差異を出すわで、

店長にかなりこっぴどく怒られたのだが、響子に相談に来たのはその事ではない。

「…今度、2人っきりで相談があるんだけど」

「2人っきりで?……ははーん、なるほどね」

勘の良い響子は、ニヤリと笑う。

⏰:10/04/30 20:34 📱:N08A3 🆔:ue2rV2uc


#107 [我輩は匿名である]
「恋の話ね」

「えっ…!?わかんない。でも、多分そーゆーの」

「じゃあ僕も一緒に♪」

2人の隣に、急に良介が割り込んできた。

「あんたはどうでもいいから、消え失せてくれる?」

「残念ながら、君みたいに背の高いバカそうな女には興味ないよ」

良介は飛鳥に目もくれず、響子と向き合う。

「ねぇ響子ちゃん、僕は絶対、1位を守りぬくからね!」

⏰:10/04/30 20:34 📱:N08A3 🆔:ue2rV2uc


#108 [我輩は匿名である]
「…え?薫が断りに来たでしょ?」

響子は眉をひそめて確かめる。

「来たけど、女々しい事言うから、追い返したよ」

良介は笑顔で言い張る。

「女々しい?薫が何言ったのよ」

響子もさすがにムッとして言い返す。

「“勝負降りる”って。自信無くしたんじゃない?

あんなに張り切ってのってきたのに、あっさり僕に負けちゃったんだもんね」

良介は呆れたように、「やれやれ」と首を振る。

⏰:10/04/30 20:35 📱:N08A3 🆔:ue2rV2uc


#109 [我輩は匿名である]
「お前なぁ」

響子の代わりに、飛鳥が良介を睨む。

「調子に乗るのもいい加減にしろよ。お前みたいな新入りに、こいつらの何がわかるんだよ?」

「じゃあ聞くけどさ、君たちに僕の何がわかるわけ?」

良介も負けじと言い返してくる。

「僕は元々勉強なんか好きじゃない。

でも、響子ちゃんが“格好よくて、頭が良い、優しい人”が好きだって言ったから、

僕はそれを目指して今まで頑張ってきたんだ。

邪魔をしてる新入りは、あいつの方だろ?」

響子はそれを聞いて、昔そんな事を言ったのを思い出した。

⏰:10/04/30 20:35 📱:N08A3 🆔:ue2rV2uc


#110 [我輩は匿名である]
「だから、僕は絶対、あいつから君を取り戻すよ。

あんなクールぶってる奴、君には似合わないからね」

そう吐き捨てて、良介は背中を向けた。

「…マジでムカつく」

飛鳥は苛立ったように、彼の背中をにらみつける。

響子は暗い顔でため息を吐く。

「(……私が…あの時ちゃんと断ってたら…)」

「…響子?」

⏰:10/04/30 20:36 📱:N08A3 🆔:ue2rV2uc


#111 [我輩は匿名である]
飛鳥に声をかけられ、響子はハッと顔を上げる。

「…ごめん、ボーッとしてた」

「…まぁ気持ちはわかるけどさ」

飛鳥も呆れて息をつく。

「…あ、そうだ。どうせなら、どっかでご飯かお茶かしながら話さない?

