記憶を売る本屋 2
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#401 [我輩は匿名である]
が。
「あ!」
「ん?」
飛鳥は困ったような顔でうなだれる。
「あたし、いい服持ってない…」
「あらまー…。家にどんな服があるの?」
「ジャージ」
「だけ!?」
「うん」
暗い顔で答える飛鳥に、響子は目を丸くしている。
:10/06/14 19:59
:N08A3
:hqt4bZk6
#402 [我輩は匿名である]
しかし、すぐにキリッとした顔で言った。
「……今日、奏子ちゃんバイトよね?」
「うん」
「飛鳥ちゃん、お金ある?」
「…昨日給料日だったから、1万円ぐらいはある」
1万円か。響子は少し考え。
「まぁいいわ。飛鳥ちゃん、今日放課後、買い物行こ」
響子に言われて、飛鳥はきょとんとする。
:10/06/14 19:59
:N08A3
:hqt4bZk6
#403 [我輩は匿名である]
「…でも、あたし買い物とか行った事ないし…」
「わかってるわよ!私がちゃんとついて行くから!」
手に力を入れて、響子は飛鳥を説得する。
響子が来てくれれば安心だ。
ちょっと間黙った後、飛鳥は「うん!」と大きく頷いた。
:10/06/14 20:00
:N08A3
:hqt4bZk6
#404 [我輩は匿名である]
「ここさぁ、どうやって行くかわかんねぇんだよなぁ…」
その頃、直人は後ろの黒板を使って、薫とTVゲームの話をしていた。
直人が書いた簡単な地図を、薫はじーっと見つめる。
「お前、これ行けた?」
「このソフト、多分全クリした」
「マジかよ!どうやった!?」
直人に詰め寄られ、薫は腕を組んで考える。
「……忘れた」
「何だよそれー」
直人は悔しそうに壁にもたれる。
:10/06/14 20:00
:N08A3
:hqt4bZk6
#405 [我輩は匿名である]
「じゃあ今度家に来て、俺の代わりにクリアして」
「は?あぁ、いいよ」
「いつがいいかなぁー?」
「なぁ」
直人が嬉しそうに考えていると、飛鳥が4組から帰ってきた。
「おう、おかえり」
「…カラオケの話なんだけどさ」
飛鳥のその一言に、薫の眉がぴくっと動く。
「カラオケ…?」
:10/06/14 20:01
:N08A3
:hqt4bZk6
#406 [我輩は匿名である]
「大丈夫、俺とこいつが行くだけだから」
「そうか、ならどうでもいい」
直人に言われて、薫は小さく笑う。
「………やっぱり、行きたい。
よく考えてたら昨日給料日だったから、お金もまだあるし…」
「おぉ!じゃあ行こうぜ!いつがいい?」
直人の表情が、パッと明るくなる。
その反応を見て、飛鳥もホッとして笑みをこぼす。
:10/06/14 20:01
:N08A3
:hqt4bZk6
#407 [我輩は匿名である]
「あたしは…明日はバイトだから、それ以外なら」
「でも、せっかく行くんだし、いっぱい歌える方が良くないか?」
「そうだね。だったら、土曜日とか?」
「それがいいな。日曜日はゆっくりしたいし。へへっ、楽しみだな!
…って、俺金あんのかな?」
直人はぶつぶつ言いながら、席に戻って財布をチェックする。
飛鳥はじーっと薫を見る。
:10/06/14 20:02
:N08A3
:hqt4bZk6
#408 [我輩は匿名である]
「……なぁ、月城」
「ん?」
黒板に書いた地図を消していた薫は、手を止めて飛鳥を見る。
「……今の話さ…」
飛鳥は少しうつむき加減に、話しにくそうにしている。
何を言おうとしているのかわかったらしく、薫はフッと笑う。
「安斎か?」
言う前に聞き返されて、飛鳥は「え…」と顔を上げる。
:10/06/14 20:02
:N08A3
:hqt4bZk6
#409 [我輩は匿名である]
「言わねぇよ。言ったらややこしくなるだろ。
喧嘩でもして、また飛び降りられても困るしな」
「い、いくら何でもそんな事で死なねぇよ!」
「どーかな」
薫はバカにしたように笑って、また手を動かす。
ちょっとイラッとしたが、薫なら黙っていてくれるだろう。
:10/06/14 20:03
:N08A3
:hqt4bZk6
#410 [我輩は匿名である]
「なぁ、4千円で足りるかなぁ?」
直人が戻ってきた。
「足りるよ、充分」
「だよな!じゃあ土曜日、忘れんなよ」
「あんたもね」
直人と飛鳥は、お互いそう言って笑い合った。
:10/06/14 20:03
:N08A3
:hqt4bZk6
#411 [我輩は匿名である]
待ちに待った土曜日。
結局11時に待ち合わせし、気が済むまで歌う事になった。
響子と買い物に行って買って来た服を着て、飛鳥は玄関で靴を履く。
「ははっ、何?その格好」
背後で、嘲笑うような巧の声がした。
飛鳥は無視する。
「もしかしてデート?いいねぇ、暇人は。
どうせ相手も、あんたと同じ、ろくでもないような男なんだろ?」
やれやれ、とでも言いたそうに、巧は大げさにジェスチャーまでつける。
:10/06/22 19:38
:N08A3
:3deUowRU
#412 [我輩は匿名である]
「あたしはろくでもない女だけど」
出て行き様に、飛鳥は口を開いた。
「相手は、あんたよりもいい男だよ」
「はぁ!?」
巧はかなりイラッときたのか、顔が苛立ちに歪む。
しかし、飛鳥は構う事なく家を出た。
:10/06/22 19:39
:N08A3
:3deUowRU
#413 [我輩は匿名である]
直人はボーッと、駅前の時計台の前で飛鳥を待つ。
「お待たせ」
少しして、飛鳥がやってきた。
パーカーにワンピース。
普段見ない格好をしている飛鳥を、直人はまじまじと見つめる。
「……変?」
緊張しているような顔で、飛鳥が尋ねてくる。
「いや。…ジャージしか見た事ないから、新鮮だなぁと」
かなり興味深いのか、直人は言いながら、まだ飛鳥の服を見ている。
:10/06/22 19:39
:N08A3
:3deUowRU
#414 [我輩は匿名である]
「…いいじゃん、たまにはこういう格好も」
一通り見た後、直人は笑った。
「変じゃないよな?」
「全然。行こうぜ」
そう言って、直人は歩きだす。
飛鳥もそれについて行く。
「…さっき家出る時、また弟に嫌み言われたんだけどさ」
カラオケ店に行く途中、飛鳥が話し始めた。
直人は早くも「またかよあのクソガキ」と顔をしかめる。
:10/06/22 19:39
:N08A3
:3deUowRU
#415 [我輩は匿名である]
「何言われたんだよ?」
「『デート?いいねぇ暇人は。どうせ相手もろくでなしなんだろ』って」
「はぁん!?今度俺んとこ連れてこい!
