記憶を売る本屋 2
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#251 [我輩は匿名である]
そして勢い良く薫がいる方を向いて、こう叫んだ。

「どーせ俺は鈍感だよ!もやし野郎!!」

「やっとわかったか!だったらいきなり殴った事さっさと俺に謝れ!!」

薫もこっちを向いて、大声で返事をする。

「悪かったな!」

「2度と人殴るんじゃねぇぞ!」

「おう!」

⏰:10/05/28 22:04 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#252 [我輩は匿名である]
「(何だこいつら…)」

これだけで仲直りになるのかと、飛鳥は呆れ気味に直人達を見る。

「良かったね、仲直り出来て」

響子はにっこり笑って薫に言う。

それを見て、薫も「あぁ」と、いつものように笑い返した。

⏰:10/05/28 22:04 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#253 [我輩は匿名である]
「…なんかわかんないけど、仲直り出来て良かったね」

「おう!俺達はいつもこんなもんだ」

直人はニッと元気に笑って答える。

飛鳥も笑い返すが、どこか元気がない。

「…あ、ごめん、何だっけ?」

「あぁ…」

飛鳥はどこから話せばいいかわからず、黙り込んでしまった。

どうすればいいか直人もわからず、頭を抱える。

「と、とりあえずさぁ、何で安斎に本の話したくないのか聞いていいか?」

沈黙が耐えきれないタイプの直人は、何とか話を続けようと尋ねてみる。

⏰:10/05/28 22:05 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#254 [我輩は匿名である]
「……わかんない」

「はぁ?」

飛鳥の答えに、直人は間の抜けた声を出す。

「わかんねぇのかよ…」

「えっ、いや、わかるよ?わかってるけど…」

直人の前で答えるような事ではない。飛鳥はそれを考えていた。

「なんか…前世の事を知られたくないっていうか…。自殺したからってのもあるけど…」

もちろん理由はこれよりも深いものがあるが、直人に言うには十分だと思った。

「まぁ、言っちまえばお前の黒歴史だもんな」

⏰:10/05/28 22:05 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#255 [我輩は匿名である]
「黒歴史っていうな!」

もっと良い言い方があるだろうと、飛鳥は思わず言い返す。

「…………昨日さ」

しばらくして、飛鳥はやっと話を始めた。

「弟に嫌味言われて、私…何も言い返せなかったんだ。

『出来損ない』とか、『いじめられて当然』とか言われたけど、

私には…あいつに勝てるものなんか何もないし…」

「はあぁぁ!!?」

飛鳥の話に、直人はキレて声を上げる。

明らかにキレた彼の声に、薫達も驚いて振り返る。

⏰:10/05/28 22:06 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#256 [我輩は匿名である]
「出来損ない!?いじめられて当然!?ふざけんじゃねーぞクソ餓鬼が!!

…でも、俺は何も言い返さなかったお前にも腹が立つ!!」

直人は怒鳴りながら飛鳥を指差す。

「出来損ないだから何だ!?そんな事こっちだってわかってんだよ!!」

「な…っ」

出来損ないだと認められてしまい、飛鳥もカチンときたらしい。

「あんたどっちの味方なんだよ!?」

「てめぇに決まってんだろ!」

直人はきっぱりと言い張った。

その答えに、飛鳥はハッとして口を閉じる。

⏰:10/05/28 22:06 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#257 [我輩は匿名である]
「友達いないわ、人の話は聞かないわ、道路に飛び出すわ、

たった1人の頼れる男が死んだら、後を追って自殺するわ、

ついでに妊婦も道連れにするわ…。

そんな奴が出来損ないじゃなかったら、誰が出来損ないだっつーんだよ!?

俺がいつもお前の世話焼いたりしてんのはなぁ!

お前にもうあんな事してほしくないからだよ!

晶みたいに誰も信じれないまま死んだりしないで、

いろんな奴といっぱい笑ったりして、楽しく生きていてほしいからだよ!!