ちょうど明日土曜だし。…バイト入ってる?」

「ううん。大丈夫」

⏰:10/04/30 20:36 📱:N08A3 🆔:ue2rV2uc


#112 [我輩は匿名である]
「じゃあ明日、飛鳥ちゃんがバイトしてるカフェ行こ♪」

「何でそうなるの!?」

「だって、1回行ってみたかったんだもん。じゃあ決まりね」

響子はにっこり笑う。

「(…まぁ、社割あるから、いっか)」

飛鳥は特に深く考えないまま、「しょうがないなぁ」と頷いた。

⏰:10/04/30 20:38 📱:N08A3 🆔:ue2rV2uc


#113 [我輩は匿名である]
次の日。

飛鳥は響子と共に、バイト先のカフェにやってきた。

「おう神崎」

入るなり、店長が飛鳥に話しかけてきた。

「売り上げのために、全ケーキ食って帰れよ!」

「無理ですよ。そんな金あったらケータイ契約しに行きます」

飛鳥は顔を引きつらせて言い返しながら、適当な席に座る。

「そっか、飛鳥ちゃん、ケータイ持ってないんだっけ」

「うん、仲悪い親に出してもらうの、嫌だしね。自分で稼いでから買おうかなぁと思って」

飛鳥は苦笑して言った。

⏰:10/05/01 20:21 📱:N08A3 🆔:/1yPoZ8g


#114 [我輩は匿名である]
そういうところは頑固な飛鳥に、響子も笑い返す。

「とりあえず、何か頼もっか」

「うん」

飛鳥は響子にメニューを開いて渡す。

「飛鳥ちゃん、見なくていいの?」

「いいよ、大体覚えてるから」

「『大体』じゃなくて、『完璧に』覚えてほしいわね」

飛鳥の先輩の女性が、そう言いながらお冷やを持ってきた。

「すいません…」

飛鳥は口を尖らせる。

⏰:10/05/01 20:21 📱:N08A3 🆔:/1yPoZ8g


#115 [我輩は匿名である]
「メニューはお決まりですか?」

先輩は響子に愛想良く尋ねる。

「えっ、えーっと…」

響子は少し慌ててメニューを見る。

「あっ、私はとりあえずカプチーノで」

「自分で注いで来な」

「えぇっ!?」

嫌味ったらしく笑う先輩に、飛鳥は変な声を上げる。

「あの…私はアイスミルクティー下さい」

⏰:10/05/01 20:21 📱:N08A3 🆔:/1yPoZ8g


#116 [我輩は匿名である]
「はいかしこまりましたー

先輩はにっこり笑って、キッチンの方へと下がっていった。

「意外と、いじられキャラなんだね」

響子は楽しそうに笑って、向かい合っている飛鳥に言う。

「…何かわかんないけど、そうなのかな」

「ははっ、いいじゃない。いじられキャラは、愛されキャラみたいな物よ」

響子はテーブルに両肘をつく。

飛鳥は「そうかなぁ」と首をひねる。

「ところで、私に相談って、何?」

⏰:10/05/01 20:22 📱:N08A3 🆔:/1yPoZ8g


#117 [我輩は匿名である]
響子は話を変え、本題に入る。

すると、急に飛鳥の顔が暗くなった。

「………何から話せばいいんだろ…?」

飛鳥は腕を組んで考える。

『奏子が直人を好きだ』なんて勝手に話すと、余計にこじれるかもしれない。

「…飛鳥ちゃんは、水無月君が好き?」

響子は先に、そう飛鳥に尋ねた。

飛鳥は「えっ!?」と、勝手に下向いていた頭を上げる。

⏰:10/05/01 20:22 📱:N08A3 🆔:/1yPoZ8g


#118 [我輩は匿名である]
「やっぱりそういう事か」

響子はにっこり笑う。

「……んー、…わかんない」

飛鳥ははっきりしない顔で答える。

「でも、…他の子が『水無月が好きかも』とか言ってるの聞いたら…何かモヤモヤしてきて…」

「……じゃあ飛鳥ちゃんは、水無月くんの事どう思う?」

響子は優しい表情で、質問を変える。

⏰:10/05/01 20:23 📱:N08A3 🆔:/1yPoZ8g


#119 [我輩は匿名である]
飛鳥は少し顔を上げる。

「……いい奴だと、思ってる」

何て言えばいいのかわからなくて、飛鳥はとりあえずそこから始めた。

「…私、高校入ってから、誰とも喋った事なくて……高校入る前からだけど。

でもなんか、あいつとは何も考えずに喋れて、なんか楽しくて…。

本を読み終わって、私がまた自殺しそうになったの、怪我してでも止めてくれた」

ちょっとずつ気持ちが整理できてきたのか、飛鳥の口調がスムーズになってきた。

響子も何も言わずに、その話に耳を傾けている。

⏰:10/05/01 20:23 📱:N08A3 🆔:/1yPoZ8g


#120 [我輩は匿名である]
「それから…私が『親を見返してやるんだ』って思えるようになったら、

笑って『頑張れ』って言ってくれるし、

この間も、奏子のおばあちゃんが道で困ってたら、すぐ『手伝ってやるよ』って言って…。

あいつバカで能天気だけど、私は…そういう優しい所が、す…」

飛鳥はそこまで言って、顔を赤くして黙り込んだ。

「…考えまとまったね」

「…なんか、楽しそうな話してるわね♪」

響子だけでなく、たまたま注文の物を持ってきた先輩まで笑っている。

⏰:10/05/01 20:24 📱:N08A3 🆔:/1yPoZ8g


#121 [我輩は匿名である]
飛鳥は余計に恥ずかしくなって下を向く。

「いや、でも、そういう『好き』じゃないかも…」

「どっちにしろ同じよ」

響子と先輩が声をそろえて答える。

「あら、あんたなかなかわかってるじゃない♪」

「ありがとうございます♪」

「(何なんだこの2人…)」

気が合って笑い合う2人を、飛鳥は呆れ気味に見つめる。

「ちょっと神崎、今度私にもその話聞かせてよね」

⏰:10/05/01 20:24 📱:N08A3 🆔:/1yPoZ8g


#122 [我輩は匿名である]
「さぁどうでしょうね」

擦り寄ってくる先輩を、飛鳥はめんどくさそうな顔で押し返す。

先輩はテーブルにカプチーノとミルクティーを置いて、「ごゆっくりどうぞ」と言って立ち去った。

「(…話できるわけないじゃん…。話が広がったら、奏子がどう言うか…)」

飛鳥はまた鬱陶しそうにため息をつく。

「…他には誰も、その話してないの?」

「うん、他にできる人いないし…」

飛鳥はまた、苦笑して答えた。

響子は鋭い目付きで考える。

⏰:10/05/02 17:30 📱:N08A3 🆔:Xl0SkL1s


#123 [我輩は匿名である]
奏子に相談を乗ってもらう事も出来た。先輩にも出来たはずだ。

しかし、「他に出来る人がいない」と言う。

つまり。

「…水無月くんが好きだって言ったの、奏子ちゃんじゃない?」

響子は、他の席にも聞こえない程小さな声で言った。

思わず、飛鳥は目を丸くして響子を見る。

「……何で……」

⏰:10/05/02 17:30 📱:N08A3 🆔:Xl0SkL1s


#124 [我輩は匿名である]
「相談出来る人が私だけって、おかしいなぁと思って。

水無月くんに出来ないのは当たり前だし、薫はそんな相談を受ける柄じゃない。

…まぁあれでも、相談されれば乗るんだけど。

奏子ちゃんもいるのに、あの子には出来ないって事でしょ?

先輩に出来ないのは、誰かが口を滑らせて奏子ちゃんに知られると面倒だから。

……どう?合ってるでしょ?」

響子は自信満々に笑ってみせる。

「…探偵になればいいと思うよ」

全て図星をつかれ、飛鳥はただ茫然とする。

⏰:10/05/02 17:31 📱:N08A3 🆔:Xl0SkL1s


#125 [我輩は匿名である]
「まぁ、あれよね。飛鳥ちゃんと水無月くんには、本の事もあるしね」

「…うん…。最初はそうだったけど…でも、なんか違うっていうか…。

なんかね、要は、もっと穏やかで、おとなしい感じだったんだ。

だから、水無月とはタイプも全然違うし…。

私も結構性格変わってるし、本の事は…そこまで深く考えてないかなぁ…」

「そっか。…私達も同じだよ」

響子は小さく笑う。

⏰:10/05/02 17:31 📱:N08A3 🆔:Xl0SkL1s


#126 [我輩は匿名である]
「やっぱり、みんな本とは変わってくるのかな。

私はもっと背も小さかったし、もっと大人しかった。

薫……は、あんまり変わらないかな?強いて言うなら、もうちょっと穏やかで、煙草吸ってたぐらい?」

「そうなの?」

「だから、あんな癌になったのよ」

響子はふぅっとため息をつく。

「意外でしょ?今なら絶対吸わなそうにしてるのに。

薫……優也は、煙草と関連が深い癌だった。

だからもう2度と吸わないでしょうね」

響子は優しく笑う。

⏰:10/05/02 17:31 📱:N08A3 🆔:Xl0SkL1s


#127 [我輩は匿名である]
「優也はあんなにクールじゃなかったのよ?

