記憶を売る本屋 2
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#100 [我輩は匿名である]
「あいつが納得するとかしないとか、どうでもいいだろ!」
「前みたいな目には遭いたくないんだよ」
薫は少しきつく言い返した。
そう言われて、直人はやっと、少し黙り込む。
確かに、怜奈のような行動に出られてはいろいろと面倒だ。
薫は1人で、そこまで考えていたのだろう。
そう思うと、直人はそれ以上何も言えなかった。
:10/04/29 13:15
:N08A3
:VvK4rUGI
#101 [我輩は匿名である]
「ねぇ、飛鳥」
バイトに行く途中、奏子は飛鳥に尋ねる。
「水無月が、前に変なおっさんから、前世の本もらったって話、知ってる?」
「…知ってるよ」
飛鳥は少しきょとんとした顔で答える。
「…飛鳥って、その、水無月の前世の話に関係あったりする?」
奏子は続けて聞く。
「…なんで?」
今度は飛鳥が聞き返す。
:10/04/30 20:32
:N08A3
:ue2rV2uc
#102 [我輩は匿名である]
「なんか、この間うちのおばあちゃんと会ったじゃない?
その時に、2人とも何か知ってそうだったからさ」
そう言われて、飛鳥は少しの間黙り込む。
「……私さぁ」
飛鳥がなかなか答えようとしないため、奏子が口を開く。
「最近、水無月の事、気になってるんだ」
その言葉に、飛鳥はハッと奏子を見る。
「……好き、って事?」
「……多分」
:10/04/30 20:32
:N08A3
:ue2rV2uc
#103 [我輩は匿名である]
まだはっきりしないのか、奏子は曖昧な言い方をする。
「…それで…何であの本の話…?」
飛鳥は少し動揺しながら、奏子に尋ねる。
「なんか、気になったからさ。水無月の事、いろいろ知ってるのかなぁと思って。
元気づけてもらったとか、前言ってたじゃん?」
奏子は明るく笑ってみせる。
しかし、飛鳥は何故か、ショックを受けたような顔で黙っている。
:10/04/30 20:33
:N08A3
:ue2rV2uc
#104 [我輩は匿名である]
直人の事で、知っている事はいろいろある。
でも、飛鳥は何も教えたくなかった。
直人の過去を知ってるのは、自分だけの特権。
何もない自分にある、たった1つの小さな自慢。
「まぁまた、いろいろ相談乗ってね♪」
奏子は笑って、飛鳥に頼む。
飛鳥はしぶしぶ、「うん…」と頷くしかできなかった。
:10/04/30 20:33
:N08A3
:ue2rV2uc
#105 [我輩は匿名である]
次の日。
飛鳥はじっと、4組の教室を覗く。
幸い、響子と奏子が別々の子と話している。
飛鳥は気付かれないようにササーッと、早足で響子に近づく。
「響子…」
背後から声がして、響子は振り返る。
「うわっ!びっくりした…」
響子は、いつの間にか背後にいた飛鳥に驚いて声を上げる。
「どうしたの?昨日のバイトで、また何かやらかした?」
:10/04/30 20:34
:N08A3
:ue2rV2uc
#106 [我輩は匿名である]
「違う……事もないけど」
飛鳥はやつれたような表情で答える。
確かに、昨日奏子の突然の告白に動揺していた飛鳥は、
皿は割るわ、カップから紅茶を溢れさせて床をボトボトにするわ、
レジ操作を誤って1000円以上の現金差異を出すわで、
店長にかなりこっぴどく怒られたのだが、響子に相談に来たのはその事ではない。
「…今度、2人っきりで相談があるんだけど」
「2人っきりで?……ははーん、なるほどね」
勘の良い響子は、ニヤリと笑う。
:10/04/30 20:34
:N08A3
:ue2rV2uc
#107 [我輩は匿名である]
「恋の話ね」
「えっ…!?わかんない。でも、多分そーゆーの」
「じゃあ僕も一緒に♪」
2人の隣に、急に良介が割り込んできた。
「あんたはどうでもいいから、消え失せてくれる?」
「残念ながら、君みたいに背の高いバカそうな女には興味ないよ」
良介は飛鳥に目もくれず、響子と向き合う。
「ねぇ響子ちゃん、僕は絶対、1位を守りぬくからね!」
:10/04/30 20:34
:N08A3
:ue2rV2uc
#108 [我輩は匿名である]
「…え?薫が断りに来たでしょ?」
響子は眉をひそめて確かめる。
「来たけど、女々しい事言うから、追い返したよ」
良介は笑顔で言い張る。
「女々しい?薫が何言ったのよ」
響子もさすがにムッとして言い返す。
「“勝負降りる”って。自信無くしたんじゃない?
あんなに張り切ってのってきたのに、あっさり僕に負けちゃったんだもんね」
良介は呆れたように、「やれやれ」と首を振る。
:10/04/30 20:35
:N08A3
:ue2rV2uc
#109 [我輩は匿名である]
「お前なぁ」
響子の代わりに、飛鳥が良介を睨む。
「調子に乗るのもいい加減にしろよ。お前みたいな新入りに、こいつらの何がわかるんだよ?」
「じゃあ聞くけどさ、君たちに僕の何がわかるわけ?」
良介も負けじと言い返してくる。
「僕は元々勉強なんか好きじゃない。
でも、響子ちゃんが“格好よくて、頭が良い、優しい人”が好きだって言ったから、
僕はそれを目指して今まで頑張ってきたんだ。
邪魔をしてる新入りは、あいつの方だろ?」
響子はそれを聞いて、昔そんな事を言ったのを思い出した。
:10/04/30 20:35
:N08A3
:ue2rV2uc
#110 [我輩は匿名である]
「だから、僕は絶対、あいつから君を取り戻すよ。
あんなクールぶってる奴、君には似合わないからね」
そう吐き捨てて、良介は背中を向けた。
「…マジでムカつく」
飛鳥は苛立ったように、彼の背中をにらみつける。
響子は暗い顔でため息を吐く。
「(……私が…あの時ちゃんと断ってたら…)」
「…響子?」
:10/04/30 20:36
:N08A3
:ue2rV2uc
#111 [我輩は匿名である]
飛鳥に声をかけられ、響子はハッと顔を上げる。
「…ごめん、ボーッとしてた」
「…まぁ気持ちはわかるけどさ」
飛鳥も呆れて息をつく。
「…あ、そうだ。どうせなら、どっかでご飯かお茶かしながら話さない?