つーか!こーゆー話、あの時もしただろ!!何回も言わすなアホ!!」

息もつかずに怒鳴り続けて、直人は息を切らす。

⏰:10/05/28 22:07 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#258 [我輩は匿名である]
意外と迫力があった直人の説教に、飛鳥はただただぽかんとする。

同じように、薫と響子もじっと直人の話を聞いていた。

「お…お前…」

直人は若干汗をかきながら話を続ける。

「餓鬼に嫌味言われたぐらいで…何しょげてんだよ…。

今までも散々無視されたり…嫌味言われたらしてたんだろ…。

お前だって、この間まで家族見返すって…張り切ってたじゃねぇか…」

直人の言葉に、飛鳥は少しうつむく。

確かに直人の言う通りだった。

⏰:10/05/28 22:07 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#259 [我輩は匿名である]
「…お前…他に何かあったんじゃねぇのか…?」

一息ついて、直人はまた弁当の中身を口に運びだした。

飛鳥は「うーん…」と、曖昧な返事をする。

奏子とちょっとややこしい事になっているが、直人に言えるはずがない。

「…ちょっとさ、いろいろあって」

「やっぱりまだあったのかよ」

直人は不満そうにため息をつく。

「何だよ?言ってみ」

「……やだ」

「何で」

「……あんたに言えるような話じゃないから」

⏰:10/05/28 22:07 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#260 [我輩は匿名である]
飛鳥は戸惑い気味に答える。

しかし、そういう言い方をされると気になってしまう直人。

「何だよ!気になるじゃねぇか!」と問い詰めてきた。

「言えないっつったら言えないんだよ!」

「何なんだよもう!」

「まぁまぁ落ち着いて」

ポンと肩を叩かれ、直人は「はぁん?」と不機嫌そうに振り向く。

いつの間にか、響子と薫が真後ろにいた。

⏰:10/05/28 22:08 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#261 [我輩は匿名である]
「うわっ、何だよお前ら!」

「そんなに問いつめたら、飛鳥ちゃん可哀相でしょ」

響子は怒ったように直人に言う。

「そんな事言われたって…」

「女の子にはねぇ、男よりもいろいろ大変な悩みがあるの。

それがわかってないと、そのうち嫌われちゃうよ?」

響子に諭され、直人は不服そうに黙る。

「薫はわかんのかよ?そーゆー女心」

「…なんとなーく」

いくら薫でも、そこまではさすがに自信はない。

⏰:10/05/28 22:08 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#262 [我輩は匿名である]
直人は「ふぅん」とだけ返事を返す。

「まぁ、あれだ。ここから先はガールズトークってやつだよ」

薫はその場に腰を下ろしながら言った。

まぁ直人にはわからないだろうけど、と思いながら。

「なんか、女ってめんどくせぇな」

直人は頭の後ろに手を組んでため息をつく。

その横で、響子は飛鳥に耳打ちする。

「何かあったら、いつでも言いなよ。大体は奏子ちゃんの事でしょ?」

「…うん」

「悩みはね、人に話したら大体すっきりするものよ。ね?薫」

⏰:10/05/28 22:09 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#263 [我輩は匿名である]
「ん?あぁ…」

「どう考えても、悩みはため込むタイプだろ、お前」

「……まぁ、どっちかっていうとな」

「だめよ、ため込むだけため込んでると、そのうち…」

「大丈夫だよ、ハゲるまでは悩まないから」

「まだその話引っ張ってんのかよ」

「え、あんたハゲるの?」

「あーあ、クールな性格が台無しだな」

「誰がハゲるって断定したんだ」

好き放題言い出した2人を薫が睨む。

隣では、そのやり取りを見ながら響子が笑っている。

⏰:10/05/28 22:09 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#264 [我輩は匿名である]
「(…………ふぅん…)」

屋上のドアの隙間から、奏子が4人のやりとりを見つめていた。

最初は盗み見するつもりではなかったのだが、

急に直人が飛鳥に向かって怒鳴りだしたため、出ていくタイミングを失ってしまったのだ。

今の4人の会話は遠くて聞き取れないが、怒鳴っていた直人の言葉だけは聞こえていた。

「(……飛鳥の前世…自殺だったって事か…。

しかも、なんか水無月の前世の人と仲良かったみたいだし…)」

奏子は暗い顔で考え込む。

直人が『もうあんな事してほしくない』と言っている所を見ると、

かなり深い関係があったようだ。

⏰:10/05/28 22:09 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#265 [我輩は匿名である]
その上、『ついでに妊婦も道連れに』という発言も引っ掛かる。