薫はにっこり笑う事なんかないけど、優也はいつもニコニコしてた」

「(…また惚気だした…)」

そう思ったが、急に響子の表情が変わった。

「……はぁ…私もどうしたらいいんだろ……」

「……あのアメリカン?」

響子は頷く。

しかし、飛鳥には不思議でならなかった。

「でも、何でそんなに悩むの?響子も月城も、そんなてこずる相手じゃないんじゃ…」

⏰:10/05/02 17:32 📱:N08A3 🆔:Xl0SkL1s


#128 [我輩は匿名である]
「てこずるのよ、ああいうタイプが1番ね」

響子は肩肘をつく。

「まともに話が通じる相手なら、薫もガン飛ばして一言二言言えば終わるのよ。

でも、りょう……桐生くんはそうじゃない。どこであんな性格になったのかわかんないけど……」

響子は大きくため息をつく。

「……そうだね、この間月城がガン飛ばしても、全く効かなかったもんね」

「私があの時ちゃんと聞き直して、断っとけば良かったのよ…」

話しているうちに、どんどん響子の表情が暗くなっていく。

⏰:10/05/02 17:33 📱:N08A3 🆔:Xl0SkL1s


#129 [我輩は匿名である]
「いや…そんなちっこい時の事にすがってる奴に、気を遣う事はないと思うけど…」

飛鳥は自分で出来る精一杯の慰めを言う。

「うん…」

「だって、響子は月城が好きなんでしょ?だったら無視すればいいんだよ。

私だって、テストの順位なんかで彼氏とか決めるの、おかしいと思う」

飛鳥はきっぱりと言い切った。

「…そうなのよね…」

響子はまだ浮かない顔をして頷いた。

⏰:10/05/02 17:33 📱:N08A3 🆔:Xl0SkL1s


#130 [我輩は匿名である]
すると、飛鳥もまた、同じような表情でうつむき、こう切り出した。

「……私さ、本の事、まだ奏子に言えてないんだ」

響子は顔を上げ、また耳を傾ける。

「言おう言おうって思うんだけど、要との事…知られたくないんだ。

何でかわかんないけど…何か、自分の中だけに置いときたい気がして…」

「…そうね、奏子ちゃんが水無月君を好きなら、なおさらね」

響子は小さく笑う。

⏰:10/05/03 17:27 📱:N08A3 🆔:MyOPNZOQ


#131 [我輩は匿名である]
しかし、飛鳥の表情はまだ晴れない。

「……でも、隠しとくのもモヤモヤするっていうか…」

「…友達だから?」

「…うん」

飛鳥は小さく頷く。

「でも…友達でも、話したくない事はいくらでもあるよ」

あっさり言う響子に、飛鳥は思わず顔を上げる。

「…響子も?」

「そりゃあるよ。私だって、いちいち薫とチューしただの寝ただの、みんなに言いたくないし」

響子は当然のように言い放って、ミルクティーを一口飲む。

⏰:10/05/03 17:36 📱:N08A3 🆔:MyOPNZOQ


#132 [我輩は匿名である]
「ま、まぁそうだけど…」

飛鳥はしぶしぶ頷く。

「誰にでもねぇ、自分の中だけに留めておきたい事ってあるのよ。

飛鳥ちゃんが思ってる事、私は普通の事だと思うけどな」

さすが、前世で大人だっただけのことはある。

響子は優しい笑顔で、飛鳥を諭す。

「…そう、かな」

飛鳥もちょっとホッとしたように笑い返す。

⏰:10/05/03 17:44 📱:N08A3 🆔:MyOPNZOQ


#133 [我輩は匿名である]
「じゃあ私はばれないように、奏子ちゃんの前で本の話はしないように気をつけるわ。

薫にも言っとくし。…まぁ、自分からそんな事話はしないだろうけどね」

「え?ごめんね、なんか気遣ってもらっちゃって…」

「いいよ、そんなの」

響子はまた笑う。

「…前の話を知ってるからかもしれないけど」

そう言いながら、響子はテーブルに両肘をつく。

⏰:10/05/03 17:49 📱:N08A3 🆔:MyOPNZOQ


#134 [我輩は匿名である]
「私は、水無月くんには飛鳥ちゃんとくっついてほしいと思ってる。

…確かに見た感じ、奏子ちゃんと水無月くんは息が合ってるようには見えるけど、

飛鳥ちゃんといる時の水無月と奏子ちゃんといる時の水無月くん、明らかに態度が違う。

奏子ちゃんとなら、普通の友達って雰囲気な感じがするの。

…だから、そんなに悩まないで、自信持っていいと思うよ」

「…………うん」

響子の話を聞いて、飛鳥は大きく頷く。

それを見て安心したように、響子はまた笑った。

⏰:10/05/03 17:57 📱:N08A3 🆔:MyOPNZOQ


#135 [我輩は匿名である]
「頑張ってね。また何かあったら、いつでも聞くから」

「うん、ありがとう」

飛鳥は悩みから吹っ切れたように笑い返す。

「(ただ、相手がちょっと手強いけどね)」

明るくなった飛鳥の表情を見ながら、響子は心の中で呟いた。

⏰:10/05/03 17:59 📱:N08A3 🆔:MyOPNZOQ


#136 [我輩は匿名である]
直人は眠そうな顔で、目の前にいる奏子を見つめる。

まだ時計は8時10分。

「早く来過ぎたかな」と思っていると、満面の笑顔の奏子がやってきたのだ。

「……何か用…?」

「あんたにお礼持ってきたの♪」

「お礼…?…俺なんかしたっけ…?」

直人は欠伸をしながら聞き返す。

「この間、おばあちゃんの荷物持ってくれたじゃん」

⏰:10/05/05 18:04 📱:N08A3 🆔:7fNci.3Y


#137 [我輩は匿名である]
「…………あーぁ!あれか!」

思い出すのに時間がかかったが、直人は「あぁ、そういえば手伝ったなぁ」と頷く。

「はい♪」

奏子は笑って、数枚のクッキーが入った可愛らしい袋を、直人の机に置いた。

「えっ、何これ?わざわざあのお姉…いや、ばあちゃん焼いてくれたのか?」

直人は思いもよらぬプレゼントに目を輝かせる。

「残念ながら、それ私が焼いたの」

奏子はちょっと自慢げに笑う。

「えっ?これお前が焼いたのか!?すげー!」

⏰:10/05/05 18:05 📱:N08A3 🆔:7fNci.3Y


#138 [我輩は匿名である]
直人は尊敬の眼差しを奏子に送る。

「…今食べても良いかなぁ?」

「いいじゃん、食べちゃいなよ」

「だよな!じゃあ頂きまーす」

直人は袋を開け、丸くて茶色いクッキーを口に放り込む。

ボリボリ言わせて噛んでいる直人を、奏子も少しドキドキして見つめる。

「………どう?」

「…ん!うまい!!」

直人は意外そうに言いながら、右手でOKサインを出す。

「やったー♪私、クッキーだけは得意なんだ〜」

⏰:10/05/05 18:05 📱:N08A3 🆔:7fNci.3Y


#139 [我輩は匿名である]
奏子も嬉しそうに笑う。

「へぇ!意外と料理とか出来るんだな、お前」

直人は言いながら、なぜかもう袋を閉じる。

「えっ?もう食べないの?」