ちょうど明日土曜だし。…バイト入ってる?」
「ううん。大丈夫」
:10/04/30 20:36
:N08A3
:ue2rV2uc
#112 [我輩は匿名である]
「じゃあ明日、飛鳥ちゃんがバイトしてるカフェ行こ♪」
「何でそうなるの!?」
「だって、1回行ってみたかったんだもん。じゃあ決まりね」
響子はにっこり笑う。
「(…まぁ、社割あるから、いっか)」
飛鳥は特に深く考えないまま、「しょうがないなぁ」と頷いた。
:10/04/30 20:38
:N08A3
:ue2rV2uc
#113 [我輩は匿名である]
次の日。
飛鳥は響子と共に、バイト先のカフェにやってきた。
「おう神崎」
入るなり、店長が飛鳥に話しかけてきた。
「売り上げのために、全ケーキ食って帰れよ!」
「無理ですよ。そんな金あったらケータイ契約しに行きます」
飛鳥は顔を引きつらせて言い返しながら、適当な席に座る。
「そっか、飛鳥ちゃん、ケータイ持ってないんだっけ」
「うん、仲悪い親に出してもらうの、嫌だしね。自分で稼いでから買おうかなぁと思って」
飛鳥は苦笑して言った。
:10/05/01 20:21
:N08A3
:/1yPoZ8g
#114 [我輩は匿名である]
そういうところは頑固な飛鳥に、響子も笑い返す。
「とりあえず、何か頼もっか」
「うん」
飛鳥は響子にメニューを開いて渡す。
「飛鳥ちゃん、見なくていいの?」
「いいよ、大体覚えてるから」
「『大体』じゃなくて、『完璧に』覚えてほしいわね」
飛鳥の先輩の女性が、そう言いながらお冷やを持ってきた。
「すいません…」
飛鳥は口を尖らせる。
:10/05/01 20:21
:N08A3
:/1yPoZ8g
#115 [我輩は匿名である]
「メニューはお決まりですか?」
先輩は響子に愛想良く尋ねる。
「えっ、えーっと…」
響子は少し慌ててメニューを見る。
「あっ、私はとりあえずカプチーノで」
「自分で注いで来な」
「えぇっ!?」
嫌味ったらしく笑う先輩に、飛鳥は変な声を上げる。
「あの…私はアイスミルクティー下さい」
:10/05/01 20:21
:N08A3
:/1yPoZ8g
#116 [我輩は匿名である]
「はいかしこまりましたー
先輩はにっこり笑って、キッチンの方へと下がっていった。
「意外と、いじられキャラなんだね」
響子は楽しそうに笑って、向かい合っている飛鳥に言う。
「…何かわかんないけど、そうなのかな」
「ははっ、いいじゃない。いじられキャラは、愛されキャラみたいな物よ」
響子はテーブルに両肘をつく。
飛鳥は「そうかなぁ」と首をひねる。
「ところで、私に相談って、何?」
:10/05/01 20:22
:N08A3
:/1yPoZ8g
#117 [我輩は匿名である]
響子は話を変え、本題に入る。
すると、急に飛鳥の顔が暗くなった。
「………何から話せばいいんだろ…?」
飛鳥は腕を組んで考える。
『奏子が直人を好きだ』なんて勝手に話すと、余計にこじれるかもしれない。
「…飛鳥ちゃんは、水無月君が好き?」
響子は先に、そう飛鳥に尋ねた。
飛鳥は「えっ!?」と、勝手に下向いていた頭を上げる。
:10/05/01 20:22
:N08A3
:/1yPoZ8g
#118 [我輩は匿名である]
「やっぱりそういう事か」
響子はにっこり笑う。
「……んー、…わかんない」
飛鳥ははっきりしない顔で答える。
「でも、…他の子が『水無月が好きかも』とか言ってるの聞いたら…何かモヤモヤしてきて…」
「……じゃあ飛鳥ちゃんは、水無月くんの事どう思う?」
響子は優しい表情で、質問を変える。
:10/05/01 20:23
:N08A3
:/1yPoZ8g
#119 [我輩は匿名である]
飛鳥は少し顔を上げる。
「……いい奴だと、思ってる」
何て言えばいいのかわからなくて、飛鳥はとりあえずそこから始めた。
「…私、高校入ってから、誰とも喋った事なくて……高校入る前からだけど。
でもなんか、あいつとは何も考えずに喋れて、なんか楽しくて…。
本を読み終わって、私がまた自殺しそうになったの、怪我してでも止めてくれた」
ちょっとずつ気持ちが整理できてきたのか、飛鳥の口調がスムーズになってきた。
響子も何も言わずに、その話に耳を傾けている。
:10/05/01 20:23
:N08A3
:/1yPoZ8g
#120 [我輩は匿名である]
「それから…私が『親を見返してやるんだ』って思えるようになったら、
笑って『頑張れ』って言ってくれるし、
この間も、奏子のおばあちゃんが道で困ってたら、すぐ『手伝ってやるよ』って言って…。
あいつバカで能天気だけど、私は…そういう優しい所が、す…」
飛鳥はそこまで言って、顔を赤くして黙り込んだ。
「…考えまとまったね」
「…なんか、楽しそうな話してるわね♪」
響子だけでなく、たまたま注文の物を持ってきた先輩まで笑っている。
:10/05/01 20:24
:N08A3
:/1yPoZ8g
#121 [我輩は匿名である]
飛鳥は余計に恥ずかしくなって下を向く。
「いや、でも、そういう『好き』じゃないかも…」
「どっちにしろ同じよ」
響子と先輩が声をそろえて答える。
「あら、あんたなかなかわかってるじゃない♪」
「ありがとうございます♪」
「(何なんだこの2人…)」
気が合って笑い合う2人を、飛鳥は呆れ気味に見つめる。
「ちょっと神崎、今度私にもその話聞かせてよね」
:10/05/01 20:24
:N08A3
:/1yPoZ8g
#122 [我輩は匿名である]
「さぁどうでしょうね」
擦り寄ってくる先輩を、飛鳥はめんどくさそうな顔で押し返す。
先輩はテーブルにカプチーノとミルクティーを置いて、「ごゆっくりどうぞ」と言って立ち去った。
「(…話できるわけないじゃん…。話が広がったら、奏子がどう言うか…)」
飛鳥はまた鬱陶しそうにため息をつく。
「…他には誰も、その話してないの?」
「うん、他にできる人いないし…」
飛鳥はまた、苦笑して答えた。
響子は鋭い目付きで考える。
:10/05/02 17:30
:N08A3
:Xl0SkL1s
#123 [我輩は匿名である]
奏子に相談を乗ってもらう事も出来た。先輩にも出来たはずだ。
しかし、「他に出来る人がいない」と言う。
つまり。
「…水無月くんが好きだって言ったの、奏子ちゃんじゃない?」
響子は、他の席にも聞こえない程小さな声で言った。
思わず、飛鳥は目を丸くして響子を見る。
「……何で……」
:10/05/02 17:30
:N08A3
:Xl0SkL1s
#124 [我輩は匿名である]
「相談出来る人が私だけって、おかしいなぁと思って。
水無月くんに出来ないのは当たり前だし、薫はそんな相談を受ける柄じゃない。
…まぁあれでも、相談されれば乗るんだけど。
奏子ちゃんもいるのに、あの子には出来ないって事でしょ?
