記憶を売る本屋 2
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#301 [我輩は匿名である]
「……でもまぁ」

飛鳥が顔を上げて言う。

「あいつが邪魔して来なかったら、今あたし達ここにいないんだよね。

…変な言い方だけど、おかげで目が覚めたっていうか」

「…何から?」

「………いろいろ!」

上手く説明出来なくて、飛鳥は短く答えた。

⏰:10/06/01 20:17 📱:N08A3 🆔:KmSiWdQY


#302 [我輩は匿名である]
ろくに友達も作れない性格だった自分。

それを親に捨てられたからだと言って逃げていた自分。

要がいないと生きていられなかった、未熟な自分。

そんな自分に、さよなら出来た。

飛鳥はそう考え、少し笑う。

彼女が何を考えているのかわからず、直人は首を傾げる。

「…ま、何かわかんねぇけど、吹っ切れたんなら良かったな」

考えるのが嫌いな直人は、ニッと笑う。

飛鳥も「うん」と頷く。

⏰:10/06/01 20:18 📱:N08A3 🆔:KmSiWdQY


#303 [我輩は匿名である]
「弟は?何も言ってきてないか?」

「うん、あれからは何も」

「そっか。また嫌み言われたら言えよ。怒鳴り込みに言ってやるから」

「ははっ。あんたってたまに頼もしいよな」

「俺が頼もしいのはいつもの事だろ」

「それはないね」

「はぁん!?」

「青春ねぇ〜♪」

飛鳥の隣にいた響子が、2人のやりとりを見てやっと口を開いた。

⏰:10/06/01 20:18 📱:N08A3 🆔:KmSiWdQY


#304 [我輩は匿名である]
「お前いたのかよっ!」

「失礼ね、最初からいたわよ。ねぇ?」

「うん。喋らないなぁとは思ってたけど」

飛鳥は苦笑して頷く。

「だって、2人の世界に入っちゃってるから…邪魔しちゃいけないでしょ?」

響子はにっこり笑う。

『2人の世界』と言われて、直人と飛鳥は何だか恥ずかしくなって、

お互い顔を赤くして目を逸らす。

「(…両想いにしか見えないのに、何で2人とも気付かないんだろ…?)」

2人の様子を、響子は少しもどかしく思いながら見つめる。

⏰:10/06/01 20:19 📱:N08A3 🆔:KmSiWdQY


#305 [我輩は匿名である]
「で、試合どうなってんだ?」

直人は話を変えて、試合に目を向ける。

「薫のおかげで圧勝よ」

響子は笑顔でそう言いながら得点板を指差す。

4回裏で10対3という点差。

といっても、9回までやっていると終わらないので、5回裏で終わるルールなのだが。

「…すごいね、あいつ天才じゃない?」

「そりゃ、子どもに野球教えるんだって張り切ってるぐらいだからね」

3人はそれぞれ話ながら、バット片手にクラスメイトと喋っている薫を見る。

⏰:10/06/01 20:19 📱:N08A3 🆔:KmSiWdQY


#306 [我輩は匿名である]
「負けた負けたー!」

3人が黙っていると、試合を終えた奏子がやってきた。

「なんだ、みんなこっち見てたんだ」

奏子はつまらなそうに口を尖らせる。

「だってハンドボール好きじゃねーし」

直人は眉間にしわを寄せて言い返す。

すると、ちょうど野球の試合も終わったらしく、男子たちが整列している。

「…次って準決勝か?」

「そうみたいだね」

直人に聞かれ、飛鳥は頷く。

⏰:10/06/01 20:19 📱:N08A3 🆔:KmSiWdQY


#307 [我輩は匿名である]
「んー、見飽きてきたな…」

割と飽きっぽい直人は、腕を組んで呟く。

「俺、茶飲んでくるわ」

「あっ、私も行く!」

教室に向かう直人に付いて、奏子も走りだした。

「…行かなくて良いの?」

響子は飛鳥に尋ねるが、飛鳥はけろっとしている。

「だって、私今日お茶持ってきてないし」

「あ、そう…」

意外とあっさりしている飛鳥に、響子は「いいのかな、それで」と思いながらため息を吐いた。

⏰:10/06/01 20:20 📱:N08A3 🆔:KmSiWdQY


#308 [我輩は匿名である]
一方直人達は、靴を履き替えるのが面倒なので、靴下で教室に向かっていた。

「…なんかさ」

階段を上る途中、奏子が口を開いた。

直人は歩きながら「何?」とだけ返事する。

「最近、あんまり学校楽しくないんだよね…私」

奏子はいきなり、そんな話を始めた。

いつも元気な奏子がそんな事を言ったため、直人はきょとんとして足を止める。

「どうしたんだよ?いきなり」

「…ほら、私だけ都市伝説の本もらってないじゃん?だから響子達の話に入れなくて」

奏子は苦笑いして言う。

⏰:10/06/04 08:41 📱:N08A3 🆔:K5pa3eMc


#309 [我輩は匿名である]
「あ、2人とも私の前でそんな話しないよ?

しないけど…5人でいる時とかにそんな話になったりするじゃん?

それで、ちょっと…ね」

「あぁ…」

直人は「確かにな」と頭を抱える。

「悪かったな、そういうの気付いてやれなくて」

「…えっ?いや、気付いてほしかったわけじゃ…」

急に謝られて、奏子は慌てて否定する。

しかし、直人は勝手に「そうだよな」と話を進める。

⏰:10/06/04 08:42 📱:N08A3 🆔:K5pa3eMc


#310 [我輩は匿名である]
「なんつーか、話してると勝手にそっちの話になっちまうんだよ。

でも、前世の記憶なんか無い方が良いぞ?」

「何で?」

「…なんか、それに縛られてる感じがするっていうか。

…俺は、な。薫達はあった方がいいのかもしれねぇけど」

直人は髪を触りながら首をかしげる。

「ふぅん…。いろいろあるんだね、みんな」

「そりゃな。神崎はどうなのかわかんねぇけど…。

あぁ、でもあいつにはあった方がいいかもな」

直人は本の話の内容はしないようにと心がけながら話す。

⏰:10/06/04 08:42 📱:N08A3 🆔:K5pa3eMc


#311 [我輩は匿名である]
「…やっぱ、あんたと飛鳥って関係あったんだね」

奏子は、かまをかけるように直人を見る。

「…まぁ、あるっちゃあるけど」

直人は曖昧な返事をして、逃げるように階段を上り始める。

「(やべぇな…何かポロッと言っちまいそうだ…)」

困り果てて髪をぐしゃぐしゃにしながら、直人は自分の教室に入る。

「(さっさと茶飲んで、神崎達の所に行こ…)」

ペットボトルの茶を飲みながら、運動場を見てみる。

薫達はさっきの試合に引き続き、準決勝の試合に入っている。

「(……前世の記憶が無かったら、みんなどうなってたのかな…?)」

⏰:10/06/04 08:42 📱:N08A3 🆔:K5pa3eMc


#312 [我輩は匿名である]
運動場にいる3人を見ながら、直人は考える。

「(香月は前、『前世の記憶が無くても、薫を好きになったかも』って言ってたな。

でも、薫に前世の記憶が無かったら…なんか、想像できないな)」

直人よりも前から前世の事を知っていた薫。

直人にとって、薫はある意味先輩のようなもの。

その薫に前世の記憶が無かったら、なんて考えられない。

「(…生まれ変わる為に、あんな腹黒いもやしになったんだよな。

だったら、前世の記憶を持って生まれてこなかったら…

もっと明るくて、毎年インフルエンザにかからない丈夫な奴だったのか?