「もったいないから、昼休みに食う!結構あるし、薫にもちょっとやろうと思って」

直人は満足そうに笑って、袋の口を紐で締め直して、大事そうに鞄に入れる。

「(1人で全部食べてほしかったのになぁ…)」

逆に、奏子は少し残念そうに直人の動作を見る。

「ところでさぁ、何でおばあちゃんの事、『お姉さん』って呼びかけたの?」

⏰:10/05/05 18:05 📱:N08A3 🆔:7fNci.3Y


#140 [我輩は匿名である]
「え?あぁ…」

言って良いものか、と、直人は目線をそらす。

「もしかして、おばあちゃんの事知ってるの?」

奏子は少し近づく。

「……いや、口が勝手に言っただけ…」

「本当に〜?」


直人は上手く誤魔化せず、しばらく悩んだ末、大きくため息を吐いた。

「…前世の俺が、会ったことがあるんだよ、多分」

そう白状するしかなかった。

⏰:10/05/05 18:06 📱:N08A3 🆔:7fNci.3Y


#141 [我輩は匿名である]
「そうなの!?なんかすごい!」

奏子は楽しそうに声を上げる。

「じゃあ、おばあちゃんが言ってた道案内したのって、やっぱあんたなの?」

「…まぁな…」

「そうなんだぁ!あんた、意外と優しいとこあるよね」

「そ、そうかぁ?」

褒められると調子に乗る直人は、照れるように笑う。

「でもなんか、飛鳥も知ってそうだったよね、おばあちゃんの事」

奏子は笑顔で話を続ける。

「…いや、あいつは多分会ったことないぞ。俺があのばあちゃんからの話を聞かせただけで」

⏰:10/05/05 18:06 📱:N08A3 🆔:7fNci.3Y


#142 [我輩は匿名である]
「おばあちゃん、あんたに何か言ったの?」

「だから、俺じゃなくて、前世の俺」

直人はそこに念を押す。

「何か言ったって、この間のあれだぞ?友達作りたいなら、壁を作るなって話。

あれを伝えてやろうと思ってたんだけどさ、なかなか…」

「伝えてやるって、飛鳥に?」

「前世のあいつに」

直人はしつこく、『前世の』にアクセントをつける。

奏子は驚きつつ、「やっぱりな」と思った。

「じゃあ、水無月と飛鳥って、前世から知り合いだったんだ?」

⏰:10/05/05 18:06 📱:N08A3 🆔:7fNci.3Y


#143 [我輩は匿名である]
「…まぁ…そうだな、知り合いだな」

言ってみれば恋人同士か、最低でも友達以上恋人未満ってところだろう。

しかし、そこまで説明するのはめんどくさい。

「…ん?じゃあ、飛鳥も本もらってたりすんの?」

奏子は首をかしげる。

「なんか、もらったって言ってた気がするけど?」

直人はめんどくさくなってきて、言い方が適当になってきた。

「そうなんだ!なんかすごいねー!じゃあ…」

⏰:10/05/05 18:07 📱:N08A3 🆔:7fNci.3Y


#144 [我輩は匿名である]
「おはよう」

いつの間にか、8時15分を過ぎていて、飛鳥がやってきた。

「よぉ」

「あっ、飛鳥に渡すものがあるの!」

奏子は立ち上がって、さっき直人にあげたクッキーを差し出す。

「クッキーだ」

「この間、おばあちゃん助けてくれたでしょ?そのお礼♪」

「えっ?いいよ、荷物運んだだけだし、お礼なんか…」

飛鳥は両手を左右に振る。

⏰:10/05/05 18:07 📱:N08A3 🆔:7fNci.3Y


#145 [我輩は匿名である]
「いいのいいの。はい!」

奏子は笑って、飛鳥の手にクッキーを置いた。

「…ありがとう」

飛鳥は小さく笑って、それを受け取る。

「あっ、じゃあ用も済んだし、私教室にかーえろ♪じゃあまた後でねー」

奏子はそのまま、教室を出ていった。

「何だったんだ…?」

「おいしそうなクッキーだね。あのおばあちゃんが焼いてくれたのかな?」

飛鳥は嬉しそうに、クッキーの入った袋を見つめている。

⏰:10/05/05 18:08 📱:N08A3 🆔:7fNci.3Y


#146 [我輩は匿名である]
「いや、安斎が焼いたらしいぞ」

「そうなの?へぇ、すごいな」

「お前、料理出来ないんだっけ?」

「やれば出来ると思うよ。施設にいた時は、よくご飯の手伝いしてたから」

「へぇ、意外」

「そう?…まぁ、今は家で作る事ないし、作ろうとも思わないしな…」

飛鳥はふぅっと息をつく。

「じゃあ、なんか作ってきた時は、俺が毒味してやるよ」

⏰:10/05/05 18:08 📱:N08A3 🆔:7fNci.3Y


#147 [我輩は匿名である]
「はあ?私の腕前なめないでよね」

飛鳥は腕を組んで言い返す。

そんな2人の会話を、廊下で窓にもたれ掛かって、奏子が聞いていた。

「(やっぱり、あの2人…なんかあるんだ…)」

「安斎?」

すぐ後ろで声がして、奏子は素早く振り返る。

⏰:10/05/05 18:08 📱:N08A3 🆔:7fNci.3Y


#148 [我輩は匿名である]
そこには、登校してきたばかりの薫が立っていた。

「月城くん…」

「何してるんだ?朝っぱらから」

薫は少し首を傾ける。

「ううん、何にもない。じゃあね」

奏子は無理に笑顔を作って、小走りで4組に戻っていった。

「…隠さなくても、知ってるのにね」

薫の後ろにいた響子が、くすっと笑う。

「…お前の言ってた事、本当だったんだな」

「予想だけどね」

2人は小さく笑い合った。

⏰:10/05/05 18:09 📱:N08A3 🆔:7fNci.3Y


#149 [我輩は匿名である]
直人は、薫が掃除を終えるのを、階段に座って、1人ぼけーっと待っていた。

奏子と飛鳥はバイトが、響子も今日は用事がある為、それぞれ先に帰っている。

「(…そういえば、神崎とここで喋った事もあったなぁ…)」

直人はあの時の事を思い出す。

親と話していないとか、そういう話をしたのがここだった。

「(懐かしいな…もう半年近く経つんだなぁ…)」

そんな事を考えていると、あの時のように、目の前を良介が通りかかった。

⏰:10/05/06 20:17 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#150 [我輩は匿名である]
「あっ!そこのアメリカかぶれ!」

直人は思わず呼び止める。

“アメリカ”という言葉に足を止め、良介がこっちを見る。

「…誰?君」

ちょっと近寄りながら、良介が首をひねる。

「月城薫の友達だよ!」

「俺そんなに存在感ないか」と思いながら、直人は怒鳴る。

「あぁ、あの負け犬くんの」

「負け犬言うな!」

どこまでもマイペースで、思った事を口にする良介に、直人は何度も声を荒げる。

⏰:10/05/06 20:17 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#151 [我輩は匿名である]
「お前、あんまり薫の邪魔すんなよな!」

