記憶を売る本屋 2
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#351 [我輩は匿名である]
「今、男の声が聞こえてきたんだけど。もしかして幽霊!?」
幽霊は怖くない直人は笑うが、飛鳥はかなり嫌そうな顔をしている。
「何だよ?」
「幽霊なんかいるわけないだろ!?変な事言うな!!」
飛鳥はものすごい剣幕で言い返してきた。
直人はきょとんとしてそれを見る。
「……お前、もしかして……幽霊怖い、とか?」
「…な…っ」
直人に図星を突かれて、飛鳥はちょっと顔を赤くする。
:10/06/10 18:58
:N08A3
:BePAOuBw
#352 [我輩は匿名である]
「そっ、そんな事…」
「はっはーん、そうか。お前お化け怖いのか」
「こっ、怖くない!」
ニヤニヤしてからかってくる直人に、飛鳥は大声で言い返す。
しかし、直人は全く信じない。
「そーゆーの全然平気そうなのにな。じゃああれか?
香月の前世が幽霊だった話とか聞いてる時も、怖がってたわけ?」
「………それは……」
「死にかけてる男の前で、悲しそうに立っている髪の長い女…。うはっ、怖ぇ」
:10/06/10 18:58
:N08A3
:BePAOuBw
#353 [我輩は匿名である]
もはや死神じゃねぇか、と直人は笑う。…が。
「(……悲しそうに立っている…髪の長い女…)」
飛鳥は真剣に想像する。
こういう事を考える時、何故かありえない程恐ろしい顔の幽霊が思い浮かぶもの。
頭の中で、もはや原型である今日子の顔からかけ離れた、気味の悪い女性が出来上がった。
「(………今日、お風呂入るのやめようかなぁ……)」
1人で勝手に暗くなっている飛鳥を見て、直人はちょっと慌ててフォローに入る。
「ま、まぁほら、香月みたいな奴が幽霊でも、全然怖くねぇけどな!
顔も可愛いし、背ちっこいし?むしろ薫の方が…」
:10/06/10 18:58
:N08A3
:BePAOuBw
#354 [我輩は匿名である]
「……月城が幽霊だったら…確実に呪い殺される……」
2人の頭の中に、血まみれの服に包丁を握り、半笑いで立っている薫の姿が思い浮かぶ。
「………やめよう。さすがに俺も怖くなってきた…」
「だから言ったじゃん…。夢に出てきたらどうしよう…」
泣きそうな顔で飛鳥はうつむく。
「でも何だったんだろ?俺が聞いた声。どっかで聞いた事ある気もしたけど…」
気まずくなってきたので、直人は話を戻す。
「……うめき声とか、そういうの…?」
飛鳥が恐る恐る尋ねる。
:10/06/10 18:59
:N08A3
:BePAOuBw
#355 [我輩は匿名である]
「違ぇよ。『ふうん、意外だな』って…」
「…そんなのんきそうな幽霊、初めて聞くんだけど」
「何で」とでも言いたそうに、飛鳥が言う。
「俺だってこんなの初めてだっつの」
「…まぁ、怖くなさそうな幽霊で良かったね」
「そっちかよ」
俺が気になってるのはそっちじゃない。直人は心の中で呟く。
「まぁ、そのうち思い出すんじゃない?空耳だったかもしれないし」
「んー…」
:10/06/10 18:59
:N08A3
:BePAOuBw
#356 [我輩は匿名である]
軽くあしらわれてしまい、直人はちょっと不満そうに首をかしげる。
「…もう忘れちゃったのか」
「ん?」
直人は思わず顔を上げる。
「神崎、お前今何か言ったか?」
「しつこいな、言ってないって」
飛鳥はちょっとうっとうしそうに答える。
「…本当に、今『もう忘れちゃったのか』って言わなかったか?」
「言ってないって。何なんだよ」
:10/06/10 19:00
:N08A3
:BePAOuBw
#357 [我輩は匿名である]
しつこい直人に、飛鳥はちょっとムッとしている。
「…またさっきの声がした」
直人はぽかんとした表情で言う。
さすがに、飛鳥の顔から血の気が引く。
「………こ、怖い事言うな!もう先帰る!」
「あ?ちょっ…」
:10/06/10 19:00
:N08A3
:BePAOuBw
#358 [我輩は匿名である]