以前、直人が響子に『飛び降り自殺に巻き込まれて死んだんだろ?』と言っていた。

『巻き込んだ』のが飛鳥だったとしたら、話が噛み合ってくる。

「(…まさか…そんな出来すぎた話…)」

あるわけない。そう思いたかった。

しかしそれ以前に、前世だの過去に行くだの、ありえない話が起きている。

こうなれば、飛鳥と響子の関係だって、ありえない事もない。

「(………あーっ、止めよ!考えるのめんどい!)」

奏子は疑問を振り払うように首を振る。

そして、再度4人の様子をうかがった後、階段を降りていった。

⏰:10/05/28 22:10 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#266 [我輩は匿名である]
そして、待ちに待った月曜日。

「おっしゃー!!優勝するぞこらー!!」

「おー!!」

男子体育委員の掛け声に、クラス全員が奮起する。

「(野球する薫の姿が見れるのかぁ…♪)」

響子は嬉しそうに笑みを浮かべる。

「(水無月にいいとこ見せないとね!)」

奏子は奏子で、担任の話を聞きながらそんな事を考えていた。

「(……球技大会か…早く終わらないかな…)」

飛鳥だけは、ため息をついていた。

⏰:10/05/28 22:11 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#267 [我輩は匿名である]
5人の中で、出番が1番早いのは薫だった。

ルールでは、野球部以外の選手相手には、ピッチャーは本気で投げてはいけないらしい。

「ちっ…本気で投げてこないのか…」

ジャンケンで負けて1番バッターになってしまった薫は、

つまらなそうに小さく舌打ちをする。

「月城ー!男を見せろー!」

「フィアンセが見てるぞー!!」

「いいとこ見せなきゃアメリカンに取られるぞこらー!!」

「(…うるせぇなぁ…)」

クラスメート達の変な声援にムッとしながら、薫はバットを構える。

⏰:10/05/28 22:11 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#268 [我輩は匿名である]
「おー、構えはやっぱり慣れてる感じあるな」

「優也の野球歴なめないほうがいいわよ」

フェンスごしに、直人達も薫を見ている。

相手は2年生で、ピッチャーもボールを構える。

そして、下から軽くボールを投げてきた。

「(…ちょろいな)」

薫はにやっと笑い、思いっきりバットを振る。

その直後、カキーンという快音が運動場に響き渡り、ボールは外野の頭を軽々飛び越えていった。

1発目から出たホームランに、相手チームもチームメイトも、ギャラリーでさえぽかんとする。

⏰:10/05/28 22:12 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#269 [我輩は匿名である]
その間に、薫は涼しい顔で塁を回っていく。

2塁を回ったらへんで、ギャラリーから一斉に声が上がった。

歓声と、早くも絶望感の込もった2種類の声が。

「月城ー!お前は神だー!!」

ホームに戻るなり、チームメイト全員が薫に駆け寄ってきた。

「まぐれだろ、多分」

全くまぐれではないのだが、薫は笑いながら言った。

「薫ー」

名前を呼んで大きく手を振る響子。

それが届いたのか、薫が4人の方を向き、手を振り返してきた。

⏰:10/05/28 22:12 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#270 [我輩は匿名である]
「すげー!すげーなあいつ!!」

直人は興奮して声を上げる。

「言ったでしょ?」

「…すごい…」

「あんなの打てるんなら、野球部入れば良かったのにね」

「入らないわよ、坊主にしないといけないもん。薫が坊主なんて、絶対許さない…」

「(……たまに出るこの怖い笑顔は何なんだ…?)」

奏子の疑問に笑顔で答える響子に、直人と飛鳥は何故か鳥肌が立った。

その後、薫はバッターボックスに入る毎にヒットやホームランを打ち続け、

第1試合は13対5で終わった。

⏰:10/05/28 22:13 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#271 [我輩は匿名である]
次の出番は奏子のハンドボール。

運動が好きな奏子は、コート中を駆け回り、ディフェンスも振り切ってゴールに突っ込み続ける。

「あいつもすげーな」

直人は意外そうに笑う。

「本当だね。まぁ、運動は得意そうだけど」

飛鳥もボーッと奏子の動きを見ながら頷く。

「…あんたは、やっぱりスポーツ好きな子が好き?」

何気なくそう聞かれて、直人は「へ?」と飛鳥に目を向ける。

「んー…まぁ、どっちでもいいけどな。別に好きな女のタイプとかないし」

⏰:10/05/28 22:13 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#272 [我輩は匿名である]
「そうなの?」