「邪魔してるのはあっちだろ!」

良介もムスッとして言い返す。

直人は腰に右手をあてて、じーっと良介を見る。

「……お前さぁ、香月のどこが好きなわけ?」

直人はそもそも、そこから聞きたかった。

「僕?響子ちゃんの全てに決まってるじゃないか!」

「はぁ!?全てが好きとか、適当に言ってんだろ!」

「適当?失礼な!君は人を好きになった事無いのか?」

「気持ち悪いから『君』っていうな!俺は水無月直人!み・な・づ・き・な・お・と!」

⏰:10/05/06 20:17 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#152 [我輩は匿名である]
直人は鳥肌が立ったのか、上腕をさすりながら名乗る。

「水無月?6月の事か!」

「ま、まぁそうだよ、6月の水無月」

「ふむ。じゃあ水無月、君は人を好きになった事は…」

「だから!『君』ゆーな!気持ち悪いから!」

「はっはっは!水無月は面白いな。天然か」

「天然はお前だろアホぉ!!」

直人は勢いで立ち上がる。

ここまでくれば、日本語の意味がわかっているのか不安になってくる。

⏰:10/05/06 20:18 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#153 [我輩は匿名である]
「俺だってなぁ!好きな奴ぐらいいるんだよ!」

直人はそう言い切った。

「じゃあ水無月は、その子のどこが好きなんだ?」

「俺は…」

勢いで話を進めたため、少し悩む。

しかし、自然と頭に飛鳥が思い浮かんだ。

「…俺は、特に、頑張り屋な所、かな」

「頑張り屋?」

「そう、頑張り屋なんだ。…ある人を見返す為に、今一生懸命頑張ってるんだ。

俺はそこが好きなんだ、多分。だから、心の底から応援してるんだ」

⏰:10/05/06 20:18 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#154 [我輩は匿名である]
言ってしまった。直人は言ってから、とても恥ずかしくなった。

本当なのかわからなくて、何だか飛鳥に申し訳なく思う。

「…………それって…」

良介は何故か、ものすごく気持ち悪そうな顔で直人を見る。

「な、何だよその目は」

「だってぇ…水無月の好きな人って…」

直人は「バレてるのかな」と、少しドキドキする。

「月城だろ…?」

⏰:10/05/06 20:19 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#155 [我輩は匿名である]
「俺にそんな趣味ないわぁー!!」

直人は今日1番の大声を出した。

おまけに、その声に重なって、どこかから薫の声もした。

「だって、見返すって僕の事だろ?」

そう言っている良介の後ろを見てみると、柱の影から薫が出て来ている。

「薫!」

「月城!盗み聞きかっ!けしからん奴だ!」

良介はむすっと腕を組んで薫を睨む。

「あのなぁ!俺が好きなのは女だよ!ちゃんとした女!わかったか!?」

「あぁ、どうでも良くなった」

⏰:10/05/06 20:19 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#156 [我輩は匿名である]
「何だとー!?」

良介はどうでもよさそうに適当にあしらって、薫と向き合う。

「それより月城、お前は響子ちゃんのどこが好きなんだ?」

「はぁ…?」

いつも唐突に物を聞いてくる良介に、薫は首をかしげる。

「俺は…そうだな、笑った顔が好きだな」

薫は小さく笑って答えた。

直人も良介も、黙って薫を見つめる。

「…な、何だよ。俺変な事言ったか?」

「いや、なんか意外な答えだったなぁ…と思って」

⏰:10/05/06 20:19 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#157 [我輩は匿名である]
「……“全部”って答えは、おかしいのか?」

良介は納得できなそうに考える。

「…まぁいいんじゃないか?どこが好きかなんて、人それぞれだろ」

薫は少し面倒くさそうに言ってやる。

「そうか!そうだな!お前もたまには良い事言うな!でも響子ちゃんは俺がもらうからな!」

良介はそう言って、笑いながら帰っていった。

嵐が去って、2人は大きくため息を吐く。

まぁ、直人が呼び止めたのが悪かったのだが。

「…つーか、お前いつからいたんだよ?」

⏰:10/05/06 20:20 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#158 [我輩は匿名である]
「『俺だって好きな女ぐらいいるんだよ!』みたいなのが聞こえてから。

なんか出ていくタイミングが掴めなくて、待ってたんだ」

薫は少し呆れ笑いする。

「何だよ…」

直人はだらんとうなだれる。

「さ、帰るか」

「ん」

2人はそう言って帰りはじめた。

⏰:10/05/06 20:20 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#159 [我輩は匿名である]
「あのアメリカン、…うぜぇけど、なんか憎めない奴だよな。…うぜぇけど」

階段を下りながら、直人は言った。

「何で2回言ったんだ」

「とりあえずうぜぇから」

直人は良介とのやり取りを思い出して、顔を引きつらせて笑う。

そう言われて、薫も「確かに…」と頷く。

「…そうなんだよなぁ…。根本から嫌な奴なら、ぶん殴ってでも黙らせるのに。

…あいつ相手だと、そんな気も失せてくるんだよなぁ…」

薫は不満そうに言う。

「…で、お前どうするんだよ?結局点数バトル続けんの?」

⏰:10/05/06 20:21 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#160 [我輩は匿名である]
「……そう、なりそうだな…。

この間の金曜日に、響子と神崎が釘を刺そうとしたらしいけど、ダメだったらしいし」

「…何で神崎まで?」

直人に言われて、薫は内心「しまった」とドキッとした。

『昨日ね、飛鳥ちゃんとお茶しに行ったの。

それで、一昨日その約束してたら、桐生くんが割り込んできたから、一言言おうと思ったんだけど…。

ダメだった。あの子いつからあんなマイペースになったんだろ…』

昨日の日曜日、家に遊びに来た響子が薫に話してくれた。

その時に、飛鳥と奏子が直人に気があるらしい事も聞いたのだった。

⏰:10/05/06 20:21 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#161 [我輩は匿名である]
「(…危ねぇ…口滑らす所だった…)」

例え「遊びに行った」とだけ言っても、「安斎は?」と聞かれたらアウトだ。

「薫?」

靴箱まで来て、白と黒のスニーカーを持つ手を止めて考え込んでいた薫に、直人が声をかける。

「え?あぁ…何か、たまたま神崎がクラスに遊びに来てたからって言ってたけど」

薫は適当に誤魔化す。

「あぁ、あいつ、いつも4組で弁当食ってるもんな」

単純な直人は、薫の適当な話を鵜呑みにして、赤と黒のスニーカーに履き替える。

「(こいつ…素直というか、単純というか…)」

薫は羨ましそうな、呆れたような眼差しで直人を見る。

⏰:10/05/06 20:22 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#162 [我輩は匿名である]
「…さっき言ってたの、やっぱり神崎の事なのか?」
薫も靴を履き替えながら、直人に尋ねた。