先輩に出来ないのは、誰かが口を滑らせて奏子ちゃんに知られると面倒だから。
……どう?合ってるでしょ?」
響子は自信満々に笑ってみせる。
「…探偵になればいいと思うよ」
全て図星をつかれ、飛鳥はただ茫然とする。
:10/05/02 17:31
:N08A3
:Xl0SkL1s
#125 [我輩は匿名である]
「まぁ、あれよね。飛鳥ちゃんと水無月くんには、本の事もあるしね」
「…うん…。最初はそうだったけど…でも、なんか違うっていうか…。
なんかね、要は、もっと穏やかで、おとなしい感じだったんだ。
だから、水無月とはタイプも全然違うし…。
私も結構性格変わってるし、本の事は…そこまで深く考えてないかなぁ…」
「そっか。…私達も同じだよ」
響子は小さく笑う。
:10/05/02 17:31
:N08A3
:Xl0SkL1s
#126 [我輩は匿名である]
「やっぱり、みんな本とは変わってくるのかな。
私はもっと背も小さかったし、もっと大人しかった。
薫……は、あんまり変わらないかな?強いて言うなら、もうちょっと穏やかで、煙草吸ってたぐらい?」
「そうなの?」
「だから、あんな癌になったのよ」
響子はふぅっとため息をつく。
「意外でしょ?今なら絶対吸わなそうにしてるのに。
薫……優也は、煙草と関連が深い癌だった。
だからもう2度と吸わないでしょうね」
響子は優しく笑う。
:10/05/02 17:31
:N08A3
:Xl0SkL1s
#127 [我輩は匿名である]
「優也はあんなにクールじゃなかったのよ?
薫はにっこり笑う事なんかないけど、優也はいつもニコニコしてた」
「(…また惚気だした…)」
そう思ったが、急に響子の表情が変わった。
「……はぁ…私もどうしたらいいんだろ……」
「……あのアメリカン?」
響子は頷く。
しかし、飛鳥には不思議でならなかった。
「でも、何でそんなに悩むの?響子も月城も、そんなてこずる相手じゃないんじゃ…」
:10/05/02 17:32
:N08A3
:Xl0SkL1s
#128 [我輩は匿名である]
「てこずるのよ、ああいうタイプが1番ね」
響子は肩肘をつく。
「まともに話が通じる相手なら、薫もガン飛ばして一言二言言えば終わるのよ。
でも、りょう……桐生くんはそうじゃない。どこであんな性格になったのかわかんないけど……」
響子は大きくため息をつく。
「……そうだね、この間月城がガン飛ばしても、全く効かなかったもんね」
「私があの時ちゃんと聞き直して、断っとけば良かったのよ…」
話しているうちに、どんどん響子の表情が暗くなっていく。
:10/05/02 17:33
:N08A3
:Xl0SkL1s
#129 [我輩は匿名である]
「いや…そんなちっこい時の事にすがってる奴に、気を遣う事はないと思うけど…」
飛鳥は自分で出来る精一杯の慰めを言う。
「うん…」
「だって、響子は月城が好きなんでしょ?だったら無視すればいいんだよ。
私だって、テストの順位なんかで彼氏とか決めるの、おかしいと思う」
飛鳥はきっぱりと言い切った。
「…そうなのよね…」
響子はまだ浮かない顔をして頷いた。
:10/05/02 17:33
:N08A3
:Xl0SkL1s
#130 [我輩は匿名である]
すると、飛鳥もまた、同じような表情でうつむき、こう切り出した。
「……私さ、本の事、まだ奏子に言えてないんだ」
響子は顔を上げ、また耳を傾ける。
「言おう言おうって思うんだけど、要との事…知られたくないんだ。
何でかわかんないけど…何か、自分の中だけに置いときたい気がして…」
「…そうね、奏子ちゃんが水無月君を好きなら、なおさらね」
響子は小さく笑う。
:10/05/03 17:27
:N08A3
:MyOPNZOQ
#131 [我輩は匿名である]
しかし、飛鳥の表情はまだ晴れない。
「……でも、隠しとくのもモヤモヤするっていうか…」
「…友達だから?」
「…うん」
飛鳥は小さく頷く。
「でも…友達でも、話したくない事はいくらでもあるよ」
あっさり言う響子に、飛鳥は思わず顔を上げる。
「…響子も?」
「そりゃあるよ。私だって、いちいち薫とチューしただの寝ただの、みんなに言いたくないし」
響子は当然のように言い放って、ミルクティーを一口飲む。
:10/05/03 17:36
:N08A3
:MyOPNZOQ
#132 [我輩は匿名である]
「ま、まぁそうだけど…」
飛鳥はしぶしぶ頷く。
「誰にでもねぇ、自分の中だけに留めておきたい事ってあるのよ。
飛鳥ちゃんが思ってる事、私は普通の事だと思うけどな」
さすが、前世で大人だっただけのことはある。
響子は優しい笑顔で、飛鳥を諭す。
「…そう、かな」
飛鳥もちょっとホッとしたように笑い返す。
:10/05/03 17:44
:N08A3
:MyOPNZOQ
#133 [我輩は匿名である]
「じゃあ私はばれないように、奏子ちゃんの前で本の話はしないように気をつけるわ。
薫にも言っとくし。…まぁ、自分からそんな事話はしないだろうけどね」
「え?ごめんね、なんか気遣ってもらっちゃって…」
「いいよ、そんなの」
響子はまた笑う。
「…前の話を知ってるからかもしれないけど」
そう言いながら、響子はテーブルに両肘をつく。
:10/05/03 17:49
:N08A3
:MyOPNZOQ
#134 [我輩は匿名である]
「私は、水無月くんには飛鳥ちゃんとくっついてほしいと思ってる。
…確かに見た感じ、奏子ちゃんと水無月くんは息が合ってるようには見えるけど、
飛鳥ちゃんといる時の水無月と奏子ちゃんといる時の水無月くん、明らかに態度が違う。
奏子ちゃんとなら、普通の友達って雰囲気な感じがするの。
…だから、そんなに悩まないで、自信持っていいと思うよ」
「…………うん」
響子の話を聞いて、飛鳥は大きく頷く。
それを見て安心したように、響子はまた笑った。
:10/05/03 17:57
:N08A3
:MyOPNZOQ
#135 [我輩は匿名である]
「頑張ってね。また何かあったら、いつでも聞くから」
「うん、ありがとう」
飛鳥は悩みから吹っ切れたように笑い返す。
「(ただ、相手がちょっと手強いけどね)」
明るくなった飛鳥の表情を見ながら、響子は心の中で呟いた。
:10/05/03 17:59
:N08A3
:MyOPNZOQ
#136 [我輩は匿名である]
直人は眠そうな顔で、目の前にいる奏子を見つめる。
まだ時計は8時10分。
「早く来過ぎたかな」と思っていると、満面の笑顔の奏子がやってきたのだ。
「……何か用…?」
「あんたにお礼持ってきたの♪」
「お礼…?…俺なんかしたっけ…?」
直人は欠伸をしながら聞き返す。
「この間、おばあちゃんの荷物持ってくれたじゃん」
:10/05/05 18:04
:N08A3
:7fNci.3Y
#137 [我輩は匿名である]