直人が止める間もなく、飛鳥は怖がって、走って逃げていった。
「……何なんだよ…」
直人はその場でしばらく、腕を組んで立ち尽くす。
しかし、それ以降は何も聞こえなかったため、とぼとぼと1人で帰っていった。
:10/06/10 19:00
:N08A3
:BePAOuBw
#359 [我輩は匿名である]
「幽霊?」
次の日、直人は薫に幽霊の話をしてみた。
「そう。昨日帰りに、誰もいないのに声が聞こえてきたんだ」
「ふうん…お前、霊感あったんだな」
薫は呑気に言いながら、手首に貼られた湿布を気にしている。
「そーゆーのはどうでもいいんだよ!」
直人はバンッ!と机をたたいて声を荒げる。
幽霊ごときにキレる直人に、薫はきょとんとする。
「俺が気にしてんのは、その声なんだよ!」
:10/06/10 19:01
:N08A3
:BePAOuBw
#360 [我輩は匿名である]
「声?」
「俺が知ってる声なんだよ!誰だかわかんねぇけど!」
「(そんな事言われても…)」
薫は少し呆れながら首をかしげる。
「神崎の声じゃないのか?一緒に帰ってただろ」
「いーや違う」
直人は首を振って断言する。
「だって、男の声だぜ!?クラスの奴の声でもなかったし…」
「……何か言われたのか?」
:10/06/10 19:01
:N08A3
:BePAOuBw
#361 [我輩は匿名である]
「『ふうん、意外だな』って」
「…何だそれ…」
いきなりそんな事を言う幽霊がいるのかと、薫はますます呆れる。
「聞き間違えじゃないのか?」
「違ぇよ!その後も『もう忘れちゃったのか』って言われたし!」
直人は必死に説得するが、薫は「うさんくさい」という表情で聞いている。
「本当だって!」
「…まずさぁ」
薫がため息をつきながら口を開く。
:10/06/10 19:01
:N08A3
:BePAOuBw
#362 [我輩は匿名である]
「お前の他に、誰か同じ道歩いてたとか…」
「誰もいなかった」
「じゃあ何か考えてたのか?」
「……考えてた」
「何を?」
「石川晶も運動嫌いだったのか、へぇーって」
「(…何だそれ…)」
全く話がつかめなくて、薫は眉間にしわを寄せて腕を組む。
「なんかな、神崎が運動嫌いって話してたんだよ」
:10/06/10 19:02
:N08A3
:BePAOuBw
#363 [我輩は匿名である]
「はぁ…」
「で、あいつが『石川晶が運動嫌いだったんだから仕方ない』って…」
「…ふうん…。確かに球技大会の時テンション低かったな」
薫は結構どうでも良さそうに返事をする。
「だろ?…って、俺そんな話したいんじゃねぇんだよ!」
「いつか言うと思ってた」
薫は呆れたように笑って言った。
:10/06/10 19:06
:N08A3
:BePAOuBw
#364 [我輩は匿名である]
「(…でもそれって、普通に考えて…)」
薫は考えながら、悩んでいる直人を見つめる。
「(……まぁ…俺が言うより、自分で気付いた方が良いか…)」
「なぁ、俺、何か恨まれてんのかなぁ?」
直人は特に気にしてなさそうに呟く。
「さぁ?俺にはさっぱりわからないな」
「ちぇっ。いいよ、自分で考えるから」
直人は口を尖らせて、自分の席に戻る。
:10/06/10 19:06
:N08A3
:BePAOuBw
#365 [我輩は匿名である]
「なぁ」
席に座ると同時に、今度は飛鳥が話し掛けてきた。
「ん?」
「今日は、例の幽霊はいないの?」
飛鳥は暗い顔で尋ねる。
「あ?あぁ、今日はまだ何も」
直人は椅子の上であぐらをかく。
すると、飛鳥は少し恥ずかしそうな顔で、直人にある物を手渡した。
:10/06/12 19:57
:N08A3
:C5E9sbig
#366 [我輩は匿名である]
「はい」
「…何?お守りじゃん」
直人が受け取ったのは、神社で売っている、青い御守りだった。
「それ、あんたにあげる」
「へ?これ、俺にくれんの?」
「…うん」
飛鳥は視線をそらして頷く。
「何で?」
直人はぽかんとして尋ねる。
:10/06/12 19:58
:N08A3
:C5E9sbig
#367 [我輩は匿名である]