「…んー、なんか、そういう話してたら、神崎が思い浮かんでさ」

「…そうか」

薫は口元に指をあてながら考える。

「…でもな、本当に好きなのかどうか、わかんねぇんだよ、まだ」

直人は少し不安そうに言う。

「確かに、あいつの頑張り屋な所は好きだし、応援してやりたいっていつも思ってるけど。

だって俺、まだそんな…誰か好きになった事ないしさぁ…」

直人は歩きながら、ガシガシと頭を掻く。

⏰:10/05/06 20:22 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#163 [我輩は匿名である]
「…まぁ、最初はそんなもんだろ」

「お前もそうだったのか?てか、お前の場合いつの話だよ」

「もう50年近く前のことだな」

薫は笑いながら答える。


「初恋はそうだったな。なーか気になるっていうか…」

「そうそう、そんな感じ!……ん?初恋『は』?じゃあ前の香月には?」

「一目惚れだよ、俺の」

薫はきっぱり断言した。

「そうだったのか!?どこに惚れたんだよ?」

「顔と身長」

⏰:10/05/06 20:22 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#164 [我輩は匿名である]
「身長…?」

直人は「何で?」と首をかしげる。

「何かな、可愛かったんだよ、ちっこくて。

俺175、6pあったけど、今日子は150pなかったぐらい?

よしよししやすい身長だったな」

珍しく、薫の顔が全体的に緩んでいる。

「…お前、惚気だすと止まらなくなるよな」

「たまには惚気させてくれよ」

「まぁいいけどよ…」

⏰:10/05/06 20:23 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#165 [我輩は匿名である]
「彼女が出来たら、直人も絶対惚気ると思うぞ」

そう言われても、自分が惚気る姿なんて全く想像出来ない。

直人は「そうかなぁ…?」と腕を組んだ。

⏰:10/05/06 20:23 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#166 [ま]
>>100-200

⏰:10/05/07 01:45 📱:P04A 🆔:6S1BPj46


#167 [我輩は匿名である]
ホームルームの時間。

「今日は球技大会の競技を決定したいと思いまーす」

体育委員達が前に出て仕切っている。

「こんな時期に球技大会なんかあるのか!」

体育系の直人は、早くもテンションが上がる。

女子と男子が、それぞれ教室の前後に分かれていく。

「こんな時期に球技大会なんかするんだな」

薫も同じように思っていたらしい。

壁にもたれて腕を組んでいる。

「あれか?スポーツの秋だからか?