……明るくて元気な薫とか…気持ち悪いな…)」

⏰:10/06/04 08:43 📱:N08A3 🆔:K5pa3eMc


#313 [我輩は匿名である]
奏子のような性格の薫を想像してみると、なんだか寒気がした。

「(…薫の事考えるのはやめよ。

神崎は…神崎はどうなるんだろ?もっと平和な育ち方したのか?

…いや、もしかしたら、もっと引きこもりになってたかも……)」

有り得る。考えながら自分で頷く。

窓際でボーッとしている直人を、奏子は「何してるんだろう?」と眺める。

「(つーか、俺達は何を代償にされたんだろ?

薫は心と健康な身体…。薫の前世って…どんな奴だったんだろ…。

……いやいや、それは今どうでもいい。香月や俺、神崎は…何を取られたんだろ?)」

手摺りに肘をついて、直人は首をひねる。

⏰:10/06/04 08:43 📱:N08A3 🆔:K5pa3eMc


#314 [我輩は匿名である]
「(なんだったんだろうなぁ…?今の…)」

運動場に向かいながら、直人はポケットに手を突っ込みながら考える。

「さっき、何考えてたの?あんた」

奏子が不思議そうに尋ねてくる。

窓際で、黄昏るような雰囲気で外を眺めていた直人。

いつもとは違うその様子が、奏子は気になっていたらしい。

「あ?いや…まぁいろいろな」

直人はそう言ってはぐらかす。

本の事について聞かれるのも、だんだんめんどくさくなってきた。

奏子は「いろいろ?」と、不満そうに直人を見ている。

⏰:10/06/06 13:49 📱:N08A3 🆔:p4xWyoPk


#315 [我輩は匿名である]
「そう。いろいろあるんだよ、俺にだって」

はぁっとため息をつきながら、少し歩くスピードを速める。

これ以上聞かれると、めんどくさくて全部話してしまいたくなる。

でも、飛鳥はそれを拒んでいる。

直人はもう、運動場まで走っていきたい気持ちでいっぱいだったが、

そこまであからさまな素振りはしたくない。

奏子と2人きりになる事に、変なプレッシャーを感じるなんて、思っていなかった。

奏子も、直人が考えている事が何となくわかったのか、それ以上何も聞こうとはしなかった。

⏰:10/06/06 13:49 📱:N08A3 🆔:p4xWyoPk


#316 [我輩は匿名である]
「あっ、おかえりー」

運動場に戻ってきて、響子たちが声をかける。

「おぅ、ただいま」

直人はホッとした気持ちで返事をし、響子と飛鳥の間に割って入る。

「何も余計な事喋らなかった?」

響子がにっこり笑って、ボソッと直人に尋ねる。

「何も喋ってねーよ」

直人はまた、大きくため息をつく。

飛鳥はそれをじっと見つめる。

「ねー、試合どうなってんの?」

⏰:10/06/06 13:50 📱:N08A3 🆔:p4xWyoPk


#317 [我輩は匿名である]
飛鳥の隣に来た奏子が、飛鳥の肩をトントンとたたく。

「…勝ってるみたいだよ、ほら」

飛鳥は得点板を指差す。

得点は3対2。

準決勝らしく接戦になっているが、何故か負ける気配はない。

「……やっぱ野球の神様なんじゃない?あの子」

「野球に限らず神様よ」

「それお前の中だけな」

「(…早く終わらないかなぁ…)」

薫の雄姿にうっとりしている響子に突っ込む直人の横で、飛鳥はつまらなそうに得点板を見つめる。

⏰:10/06/06 13:51 📱:N08A3 🆔:p4xWyoPk


#318 [我輩は匿名である]
「……神様、か」

奏子がふと呟いた。

「何て?」

何を言ったのか聞き取れず、飛鳥が奏子の方を向く。

「……神様ってさ、本当にいるのかな?」

奏子は意外にも真剣そうな表情で、そんな事を言いだした。

飛鳥はただきょとんとしている。

「……どうしたの?急に」

「…さぁ?何だろうね。何か、何となくそう思ってさ」

自分でもよくわからなかったのか、奏子は苦笑する。

⏰:10/06/06 13:51 📱:N08A3 🆔:p4xWyoPk


#319 [我輩は匿名である]
「でも…何で私だけ、前世の本もらえないのかなぁって思う時があるんだよね。

…なんか、資格とかいるのかなぁー…とか」

奏子の話に、飛鳥は首をかしげる。

「……どうなんだろうね」

言いながら、飛鳥も考えた。

自分はきっと、未練があった。だから代金を支払って“生まれ変わる”事が出来た。

響子と薫の場合は“約束”を果たす為。

ここまでは、皆前世に未練があったと一括りに出来る。

しかし、直人だけはそうではない気がしたのだ。

要には今日子のように、魂だけになってもこの世に留まる力などなかったはずだ。

⏰:10/06/06 13:52 📱:N08A3 🆔:p4xWyoPk


#320 [我輩は匿名である]
現に、直人の本は、要が死ぬところで話は終わっていた。

晶を助けた後、まさか晶が後を追って自殺したなんて知るはずもないし、

要の事だから、「俺がいなくても幸せになってくれるだろう」なんて事を考えてもおかしくない。

要の性格などから考えても、未練を残す事はあまり考えられないのだ。

だったらなぜ、直人はあの本をもらう事になったのだろう?

飛鳥はそれが気になっていた。

「……また何か難しい事考えてんのかよ?」

飛鳥が黙って眉間にしわを寄せて考え込んでいるのを見て、直人が声をかける。

「……奏子と、本をもらう条件って何なんだろうって話してたんだ」

飛鳥は顔を上げて答える。

⏰:10/06/06 13:52 📱:N08A3 🆔:p4xWyoPk


#321 [我輩は匿名である]
「またそんなめんどくせー話…」

直人はげんなりしたように肩を落とす。

「そんなの、この世に未練があった人だけでしょ」

響子があっさりと答える。

「そうも思ったんだけどさ、じゃあこいつは何で本もらえたんだろ?