「…………あーぁ!あれか!」
思い出すのに時間がかかったが、直人は「あぁ、そういえば手伝ったなぁ」と頷く。
「はい♪」
奏子は笑って、数枚のクッキーが入った可愛らしい袋を、直人の机に置いた。
「えっ、何これ?わざわざあのお姉…いや、ばあちゃん焼いてくれたのか?」
直人は思いもよらぬプレゼントに目を輝かせる。
「残念ながら、それ私が焼いたの」
奏子はちょっと自慢げに笑う。
「えっ?これお前が焼いたのか!?すげー!」
:10/05/05 18:05
:N08A3
:7fNci.3Y
#138 [我輩は匿名である]
直人は尊敬の眼差しを奏子に送る。
「…今食べても良いかなぁ?」
「いいじゃん、食べちゃいなよ」
「だよな!じゃあ頂きまーす」
直人は袋を開け、丸くて茶色いクッキーを口に放り込む。
ボリボリ言わせて噛んでいる直人を、奏子も少しドキドキして見つめる。
「………どう?」
「…ん!うまい!!」
直人は意外そうに言いながら、右手でOKサインを出す。
「やったー♪私、クッキーだけは得意なんだ〜」
:10/05/05 18:05
:N08A3
:7fNci.3Y
#139 [我輩は匿名である]
奏子も嬉しそうに笑う。
「へぇ!意外と料理とか出来るんだな、お前」
直人は言いながら、なぜかもう袋を閉じる。
「えっ?もう食べないの?」
「もったいないから、昼休みに食う!結構あるし、薫にもちょっとやろうと思って」
直人は満足そうに笑って、袋の口を紐で締め直して、大事そうに鞄に入れる。
「(1人で全部食べてほしかったのになぁ…)」
逆に、奏子は少し残念そうに直人の動作を見る。
「ところでさぁ、何でおばあちゃんの事、『お姉さん』って呼びかけたの?」
:10/05/05 18:05
:N08A3
:7fNci.3Y
#140 [我輩は匿名である]
「え?あぁ…」
言って良いものか、と、直人は目線をそらす。
「もしかして、おばあちゃんの事知ってるの?」
奏子は少し近づく。
「……いや、口が勝手に言っただけ…」
「本当に〜?」
直人は上手く誤魔化せず、しばらく悩んだ末、大きくため息を吐いた。
「…前世の俺が、会ったことがあるんだよ、多分」
そう白状するしかなかった。
:10/05/05 18:06
:N08A3
:7fNci.3Y
#141 [我輩は匿名である]
「そうなの!?なんかすごい!」
奏子は楽しそうに声を上げる。
「じゃあ、おばあちゃんが言ってた道案内したのって、やっぱあんたなの?」
「…まぁな…」
「そうなんだぁ!あんた、意外と優しいとこあるよね」
「そ、そうかぁ?」
褒められると調子に乗る直人は、照れるように笑う。
「でもなんか、飛鳥も知ってそうだったよね、おばあちゃんの事」
奏子は笑顔で話を続ける。
「…いや、あいつは多分会ったことないぞ。俺があのばあちゃんからの話を聞かせただけで」
:10/05/05 18:06
:N08A3
:7fNci.3Y
#142 [我輩は匿名である]
「おばあちゃん、あんたに何か言ったの?」
「だから、俺じゃなくて、前世の俺」
直人はそこに念を押す。
「何か言ったって、この間のあれだぞ?友達作りたいなら、壁を作るなって話。
あれを伝えてやろうと思ってたんだけどさ、なかなか…」
「伝えてやるって、飛鳥に?」
「前世のあいつに」
直人はしつこく、『前世の』にアクセントをつける。
奏子は驚きつつ、「やっぱりな」と思った。
「じゃあ、水無月と飛鳥って、前世から知り合いだったんだ?」
:10/05/05 18:06
:N08A3
:7fNci.3Y
#143 [我輩は匿名である]
「…まぁ…そうだな、知り合いだな」
言ってみれば恋人同士か、最低でも友達以上恋人未満ってところだろう。
しかし、そこまで説明するのはめんどくさい。
「…ん?じゃあ、飛鳥も本もらってたりすんの?」
奏子は首をかしげる。
「なんか、もらったって言ってた気がするけど?」
直人はめんどくさくなってきて、言い方が適当になってきた。
「そうなんだ!なんかすごいねー!じゃあ…」
:10/05/05 18:07
:N08A3
:7fNci.3Y
#144 [我輩は匿名である]
「おはよう」
いつの間にか、8時15分を過ぎていて、飛鳥がやってきた。
「よぉ」
「あっ、飛鳥に渡すものがあるの!」
奏子は立ち上がって、さっき直人にあげたクッキーを差し出す。
「クッキーだ」
「この間、おばあちゃん助けてくれたでしょ?そのお礼♪」
「えっ?いいよ、荷物運んだだけだし、お礼なんか…」
飛鳥は両手を左右に振る。
:10/05/05 18:07
:N08A3
:7fNci.3Y
#145 [我輩は匿名である]
「いいのいいの。はい!」
奏子は笑って、飛鳥の手にクッキーを置いた。
「…ありがとう」
飛鳥は小さく笑って、それを受け取る。
「あっ、じゃあ用も済んだし、私教室にかーえろ♪じゃあまた後でねー」
奏子はそのまま、教室を出ていった。
「何だったんだ…?」
「おいしそうなクッキーだね。あのおばあちゃんが焼いてくれたのかな?」
飛鳥は嬉しそうに、クッキーの入った袋を見つめている。
:10/05/05 18:08
:N08A3
:7fNci.3Y
#146 [我輩は匿名である]
「いや、安斎が焼いたらしいぞ」
「そうなの?へぇ、すごいな」
「お前、料理出来ないんだっけ?」
「やれば出来ると思うよ。施設にいた時は、よくご飯の手伝いしてたから」
「へぇ、意外」
「そう?…まぁ、今は家で作る事ないし、作ろうとも思わないしな…」
飛鳥はふぅっと息をつく。
「じゃあ、なんか作ってきた時は、俺が毒味してやるよ」
:10/05/05 18:08
:N08A3
:7fNci.3Y
#147 [我輩は匿名である]
「はあ?私の腕前なめないでよね」
飛鳥は腕を組んで言い返す。
そんな2人の会話を、廊下で窓にもたれ掛かって、奏子が聞いていた。
「(やっぱり、あの2人…なんかあるんだ…)」
「安斎?」
すぐ後ろで声がして、奏子は素早く振り返る。
:10/05/05 18:08
:N08A3
:7fNci.3Y
#148 [我輩は匿名である]
そこには、登校してきたばかりの薫が立っていた。
「月城くん…」
「何してるんだ?朝っぱらから」
薫は少し首を傾ける。
「ううん、何にもない。じゃあね」
奏子は無理に笑顔を作って、小走りで4組に戻っていった。
「…隠さなくても、知ってるのにね」
薫の後ろにいた響子が、くすっと笑う。
「…お前の言ってた事、本当だったんだな」
「予想だけどね」
2人は小さく笑い合った。
:10/05/05 18:09
:N08A3
:7fNci.3Y
#149 [我輩は匿名である]
直人は、薫が掃除を終えるのを、階段に座って、1人ぼけーっと待っていた。
奏子と飛鳥はバイトが、響子も今日は用事がある為、それぞれ先に帰っている。