運動会は何故か1学期だったしな」

⏰:10/05/08 22:43 📱:N08A3 🆔:BuSWAh76


#168 [我輩は匿名である]
言いながら、直人は楽しそうに笑っている。

「薫、お前何出る?」

直人は早速薫に尋ねる。

壁にもたれながら、薫は首をひねる。

「…何があるんだっけ?」

「えっとなぁ」

黒板に貼られた紙を見ると、男子は野球とドッヂボールと書かれている。

「野球だな、俺は」

「やっぱそう来るか。うーん…」

⏰:10/05/08 22:44 📱:N08A3 🆔:BuSWAh76


#169 [我輩は匿名である]
直人はさらに楽しそうに声を上げ、自分も腕を組んで考える。

「…俺、ドッヂがいい!」

「だろうな、お前野球下手だし」

「うるせぇな!」

直人は声を荒げて反論する。

「…お前、昔から野球好きだったよな。何でか知らねぇけど」

「前世の名残じゃないか?」

「名残?」

⏰:10/05/08 22:44 📱:N08A3 🆔:BuSWAh76


#170 [我輩は匿名である]
「霜月優也は小学校から高校まで野球部だった。

だからまぁ、生まれ変わりの俺が受け継いだんじゃないか?」

「へぇ…」

直人は薫を見ながら頷く。

「…要は…何もなかったなぁ…」

「そう…」

薫が返事をし終わる前に、直人が「あ!」と声を上げた。

「何だよ」

「お前、またバトルしようぜ、とか言われるんじゃね?」

⏰:10/05/08 22:45 📱:N08A3 🆔:BuSWAh76


#171 [我輩は匿名である]
「………あぁ…」

薫は鬱陶しそうに壁にへばりつく。

「大丈夫だって!俺が手伝ってやるから!」

直人は元気良く笑う。

薫は「あぁ…」と相づちは打ったものの、どこか浮かない表情で考え込み始めた。

⏰:10/05/08 22:45 📱:N08A3 🆔:BuSWAh76


#172 [我輩は匿名である]
一方、女子たちも順調に事を運んでいた。

女子は男子と違い、ハンドボールとドッヂボールとなっている。

「(…何でバスケでもバレーでもなくて、ドッヂボールなんだろ…?痛々しい…)」

飛鳥は紙を見ながら首をひねる。

「神崎さんは、何がいい?」

女子の体育委員が飛鳥に話し掛ける。

「…私は…」

正直どっちも嫌なのだが、決めなければ話が進まない。

ハンドボールはまだ暑い屋外で走り回らないといけない。

ドッヂボールは走り回らなくていいが、当てられると痛い。

⏰:10/05/10 20:01 📱:N08A3 🆔:OlQ7CTBQ


#173 [我輩は匿名である]
運動があまり好きではない飛鳥にとっては、究極の選択だった。

「………………ドッ、ヂ、ボール、かな」

しばらく迷った末、飛鳥は無理やりドッヂボールと答えた。

日焼けしないだけマシだと思ったらしい。

「りょーかい♪」

体育委員の女子はにっこり笑って、次々とみんなに聞いていく。

飛鳥は大きくため息を吐く。

「(……あいつは、何出るんだろうな…?)」

飛鳥はそんな事を考えながら、薫と話している直人の背中を見た。

⏰:10/05/10 20:01 📱:N08A3 🆔:OlQ7CTBQ


#174 [我輩は匿名である]
帰り道。久しぶりに5人一緒に帰る。

「みんな何に出る事になったー?」

奏子が4人に尋ねる。

「俺ドッヂボール!」

「あー、何かそんな感じするね」

奏子が笑っている横で、飛鳥ははぁっとため息をつく。

「神崎、お前は?」

「…私もドッヂボール」

「いいじゃん、ドッヂボール。何でそんなテンション低いんだよ?」

⏰:10/05/10 20:02 📱:N08A3 🆔:OlQ7CTBQ


#175 [我輩は匿名である]
「スポーツあんまり好きじゃないんだよ」

飛鳥は浮かない顔で答えた。

「ま、野球に比べりゃ簡単だし、楽しめって♪」

「お前がボールをバットに当てられないだけだろ」

『面白くない』と胸を張る直人に、薫は呆れて言い返す。

「薫は?やっぱり野球?」

響子が薫に尋ねる。

「あぁ、野球にした」

「薫らしいね」

「俺の将来の夢は、息子に野球教える事だからな」

⏰:10/05/10 21:10 📱:N08A3 🆔:OlQ7CTBQ


#176 [我輩は匿名である]
2人が穏やかな表情で笑い合うのを、直人達は黙って見つめる。

「それ息子生まれなかったら終わりじゃね?」

「うるさいな、生むんだよ、息子」

薫は横目で、ニヤニヤ笑っている直人を睨む。

「響子は?」

「私は飛鳥と同じドッヂボール」

「えー、ハンドボール選んだの私だけー!?」

後悔したように奏子が声を上げる。

「暑いのによくやるよ」とでも言いたそうに、飛鳥が奏子を見る。

⏰:10/05/10 21:11 📱:N08A3 🆔:OlQ7CTBQ


#177 [我輩は匿名である]
「…ケガするなよ」

「大丈夫よ、外野だから」

心配している薫に、響子は明るく笑い返す。

「ねぇ、私も心配してよ」

2人の様子を見て、何故か奏子は直人の肩をたたく。

飛鳥は少しムッとしながら様子をうかがう。

「はぁ?何で俺がお前の心配しなきゃなんねぇんだよ」

直人は嫌そうに手を振り払う。

「ちぇっ、つまんないの」

奏子はふてくされたようにそっぽを向く。

飛鳥は何故か、ホッと胸を撫で下ろす。

⏰:10/05/10 21:11 📱:N08A3 🆔:OlQ7CTBQ


#178 [我輩は匿名である]
「…ん…?」

薫はたまたま、前の曲がり角から良介が出てくるのを見つけた。

「どうかした?」

「…あれ、アメリカかぶれじゃないか?」

薫が指差す先を、響子たちも見てみる。

「本当だ」

「あいつ、球技大会ではバトル申し込んで来ねぇのかな?」

「忘れてんじゃない?」

直人と奏子は、良介の後ろ姿を見ながら話し合う。

⏰:10/05/10 21:12 📱:N08A3 🆔:OlQ7CTBQ


#179 [我輩は匿名である]
「……申し込んで来ないと思うよ」

響子が少し呆れたように言う。

「何で?」

「桐生くん、運動音痴だから」

「…え、マジで?」

響子からの意外な話に、4人ともきょとんとする。

そして、直人がニヤリと含み笑いをした。

「じゃあ、こっちから仕掛けてやればいいんじゃね?」

「…はぁ?」

薫は「何で」と顔をしかめる。

⏰:10/05/14 11:48 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#180 [我輩は匿名である]
「だってよ、これで勝っとけば1勝1敗だろ?あいつもでけぇ顔できなくなるぞ?」

「まぁそうだけど…」

むしろ彼の事はどうでもいい薫は、乗り気じゃなさそうに返事をする。

「よし、じゃあちょっくら言って来るわ!」

「えっ、ちょ…」

薫や響子が止める間もなく、直人は良介の所へ走っていってしまった。

⏰:10/05/14 11:48 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#181 [我輩は匿名である]
「おい!アメリカン!」

直人は良介の背中を叩く。

「……あぁ、君か」

「君って言うなって言っただろ」

直人は嫌そうに言い返す。
「それよりお前、球技大会では『バトルしようぜ』とか言ってこないのかよ?」

直人はニヤニヤしながら尋ねる。

それを聞いて、良介はギョッとする。

⏰:10/05/14 11:48 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#182 [我輩は匿名である]
「い、いや…あんまり僕が勝ちすぎると、月城が可哀想だから…」

「そんな気遣いいらねぇって」

直人は良介と肩を組む。

「それともあれか?勝つ自信ないとか?」

その一言に、良介は顔をこわばらせる。

「まっさかなぁー?あんだけ薫を見下してたんだから、運動とか出来ないわけ、ないよなぁ〜?」

「あっ、ああ当たり前だろう!!」

良介は意地を張ったのか、言い返してきた。

「受けてたってやるさ!」

「直人、やめとけ」

⏰:10/05/14 11:49 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#183 [我輩は匿名である]
2人の様子を見兼ねたのか、薫がやってきた。

「な、何だよ?」

「おい桐生、お前が出るのは野球か?ドッヂボールか?」

薫は直人の問いには答えず、良介に尋ねる。

「ド、ドッヂボールだけど…」

「え…」

良介の答えに、直人はきょとんとする。

「…競技が違うのに、どうやって戦うんだ?」

薫は不機嫌そうに直人を睨む。

⏰:10/05/14 11:49 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#184 [我輩は匿名である]
「い、いいのかよ?僕を見返したいんじゃないのか?」

良介は少し不思議そうに言ってくる。

「見返すも何も、どうやって勝負するんだって言ってるんだ。

それに、別に弱点突いて勝ったって、面白くないだろ」

薫はあっさり答える。

「それに、例えそれで勝っても、お前納得しないだろ。

そうなったら余計にめんどくさいから、別にしなくていい。

だからさっさと帰れ」

薫は良介にそれだけ言い、背を向ける。

良介は何か言いたそうだったが、そのまま帰っていった。

⏰:10/05/14 12:41 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#185 [我輩は匿名である]
それに見向きもせず、薫は直人に向き合う。

「お前もこんな事に頭を働かすな」

「だってよー」

直人は小さい子どものように頬を膨らませる。

「いいじゃん別に、ねぇ?」

奏子も直人の肩を持つ。

「お前には関係ないだろ」

「そんな言い方しなくていいじゃん」

「ちょっと、やめなよ2人とも」

ピリピリした空気になり始めた2人を、響子が間に入って止める。

⏰:10/05/14 12:41 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#186 [我輩は匿名である]
「だって…」

「奏子、確かに私達関係ないし…」

飛鳥も困ったように奏子に声をかける。

しかし、奏子はムッとしたように飛鳥をにらみ、走って帰ってしまった。

「(…なんか、睨まれた…?)」

飛鳥は少し不安になる。

「…そんなに気を遣わなくても、あいつの事は気にしてないから」

薫はだいぶイライラしているのか、少しきつく直人に言う。

⏰:10/05/14 12:42 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#187 [我輩は匿名である]
「…悪かったよ」

直人はうつむいたまま謝る。

「…もういいよ」

薫はそれだけ言って、黙って家に向かって歩きだす。

「…ごめんね、2人とも」

代わりに響子が直人達に謝って、薫と帰っていった。

直人と一緒に残された飛鳥は、気まずくなって、黙って直人を見る。

「…俺、そんな変な事したのかな?」

いまいち納得できていないのか、直人は首を傾げる。

⏰:10/05/14 22:09 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#188 [我輩は匿名である]
「…他の人に突っ込まれたくない事なんじゃない?月城にとっては」