未練とか、そういうの考える暇がないまま死んだじゃん?」

奏子が横にいるのも忘れ、飛鳥は直人を指差す。

響子や奏子は、じーっと直人を見る。

「……まぁ、確かにねぇ」

「事故って死んだんだっけ?あんた」

⏰:10/06/06 13:52 📱:N08A3 🆔:p4xWyoPk


#322 [我輩は匿名である]
「あ?あぁ…」

3人から見られて、直人は困ったように後ずさる。

「……ど、どうでもいいじん、そんな事」

「まぁ、どうでもいいと言えばどうでもいいけどね」

飛鳥ほど気にはならないらしく、響子はそう言って試合に目を向ける。

「…あら、いつの間にか終わってたみたいね」

響子に言われて、3人もそっちに目をやる。

薫たちの対戦相手だった生徒達が引きあげると同時に、決勝戦で戦うチームが入ってきている。

体操服の色からして、3年生のようだ。

「おい、そこの」

左肩にコールドスプレーを吹き掛けていた薫に、大将らしい生徒が話し掛ける。

⏰:10/06/06 13:53 📱:N08A3 🆔:p4xWyoPk


#323 [我輩は匿名である]
「…はい」

背後から話し掛けられて、薫は振り向く。

「(……こいつ、野球部のキャプテンだった奴か)」

高校総体の壮行会の時に見たことがあった。

「お前、あんな速さの球ばっかり打ってて楽しいか?」

この夏までキャプテンだったその男子が薫に言う。

「どういう意味ですか」と、薫は首をかしげる。

「あんな、誰にでも打てる球しか相手に出来なくて、つまらなくないか?

どこで経験積んだのか知らねぇけど、結構良い腕してるみたいだしよ。

……ちょっと、本気で投げてみてぇなって思ったわけ」

⏰:10/06/06 13:53 📱:N08A3 🆔:p4xWyoPk


#324 [我輩は匿名である]
元キャプテンは、少し笑ってそう言った。

薫は少し考える。そんなに簡単にルール変更できるのだろうか?と。

しかし、フッと笑い返して薫は言った。

「…確かに、正直面白くないな、とは思ってたんですよ。

12年も野球やってたんだし、本気出せるんなら出したいですね」

「(12年…?こいつ、いつから野球やってんだ…?)」

元キャプテンは少々疑問に思いながらも、薫の返事に笑みを浮かべた。

「じゃあ、やるんだな?」

「えぇ、受けて立ちましょう」

⏰:10/06/06 13:54 📱:N08A3 🆔:p4xWyoPk


#325 [我輩は匿名である]
「……何だ?あいつ」

「喧嘩でも売られてるんじゃないの?」

2人が何を話しているのかわからず、直人達は遠くからそれを見つめている。

「………あの人さぁ」

黙って薫の話し相手を見ていた奏子が口を開く。

「知ってんの?奏子」

「この間まで野球部キャプテンだった、ピッチャーの人じゃない?」

奏子の言葉に、3人は一瞬きょとんとする。

「…マジで!?」

「じゃあ絶対喧嘩じゃん。『お前調子乗んなよ』…みたいな」

⏰:10/06/06 13:54 📱:N08A3 🆔:p4xWyoPk


#326 [我輩は匿名である]
直人と飛鳥は奏子と話し合う。

が、響子はじーっと、審判と話している薫達を見つめる。

しばらくして、グラウンド中にアナウンスが流れた。

『野球の決勝試合では、一部の生徒のみ、

“スローボールしか投げてはいけない”というルールから除外される事になりました』

「…はぁ…?」

直人は思わず首をかしげる。

同時に、ギャラリーも「何事か」とざわつき始めた。

「何だ?どういう事だ?」

「ようするに、手加減抜きで投げてくるって事じゃないの?」

⏰:10/06/06 13:55 📱:N08A3 🆔:p4xWyoPk


#327 [我輩は匿名である]
「えっ!?そんなん有りかよ!?

あいつキャプテンなんだろ?ピッチャーなんだろ!?ヤバいじゃん!!」

「年上の人の事『あいつ』とか言わない」

ギャーギャー騒ぐ直人の横で、飛鳥が冷静に言い返す。

「でも、薫も結構やる気みたいよ」

ほら、と、響子は薫を指差す。

⏰:10/06/06 13:56 📱:N08A3 🆔:p4xWyoPk


#328 [我輩は匿名である]
「…ギャラリーがうるさいな。本当にいいんだな?」

投げる前に、元キャプテンが薫に呼び掛ける。

「いいですよ。思いっきり投げて下さい」

薫も、元キャプテンに届くように、少し声を大きくして答えた。

元キャプテンは笑って、地面を踏みしめてボールを構える。

そして、大きく肩を回して、キャッチャー目がけて思いっきりボールを投げた。

パァン!という音がして、ボールがキャッチャーのグローブにあたる。

薫はバットを振る素振りを見せず、キャッチャーに捕まれたボールを横目で見る。

「…手が出なかったか?ストレートだぞ」

ボールをピッチャーに返しながら、キャッチャーが薫に言う。

⏰:10/06/06 13:57 📱:N08A3 🆔:p4xWyoPk


#329 [我輩は匿名である]
「……速いですね。125km/hってとこですか?」

「………はっ、見てただけかよ」

薫の表情を見て、キャッチャーは呆れたように笑う。

ピッチャーはまた、ボールを構え、投げてくる。

薫は飛んでくるボールを目で追い、勢いよくバットを振った。

カン!と音がして、ボールがバットに当たる。

しかし、ボールはラインの外に転がっていった。

「……ファールか」

薫は小さく舌打ちをして構え直す。

⏰:10/06/06 13:57 📱:N08A3 🆔:p4xWyoPk


#330 [我輩は匿名である]
「おい…勝てんのかよ?」

直人達はハラハラしながら薫を見つめる。

「お前、薫が負けたら絶対あのピッチャー殺しに行くだろ」

「どうでもいいわ、ピッチャーなんて」

直人に言われて、響子はきっぱりと答える。

「野球に燃える薫、かっこいい…♪」

「…燃えてんの?あれ」

「燃えてるじゃない!」

「わかんねーよ!!」

直人が響子に言い返した瞬間、再びバットの快音が響き渡った。

⏰:10/06/06 13:58 📱:N08A3 🆔:p4xWyoPk


#331 [我輩は匿名である]
ギャラリーが声を上げる中、4人はそろって視線を戻す。

ボールが二塁と三塁の間を抜けている間に、薫は一塁まで走る。

「おー!すげぇ!!」

「かっこいい薫ー!!!」

「(延長戦とかなったら嫌だなー…)」

興奮している3人を尻目に、ボールがくる前に一塁に着いた薫は、右手で左肩をさする。

⏰:10/06/06 13:59 📱:N08A3 🆔:p4xWyoPk


#332 [我輩は匿名である]
「(……さすがに、使いすぎると違和感あるな…)」

骨折から2〜3ヶ月経ち、リハビリも終えているが、やはりまだ少し違和感を感じる左鎖骨。

さっきから感じていたのだが、今のバッティングで増強した気がするらしい。

「(…あんまり振らない方がいいな…。次はバントでいくか…?