「(…そういえば、神崎とここで喋った事もあったなぁ…)」
直人はあの時の事を思い出す。
親と話していないとか、そういう話をしたのがここだった。
「(懐かしいな…もう半年近く経つんだなぁ…)」
そんな事を考えていると、あの時のように、目の前を良介が通りかかった。
:10/05/06 20:17
:N08A3
:6Ieh1kRI
#150 [我輩は匿名である]
「あっ!そこのアメリカかぶれ!」
直人は思わず呼び止める。
“アメリカ”という言葉に足を止め、良介がこっちを見る。
「…誰?君」
ちょっと近寄りながら、良介が首をひねる。
「月城薫の友達だよ!」
「俺そんなに存在感ないか」と思いながら、直人は怒鳴る。
「あぁ、あの負け犬くんの」
「負け犬言うな!」
どこまでもマイペースで、思った事を口にする良介に、直人は何度も声を荒げる。
:10/05/06 20:17
:N08A3
:6Ieh1kRI
#151 [我輩は匿名である]
「お前、あんまり薫の邪魔すんなよな!」
「邪魔してるのはあっちだろ!」
良介もムスッとして言い返す。
直人は腰に右手をあてて、じーっと良介を見る。
「……お前さぁ、香月のどこが好きなわけ?」
直人はそもそも、そこから聞きたかった。
「僕?響子ちゃんの全てに決まってるじゃないか!」
「はぁ!?全てが好きとか、適当に言ってんだろ!」
「適当?失礼な!君は人を好きになった事無いのか?」
「気持ち悪いから『君』っていうな!俺は水無月直人!み・な・づ・き・な・お・と!」
:10/05/06 20:17
:N08A3
:6Ieh1kRI
#152 [我輩は匿名である]
直人は鳥肌が立ったのか、上腕をさすりながら名乗る。
「水無月?6月の事か!」
「ま、まぁそうだよ、6月の水無月」
「ふむ。じゃあ水無月、君は人を好きになった事は…」
「だから!『君』ゆーな!気持ち悪いから!」
「はっはっは!水無月は面白いな。天然か」
「天然はお前だろアホぉ!!」
直人は勢いで立ち上がる。
ここまでくれば、日本語の意味がわかっているのか不安になってくる。
:10/05/06 20:18
:N08A3
:6Ieh1kRI
#153 [我輩は匿名である]
「俺だってなぁ!好きな奴ぐらいいるんだよ!」
直人はそう言い切った。
「じゃあ水無月は、その子のどこが好きなんだ?」
「俺は…」
勢いで話を進めたため、少し悩む。
しかし、自然と頭に飛鳥が思い浮かんだ。
「…俺は、特に、頑張り屋な所、かな」
「頑張り屋?」
「そう、頑張り屋なんだ。…ある人を見返す為に、今一生懸命頑張ってるんだ。
俺はそこが好きなんだ、多分。だから、心の底から応援してるんだ」
:10/05/06 20:18
:N08A3
:6Ieh1kRI
#154 [我輩は匿名である]
言ってしまった。直人は言ってから、とても恥ずかしくなった。
本当なのかわからなくて、何だか飛鳥に申し訳なく思う。
「…………それって…」
良介は何故か、ものすごく気持ち悪そうな顔で直人を見る。
「な、何だよその目は」
「だってぇ…水無月の好きな人って…」
直人は「バレてるのかな」と、少しドキドキする。
「月城だろ…?」
:10/05/06 20:19
:N08A3
:6Ieh1kRI
#155 [我輩は匿名である]
「俺にそんな趣味ないわぁー!!」
直人は今日1番の大声を出した。
おまけに、その声に重なって、どこかから薫の声もした。
「だって、見返すって僕の事だろ?」
そう言っている良介の後ろを見てみると、柱の影から薫が出て来ている。
「薫!」
「月城!盗み聞きかっ!けしからん奴だ!」
良介はむすっと腕を組んで薫を睨む。
「あのなぁ!俺が好きなのは女だよ!ちゃんとした女!わかったか!?」
「あぁ、どうでも良くなった」
:10/05/06 20:19
:N08A3
:6Ieh1kRI
#156 [我輩は匿名である]
「何だとー!?」
良介はどうでもよさそうに適当にあしらって、薫と向き合う。
「それより月城、お前は響子ちゃんのどこが好きなんだ?」
「はぁ…?」
いつも唐突に物を聞いてくる良介に、薫は首をかしげる。
「俺は…そうだな、笑った顔が好きだな」
薫は小さく笑って答えた。
直人も良介も、黙って薫を見つめる。
「…な、何だよ。俺変な事言ったか?」
「いや、なんか意外な答えだったなぁ…と思って」
:10/05/06 20:19
:N08A3
:6Ieh1kRI
#157 [我輩は匿名である]
「……“全部”って答えは、おかしいのか?」
良介は納得できなそうに考える。
「…まぁいいんじゃないか?どこが好きかなんて、人それぞれだろ」
薫は少し面倒くさそうに言ってやる。
「そうか!そうだな!お前もたまには良い事言うな!でも響子ちゃんは俺がもらうからな!」
良介はそう言って、笑いながら帰っていった。
嵐が去って、2人は大きくため息を吐く。
まぁ、直人が呼び止めたのが悪かったのだが。
「…つーか、お前いつからいたんだよ?」
:10/05/06 20:20
:N08A3
:6Ieh1kRI
#158 [我輩は匿名である]
「『俺だって好きな女ぐらいいるんだよ!』みたいなのが聞こえてから。
なんか出ていくタイミングが掴めなくて、待ってたんだ」
薫は少し呆れ笑いする。
「何だよ…」
直人はだらんとうなだれる。
「さ、帰るか」
「ん」
2人はそう言って帰りはじめた。
:10/05/06 20:20
:N08A3
:6Ieh1kRI
#159 [我輩は匿名である]
「あのアメリカン、…うぜぇけど、なんか憎めない奴だよな。…うぜぇけど」
階段を下りながら、直人は言った。
「何で2回言ったんだ」
「とりあえずうぜぇから」
直人は良介とのやり取りを思い出して、顔を引きつらせて笑う。
そう言われて、薫も「確かに…」と頷く。
「…そうなんだよなぁ…。根本から嫌な奴なら、ぶん殴ってでも黙らせるのに。
…あいつ相手だと、そんな気も失せてくるんだよなぁ…」
薫は不満そうに言う。
「…で、お前どうするんだよ?結局点数バトル続けんの?」
:10/05/06 20:21
:N08A3
:6Ieh1kRI
#160 [我輩は匿名である]
「……そう、なりそうだな…。
この間の金曜日に、響子と神崎が釘を刺そうとしたらしいけど、ダメだったらしいし」
「…何で神崎まで?」
直人に言われて、薫は内心「しまった」とドキッとした。
『昨日ね、飛鳥ちゃんとお茶しに行ったの。
それで、一昨日その約束してたら、桐生くんが割り込んできたから、一言言おうと思ったんだけど…。
ダメだった。あの子いつからあんなマイペースになったんだろ…』
昨日の日曜日、家に遊びに来た響子が薫に話してくれた。
その時に、飛鳥と奏子が直人に気があるらしい事も聞いたのだった。
:10/05/06 20:21
:N08A3
:6Ieh1kRI
#161 [我輩は匿名である]