「んー」

直人は髪をいじりながら頷く。

「根暗かヤンキーとか…やたら貢がせる女とかじゃなかったら、どんな女でも」

「…ふぅん、そっか」

飛鳥はちょっと笑って返事をした。

「(……何でいきなりそんな事聞いてきたんだろ?こいつ)」

直人はまだ少しぽかんとして飛鳥を見ている。

「(こいつはやっぱ、要みたいな、のんきでちょっと弱々しいけどしっかりしてる奴が好きなのか?)」

今までの要の事を思い出しながら、直人はぼけーっと考える。

⏰:10/05/28 22:13 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#273 [我輩は匿名である]
晶に告白した時の事、デートの時の事、晶ともめた時の事…。

よくよく考えてみると、頼れるのか頼りないのかよくわからない性格だった要。

言いたい事をなかなか言いだせない要に、イライラした時も多かった気がする。

「……いや、俺の方がいい男だったな」

思わず声に出して言ってしまった。

「何の話?」と、飛鳥が怪訝そうな目でこっちを見てくる。

「いや、要と俺だと、どっちがいい男かって話」

「1人で何バカな事考えてんの?」

「バカとはなんだよ!」

「どう見てもバカだろ!いきなり『俺の方がいい男だ』とか言っちゃって!」

⏰:10/05/28 22:14 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#274 [我輩は匿名である]
「じゃあお前はどっちがいい!?」

「私は…!!」

そこまで来て、2人は言い合うのをやめた。

言い争いの内容が、何だか恥ずかしくなってきたらしい。

「…わりぃ、今考えるとかなりしょーもないな」

「…そうだね、やめとこ」

2人はそれぞれ違う方向を見ながら言った。

「(…なんか楽しそうに喋ってるなぁ…)」

たまたま、奏子の目が直人達に向いた。

結局試合には8対4で勝ったのだが、奏子には直人達のことの方が気になっていた。

⏰:10/05/28 22:14 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#275 [我輩は匿名である]
「さっき何喋ってたの?」

体育館に移動している間に、奏子が直人に尋ねてきた。

試合時間が迫っていたため、響子は先に体育館に入って準備をしている。

飛鳥と薫が、無言で顔を見合わせる。

「…本の話か?」

薫が小声で、奏子に聞こえないように飛鳥に尋ねる。

飛鳥は無言で頷く。

「何喋ってたって…」

直人は首をかしげながら考える。

「(…要とかの話だったな…。本の話はしない方がいいって言ってたし…)」

⏰:10/05/28 22:15 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#276 [我輩は匿名である]
奏子は「聞いてるー?」と、顔を覗き込んでくる。

飛鳥と薫は、奏子に気付かれないように横目で直人を見つめる。

「…何だったか忘れたわ」

直人は笑って奏子に答えた。

その答えに、飛鳥と薫がホッとして、再び目を見合わせる。

「えー、結構楽しそうに喋ってたじゃなーい」

「まぁ、忘れるぐらいのしょーもない話だったんだろ」

「ま、直人の話はいつもしょーもないからな」

薫は直人を見ながら小さく笑う。

しかし、奏子はどこか不満そうな顔で黙り込んだ。

⏰:10/05/28 22:15 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#277 [我輩は匿名である]
飛鳥は少し困ったように、奏子の表情を見る。

「おっ、いたいた」

直人は響子を見付け、指差す。

4人は響子の近くに腰を下ろす。

「ケガするなよ」

「大丈夫だって」

外野だから、と、響子はにっこり笑う。

「心配性だなぁ、お前」

「仕方ないだろ、心配なものは心配なんだ」

薫は開き直ったように言い返す。

⏰:10/05/28 22:15 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#278 [我輩は匿名である]
すると、ブザーが鳴って試合が始まった。