でもランナーがいないと意味ないし…)」

そう考えている間に、仲間達が次々にアウトを取られていく。

⏰:10/06/08 17:09 📱:N08A3 🆔:JzbPbZSE


#333 [我輩は匿名である]
「(………ホームランでも打たない限り、勝てそうもないな。

また痛めると響子が心配するだろうし、今回は無理しないでおくか…)」

ちょっとつまらないが、仕方がない。

薫は小さくため息をつきながら、空振り3振するクラスメイト達を見ていた。

結局、3回裏が終わって0対3。おまけにノーランナーでツーアウト。

「(……ここで打たなきゃ終わりだな…)」

バットを構えながら、薫は肩を落とす。

ここでつなげないと、おそらく5回に自分の打席は回ってこない。

⏰:10/06/08 17:09 📱:N08A3 🆔:JzbPbZSE


#334 [我輩は匿名である]
「……大変だな、頑張ってんのによ」

「支えるのが1人じゃ勝てませんよ」

薫は苦笑してキャッチャーに言う。

ピッチャーは大きく振りかぶって、ボールを投げてくる。

打てる。

そう思ったが、薫はバットを持つ手を動かさず、

ボールはキャッチャーのグローブに吸い込まれるようにおさまった。

⏰:10/06/08 17:09 📱:N08A3 🆔:JzbPbZSE


#335 [我輩は匿名である]
「(……速いな…。あの時この骨折ってなかったら、楽に打てるんだろうが…)」

「諦めたのか?」

キャッチャーが尋ねてくる。

「……いえ、ちょっと」

薫は短く答え、再びバットを構える。

痛みは感じないが、あまり使いたくない。

1回のスウィングに賭けるか、諦めるか、それとも…。

⏰:10/06/08 17:10 📱:N08A3 🆔:JzbPbZSE


#336 [我輩は匿名である]
「(くそ…あの大橋とか言う女…見かけたらバットで殴り殺してやるのに…)」

薫が骨折する原因である女子生徒・大橋怜奈は、事件後退学処分となっている。

久しぶりに彼女の事を思い出し、薫は不機嫌そうにピッチャーを見つめる。

「(……なんだ?いきなりキレてるような顔して…)」

ピッチャーは薫に睨まれているような気がしつつも構える。

「……やっぱりキャプテンは格が違いますね」

薫はボソッと呟く。

「ん?」

「…あと1年遅く生まれてくれたら、もう1回勝負出来てたのにな」

⏰:10/06/08 17:10 📱:N08A3 🆔:JzbPbZSE


#337 [我輩は匿名である]
何を考えているのかと、キャプテンはきょとんとする。

ピッチャーが球を投げてくる。

が、薫はまたもバットを振らず、ストライクボールを見送った。

「何やってんだ?あいつ!やる気あんのかよ!?」

フェンスを掴み、直人が声を荒げる。

しかし、響子は無言のまま薫を見つめる。

⏰:10/06/08 17:10 📱:N08A3 🆔:JzbPbZSE


#338 [我輩は匿名である]
「どうしたんだ?やる気失せたか?」

急に打たなくなった薫に、ピッチャーがたまらず声をかける。

「やる気はありますよ、身体がついてこないだけで」

薫は一旦バットを下ろして答える。

「(…怪我でもしたのか?)」

ピッチャーは思いながら、薫の身体を見るが、一見異常なさそうに見える。

「…代打出すか?」

「ははっ、冗談止めて下さいよ」

薫は笑いながら、再びバットを構える。

⏰:10/06/08 17:11 📱:N08A3 🆔:JzbPbZSE


#339 [我輩は匿名である]
「俺の野球姿を見て喜んでる奴がいるんでね。死んでも代打なんか出しませんから」

ピッチャーもキャッチャーも、一瞬ぽかんとして薫を見る。

しかし、ピッチャーはニッと笑い、「いいだろう」とボールを構える。

「へっ、彼女かよ」

キャッチャーも皮肉をこめた笑みを浮かべる。

「…まぁ、そんなところですかね」

投げるモーションに入っているピッチャーを見ながら薫は言う。

その直後、ピッチャーがボールを投げた。

⏰:10/06/08 17:12 📱:N08A3 🆔:JzbPbZSE


#340 [我輩は匿名である]
クラスメイト達は、祈るような気持ちで薫を見つめる。

しかし、薫はバットを振る瞬間、左手を離した。

「ちょっ、お前…!」

びっくりして、キャッチャーが思わず声を漏らす。

薫は右手だけで金属バットを振ったのだ。

ボールは見事にバットに当たり、右手首に痛みが走る。

そのまま無理矢理打ち飛ばしたボールは、まっすぐ飛んでいく。

⏰:10/06/08 17:13 📱:N08A3 🆔:JzbPbZSE


#341 [我輩は匿名である]
ピッチャーが手を伸ばせば、充分に届く距離に。

パシッという音を立てて、ピッチャーのグローブがボールを掴む。

ギャラリーも選手達も、息を呑んでそれを見つめていた。

「アウト!チェンジ!」

審判の声が響き渡る。

相手チームの外野たちが、もう試合が終わったかのように、はしゃぎながら走ってくる。

⏰:10/06/08 17:13 📱:N08A3 🆔:JzbPbZSE


#342 [我輩は匿名である]
「はぁ…」

薫はため息をついて、左手にバットを持ちかえながらベンチに戻る。

「悪い。捻挫したから、二塁の守り代わってくれないか?」

補欠の男子にそう言って、薫はベンチに腰を下ろす。

そして、0対5まで点差が開いた後、試合は終わった。

⏰:10/06/08 17:13 📱:N08A3 🆔:JzbPbZSE


#343 [我輩は匿名である]
「礼!」

「ありがとうございました!」