「(…危ねぇ…口滑らす所だった…)」
例え「遊びに行った」とだけ言っても、「安斎は?」と聞かれたらアウトだ。
「薫?」
靴箱まで来て、白と黒のスニーカーを持つ手を止めて考え込んでいた薫に、直人が声をかける。
「え?あぁ…何か、たまたま神崎がクラスに遊びに来てたからって言ってたけど」
薫は適当に誤魔化す。
「あぁ、あいつ、いつも4組で弁当食ってるもんな」
単純な直人は、薫の適当な話を鵜呑みにして、赤と黒のスニーカーに履き替える。
「(こいつ…素直というか、単純というか…)」
薫は羨ましそうな、呆れたような眼差しで直人を見る。
:10/05/06 20:22
:N08A3
:6Ieh1kRI
#162 [我輩は匿名である]
「…さっき言ってたの、やっぱり神崎の事なのか?」
薫も靴を履き替えながら、直人に尋ねた。
「…んー、なんか、そういう話してたら、神崎が思い浮かんでさ」
「…そうか」
薫は口元に指をあてながら考える。
「…でもな、本当に好きなのかどうか、わかんねぇんだよ、まだ」
直人は少し不安そうに言う。
「確かに、あいつの頑張り屋な所は好きだし、応援してやりたいっていつも思ってるけど。
だって俺、まだそんな…誰か好きになった事ないしさぁ…」
直人は歩きながら、ガシガシと頭を掻く。
:10/05/06 20:22
:N08A3
:6Ieh1kRI
#163 [我輩は匿名である]
「…まぁ、最初はそんなもんだろ」
「お前もそうだったのか?てか、お前の場合いつの話だよ」
「もう50年近く前のことだな」
薫は笑いながら答える。
「初恋はそうだったな。なーか気になるっていうか…」
「そうそう、そんな感じ!……ん?初恋『は』?じゃあ前の香月には?」
「一目惚れだよ、俺の」
薫はきっぱり断言した。
「そうだったのか!?どこに惚れたんだよ?」
「顔と身長」
:10/05/06 20:22
:N08A3
:6Ieh1kRI
#164 [我輩は匿名である]
「身長…?」
直人は「何で?」と首をかしげる。
「何かな、可愛かったんだよ、ちっこくて。
俺175、6pあったけど、今日子は150pなかったぐらい?
よしよししやすい身長だったな」
珍しく、薫の顔が全体的に緩んでいる。
「…お前、惚気だすと止まらなくなるよな」
「たまには惚気させてくれよ」
「まぁいいけどよ…」
:10/05/06 20:23
:N08A3
:6Ieh1kRI
#165 [我輩は匿名である]
「彼女が出来たら、直人も絶対惚気ると思うぞ」
そう言われても、自分が惚気る姿なんて全く想像出来ない。
直人は「そうかなぁ…?」と腕を組んだ。
:10/05/06 20:23
:N08A3
:6Ieh1kRI
#166 [ま]
:10/05/07 01:45
:P04A
:6S1BPj46
#167 [我輩は匿名である]
ホームルームの時間。
「今日は球技大会の競技を決定したいと思いまーす」
体育委員達が前に出て仕切っている。
「こんな時期に球技大会なんかあるのか!」
体育系の直人は、早くもテンションが上がる。
女子と男子が、それぞれ教室の前後に分かれていく。
「こんな時期に球技大会なんかするんだな」
薫も同じように思っていたらしい。
壁にもたれて腕を組んでいる。
「あれか?スポーツの秋だからか?
運動会は何故か1学期だったしな」
:10/05/08 22:43
:N08A3
:BuSWAh76
#168 [我輩は匿名である]
言いながら、直人は楽しそうに笑っている。
「薫、お前何出る?」
直人は早速薫に尋ねる。
壁にもたれながら、薫は首をひねる。
「…何があるんだっけ?」
「えっとなぁ」
黒板に貼られた紙を見ると、男子は野球とドッヂボールと書かれている。
「野球だな、俺は」
「やっぱそう来るか。うーん…」
:10/05/08 22:44
:N08A3
:BuSWAh76
#169 [我輩は匿名である]
直人はさらに楽しそうに声を上げ、自分も腕を組んで考える。
「…俺、ドッヂがいい!」
「だろうな、お前野球下手だし」
「うるせぇな!」
直人は声を荒げて反論する。
「…お前、昔から野球好きだったよな。何でか知らねぇけど」
「前世の名残じゃないか?」
「名残?」
:10/05/08 22:44
:N08A3
:BuSWAh76
#170 [我輩は匿名である]
「霜月優也は小学校から高校まで野球部だった。
だからまぁ、生まれ変わりの俺が受け継いだんじゃないか?」
「へぇ…」
直人は薫を見ながら頷く。
「…要は…何もなかったなぁ…」
「そう…」
薫が返事をし終わる前に、直人が「あ!」と声を上げた。
「何だよ」
「お前、またバトルしようぜ、とか言われるんじゃね?」
:10/05/08 22:45
:N08A3
:BuSWAh76
#171 [我輩は匿名である]
「………あぁ…」
薫は鬱陶しそうに壁にへばりつく。
「大丈夫だって!俺が手伝ってやるから!」
直人は元気良く笑う。
薫は「あぁ…」と相づちは打ったものの、どこか浮かない表情で考え込み始めた。
:10/05/08 22:45
:N08A3
:BuSWAh76
#172 [我輩は匿名である]
一方、女子たちも順調に事を運んでいた。
女子は男子と違い、ハンドボールとドッヂボールとなっている。
「(…何でバスケでもバレーでもなくて、ドッヂボールなんだろ…?痛々しい…)」
飛鳥は紙を見ながら首をひねる。
「神崎さんは、何がいい?」
女子の体育委員が飛鳥に話し掛ける。
「…私は…」
正直どっちも嫌なのだが、決めなければ話が進まない。
ハンドボールはまだ暑い屋外で走り回らないといけない。
ドッヂボールは走り回らなくていいが、当てられると痛い。
:10/05/10 20:01
:N08A3
:OlQ7CTBQ
#173 [我輩は匿名である]
運動があまり好きではない飛鳥にとっては、究極の選択だった。
「………………ドッ、ヂ、ボール、かな」
しばらく迷った末、飛鳥は無理やりドッヂボールと答えた。
日焼けしないだけマシだと思ったらしい。
「りょーかい♪」
体育委員の女子はにっこり笑って、次々とみんなに聞いていく。
飛鳥は大きくため息を吐く。
「(……あいつは、何出るんだろうな…?)」
飛鳥はそんな事を考えながら、薫と話している直人の背中を見た。
:10/05/10 20:01
:N08A3
:OlQ7CTBQ
#174 [我輩は匿名である]
帰り道。久しぶりに5人一緒に帰る。
「みんな何に出る事になったー?」
奏子が4人に尋ねる。
「俺ドッヂボール!」
「あー、何かそんな感じするね」
奏子が笑っている横で、飛鳥ははぁっとため息をつく。
「神崎、お前は?」
「…私もドッヂボール」
「いいじゃん、ドッヂボール。何でそんなテンション低いんだよ?」
:10/05/10 20:02
:N08A3
:OlQ7CTBQ
#175 [我輩は匿名である]