「だって…変な幽霊に取り憑かれてたら近寄れないじゃん!」
飛鳥はちょっと顔を赤くして、声を上げて答える。
「あぁ、なるほどな!サンキュ!」
直人はニッと笑って、どこに付けようかと考える。
何だか嬉しそうな直人を見て、飛鳥もホッとしたように笑う。
「なぁ、お前ならどこに付ける?」
「私?私は…」
そう聞かれて、飛鳥も一緒に考える。
:10/06/12 19:58
:N08A3
:C5E9sbig
#368 [我輩は匿名である]
「………お守りって、肌身放さず持っとく物だろ?…財布とか?」
「でも、俺の財布にお守りつけれそうな所なんかねぇぞ」
「あぁ…。うーん…」
「…あ!」
直人はひらめいたように声を上げる。
「財布の中に入れとけばいいか!」
「あぁ、いいんじゃない?それでも」
飛鳥は小さく笑って答える。
:10/06/12 19:58
:N08A3
:C5E9sbig
#369 [我輩は匿名である]
我ながらいいアイデアだと、直人は財布にお守りを入れる。
「でも、本当にいいのかよ?せっかく自分で働いた金なのに」
「いいよ、それぐらい。だからさっさと幽霊追っ払えよ」
飛鳥はかなり嫌そうな顔で直人に言った。
直人はふと、財布の中身を見つめる。
「お前、もう飯買った?」
「…買ってない。昼休みに食堂でパン買うつもりだけど」
:10/06/12 19:59
:N08A3
:C5E9sbig
#370 [我輩は匿名である]
急に何を聞くのか。飛鳥は眉間にしわを寄せる。
「じゃあ、パン1個おごってやるよ」
財布の中身を確認した後、直人は満面の笑みを浮かべて言った。
「………へ?」
飛鳥はただきょとんとする。
「なんで?」
「これのお礼!」
答えながら、直人は財布を指差す。
:10/06/12 19:59
:N08A3
:C5E9sbig
#371 [我輩は匿名である]
「え、いいよ、別に」
「いいっていいって。昨日小遣いもらったばっかだしよ。
パン代浮かせて、さっさとケータイ買えよな」
「う…」
携帯電話を持っていないことをからかわれて、飛鳥は悔しそうに目を逸らす。
「何のパンがいい?」
「…サンドイッチ」
「よし。俺今日飲み物買いに行くから、一緒に食堂行くわ」
:10/06/12 19:59
:N08A3
:C5E9sbig
#372 [我輩は匿名である]
「そう?じゃあチャイム鳴ったらダッシュな」
「はぁ?めんどくせー」
乗り気だった直人の顔が、一瞬にして欝陶しそうな表情に変わる。
が、言ってしまった以上仕方がない。
「わかったよ。俺マジでダッシュするから、ちゃんと付いて来いよな」
そういって、また飛鳥に笑いかけた。
:10/06/12 20:00
:N08A3
:C5E9sbig
#373 [我輩は匿名である]
そして、昼休み。
「あ…あんたさぁ…」
息を切らして、途切れ途切れに飛鳥が言う。
その横には、何事もないような顔でレジに並んでいる直人の姿。
手にはちゃっかり、ペットボトル飲料が握られている。
「もうちょっと…待ってやろうとか…思わないわけ…?」
「だから言っただろ?マジでダッシュするって」
「そうだけど…!」
言い返そうにも、疲れすぎてそれどころではない。
:10/06/12 20:00
:N08A3
:C5E9sbig
#374 [我輩は匿名である]
必死で直人に付いてきた飛鳥は、膝に手をついて息を整える。
「まぁいいじゃん。これなら売り切れる前にサンドイッチ買えるぞ」
「…まぁね……」
直人がダッシュしたおかげで、前から5、6番目に並ぶ事が出来た。
「すぐ売り切れるだろ?サンドイッチ」
「そうだね…。サンドイッチが1番人気みたいだし」
「お前サンドイッチ好きなのか?」
「結構好き、かな」
レジを待つ間、2人はそんな話をして時間を過ごす。
:10/06/12 20:01
:N08A3
:C5E9sbig
#375 [我輩は匿名である]
「……ありがとね」
「ん?」
不意に言われて、直人はぽかんとする。
「…いや…おごってくれて、…ありがとう、って」
照れているのか、飛鳥は頬を赤くしてそっぽを向く。