審判の声に合わせて、選手達は互いに頭を下げる。

「もったいないな。お前が野球部に入ってくれれば、安心して卒業出来るのに」

挨拶を終え、ピッチャーが薫に話し掛けてきた。

まるで死ぬような言い方だな。薫は小さく笑う。

「坊主にすると、俺多分殺されますから」

「…誰に?」

⏰:10/06/08 17:14 📱:N08A3 🆔:JzbPbZSE


#344 [我輩は匿名である]
「こいつ、彼女いるらしいぜ」

キャッチャーも話に入ってきた。

「…え、マジで?」

「薫!!」

薫の背後で声がした。

振り向いてみると、響子がかなり怒った顔で立っている。

「…例の彼女か?」

「何であんな打ち方したのよ!?手痛めるの当たり前でしょ!?」

響子は怒鳴り付けながら薫に詰め寄る。

⏰:10/06/08 17:15 📱:N08A3 🆔:JzbPbZSE


#345 [我輩は匿名である]
「いや…動かしすぎると、また左肩痛めそうだったからさ」

薫は答えながら、左の鎖骨辺りをさする。

その仕草を見て、響子は動きを止めた。

「……階段から落ちた時の、あの怪我の事?」

「…まぁ、な」

薫は誤魔化そうとしながらも頷く。

「“階段から落ちた”って…こいつ、あの階段事件で突き落とされた奴だったのか?」

「あぁーなるほどな」

2人の様子を見ながら、ピッチャーとキャッチャーが小声で話し合う。

⏰:10/06/08 17:15 📱:N08A3 🆔:JzbPbZSE


#346 [我輩は匿名である]
「……そっち痛める方が、絶対お前に怒られると思って」

薫は苦笑し、響子の頭を撫でる。

響子はしゅんとしたように下を向く。

「こいつ、あんたの為にあんな打ち方したんだぜ。

『俺の野球姿見て喜んでる奴がいるから』ってな」

キャッチャーがニヤニヤしながら響子に言う。

バラされると思っていなかった薫は、顔を赤らめて「ちょっと!」と彼を睨む。

響子はゆっくりと顔を上げ、薫を見る。

⏰:10/06/08 17:16 📱:N08A3 🆔:JzbPbZSE


#347 [我輩は匿名である]
薫は恥ずかしそうに顔を背けている。

それを見て、響子は嬉しそうに笑って薫に抱きついた。

「なぁ、その子がお前の彼女?」

2人がからかうように薫の肩を持つ。

いらん事を言わなきゃ良かった。薫は思いながら笑った。

「そうですよ」

断言する薫に、2人は絶句する。

⏰:10/06/08 17:16 📱:N08A3 🆔:JzbPbZSE


#348 [我輩は匿名である]
「いつまでいちゃついてんだ、あいつら」

「さぁ?ま、いいんじゃないの?」

彼らの微笑ましい様子を、直人や飛鳥は遠くから眺めていた。

⏰:10/06/08 17:17 📱:N08A3 🆔:JzbPbZSE


#349 [我輩は匿名である]
「やっと帰れるな」

帰り道、飛鳥は直人に話し掛ける。

奏子はバイトに行き、響子は薫の捻挫の手当てに付き添って

保健室に行っているため、2人で帰ってくる事になったのだ。

「そんなに帰りたかったのかよ」

「好きじゃないんだもん、運動」

「絶対人生損してるぞ」

「嫌いなもんは嫌いなんだよ!仕方ないだろ!

晶の時から運動大っ嫌いだったんだから!」

飛鳥は開き直ったように言い返す。

⏰:10/06/10 18:56 📱:N08A3 🆔:BePAOuBw


#350 [我輩は匿名である]
直人が笑って返事をしようとした時。

「ふぅん、意外だなー」

直人の背後で、若い男性の声がした。

振り向いてみるが、誰もいない。

「…今何か言ったか?」

「いや?」

飛鳥はきょとんとしている。

声も彼女のものではなかった。

「どうかしたの?」

⏰:10/06/10 18:57 📱:N08A3 🆔:BePAOuBw


#351 [我輩は匿名である]
「今、男の声が聞こえてきたんだけど。もしかして幽霊!?」

幽霊は怖くない直人は笑うが、飛鳥はかなり嫌そうな顔をしている。

「何だよ?」

「幽霊なんかいるわけないだろ!?変な事言うな!!」

飛鳥はものすごい剣幕で言い返してきた。

直人はきょとんとしてそれを見る。

「……お前、もしかして……幽霊怖い、とか?」

「…な…っ」

直人に図星を突かれて、飛鳥はちょっと顔を赤くする。

⏰:10/06/10 18:58 📱:N08A3 🆔:BePAOuBw


#352 [我輩は匿名である]
「そっ、そんな事…」

「はっはーん、そうか。お前お化け怖いのか」

「こっ、怖くない!」

ニヤニヤしてからかってくる直人に、飛鳥は大声で言い返す。

しかし、直人は全く信じない。

「そーゆーの全然平気そうなのにな。じゃああれか?

香月の前世が幽霊だった話とか聞いてる時も、怖がってたわけ?」

「………それは……」

「死にかけてる男の前で、悲しそうに立っている髪の長い女…。うはっ、怖ぇ」

⏰:10/06/10 18:58 📱:N08A3 🆔:BePAOuBw


#353 [我輩は匿名である]
もはや死神じゃねぇか、と直人は笑う。…が。

「(……悲しそうに立っている…髪の長い女…)」

飛鳥は真剣に想像する。

こういう事を考える時、何故かありえない程恐ろしい顔の幽霊が思い浮かぶもの。

頭の中で、もはや原型である今日子の顔からかけ離れた、気味の悪い女性が出来上がった。

「(………今日、お風呂入るのやめようかなぁ……)」

1人で勝手に暗くなっている飛鳥を見て、直人はちょっと慌ててフォローに入る。

「ま、まぁほら、香月みたいな奴が幽霊でも、全然怖くねぇけどな!