響子のクラスが、ジャンプボールでボールを取る。

いかにもスポーツ好きそうな女子が、大きく腕を回してボールを投げた。

しかし、誰にも当たる事なく、外野の響子に向かって一直線に飛んでいく。

薫達が『危ない』と思うと同時に、バチーンという大きな音がした。

4人はハラハラして響子を見つめる。

響子は顔の目の前で、飛んできたボールをキャッチしていた。

ニヤリと口元に笑みを浮かべ、ボールを構える。

そして、同じように足を開いて、思いっきりボールを投げた。

⏰:10/05/28 22:16 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#279 [我輩は匿名である]
ボコン!と音がして、相手チームの1人の女子が倒れこむ。

「(あ…当てた…)」

予想外の事に、直人と飛鳥は呆然とする。

「か…薫、お前の嫁ってあんな強かったか!?」

「みたいだな」

薫は何だか嬉しそうに笑って返事をする。

「薫!今の見た!?」

響子は試合そっちのけで薫に声をかける。

「あぁ、見たよ。格好良かった」

⏰:10/05/28 22:16 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#280 [我輩は匿名である]
「(いや、怖かった…)」

「(絶対この夫婦おかしいよ…)」

ボールを投げる時の響子の顔を思い出し、直人と飛鳥は視線を落とす。

しかし結局、響子のクラスは1回戦敗退となった。

⏰:10/05/28 22:17 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#281 [我輩は匿名である]
「よっしゃあ!行くぜ!」

直人は気合いを入れるように声を出す。

飛鳥と試合時間がかぶってしまい、残りの3人は両方が見える位置に腰を下ろす。

「……あぁ!?」

相手チームの1人を見て、直人は目を丸くした。

相手は1年5組。良介のクラスだったのだ。

「はっ!君は!あの負け犬の友達!」

「だぁかぁら!君って言うな!負け犬って言うな!!」

直人はムカッとしながら大声で言い返す。

「今日は絶対!お前を負かしてやるからな!」

⏰:10/05/28 22:17 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#282 [我輩は匿名である]
「で、出来るならやってみろっ!」

整列しながら、直人と良介は睨み合う。

「…相手にしなきゃいいのに…」

薫はあぐらをかいて、膝の上に肘をついてため息を吐く。

「できないんでしょ、水無月くんはあなたと違って、そんなタイプじゃないもの」

「まぁな…」

響子と薫は呆れたように少し笑う。

直人達は礼をし、コートに散らばる。

1番背が高いチームメイトが、ジャンプボールでボールを取り合う。

と同時に、試合開始のブザーが鳴った。

⏰:10/05/28 22:18 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#283 [我輩は匿名である]
直人は飛んできたボールを掴み取り、勢い良く良介目がけて投げつける。

「…あんなに目の敵にしなくても…」

投げるボールが全て良介に向けられているのに気付いた薫が、呆れたように呟く。

「私は逆に、何であいつを気にしないでいれるのかが不思議なんだけど」

奏子が薫に言った。

「……考えたくねぇんだよ、ああいう奴の事は」

薫は少しムスッとして言う。

「何も知らないくせに出しゃばって来やがって…。目障りなんだよ…」

直人の攻撃を交わしている良介をイライラした表情で見ながら、

薫が声を低くしてボソッと言ったのを聞いて、響子は不安そうに彼を見つめる。

⏰:10/05/28 22:19 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#284 [我輩は匿名である]
「あーっ!ムカつく!!さっさと当たって外野行けよ!」

「うるさい!僕ばっかり狙うな!!」

「黙れ!一発ぐらい当てとかないと気が済まねぇんだ!!」

直人と良介は、言い合いながら必死に攻防を続ける。

クラスメイト達も何人かは動くのを止め、笑いながらその様子を眺めている。

「…なんか、引き分けで終わりそうだね」

奏子が響子に話し掛ける。

しかし、響子は暗い顔で「うん」と頷くだけだった。

⏰:10/05/28 22:19 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#285 [我輩は匿名である]
「どうかした?」

「…ううん、何でもない」

響子は笑って首を振る。

薫もじっと、響子を見つめる。

「大丈夫か?なんか元気ないけど」

「ん?うん、大丈夫だよ。眠たくなってきただけ」

響子はそう言って試合に目をやる。

しかし、薫は知っていた。

『眠くなってきた』というのは、長谷部今日子が悩んでいる時、

それを隠そうと誤魔化すのに使っていた決まり文句だという事を。

⏰:10/05/28 22:20 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#286 [我輩は匿名である]
時間が経つのは早かった。