「何でお前が礼言うんだよ?俺はお守りのお返ししてるだけだろ」
「…一応言っときたかったの!」
飛鳥は怒ったように言って、黙り込んでしまった。
「(…あれ?怒ったか?)」
:10/06/12 20:24
:N08A3
:C5E9sbig
#376 [我輩は匿名である]
直人は飛鳥を見ながら考える。
「何だよ、怒んなよ」
「べっ、別に怒ってねぇよ」
「そうか?顔赤いぞ?」
「怒ってないってば!」
「怒ってんじゃん!」
「うるさいなぁ!早くサンドイッチ買ってよ!」
「今から買うっつーの!」
2人はそんな言い合いをしながら、レジの順番がまわってくるのを待っていた。
:10/06/12 20:25
:N08A3
:C5E9sbig
#377 [我輩は匿名である]
数日後。
直人は憂鬱そうな顔で、自分のノートを見つめる。
隅っこにメモされた、数学の中間試験のテスト範囲だ。
「(………忘れてた…。再来週からテストだった…)」
直人はまるで、埴輪のような顔で茫然とする。
「変な顔」
いつの間にか目の前にいた飛鳥に言われ、直人はハッと意識を取り戻した。
「だって、テストとか…忘れてたし…。
お前のお守り、学業成就のお守りじゃねぇの?」
:10/06/12 20:25
:N08A3
:C5E9sbig
#378 [我輩は匿名である]
「違うから。それよりほら、来てるよ。あいつ」
飛鳥は呆れた表情で、薫の座席を指差す。
薫の目の前に仁王立ちしているのは、案の定良介だった。
「……飽きねぇなぁ…あいつも…」
直人もため息を吐いて、机に肘をつく。
「おい月城!Good newsだ!」
「何だ」
薫も腕を組んでむすっとしている。
「今回のテストのBattleは無しだ!ありがたく思え!」
:10/06/12 20:26
:N08A3
:C5E9sbig
#379 [我輩は匿名である]
「は?」
彼の言葉には、薫だけでなく直人たちもきょとんとする。
「する気は全くなかったけど、何でまた?」
「球技大会を無しにしてくれたからな。借りぐらい返させろ」
「(あれは貸しに入るのか…?)」
何故かしたり顔の良介を、薫は呆然として見上げる。
「お前…」
「用件はこれだけだ!次は覚悟しておけよ!」
「え、ちょ…」
:10/06/12 20:26
:N08A3
:C5E9sbig
#380 [我輩は匿名である]
薫が何か言う前に、良介は走って教室を出て行った。
薫は疲れ果てたようにため息を吐く。
「…ちょっくら慰めに行ってやるか」
直人は何だか楽しそうに笑って立ち上がる。
暇なので、飛鳥もとりあえずそれについていく。
すると、響子や奏子も8組にやってきた。
「どうしたの?」
「数学の教科書忘れちゃって…」
飛鳥が尋ねると、奏子が苦笑して答えた。
:10/06/12 20:26
:N08A3
:C5E9sbig
#381 [我輩は匿名である]
「あぁ…今日、うち数学ないんだ。水無月は持ってるかもしれないけど」
「教科書全部置いて帰りそうだもんね、水無月くん」
響子は笑って言った。
「聞いてみよっか」
女子3人は、話しながら直人達に寄っていく。
「苦労するな、お前も」
直人はニヤニヤしながら薫の肩をたたく。
「……いいよな、あいつに絡まれなくてすむ奴は」
薫は遠い目をして言い返す。
:10/06/12 20:27
:N08A3
:C5E9sbig
#382 [我輩は匿名である]
「ま、良かったじゃん。期末テストまで絡んでこないんじゃねーの?」
「……まぁな」
「(…良介くん、また何か言いに来たのね…)」
話の内容から察したらしく、響子が頭を抱えてため息を吐く。
「神崎、こいつにも魔除けのお守り買ってやれば?」
直人は何も考えずに、笑顔で飛鳥に声をかける。
「はぁ?何であたしがそこまで…」
飛鳥はめんどくさそうに言い返す。
:10/06/12 20:28
:N08A3
:C5E9sbig
#383 [我輩は匿名である]
「お守り?」
奏子と響子は顔を見合わせる。
「…響子」
ボーッとしていた薫は、ここで初めて響子達が来ているのに気付いた。
「薫か水無月くん、どっちか数学の教科書持ってない?
