記憶を売る本屋 2
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#265 [我輩は匿名である]
その上、『ついでに妊婦も道連れに』という発言も引っ掛かる。
以前、直人が響子に『飛び降り自殺に巻き込まれて死んだんだろ?』と言っていた。
『巻き込んだ』のが飛鳥だったとしたら、話が噛み合ってくる。
「(…まさか…そんな出来すぎた話…)」
あるわけない。そう思いたかった。
しかしそれ以前に、前世だの過去に行くだの、ありえない話が起きている。
こうなれば、飛鳥と響子の関係だって、ありえない事もない。
「(………あーっ、止めよ!考えるのめんどい!)」
奏子は疑問を振り払うように首を振る。
そして、再度4人の様子をうかがった後、階段を降りていった。
:10/05/28 22:10
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#266 [我輩は匿名である]
そして、待ちに待った月曜日。
「おっしゃー!!優勝するぞこらー!!」
「おー!!」
男子体育委員の掛け声に、クラス全員が奮起する。
「(野球する薫の姿が見れるのかぁ…♪)」
響子は嬉しそうに笑みを浮かべる。
「(水無月にいいとこ見せないとね!)」
奏子は奏子で、担任の話を聞きながらそんな事を考えていた。
「(……球技大会か…早く終わらないかな…)」
飛鳥だけは、ため息をついていた。
:10/05/28 22:11
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#267 [我輩は匿名である]
5人の中で、出番が1番早いのは薫だった。
ルールでは、野球部以外の選手相手には、ピッチャーは本気で投げてはいけないらしい。
「ちっ…本気で投げてこないのか…」
ジャンケンで負けて1番バッターになってしまった薫は、
つまらなそうに小さく舌打ちをする。
「月城ー!男を見せろー!」
「フィアンセが見てるぞー!!」
「いいとこ見せなきゃアメリカンに取られるぞこらー!!」
「(…うるせぇなぁ…)」
クラスメート達の変な声援にムッとしながら、薫はバットを構える。
:10/05/28 22:11
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#268 [我輩は匿名である]
「おー、構えはやっぱり慣れてる感じあるな」
「優也の野球歴なめないほうがいいわよ」
フェンスごしに、直人達も薫を見ている。
相手は2年生で、ピッチャーもボールを構える。
そして、下から軽くボールを投げてきた。
「(…ちょろいな)」
薫はにやっと笑い、思いっきりバットを振る。
その直後、カキーンという快音が運動場に響き渡り、ボールは外野の頭を軽々飛び越えていった。
1発目から出たホームランに、相手チームもチームメイトも、ギャラリーでさえぽかんとする。
:10/05/28 22:12
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#269 [我輩は匿名である]
その間に、薫は涼しい顔で塁を回っていく。
2塁を回ったらへんで、ギャラリーから一斉に声が上がった。
歓声と、早くも絶望感の込もった2種類の声が。
「月城ー!お前は神だー!!」
ホームに戻るなり、チームメイト全員が薫に駆け寄ってきた。
「まぐれだろ、多分」
全くまぐれではないのだが、薫は笑いながら言った。
「薫ー」
名前を呼んで大きく手を振る響子。
それが届いたのか、薫が4人の方を向き、手を振り返してきた。
:10/05/28 22:12
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#270 [我輩は匿名である]
「すげー!すげーなあいつ!!」
直人は興奮して声を上げる。
「言ったでしょ?」
「…すごい…」
「あんなの打てるんなら、野球部入れば良かったのにね」
「入らないわよ、坊主にしないといけないもん。薫が坊主なんて、絶対許さない…」
「(……たまに出るこの怖い笑顔は何なんだ…?)」
奏子の疑問に笑顔で答える響子に、直人と飛鳥は何故か鳥肌が立った。
その後、薫はバッターボックスに入る毎にヒットやホームランを打ち続け、
第1試合は13対5で終わった。
:10/05/28 22:13
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#271 [我輩は匿名である]
次の出番は奏子のハンドボール。
運動が好きな奏子は、コート中を駆け回り、ディフェンスも振り切ってゴールに突っ込み続ける。
「あいつもすげーな」
直人は意外そうに笑う。
「本当だね。まぁ、運動は得意そうだけど」
飛鳥もボーッと奏子の動きを見ながら頷く。
「…あんたは、やっぱりスポーツ好きな子が好き?」
何気なくそう聞かれて、直人は「へ?」と飛鳥に目を向ける。
「んー…まぁ、どっちでもいいけどな。別に好きな女のタイプとかないし」
:10/05/28 22:13
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#272 [我輩は匿名である]
「そうなの?」
「んー」
直人は髪をいじりながら頷く。
「根暗かヤンキーとか…やたら貢がせる女とかじゃなかったら、どんな女でも」
「…ふぅん、そっか」
飛鳥はちょっと笑って返事をした。
「(……何でいきなりそんな事聞いてきたんだろ?こいつ)」
直人はまだ少しぽかんとして飛鳥を見ている。
「(こいつはやっぱ、要みたいな、のんきでちょっと弱々しいけどしっかりしてる奴が好きなのか?)」
今までの要の事を思い出しながら、直人はぼけーっと考える。
:10/05/28 22:13
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#273 [我輩は匿名である]
晶に告白した時の事、デートの時の事、晶ともめた時の事…。
よくよく考えてみると、頼れるのか頼りないのかよくわからない性格だった要。
言いたい事をなかなか言いだせない要に、イライラした時も多かった気がする。
「……いや、俺の方がいい男だったな」
思わず声に出して言ってしまった。
「何の話?」と、飛鳥が怪訝そうな目でこっちを見てくる。
「いや、要と俺だと、どっちがいい男かって話」
「1人で何バカな事考えてんの?」
「バカとはなんだよ!」
「どう見てもバカだろ!いきなり『俺の方がいい男だ』とか言っちゃって!」
:10/05/28 22:14
:N08A3
:TdbZtgtI
#274 [我輩は匿名である]
「じゃあお前はどっちがいい!?」
「私は…!!」
そこまで来て、2人は言い合うのをやめた。
言い争いの内容が、何だか恥ずかしくなってきたらしい。
「…わりぃ、今考えるとかなりしょーもないな」
「…そうだね、やめとこ」
2人はそれぞれ違う方向を見ながら言った。
「(…なんか楽しそうに喋ってるなぁ…)」
たまたま、奏子の目が直人達に向いた。
結局試合には8対4で勝ったのだが、奏子には直人達のことの方が気になっていた。
:10/05/28 22:14
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