「スポーツあんまり好きじゃないんだよ」
飛鳥は浮かない顔で答えた。
「ま、野球に比べりゃ簡単だし、楽しめって♪」
「お前がボールをバットに当てられないだけだろ」
『面白くない』と胸を張る直人に、薫は呆れて言い返す。
「薫は?やっぱり野球?」
響子が薫に尋ねる。
「あぁ、野球にした」
「薫らしいね」
「俺の将来の夢は、息子に野球教える事だからな」
:10/05/10 21:10
:N08A3
:OlQ7CTBQ
#176 [我輩は匿名である]
2人が穏やかな表情で笑い合うのを、直人達は黙って見つめる。
「それ息子生まれなかったら終わりじゃね?」
「うるさいな、生むんだよ、息子」
薫は横目で、ニヤニヤ笑っている直人を睨む。
「響子は?」
「私は飛鳥と同じドッヂボール」
「えー、ハンドボール選んだの私だけー!?」
後悔したように奏子が声を上げる。
「暑いのによくやるよ」とでも言いたそうに、飛鳥が奏子を見る。
:10/05/10 21:11
:N08A3
:OlQ7CTBQ
#177 [我輩は匿名である]
「…ケガするなよ」
「大丈夫よ、外野だから」
心配している薫に、響子は明るく笑い返す。
「ねぇ、私も心配してよ」
2人の様子を見て、何故か奏子は直人の肩をたたく。
飛鳥は少しムッとしながら様子をうかがう。
「はぁ?何で俺がお前の心配しなきゃなんねぇんだよ」
直人は嫌そうに手を振り払う。
「ちぇっ、つまんないの」
奏子はふてくされたようにそっぽを向く。
飛鳥は何故か、ホッと胸を撫で下ろす。
:10/05/10 21:11
:N08A3
:OlQ7CTBQ
#178 [我輩は匿名である]
「…ん…?」
薫はたまたま、前の曲がり角から良介が出てくるのを見つけた。
「どうかした?」
「…あれ、アメリカかぶれじゃないか?」
薫が指差す先を、響子たちも見てみる。
「本当だ」
「あいつ、球技大会ではバトル申し込んで来ねぇのかな?」
「忘れてんじゃない?」
直人と奏子は、良介の後ろ姿を見ながら話し合う。
:10/05/10 21:12
:N08A3
:OlQ7CTBQ
#179 [我輩は匿名である]
「……申し込んで来ないと思うよ」
響子が少し呆れたように言う。
「何で?」
「桐生くん、運動音痴だから」
「…え、マジで?」
響子からの意外な話に、4人ともきょとんとする。
そして、直人がニヤリと含み笑いをした。
「じゃあ、こっちから仕掛けてやればいいんじゃね?」
「…はぁ?」
薫は「何で」と顔をしかめる。
:10/05/14 11:48
:N08A3
:oVETaYfQ
#180 [我輩は匿名である]
「だってよ、これで勝っとけば1勝1敗だろ?あいつもでけぇ顔できなくなるぞ?」
「まぁそうだけど…」
むしろ彼の事はどうでもいい薫は、乗り気じゃなさそうに返事をする。
「よし、じゃあちょっくら言って来るわ!」
「えっ、ちょ…」
薫や響子が止める間もなく、直人は良介の所へ走っていってしまった。
:10/05/14 11:48
:N08A3
:oVETaYfQ
#181 [我輩は匿名である]
「おい!アメリカン!」
直人は良介の背中を叩く。
「……あぁ、君か」
「君って言うなって言っただろ」
直人は嫌そうに言い返す。
「それよりお前、球技大会では『バトルしようぜ』とか言ってこないのかよ?」
直人はニヤニヤしながら尋ねる。
それを聞いて、良介はギョッとする。
:10/05/14 11:48
:N08A3
:oVETaYfQ
#182 [我輩は匿名である]
「い、いや…あんまり僕が勝ちすぎると、月城が可哀想だから…」
「そんな気遣いいらねぇって」
直人は良介と肩を組む。
「それともあれか?勝つ自信ないとか?」
その一言に、良介は顔をこわばらせる。
「まっさかなぁー?あんだけ薫を見下してたんだから、運動とか出来ないわけ、ないよなぁ〜?」
「あっ、ああ当たり前だろう!!」
良介は意地を張ったのか、言い返してきた。
「受けてたってやるさ!」
「直人、やめとけ」
:10/05/14 11:49
:N08A3
:oVETaYfQ
#183 [我輩は匿名である]
2人の様子を見兼ねたのか、薫がやってきた。
「な、何だよ?」
「おい桐生、お前が出るのは野球か?ドッヂボールか?」
薫は直人の問いには答えず、良介に尋ねる。
「ド、ドッヂボールだけど…」
「え…」
良介の答えに、直人はきょとんとする。
「…競技が違うのに、どうやって戦うんだ?」
薫は不機嫌そうに直人を睨む。
:10/05/14 11:49
:N08A3
:oVETaYfQ
#184 [我輩は匿名である]
「い、いいのかよ?僕を見返したいんじゃないのか?」
良介は少し不思議そうに言ってくる。
「見返すも何も、どうやって勝負するんだって言ってるんだ。
それに、別に弱点突いて勝ったって、面白くないだろ」
薫はあっさり答える。
「それに、例えそれで勝っても、お前納得しないだろ。
そうなったら余計にめんどくさいから、別にしなくていい。
だからさっさと帰れ」
薫は良介にそれだけ言い、背を向ける。
良介は何か言いたそうだったが、そのまま帰っていった。
:10/05/14 12:41
:N08A3
:oVETaYfQ
#185 [我輩は匿名である]
それに見向きもせず、薫は直人に向き合う。
「お前もこんな事に頭を働かすな」
「だってよー」
直人は小さい子どものように頬を膨らませる。
「いいじゃん別に、ねぇ?」
奏子も直人の肩を持つ。
「お前には関係ないだろ」
「そんな言い方しなくていいじゃん」
「ちょっと、やめなよ2人とも」
ピリピリした空気になり始めた2人を、響子が間に入って止める。
:10/05/14 12:41
:N08A3
:oVETaYfQ
#186 [我輩は匿名である]
「だって…」
「奏子、確かに私達関係ないし…」
飛鳥も困ったように奏子に声をかける。
しかし、奏子はムッとしたように飛鳥をにらみ、走って帰ってしまった。
「(…なんか、睨まれた…?)」
飛鳥は少し不安になる。
「…そんなに気を遣わなくても、あいつの事は気にしてないから」
薫はだいぶイライラしているのか、少しきつく直人に言う。
:10/05/14 12:42
:N08A3
:oVETaYfQ
#187 [我輩は匿名である]
「…悪かったよ」
直人はうつむいたまま謝る。
「…もういいよ」
薫はそれだけ言って、黙って家に向かって歩きだす。
「…ごめんね、2人とも」
代わりに響子が直人達に謝って、薫と帰っていった。
直人と一緒に残された飛鳥は、気まずくなって、黙って直人を見る。
「…俺、そんな変な事したのかな?」
いまいち納得できていないのか、直人は首を傾げる。
:10/05/14 22:09
:N08A3
:oVETaYfQ
#188 [我輩は匿名である]
「…他の人に突っ込まれたくない事なんじゃない?月城にとっては」