結局直人は良介にボールをぶつける事が出来ず、引き分けとなってしまった。

引き分けの場合、ジャンケンで勝敗を決める事になっている。

「水無月、お前責任とって勝ってこいよ」

クラスメイト達は口をそろえて直人に言う。

「負けても文句言うなよ」

「言うに決まってんだろ!!」

早くも逃げ腰な直人に、クラスメイトが怒鳴り付ける。

⏰:10/05/28 22:20 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#287 [我輩は匿名である]
一方4組も同じ状況だった。

「なんで僕なんだ!」

「お前がさっさと当たってやらねぇからだろ!

お前が当てられてりゃ、事が運んで勝ってたかもしれねぇのに!」

4組のクラスメイトは良介に詰め寄る。

良介は嫌そうにしているが、クラスメイトが「早く行け!」と背中を押した。

その先には直人が待っている。

「またてめぇかよ!」

ジャンケンの相手まで良介。

自分でまいた種ながら、直人はうんざりして怒鳴り付ける。

⏰:10/05/28 22:20 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#288 [我輩は匿名である]
「君が僕を当てるのにこだわるからだろ!本当、いい迷惑だよ!」

「こっちはお前の存在が迷惑なんだよ!!」

「お前達!さっさとしろ!」

係の教師に怒られ、2人はしぶしぶ黙る。

「…しょうもない…」

先に試合を黒星で終えていた飛鳥が、奏子の横で呆れたように呟く。

「応援してあげなよー、同じクラスじゃん」

「どっちでもいいよ、私球技大会好きじゃないし」

飛鳥は「早く終わらないか」と、それしか考えていないらしい。

奏子は少し怪訝そうに飛鳥を見つめる。

⏰:10/05/28 22:21 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#289 [我輩は匿名である]
「……何か悩んでるだろ」

その横で、薫がぼそっと響子に声をかける。

「え?」

「お前の『眠たいだけ』ほど信用できないものはないからな」

薫は小さく笑う。

それを見てホッとしたのか、響子も安堵の笑みを浮かべる。

「…悩んでたけど、どうでも良くなった」

「そうか?まぁ、何かあったら言えよ」

「うん」

響子は頷いて、薫の肩にもたれ掛かる。

⏰:10/05/28 22:21 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#290 [我輩は匿名である]
「あいつ…僕の前で響子ちゃんといちゃつきやがって…!」

「いいからジャンケンするぞ!終わんねぇだろ!」

悔しそうに薫を見る良介に、直人はまた声を荒げる。

「じゃーんけーん」

直人の声に合わせて、2人は手を出す。

直人はパー、良介はチョキ。

一瞬、コート内がしーんと静まり返った。

「水無月ー!!!」

8組の男子たちが、一斉に直人に殴りかかる。

逆に、4組の男子達は両手を上げて喜びの声を上げる。

⏰:10/05/28 22:21 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#291 [我輩は匿名である]
「あーあ…」

クラスメイトに追い掛けられる直人の情けない姿に、奏子がため息をつく。

「……バレーとドッヂが消えたか…」

薫は腕を組んで考える。

「ハンドも負けたらしいよ」

飛鳥が薫に言う。

薫は「はぁ…?」と、自分のクラスの弱さに呆れ返る。

「か…薫、助けてくれよー!」

走るのに疲れた直人は、薫の後ろに座り込む。

「お前が余計な事するからだろ」

薫は自業自得だ、と突き放す。

⏰:10/05/28 22:22 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#292 [我輩は匿名である]
「響子ちゃん!見たかい!?僕の華麗なチョキを!」

同時に、良介は嬉しそうに響子の手を握る。

「おい…」

薫は目を光らせ、良介の手を振りほどく。

「てめぇ誰に断って響子の手ぇ握ってんだ…?」

「ふん、何故わざわざ君に断らないといけないんだ?」

良介も負けじと言い返す。

睨み合う2人が怖くなって、直人は四つんばいで移動し、飛鳥の隣に座った。

「はぁ、疲れた」

「お疲れ、なんかダサかったみたいだね」

⏰:10/05/28 22:22 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#293 [我輩は匿名である]
飛鳥はしれっと直人をからかう。