顔も可愛いし、背ちっこいし?むしろ薫の方が…」

⏰:10/06/10 18:58 📱:N08A3 🆔:BePAOuBw


#354 [我輩は匿名である]
「……月城が幽霊だったら…確実に呪い殺される……」

2人の頭の中に、血まみれの服に包丁を握り、半笑いで立っている薫の姿が思い浮かぶ。

「………やめよう。さすがに俺も怖くなってきた…」

「だから言ったじゃん…。夢に出てきたらどうしよう…」

泣きそうな顔で飛鳥はうつむく。

「でも何だったんだろ?俺が聞いた声。どっかで聞いた事ある気もしたけど…」

気まずくなってきたので、直人は話を戻す。

「……うめき声とか、そういうの…?」

飛鳥が恐る恐る尋ねる。

⏰:10/06/10 18:59 📱:N08A3 🆔:BePAOuBw


#355 [我輩は匿名である]
「違ぇよ。『ふうん、意外だな』って…」

「…そんなのんきそうな幽霊、初めて聞くんだけど」

「何で」とでも言いたそうに、飛鳥が言う。

「俺だってこんなの初めてだっつの」

「…まぁ、怖くなさそうな幽霊で良かったね」

「そっちかよ」

俺が気になってるのはそっちじゃない。直人は心の中で呟く。

「まぁ、そのうち思い出すんじゃない?空耳だったかもしれないし」

「んー…」

⏰:10/06/10 18:59 📱:N08A3 🆔:BePAOuBw


#356 [我輩は匿名である]
軽くあしらわれてしまい、直人はちょっと不満そうに首をかしげる。

「…もう忘れちゃったのか」

「ん?」

直人は思わず顔を上げる。

「神崎、お前今何か言ったか?」

「しつこいな、言ってないって」

飛鳥はちょっとうっとうしそうに答える。

「…本当に、今『もう忘れちゃったのか』って言わなかったか?」

「言ってないって。何なんだよ」

⏰:10/06/10 19:00 📱:N08A3 🆔:BePAOuBw


#357 [我輩は匿名である]
しつこい直人に、飛鳥はちょっとムッとしている。

「…またさっきの声がした」

直人はぽかんとした表情で言う。

さすがに、飛鳥の顔から血の気が引く。

「………こ、怖い事言うな!もう先帰る!」

「あ?ちょっ…」

⏰:10/06/10 19:00 📱:N08A3 🆔:BePAOuBw


#358 [我輩は匿名である]
直人が止める間もなく、飛鳥は怖がって、走って逃げていった。

「……何なんだよ…」

直人はその場でしばらく、腕を組んで立ち尽くす。

しかし、それ以降は何も聞こえなかったため、とぼとぼと1人で帰っていった。

⏰:10/06/10 19:00 📱:N08A3 🆔:BePAOuBw


#359 [我輩は匿名である]
「幽霊?」

次の日、直人は薫に幽霊の話をしてみた。

「そう。昨日帰りに、誰もいないのに声が聞こえてきたんだ」

「ふうん…お前、霊感あったんだな」

薫は呑気に言いながら、手首に貼られた湿布を気にしている。

「そーゆーのはどうでもいいんだよ!」

直人はバンッ!と机をたたいて声を荒げる。

幽霊ごときにキレる直人に、薫はきょとんとする。

「俺が気にしてんのは、その声なんだよ!」

⏰:10/06/10 19:01 📱:N08A3 🆔:BePAOuBw


#360 [我輩は匿名である]
「声?」

「俺が知ってる声なんだよ!誰だかわかんねぇけど!」

「(そんな事言われても…)」

薫は少し呆れながら首をかしげる。

「神崎の声じゃないのか?一緒に帰ってただろ」

「いーや違う」

直人は首を振って断言する。

「だって、男の声だぜ!?クラスの奴の声でもなかったし…」

「……何か言われたのか?」

⏰:10/06/10 19:01 📱:N08A3 🆔:BePAOuBw


#361 [我輩は匿名である]
「『ふうん、意外だな』って」

「…何だそれ…」

いきなりそんな事を言う幽霊がいるのかと、薫はますます呆れる。

「聞き間違えじゃないのか?」

「違ぇよ!その後も『もう忘れちゃったのか』って言われたし!」

直人は必死に説得するが、薫は「うさんくさい」という表情で聞いている。

「本当だって!」

「…まずさぁ」

薫がため息をつきながら口を開く。

⏰:10/06/10 19:01 📱:N08A3 🆔:BePAOuBw


#362 [我輩は匿名である]
「お前の他に、誰か同じ道歩いてたとか…」

「誰もいなかった」

「じゃあ何か考えてたのか?」

「……考えてた」

「何を?」

「石川晶も運動嫌いだったのか、へぇーって」

「(…何だそれ…)」

全く話がつかめなくて、薫は眉間にしわを寄せて腕を組む。

「なんかな、神崎が運動嫌いって話してたんだよ」

⏰:10/06/10 19:02 📱:N08A3 🆔:BePAOuBw


#363 [我輩は匿名である]
「はぁ…」

「で、あいつが『石川晶が運動嫌いだったんだから仕方ない』って…」

「…ふうん…。確かに球技大会の時テンション低かったな」

薫は結構どうでも良さそうに返事をする。

「だろ?…って、俺そんな話したいんじゃねぇんだよ!」

「いつか言うと思ってた」

薫は呆れたように笑って言った。

⏰:10/06/10 19:06 📱:N08A3 🆔:BePAOuBw


#364 [我輩は匿名である]
「(…でもそれって、普通に考えて…)」

薫は考えながら、悩んでいる直人を見つめる。

「(……まぁ…俺が言うより、自分で気付いた方が良いか…)」

「なぁ、俺、何か恨まれてんのかなぁ?」

直人は特に気にしてなさそうに呟く。

「さぁ?俺にはさっぱりわからないな」

「ちぇっ。いいよ、自分で考えるから」

直人は口を尖らせて、自分の席に戻る。

⏰:10/06/10 19:06 📱:N08A3 🆔:BePAOuBw


#365 [我輩は匿名である]
「なぁ」

席に座ると同時に、今度は飛鳥が話し掛けてきた。

「ん?」

「今日は、例の幽霊はいないの?」

飛鳥は暗い顔で尋ねる。

「あ?あぁ、今日はまだ何も」

直人は椅子の上であぐらをかく。

すると、飛鳥は少し恥ずかしそうな顔で、直人にある物を手渡した。

⏰:10/06/12 19:57 📱:N08A3 🆔:C5E9sbig


#366 [我輩は匿名である]
「はい」

「…何?お守りじゃん」

直人が受け取ったのは、神社で売っている、青い御守りだった。

「それ、あんたにあげる」

「へ?これ、俺にくれんの?」

「…うん」

飛鳥は視線をそらして頷く。

「何で?」

直人はぽかんとして尋ねる。

⏰:10/06/12 19:58 📱:N08A3 🆔:C5E9sbig


#367 [我輩は匿名である]
「だって…変な幽霊に取り憑かれてたら近寄れないじゃん!」

飛鳥はちょっと顔を赤くして、声を上げて答える。

「あぁ、なるほどな!サンキュ!」

直人はニッと笑って、どこに付けようかと考える。

何だか嬉しそうな直人を見て、飛鳥もホッとしたように笑う。

「なぁ、お前ならどこに付ける?」

「私?私は…」

そう聞かれて、飛鳥も一緒に考える。

⏰:10/06/12 19:58 📱:N08A3 🆔:C5E9sbig


#368 [我輩は匿名である]
「………お守りって、肌身放さず持っとく物だろ?…財布とか?」

「でも、俺の財布にお守りつけれそうな所なんかねぇぞ」

「あぁ…。うーん…」

「…あ!」

直人はひらめいたように声を上げる。

「財布の中に入れとけばいいか!」

「あぁ、いいんじゃない?それでも」

飛鳥は小さく笑って答える。

⏰:10/06/12 19:58 📱:N08A3 🆔:C5E9sbig


#369 [我輩は匿名である]
我ながらいいアイデアだと、直人は財布にお守りを入れる。

「でも、本当にいいのかよ?せっかく自分で働いた金なのに」

「いいよ、それぐらい。だからさっさと幽霊追っ払えよ」

飛鳥はかなり嫌そうな顔で直人に言った。

直人はふと、財布の中身を見つめる。

「お前、もう飯買った?」

「…買ってない。昼休みに食堂でパン買うつもりだけど」

⏰:10/06/12 19:59 📱:N08A3 🆔:C5E9sbig


#370 [我輩は匿名である]
急に何を聞くのか。飛鳥は眉間にしわを寄せる。

「じゃあ、パン1個おごってやるよ」