奏子ちゃんが忘れちゃったらしくて」
「俺あるぜ」
直人はニッと笑って手を挙げる。
「やっぱりな」
:10/06/14 19:51
:N08A3
:hqt4bZk6
#384 [我輩は匿名である]
飛鳥と奏子が声を合わせる。
「あんただったら、絶対教科書置いてると思って」
「うっせぇな!教科書貸さねぇぞ」
「いいじゃん本当の事なんだから!早く貸してよ」
奏子は急かすように手を出す。
直人は軽く舌打ちして、一旦自分の席に戻る。
奏子もそれについていく。
「えーっと…あったあった。ほらよ」
いっぱいになった机をあさっていると、少ししわの寄った数学の教科書が出てきた。
:10/06/14 19:52
:N08A3
:hqt4bZk6
#385 [我輩は匿名である]
「サンキュ♪」
「どーいたしまして」
「お礼に私もお守りあげよっか?」
「はぁ?別にいらねぇよ。お守りは1個で充分だろ」
直人はポケットに手を突っ込んで断る。
「つーか、何で飛鳥からお守りもらったの?」
奏子は不思議そうに首をひねる。
「この間の幽霊話でさ。俺が『変な声がする』って、球技大会の時言っただろ?
あれ言ったら、『怖くて近寄れないから持っとけ』って」
:10/06/14 19:52
:N08A3
:hqt4bZk6
#386 [我輩は匿名である]
直人は呆れたように笑って、響子と一緒に薫と喋っている飛鳥を見る。
「ふうん。意外と乙女だね、飛鳥」
「みたいだな。あんなムスッとしてる奴が怖がりとか、すげぇギャップ」
「確かに」
奏子は笑って頷き、直人の顔を眺める。
直人はまるで見守るような目で飛鳥を見ている。
「…あんたって飛鳥の話する時、すごい良い顔するよね」
そんな事を言われて、直人はきょとんとする。
「……そうか?」
:10/06/14 19:52
:N08A3
:hqt4bZk6
#387 [我輩は匿名である]
「うん」
奏子は少し笑って頷く。
「…なんか悔しいけどね」
それだけ言い残して、奏子は3人の方に歩きだした。
「(……何が悔しいんだろ?)」
彼女の言葉の意味がわからず、直人はぽかんとする。
「(………まぁいいか)」
一瞬考えた末、直人は特に気にせずに、4人の元に戻っていった。
それからは、特に大きな出来事は無かった。
:10/06/14 19:53
:N08A3
:hqt4bZk6
#388 [我輩は匿名である]
3週間後。
もう10月の中旬。
さすがに涼しくなってきて、制服も合服に変わった。
「お?」
直人達はじーっと、貼り出された成績順位を見つめる。
直人はほんの少し健闘して93位。
薫は良介と同着1位。
響子は前回とほぼ同じ120位。
奏子は171位。
そして驚く事に、飛鳥の点数が39位だった。
:10/06/14 19:53
:N08A3
:hqt4bZk6
#389 [我輩は匿名である]
「すげー!やるじゃんお前!」
直人はバシッと飛鳥の肩をたたく。
「…本当だ」
「何だよ!嬉しくないのか!?」
「う、嬉しいけど…信じられないっつーか…」
飛鳥はただただきょとんとしている。
課題テストの時は98位だったのが、今回のこの順位。
信じられないのも無理はない。
「へへへっ、なんか俺の方がテンション上がってきた!」
:10/06/14 19:54
:N08A3
:hqt4bZk6
#390 [我輩は匿名である]
茫然とする飛鳥の肩に手を回して、直人は満面の笑みを浮かべる。
「弟見返すのも近いかもな!頑張れよ!」
「…うん、ありがと」
直人に言われ、飛鳥もやっと嬉しそうに笑った。
奏子は黙って、2人の様子を見る。
「なぁ、お祝いしようぜ!薫も1位だった事だし」
「なんでこういう時に1位なんだ…」
「いいね、お祝い♪」
ため息を吐いている薫の隣で、響子が笑って返事する。
:10/06/14 19:54
:N08A3
:hqt4bZk6
#391 [我輩は匿名である]
「あたし、カラオケがいい!」
奏子が真っ先に手を挙げる。
「(カラオケ…)」
直人と響子は、その一言にぎょっとする。
「…俺はいい」
更に暗い顔をして、薫は断った。
「なんでー?いいじゃん、このメンバーで行った事無いし」
「あんまり好きじゃないんだよ、カラオケは。
もっと他の事にしないか?」
:10/06/14 19:54