「っせぇな!お前はどうだったんだよ!?」

「負けた」

「人の事言えねぇじゃねーか!!」

汗だくのまま、直人は飛鳥に言い返す。

「あいつの事はほっときなよ、月城が自分で何とかするよ」

飛鳥はめんどくさそうに忠告する。

「いいじゃん、別に」

そう食い付いたのは、直人ではなく奏子だった。

「それだけ友達思いって事じゃん?ね、水無月」

⏰:10/05/28 22:22 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#294 [我輩は匿名である]
「(……最近やたら水無月の肩持つな…)」

直人の事を好きだとはいえ、見ていて少し腹が立つ。

飛鳥もムッとし、目を逸らす。

「なんだよ、お前。いじけてんのか?」

相変わらず鈍感な直人は、笑って飛鳥の肩を叩く。

「い、いじけるわけないだろ!?何で私が!」

「お前、前からいじけやすい性格だったし」

直人は言い切ってからハッとする。

うっかり晶の事を差す話をしてしまった。

直人は「ごめん」と言いたそうに、飛鳥に視線を送る。

⏰:10/05/28 22:23 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#295 [我輩は匿名である]
「ばか!」

飛鳥もそれに気付き、直人の肩を拳でたたく。

「痛っ!」

「お前のそういう鈍感すぎる所、いい加減どうにかなんないわけ!?」

「だから、ごめんって!」

ギャーギャー言い合う直人達を、奏子はじっと見つめる。

「(『前から』って…どういう意味だろ…?)」

そんな事を考えながら。

⏰:10/05/28 22:23 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#296 [我輩は匿名である]
その後、野球の2回戦の時間になり、直人達は運動場に移動する。

8組は既に野球しか生き残っていないため、クラスメイトは全員観戦にまわってきている。

「(要するに、8組は全員俺に賭けてるって事だな)」

バッターボックスに入り、薫はふと考える。

野球の中でも、変に注目を浴びてしまった。

「(……いいじゃないか、こういうプレッシャーも)」

薫はニヤッと、不敵な笑みを浮かべる。

「(…怖い…)」

薫の様子を見て、ピッチャーは少し怯える。

そして、丸腰のままボールを投げた。

⏰:10/05/28 22:24 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#297 [我輩は匿名である]
しかし、そのボールは案の定、自分の頭を高々と越えて飛んでいった。

「よく打つねぇ…」

ボールを追い掛けていく外野の生徒達を見ながら、飛鳥が声を漏らす。

「あんたとは大違いだね」

「うっせぇな!」

未だにからかってくる飛鳥に、直人は大声を上げる。

しかし、少しして真面目な顔で飛鳥に言った。

「…悪かったな、さっき口滑らせて」

自分から謝るのは照れ臭くて、直人は少し下を向く。

奏子もハンドボール2回戦でコートに入っているため、この場にいない。

⏰:10/05/28 22:24 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#298 [我輩は匿名である]
「え?何か言った?」

飛鳥は耳をたてて直人に聞き直す。

また言わなければいけないのかと、直人はちょっと顔を赤らめる。

「1回で聞けよ!!」

「だって周りがうるさくて聞こえないもん!!」

薫のホームランへの歓声にかき消されて聞こえなかったらしい。

「だから!悪かったなって!さっき安斎の前であの話して!」

直人はちょっと顔を赤くしながら、再度飛鳥に謝る。

今度はちゃんと聞き取って、飛鳥はフッと小さく笑った。

⏰:10/05/28 22:25 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#299 [我輩は匿名である]
「いいよ!そんなの!」

飛鳥も大声で返事する。

「ありがとな!」

「どういたしまして!」

2人は言いながら笑い合う。

⏰:10/05/28 22:25 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#300 [我輩は匿名である]
少しずつ、歓声がおさまってきた。

「…お前、晶の時から運動嫌いだっけ?」

奏子がいないのを確認して、直人は飛鳥に尋ねる。

「うん、あんまり好きじゃなかった」

飛鳥は頷く。

「そのわりには走るの速かったじゃん。あの…お前に付きまとってた奴から逃げる時」

「…あぁ、美代ね。ウザかったな…あいつ」

「つーか、あいつが元凶だしな」

美代の事を思い出し、2人はどんよりとした表情でうつむく。

⏰:10/05/28 22:26 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


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