記憶を売る本屋 2
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#312 [我輩は匿名である]
運動場にいる3人を見ながら、直人は考える。
「(香月は前、『前世の記憶が無くても、薫を好きになったかも』って言ってたな。
でも、薫に前世の記憶が無かったら…なんか、想像できないな)」
直人よりも前から前世の事を知っていた薫。
直人にとって、薫はある意味先輩のようなもの。
その薫に前世の記憶が無かったら、なんて考えられない。
「(…生まれ変わる為に、あんな腹黒いもやしになったんだよな。
だったら、前世の記憶を持って生まれてこなかったら…
もっと明るくて、毎年インフルエンザにかからない丈夫な奴だったのか?
……明るくて元気な薫とか…気持ち悪いな…)」
:10/06/04 08:43
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:K5pa3eMc
#313 [我輩は匿名である]
奏子のような性格の薫を想像してみると、なんだか寒気がした。
「(…薫の事考えるのはやめよ。
神崎は…神崎はどうなるんだろ?もっと平和な育ち方したのか?
…いや、もしかしたら、もっと引きこもりになってたかも……)」
有り得る。考えながら自分で頷く。
窓際でボーッとしている直人を、奏子は「何してるんだろう?」と眺める。
「(つーか、俺達は何を代償にされたんだろ?
薫は心と健康な身体…。薫の前世って…どんな奴だったんだろ…。
……いやいや、それは今どうでもいい。香月や俺、神崎は…何を取られたんだろ?)」
手摺りに肘をついて、直人は首をひねる。
:10/06/04 08:43
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#314 [我輩は匿名である]
「(なんだったんだろうなぁ…?今の…)」
運動場に向かいながら、直人はポケットに手を突っ込みながら考える。
「さっき、何考えてたの?あんた」
奏子が不思議そうに尋ねてくる。
窓際で、黄昏るような雰囲気で外を眺めていた直人。
いつもとは違うその様子が、奏子は気になっていたらしい。
「あ?いや…まぁいろいろな」
直人はそう言ってはぐらかす。
本の事について聞かれるのも、だんだんめんどくさくなってきた。
奏子は「いろいろ?」と、不満そうに直人を見ている。
:10/06/06 13:49
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#315 [我輩は匿名である]
「そう。いろいろあるんだよ、俺にだって」
はぁっとため息をつきながら、少し歩くスピードを速める。
これ以上聞かれると、めんどくさくて全部話してしまいたくなる。
でも、飛鳥はそれを拒んでいる。
直人はもう、運動場まで走っていきたい気持ちでいっぱいだったが、
そこまであからさまな素振りはしたくない。
奏子と2人きりになる事に、変なプレッシャーを感じるなんて、思っていなかった。
奏子も、直人が考えている事が何となくわかったのか、それ以上何も聞こうとはしなかった。
:10/06/06 13:49
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#316 [我輩は匿名である]
「あっ、おかえりー」
運動場に戻ってきて、響子たちが声をかける。
「おぅ、ただいま」
直人はホッとした気持ちで返事をし、響子と飛鳥の間に割って入る。
「何も余計な事喋らなかった?」
響子がにっこり笑って、ボソッと直人に尋ねる。
「何も喋ってねーよ」
直人はまた、大きくため息をつく。
飛鳥はそれをじっと見つめる。
「ねー、試合どうなってんの?」
:10/06/06 13:50
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#317 [我輩は匿名である]
飛鳥の隣に来た奏子が、飛鳥の肩をトントンとたたく。
「…勝ってるみたいだよ、ほら」
飛鳥は得点板を指差す。
得点は3対2。
準決勝らしく接戦になっているが、何故か負ける気配はない。
「……やっぱ野球の神様なんじゃない?あの子」
「野球に限らず神様よ」
「それお前の中だけな」
「(…早く終わらないかなぁ…)」
薫の雄姿にうっとりしている響子に突っ込む直人の横で、飛鳥はつまらなそうに得点板を見つめる。
:10/06/06 13:51
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#318 [我輩は匿名である]
「……神様、か」
奏子がふと呟いた。
「何て?」
何を言ったのか聞き取れず、飛鳥が奏子の方を向く。
「……神様ってさ、本当にいるのかな?」
奏子は意外にも真剣そうな表情で、そんな事を言いだした。
飛鳥はただきょとんとしている。
「……どうしたの?急に」
「…さぁ?何だろうね。何か、何となくそう思ってさ」
自分でもよくわからなかったのか、奏子は苦笑する。
:10/06/06 13:51
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#319 [我輩は匿名である]
「でも…何で私だけ、前世の本もらえないのかなぁって思う時があるんだよね。
…なんか、資格とかいるのかなぁー…とか」
奏子の話に、飛鳥は首をかしげる。
「……どうなんだろうね」
言いながら、飛鳥も考えた。
自分はきっと、未練があった。だから代金を支払って“生まれ変わる”事が出来た。
響子と薫の場合は“約束”を果たす為。
ここまでは、皆前世に未練があったと一括りに出来る。
しかし、直人だけはそうではない気がしたのだ。
要には今日子のように、魂だけになってもこの世に留まる力などなかったはずだ。
:10/06/06 13:52
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#320 [我輩は匿名である]
現に、直人の本は、要が死ぬところで話は終わっていた。
晶を助けた後、まさか晶が後を追って自殺したなんて知るはずもないし、
要の事だから、「俺がいなくても幸せになってくれるだろう」なんて事を考えてもおかしくない。
要の性格などから考えても、未練を残す事はあまり考えられないのだ。
だったらなぜ、直人はあの本をもらう事になったのだろう?
飛鳥はそれが気になっていた。
「……また何か難しい事考えてんのかよ?」
飛鳥が黙って眉間にしわを寄せて考え込んでいるのを見て、直人が声をかける。
「……奏子と、本をもらう条件って何なんだろうって話してたんだ」
飛鳥は顔を上げて答える。
:10/06/06 13:52
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#321 [我輩は匿名である]
「またそんなめんどくせー話…」
直人はげんなりしたように肩を落とす。
「そんなの、この世に未練があった人だけでしょ」
響子があっさりと答える。
「そうも思ったんだけどさ、じゃあこいつは何で本もらえたんだろ?
未練とか、そういうの考える暇がないまま死んだじゃん?」
奏子が横にいるのも忘れ、飛鳥は直人を指差す。
響子や奏子は、じーっと直人を見る。
「……まぁ、確かにねぇ」
「事故って死んだんだっけ?あんた」
:10/06/06 13:52
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