:N08A3
:hqt4bZk6
#392 [我輩は匿名である]
薫はきっぱりと言い張って、他に何か無いか考える。
しかし答えが出ないまま、予鈴のチャイムが鳴った。
「…あ、俺トイレ行ってくる」
「じゃあ、私達も行こ」
「うん」
薫はトイレへ、響子と奏子は自分達の教室へと歩きだす。
2人きりになった直人と飛鳥は、お互い顔を見合う。
:10/06/14 19:55
:N08A3
:hqt4bZk6
#393 [我輩は匿名である]
「……月城、もしかして……」
「…誰にも言うなよ。あいつそれバラすとキレるから」
直人の言葉に、飛鳥は「やっぱりな」と確信した。
「…音痴なの?」
「あぁ、信じられねぇぐらいな」
直人は苦笑する。
「音符は読めるけど、歌うとなると、さっぱりだ。
中学の通知表で2取った事があるぐらい」
:10/06/14 19:55
:N08A3
:hqt4bZk6
#394 [我輩は匿名である]
「そんなに?」
「おう。ちなみに絵もかなり下手だぞ」
「…あぁ、なんか下手だったな」
本の代償の話をした時の事を思い出し、飛鳥は頷く。
そして、少し残念そうに、こう呟いた。
「……カラオケ行きたかったな」
直人はじっと、飛鳥を見る。
「じゃあ、今度行くか」
ニッと笑って、飛鳥に言ってみる。
:10/06/14 19:56
:N08A3
:hqt4bZk6
#395 [我輩は匿名である]
「へ?」
思いも寄らぬ誘いに、飛鳥はきょとんとする。
「行きてぇんだろ?カラオケ。
俺カラオケ好きだし、お前が良いんなら行くぜ」
直人は笑顔で飛鳥を誘う。
行きたい。飛鳥は思ったが、口には出せなかった。
奏子が直人を好きだという事を考えると、行っていいのかわからないのだ。
:10/06/14 19:56
:N08A3
:hqt4bZk6
#396 [我輩は匿名である]
「…そう、だね。考えとこ」
そんな答えしか返せなかった。
「あ、お前バイトとかあるもんな。行けそうだったら言えよな」
「うん、ありがと」
直人は特に変に思う事なく、笑顔で言った。
:10/06/14 19:57
:N08A3
:hqt4bZk6
#397 [我輩は匿名である]
昼休み。
「カラオケ?」
奏子が席を立っている間に、飛鳥は響子に相談していた。
「いいじゃない、行ったら。私だったら行くわよ」
「…そう?」
響子に当たり前のように言われて、飛鳥は更に悩む。
「…まぁ、相手が友達だから悩むのもわかるけどね。
でも、飛鳥ちゃんも水無月くんが好きなんでしょ?」
「……………うん」
:10/06/14 19:57
:N08A3
:hqt4bZk6
#398 [我輩は匿名である]
飛鳥は大きく頷く。
「じゃあなおさらよ。気遣ってたら、取られちゃうわよ?」
響子は真剣な顔で、急かすように言う。
一息つき、飛鳥は考える。
「(…そう…なんだよなぁ…。
でも、奏子とややこしい事になったらめんどくさいし…)」
悩んでる飛鳥を、響子はじっと見つめる。
「……いいなぁ。私にもあったな、そういう時」
懐かしそうに、響子が笑った。
:10/06/14 19:58
:N08A3
:hqt4bZk6
#399 [我輩は匿名である]
「そうなの?」
「そりゃあるわよー。友達と取り合いしたって事はなかったけど」
「やっぱり、2人で出かけるって時、緊張した?」
「したした。でも1番は…やっぱり優也と初めてご飯行った時かな。
あっちはもっと緊張してあらしいけど」
響子が嬉しそうに話すのを、飛鳥も笑顔で聞き入る。
「そうなの?」
「うん。優也が誘ってきたからね。
『良かったら今度、2人でご飯行きませんか?』って」
:10/06/14 19:58
:N08A3
:hqt4bZk6
#400 [我輩は匿名である]
「へぇ。いいね、そういうの」
「飛鳥ちゃんだって、水無月くんにカラオケ誘われてるじゃない」
「…そっか」
飛鳥は思い出したように頷く。
「……ちょっと悪い気もするけど、大丈夫だよね?」
「大丈夫よ。行ったら感想聞かせてね」
響子は早くも楽しそうに笑った。
:10/06/14 19:59
:N08A3
:hqt4bZk6
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