財布の中身を確認した後、直人は満面の笑みを浮かべて言った。

「………へ?」

飛鳥はただきょとんとする。

「なんで?」

「これのお礼!」

答えながら、直人は財布を指差す。

⏰:10/06/12 19:59 📱:N08A3 🆔:C5E9sbig


#371 [我輩は匿名である]
「え、いいよ、別に」

「いいっていいって。昨日小遣いもらったばっかだしよ。

パン代浮かせて、さっさとケータイ買えよな」

「う…」

携帯電話を持っていないことをからかわれて、飛鳥は悔しそうに目を逸らす。

「何のパンがいい?」

「…サンドイッチ」

「よし。俺今日飲み物買いに行くから、一緒に食堂行くわ」

⏰:10/06/12 19:59 📱:N08A3 🆔:C5E9sbig


#372 [我輩は匿名である]
「そう?じゃあチャイム鳴ったらダッシュな」

「はぁ?めんどくせー」

乗り気だった直人の顔が、一瞬にして欝陶しそうな表情に変わる。

が、言ってしまった以上仕方がない。

「わかったよ。俺マジでダッシュするから、ちゃんと付いて来いよな」

そういって、また飛鳥に笑いかけた。

⏰:10/06/12 20:00 📱:N08A3 🆔:C5E9sbig


#373 [我輩は匿名である]
そして、昼休み。

「あ…あんたさぁ…」

息を切らして、途切れ途切れに飛鳥が言う。

その横には、何事もないような顔でレジに並んでいる直人の姿。

手にはちゃっかり、ペットボトル飲料が握られている。

「もうちょっと…待ってやろうとか…思わないわけ…?」

「だから言っただろ?マジでダッシュするって」

「そうだけど…!」

言い返そうにも、疲れすぎてそれどころではない。

⏰:10/06/12 20:00 📱:N08A3 🆔:C5E9sbig


#374 [我輩は匿名である]
必死で直人に付いてきた飛鳥は、膝に手をついて息を整える。

「まぁいいじゃん。これなら売り切れる前にサンドイッチ買えるぞ」

「…まぁね……」

直人がダッシュしたおかげで、前から5、6番目に並ぶ事が出来た。

「すぐ売り切れるだろ?サンドイッチ」

「そうだね…。サンドイッチが1番人気みたいだし」

「お前サンドイッチ好きなのか?」

「結構好き、かな」

レジを待つ間、2人はそんな話をして時間を過ごす。

⏰:10/06/12 20:01 📱:N08A3 🆔:C5E9sbig


#375 [我輩は匿名である]
「……ありがとね」

「ん?」

不意に言われて、直人はぽかんとする。

「…いや…おごってくれて、…ありがとう、って」

照れているのか、飛鳥は頬を赤くしてそっぽを向く。

「何でお前が礼言うんだよ?俺はお守りのお返ししてるだけだろ」

「…一応言っときたかったの!」

飛鳥は怒ったように言って、黙り込んでしまった。

「(…あれ?怒ったか?)」

⏰:10/06/12 20:24 📱:N08A3 🆔:C5E9sbig


#376 [我輩は匿名である]
直人は飛鳥を見ながら考える。

「何だよ、怒んなよ」

「べっ、別に怒ってねぇよ」

「そうか?顔赤いぞ?」

「怒ってないってば!」

「怒ってんじゃん!」

「うるさいなぁ!早くサンドイッチ買ってよ!」

「今から買うっつーの!」

2人はそんな言い合いをしながら、レジの順番がまわってくるのを待っていた。

⏰:10/06/12 20:25 📱:N08A3 🆔:C5E9sbig


#377 [我輩は匿名である]
数日後。

直人は憂鬱そうな顔で、自分のノートを見つめる。

隅っこにメモされた、数学の中間試験のテスト範囲だ。

「(………忘れてた…。再来週からテストだった…)」

直人はまるで、埴輪のような顔で茫然とする。

「変な顔」

いつの間にか目の前にいた飛鳥に言われ、直人はハッと意識を取り戻した。

「だって、テストとか…忘れてたし…。

お前のお守り、学業成就のお守りじゃねぇの?」

⏰:10/06/12 20:25 📱:N08A3 🆔:C5E9sbig


#378 [我輩は匿名である]
「違うから。それよりほら、来てるよ。あいつ」

飛鳥は呆れた表情で、薫の座席を指差す。

薫の目の前に仁王立ちしているのは、案の定良介だった。

「……飽きねぇなぁ…あいつも…」

直人もため息を吐いて、机に肘をつく。

「おい月城!Good newsだ!」

「何だ」

薫も腕を組んでむすっとしている。

「今回のテストのBattleは無しだ!ありがたく思え!」

⏰:10/06/12 20:26 📱:N08A3 🆔:C5E9sbig


#379 [我輩は匿名である]
「は?」

彼の言葉には、薫だけでなく直人たちもきょとんとする。

「する気は全くなかったけど、何でまた?」

「球技大会を無しにしてくれたからな。借りぐらい返させろ」

「(あれは貸しに入るのか…?)」

何故かしたり顔の良介を、薫は呆然として見上げる。
「お前…」

「用件はこれだけだ!次は覚悟しておけよ!」

「え、ちょ…」

⏰:10/06/12 20:26 📱:N08A3 🆔:C5E9sbig


#380 [我輩は匿名である]
薫が何か言う前に、良介は走って教室を出て行った。

薫は疲れ果てたようにため息を吐く。

「…ちょっくら慰めに行ってやるか」

直人は何だか楽しそうに笑って立ち上がる。

暇なので、飛鳥もとりあえずそれについていく。

すると、響子や奏子も8組にやってきた。

「どうしたの?」

「数学の教科書忘れちゃって…」

飛鳥が尋ねると、奏子が苦笑して答えた。

⏰:10/06/12 20:26 📱:N08A3 🆔:C5E9sbig


#381 [我輩は匿名である]
「あぁ…今日、うち数学ないんだ。水無月は持ってるかもしれないけど」

「教科書全部置いて帰りそうだもんね、水無月くん」

響子は笑って言った。

「聞いてみよっか」

女子3人は、話しながら直人達に寄っていく。

「苦労するな、お前も」

直人はニヤニヤしながら薫の肩をたたく。

「……いいよな、あいつに絡まれなくてすむ奴は」

薫は遠い目をして言い返す。

⏰:10/06/12 20:27 📱:N08A3 🆔:C5E9sbig


#382 [我輩は匿名である]
「ま、良かったじゃん。期末テストまで絡んでこないんじゃねーの?」

「……まぁな」

「(…良介くん、また何か言いに来たのね…)」

話の内容から察したらしく、響子が頭を抱えてため息を吐く。

「神崎、こいつにも魔除けのお守り買ってやれば?」

直人は何も考えずに、笑顔で飛鳥に声をかける。

「はぁ?何であたしがそこまで…」

飛鳥はめんどくさそうに言い返す。

⏰:10/06/12 20:28 📱:N08A3 🆔:C5E9sbig


#383 [我輩は匿名である]
「お守り?」

奏子と響子は顔を見合わせる。

「…響子」

ボーッとしていた薫は、ここで初めて響子達が来ているのに気付いた。

「薫か水無月くん、どっちか数学の教科書持ってない?

奏子ちゃんが忘れちゃったらしくて」

「俺あるぜ」

直人はニッと笑って手を挙げる。

「やっぱりな」

⏰:10/06/14 19:51 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#384 [我輩は匿名である]
飛鳥と奏子が声を合わせる。

「あんただったら、絶対教科書置いてると思って」

「うっせぇな!教科書貸さねぇぞ」

「いいじゃん本当の事なんだから!早く貸してよ」

奏子は急かすように手を出す。

直人は軽く舌打ちして、一旦自分の席に戻る。

奏子もそれについていく。

「えーっと…あったあった。ほらよ」

いっぱいになった机をあさっていると、少ししわの寄った数学の教科書が出てきた。

⏰:10/06/14 19:52 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#385 [我輩は匿名である]
「サンキュ♪」

「どーいたしまして」

「お礼に私もお守りあげよっか?」

「はぁ?別にいらねぇよ。お守りは1個で充分だろ」

直人はポケットに手を突っ込んで断る。

「つーか、何で飛鳥からお守りもらったの?」

奏子は不思議そうに首をひねる。

「この間の幽霊話でさ。俺が『変な声がする』って、球技大会の時言っただろ?