飛鳥は静かに直人に言う。
「自分でどうにかしたいっていうか、しなきゃいけないっていうか…。
あいつ結構頑固なとこありそうだし、この間負けた悔しさもあるだろうし…。
アレも鬱陶しい性格してるから、余計イライラしてるんじゃない?」
まるで薫の気持ちを見透かしているかのような飛鳥を、直人はぽかんとして見つめる。
「…よくわかるな、そこまで」
「予想だけどね。でも…何となくわかる気がして」
飛鳥は少し苦笑する。
:10/05/14 22:10
:N08A3
:oVETaYfQ
#189 [我輩は匿名である]
「私でも、親の事とかで首突っ込まれすぎたら腹立つだろうし…」
「えっ?じゃあ俺…」
「いや、あんたは元気付けたりしてくれるだけだから怒ったりしないよ。
相談乗ってくれたりするから、むしろ感謝してるっていうか」
飛鳥は素直に直人に言う。
直人は少し照れて、顔を背ける。
:10/05/14 22:10
:N08A3
:oVETaYfQ
#190 [我輩は匿名である]
「……難しいね、友達って」
さっきの奏子の顔を思い出して、飛鳥はぼそっと呟く。
「…お前も何かあったのか?」
「ん?…いや…」
飛鳥は首を振って、「帰ろ」と言って歩きだす。
直人は飛鳥の様子を気にしながら、一緒に帰っていった。
:10/05/14 22:11
:N08A3
:oVETaYfQ
#191 [我輩は匿名である]
「響子さぁ…」
何日か経った放課後、奏子は響子にこっそりと尋ねた。
「飛鳥と水無月って、どういう関係だったか知ってる?」
「…えっ?」
全く予想外の質問に、響子はドキッとして、鉛筆を回す手を止める。
「ど…どういう事?」
「飛鳥も本持ってる事、響子知ってたでしょ」
奏子は真剣な顔で問いただす。
響子は少しの間黙る。
:10/05/15 13:11
:N08A3
:8G0WEuHs
#192 [我輩は匿名である]
「知ってる」と言っているようなものだが、どう言えば良いのかわからない。
奏子もまだ、響子の言葉を待っている。
「……えぇ知ってたわ」
響子は白状した。
「でも、内容までは知らない」
「…ホントに?」
「本当」
疑ってくる奏子に、響子は断言する。
:10/05/15 13:12
:N08A3
:8G0WEuHs
#193 [我輩は匿名である]
「私たちは、自分の本の中の話しかわからない。
まぁ私は、正確には本をもらった者じゃないけどね。
……何でそんな事聞きたいの?」
響子は小さく含み笑いして聞き返す。
今度は奏子が、目を逸らして口を閉ざす。
「…水無月くんの事、気になってる?」
そう聞かれて、奏子はしぶしぶ頷く。
「…そっか」
響子はそれだけ答えた。
:10/05/15 13:12
:N08A3
:8G0WEuHs
#194 [我輩は匿名である]
「…響子達見てたらさ、私、適わないのかなぁ…とか思っちゃうんだよね」
奏子は暗い顔で言う。
響子は黙って、彼女の話に耳を傾ける。
「本をもらった子は、みんな深いつながりがあるけど、…私には何もない。
多分、飛鳥も水無月の事好きだと思うんだ。
だから、水無月は飛鳥を選ぶんじゃないか…って思ってさ」
奏子の話に、響子は何も言えなかった。
「そんな事ないよ」と言えば、良介の背中を押す事にもなりうる。
今近くに良介はいないが、響子は机に肘をついて考える。
:10/05/15 13:12
:N08A3
:8G0WEuHs
#195 [我輩は匿名である]
「…難しいわね、こういう事を考えだすと」
奏子よりも深刻そうな顔をして、響子はまた鉛筆を回す。
「なーにを考えているんだい?」
響子の背後で声がした。
「誰もあんたの話してないから。どっか行ってくれる?」
響子の後ろにいる良介に、奏子が眉間にしわを寄せて釘を刺す。
しかし、良介は奏子の相手をする気はない。
:10/05/15 18:54
:N08A3
:8G0WEuHs
#196 [我輩は匿名である]
「あのCool Boyの相手をするのが難しいって?
いっその事、そろそろ僕に乗り換えたらどうだい?」
「遠慮しておくわ」
「どうやったらそんな風に聞こえるのか教えてくんない?このクレイジー野郎」
ノリノリな良介に、響子も奏子も冷めた目で言い返す。
「あんたは多分、あのクールボーイには勝てないと思うよ?」
「Why?つーか、君発音下手だね」
「ほっとけよ」
奏子は真顔で言い返す。
:10/05/15 18:54
:N08A3
:8G0WEuHs
#197 [我輩は匿名である]
「あんた、本の都市伝説聞いたことある?」
「都市伝説?あの男、そんなFantasy信じてるのかい?
バカだなぁー。だから僕に勝てな…」
良介が相変わらず自意識過剰な発言を始めた時、
響子の手元から『バキッ』という変な音がした。
見ると、さっきまで彼女の手の中で回っていた鉛筆が、真っ二つに折れている。
「きょ…」
「響子ちゃん…?」
目を疑っている2人をよそに、響子は折れた鉛筆を見下ろす。
:10/05/15 18:55
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#198 [我輩は匿名である]
「……都市伝説、私も信じてるんだけど」
響子は満面の笑みで良介の方を向く。
「えっ?そうなのかい?どんな話?」
良介はコロッと態度を変える。
「(何で今の怖い笑顔を無視できるんだ…?)」
奏子は呆然と良介を見る。
「言わない。話すと長くなるから」
響子はフンと顔を背ける。
:10/05/15 18:55
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#199 [我輩は匿名である]
「えっ!?気になるじゃないか!教えてくれよ!」
良介は顔の前で手を合わせて響子に頼み込む。
「…薫へのライバル心を改めてくれるなら、教えてあげる」
響子は少し挑発するような笑みで答える。
「………じゃあいいや」
良介はあっさり諦めて、何故か早足で教室を出ていった。
「……何なの?あいつ」
奏子は鬱陶しそうにため息をつく。
しかし、響子は黙ったまま、ドアの方を見つめていた。
:10/05/15 18:55
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#200 [我輩は匿名である]
「おい、月城」
良介は薫の目の前で仁王立ちをする。
眼鏡を拭いていた薫は、早くも迷惑そうな顔でそれを見上げる。
「なんだ?お前、目悪いのか?僕は裸眼だぞ」
「だから何だ」
威張る良介に、薫は短く言い返す。
「…また来てるな、あいつ」
「懲りないね…」
直人と飛鳥は窓際で、2人の様子を見つめる。
:10/05/16 12:35
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