飛鳥は静かに直人に言う。

「自分でどうにかしたいっていうか、しなきゃいけないっていうか…。

あいつ結構頑固なとこありそうだし、この間負けた悔しさもあるだろうし…。

アレも鬱陶しい性格してるから、余計イライラしてるんじゃない?」

まるで薫の気持ちを見透かしているかのような飛鳥を、直人はぽかんとして見つめる。

「…よくわかるな、そこまで」

「予想だけどね。でも…何となくわかる気がして」

飛鳥は少し苦笑する。

⏰:10/05/14 22:10 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#189 [我輩は匿名である]
「私でも、親の事とかで首突っ込まれすぎたら腹立つだろうし…」

「えっ?じゃあ俺…」

「いや、あんたは元気付けたりしてくれるだけだから怒ったりしないよ。

相談乗ってくれたりするから、むしろ感謝してるっていうか」

飛鳥は素直に直人に言う。

直人は少し照れて、顔を背ける。

⏰:10/05/14 22:10 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#190 [我輩は匿名である]
「……難しいね、友達って」

さっきの奏子の顔を思い出して、飛鳥はぼそっと呟く。

「…お前も何かあったのか?」

「ん?…いや…」

飛鳥は首を振って、「帰ろ」と言って歩きだす。

直人は飛鳥の様子を気にしながら、一緒に帰っていった。

⏰:10/05/14 22:11 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#191 [我輩は匿名である]
「響子さぁ…」

何日か経った放課後、奏子は響子にこっそりと尋ねた。

「飛鳥と水無月って、どういう関係だったか知ってる?」

「…えっ?」

全く予想外の質問に、響子はドキッとして、鉛筆を回す手を止める。

「ど…どういう事?」

「飛鳥も本持ってる事、響子知ってたでしょ」

奏子は真剣な顔で問いただす。

響子は少しの間黙る。

⏰:10/05/15 13:11 📱:N08A3 🆔:8G0WEuHs


#192 [我輩は匿名である]
「知ってる」と言っているようなものだが、どう言えば良いのかわからない。

奏子もまだ、響子の言葉を待っている。

「……えぇ知ってたわ」

響子は白状した。

「でも、内容までは知らない」

「…ホントに?」

「本当」

疑ってくる奏子に、響子は断言する。

⏰:10/05/15 13:12 📱:N08A3 🆔:8G0WEuHs


#193 [我輩は匿名である]
「私たちは、自分の本の中の話しかわからない。

まぁ私は、正確には本をもらった者じゃないけどね。

……何でそんな事聞きたいの?」

響子は小さく含み笑いして聞き返す。

今度は奏子が、目を逸らして口を閉ざす。

「…水無月くんの事、気になってる?」

そう聞かれて、奏子はしぶしぶ頷く。

「…そっか」

響子はそれだけ答えた。

⏰:10/05/15 13:12 📱:N08A3 🆔:8G0WEuHs


#194 [我輩は匿名である]
「…響子達見てたらさ、私、適わないのかなぁ…とか思っちゃうんだよね」

奏子は暗い顔で言う。

響子は黙って、彼女の話に耳を傾ける。

「本をもらった子は、みんな深いつながりがあるけど、…私には何もない。

多分、飛鳥も水無月の事好きだと思うんだ。

だから、水無月は飛鳥を選ぶんじゃないか…って思ってさ」

奏子の話に、響子は何も言えなかった。

「そんな事ないよ」と言えば、良介の背中を押す事にもなりうる。

今近くに良介はいないが、響子は机に肘をついて考える。

⏰:10/05/15 13:12 📱:N08A3 🆔:8G0WEuHs


#195 [我輩は匿名である]
「…難しいわね、こういう事を考えだすと」

奏子よりも深刻そうな顔をして、響子はまた鉛筆を回す。

「なーにを考えているんだい?」

響子の背後で声がした。

「誰もあんたの話してないから。どっか行ってくれる?」

響子の後ろにいる良介に、奏子が眉間にしわを寄せて釘を刺す。

しかし、良介は奏子の相手をする気はない。

⏰:10/05/15 18:54 📱:N08A3 🆔:8G0WEuHs


#196 [我輩は匿名である]
「あのCool Boyの相手をするのが難しいって?

いっその事、そろそろ僕に乗り換えたらどうだい?」

「遠慮しておくわ」

「どうやったらそんな風に聞こえるのか教えてくんない?このクレイジー野郎」

ノリノリな良介に、響子も奏子も冷めた目で言い返す。

「あんたは多分、あのクールボーイには勝てないと思うよ?」

「Why?つーか、君発音下手だね」

「ほっとけよ」

奏子は真顔で言い返す。

⏰:10/05/15 18:54 📱:N08A3 🆔:8G0WEuHs


#197 [我輩は匿名である]
「あんた、本の都市伝説聞いたことある?」

「都市伝説?あの男、そんなFantasy信じてるのかい?

バカだなぁー。だから僕に勝てな…」

良介が相変わらず自意識過剰な発言を始めた時、

響子の手元から『バキッ』という変な音がした。

見ると、さっきまで彼女の手の中で回っていた鉛筆が、真っ二つに折れている。

「きょ…」

「響子ちゃん…?」

目を疑っている2人をよそに、響子は折れた鉛筆を見下ろす。

⏰:10/05/15 18:55 📱:N08A3 🆔:8G0WEuHs


#198 [我輩は匿名である]
「……都市伝説、私も信じてるんだけど」

響子は満面の笑みで良介の方を向く。

「えっ?そうなのかい?どんな話?」

良介はコロッと態度を変える。

「(何で今の怖い笑顔を無視できるんだ…?)」

奏子は呆然と良介を見る。

「言わない。話すと長くなるから」

響子はフンと顔を背ける。

⏰:10/05/15 18:55 📱:N08A3 🆔:8G0WEuHs


#199 [我輩は匿名である]
「えっ!?気になるじゃないか!教えてくれよ!」

良介は顔の前で手を合わせて響子に頼み込む。

「…薫へのライバル心を改めてくれるなら、教えてあげる」

響子は少し挑発するような笑みで答える。

「………じゃあいいや」

良介はあっさり諦めて、何故か早足で教室を出ていった。

「……何なの?あいつ」

奏子は鬱陶しそうにため息をつく。

しかし、響子は黙ったまま、ドアの方を見つめていた。

⏰:10/05/15 18:55 📱:N08A3 🆔:8G0WEuHs


#200 [我輩は匿名である]
「おい、月城」

良介は薫の目の前で仁王立ちをする。

眼鏡を拭いていた薫は、早くも迷惑そうな顔でそれを見上げる。

「なんだ?お前、目悪いのか?僕は裸眼だぞ」

「だから何だ」

威張る良介に、薫は短く言い返す。

「…また来てるな、あいつ」

「懲りないね…」

直人と飛鳥は窓際で、2人の様子を見つめる。

⏰:10/05/16 12:35 📱:N08A3 🆔:mFv/GhVU


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