あれ言ったら、『怖くて近寄れないから持っとけ』って」

⏰:10/06/14 19:52 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#386 [我輩は匿名である]
直人は呆れたように笑って、響子と一緒に薫と喋っている飛鳥を見る。

「ふうん。意外と乙女だね、飛鳥」

「みたいだな。あんなムスッとしてる奴が怖がりとか、すげぇギャップ」

「確かに」

奏子は笑って頷き、直人の顔を眺める。

直人はまるで見守るような目で飛鳥を見ている。

「…あんたって飛鳥の話する時、すごい良い顔するよね」

そんな事を言われて、直人はきょとんとする。

「……そうか?」

⏰:10/06/14 19:52 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#387 [我輩は匿名である]
「うん」

奏子は少し笑って頷く。

「…なんか悔しいけどね」

それだけ言い残して、奏子は3人の方に歩きだした。

「(……何が悔しいんだろ?)」

彼女の言葉の意味がわからず、直人はぽかんとする。

「(………まぁいいか)」

一瞬考えた末、直人は特に気にせずに、4人の元に戻っていった。

それからは、特に大きな出来事は無かった。

⏰:10/06/14 19:53 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#388 [我輩は匿名である]
3週間後。

もう10月の中旬。

さすがに涼しくなってきて、制服も合服に変わった。

「お?」

直人達はじーっと、貼り出された成績順位を見つめる。

直人はほんの少し健闘して93位。

薫は良介と同着1位。

響子は前回とほぼ同じ120位。

奏子は171位。

そして驚く事に、飛鳥の点数が39位だった。

⏰:10/06/14 19:53 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#389 [我輩は匿名である]
「すげー!やるじゃんお前!」

直人はバシッと飛鳥の肩をたたく。

「…本当だ」

「何だよ!嬉しくないのか!?」

「う、嬉しいけど…信じられないっつーか…」

飛鳥はただただきょとんとしている。

課題テストの時は98位だったのが、今回のこの順位。

信じられないのも無理はない。

「へへへっ、なんか俺の方がテンション上がってきた!」

⏰:10/06/14 19:54 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#390 [我輩は匿名である]
茫然とする飛鳥の肩に手を回して、直人は満面の笑みを浮かべる。

「弟見返すのも近いかもな!頑張れよ!」

「…うん、ありがと」

直人に言われ、飛鳥もやっと嬉しそうに笑った。

奏子は黙って、2人の様子を見る。

「なぁ、お祝いしようぜ!薫も1位だった事だし」

「なんでこういう時に1位なんだ…」

「いいね、お祝い♪」

ため息を吐いている薫の隣で、響子が笑って返事する。

⏰:10/06/14 19:54 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#391 [我輩は匿名である]
「あたし、カラオケがいい!」

奏子が真っ先に手を挙げる。

「(カラオケ…)」

直人と響子は、その一言にぎょっとする。

「…俺はいい」

更に暗い顔をして、薫は断った。

「なんでー?いいじゃん、このメンバーで行った事無いし」

「あんまり好きじゃないんだよ、カラオケは。

もっと他の事にしないか?」

⏰:10/06/14 19:54 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#392 [我輩は匿名である]
薫はきっぱりと言い張って、他に何か無いか考える。

しかし答えが出ないまま、予鈴のチャイムが鳴った。

「…あ、俺トイレ行ってくる」

「じゃあ、私達も行こ」

「うん」

薫はトイレへ、響子と奏子は自分達の教室へと歩きだす。

2人きりになった直人と飛鳥は、お互い顔を見合う。

⏰:10/06/14 19:55 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#393 [我輩は匿名である]
「……月城、もしかして……」

「…誰にも言うなよ。あいつそれバラすとキレるから」

直人の言葉に、飛鳥は「やっぱりな」と確信した。

「…音痴なの?」

「あぁ、信じられねぇぐらいな」

直人は苦笑する。

「音符は読めるけど、歌うとなると、さっぱりだ。

中学の通知表で2取った事があるぐらい」

⏰:10/06/14 19:55 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#394 [我輩は匿名である]
「そんなに?」

「おう。ちなみに絵もかなり下手だぞ」

「…あぁ、なんか下手だったな」

本の代償の話をした時の事を思い出し、飛鳥は頷く。

そして、少し残念そうに、こう呟いた。

「……カラオケ行きたかったな」

直人はじっと、飛鳥を見る。

「じゃあ、今度行くか」

ニッと笑って、飛鳥に言ってみる。

⏰:10/06/14 19:56 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#395 [我輩は匿名である]
「へ?」

思いも寄らぬ誘いに、飛鳥はきょとんとする。

「行きてぇんだろ?カラオケ。

俺カラオケ好きだし、お前が良いんなら行くぜ」

直人は笑顔で飛鳥を誘う。

行きたい。飛鳥は思ったが、口には出せなかった。

奏子が直人を好きだという事を考えると、行っていいのかわからないのだ。

⏰:10/06/14 19:56 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#396 [我輩は匿名である]
「…そう、だね。考えとこ」

そんな答えしか返せなかった。

「あ、お前バイトとかあるもんな。行けそうだったら言えよな」

「うん、ありがと」

直人は特に変に思う事なく、笑顔で言った。

⏰:10/06/14 19:57 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#397 [我輩は匿名である]
昼休み。

「カラオケ?」

奏子が席を立っている間に、飛鳥は響子に相談していた。

「いいじゃない、行ったら。私だったら行くわよ」

「…そう?」

響子に当たり前のように言われて、飛鳥は更に悩む。

「…まぁ、相手が友達だから悩むのもわかるけどね。

でも、飛鳥ちゃんも水無月くんが好きなんでしょ?」

「……………うん」

⏰:10/06/14 19:57 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#398 [我輩は匿名である]
飛鳥は大きく頷く。

「じゃあなおさらよ。気遣ってたら、取られちゃうわよ?」

響子は真剣な顔で、急かすように言う。

一息つき、飛鳥は考える。

「(…そう…なんだよなぁ…。

でも、奏子とややこしい事になったらめんどくさいし…)」

悩んでる飛鳥を、響子はじっと見つめる。

「……いいなぁ。私にもあったな、そういう時」

懐かしそうに、響子が笑った。

⏰:10/06/14 19:58 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#399 [我輩は匿名である]
「そうなの?」

「そりゃあるわよー。友達と取り合いしたって事はなかったけど」

「やっぱり、2人で出かけるって時、緊張した?」

「したした。でも1番は…やっぱり優也と初めてご飯行った時かな。

あっちはもっと緊張してあらしいけど」

響子が嬉しそうに話すのを、飛鳥も笑顔で聞き入る。

「そうなの?」

「うん。優也が誘ってきたからね。

『良かったら今度、2人でご飯行きませんか?』って」

⏰:10/06/14 19:58 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#400 [我輩は匿名である]
「へぇ。いいね、そういうの」

「飛鳥ちゃんだって、水無月くんにカラオケ誘われてるじゃない」

「…そっか」

飛鳥は思い出したように頷く。

「……ちょっと悪い気もするけど、大丈夫だよね?」

「大丈夫よ。行ったら感想聞かせてね」

響子は早くも楽しそうに笑った。

⏰:10/06/14 19:59 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#401 [我輩は匿名である]
が。

「あ!」

「ん?」

飛鳥は困ったような顔でうなだれる。

「あたし、いい服持ってない…」

「あらまー…。家にどんな服があるの?」

「ジャージ」

「だけ!?」

「うん」

暗い顔で答える飛鳥に、響子は目を丸くしている。

⏰:10/06/14 19:59 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


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