吊し上げにしてヒーヒー言わせてやる!」
「…まぁ先にあたしの話聞けよ」
気合いを入れる直人を、飛鳥はちょっと呆れ気味に落ち着かせる。
「…で、今日はちゃんと言い返してきた」
「おお!何て?」
直人は目を輝かせる。
:10/06/22 19:40
:N08A3
:3deUowRU
#416 [我輩は匿名である]
「…『あたしはろくでなしだけど、相手はお前よりいい男だよ』って」
飛鳥は少し恥ずかしそうに答えた。
それを聞いて、何故か直人は不満そうに腕を組む。
「…言い返したのは偉いけどよぉ、お前別にろくでなしじゃないだろ」
「……んー…」
「まぁ、自殺するような奴はなぁ…」
「うっさいな!どっちなんだよ!」
からかうように笑う直人を、飛鳥は声を荒げて怒鳴りつける。
その反応を見て、直人は笑い声を上げる。
:10/06/22 19:40
:N08A3
:3deUowRU
#417 [我輩は匿名である]
「まっ、そのバカ弟よりは立派な人間だって」
そう言いながら、飛鳥の肩を軽くたたく。
「よくやったじゃん、お前にしては」
「何様だよお前」
「睨むなよー、冗談だろー?さて、今日は何歌おうかなー」
「あんたいつも何歌うの?」
「俺?俺は…」
そんな会話をしながら、2人は近くのカラオケ店に入っていった。
:10/06/22 19:41
:N08A3
:3deUowRU
#418 [我輩は匿名である]
4時間後。
「あーすっきりした!」
カラオケ店から出て来て、飛鳥は大きく伸びをする。
直人も「カラオケ久しぶりだったなぁ」と、満足そうに笑っている。
「つーか、お前意外と歌上手いんだな」
直人は意外そうに言いながら歩きだす。
「そう?まぁ、歌うのは嫌いじゃないしな」
パーカーのポケットに手を入れて、飛鳥は返事をする。
:10/06/22 19:41
:N08A3
:3deUowRU
#419 [我輩は匿名である]
「どうする?時間余ってるけど、どっか行くか?」
今はまだ3時過ぎ。
時計を見て、直人は飛鳥に尋ねる。
「……でも、あんたお金ないんじゃないの?」
「まぁ、そんなにねぇけど。でもお前、こんな時間から帰りたくねぇだろ」
「うん」
「即答だな」
2人はどうしようかと、それぞれ頭を抱える。
「…どっかに座ってくっちゃべるか」
:10/06/22 19:41
:N08A3
:3deUowRU
#420 [我輩は匿名である]
「そうだね。どこ行く?その辺の公園でも行く?」
「だな」
2人は話しながら適当に歩いて、そこそこ大きな公園を見つけた。
ベンチもある。
そこに腰を下ろして、2人は一息つく。
「…なんか、懐かしい感じしね?2人ででかけるの」
小さく笑って直人が言う。
同じように、「そうだね」と飛鳥が返事を返す。
:10/06/22 19:42
:N08A3
:3deUowRU
#421 [我輩は匿名である]
「路地の細いとこに、暗ーい女がうずくまっててさ。
何かのホラー物かと思ったぐらい」
「そんなに怖かったか?」
「あぁ怖かったね。要はどう思ったか知らねぇけどよ」
「あんたがそう思ったんなら、要もそう思ったんじゃない?」
「かもな」
2人は適当に言って笑う。
「でも、喋ってみたら普通の女だったしな。暗かったけど」
:10/06/22 19:42
:N08A3
:3deUowRU
#422 [我輩は匿名である]
「暗い暗いって言うなよ。仕方ないじゃん、生い立ちが生い立ちなんだから」
「今も似たようなモンだけどな」
「ははっ、まーね」
飛鳥は苦笑する。
「で、勝手に勘違いして勝手に怒って、挙げ句の果てに勝手に死ぬ、と」
直人は更に呆れたように笑う。
「…ごめんってば」
「人の話はきちんと聞くように!」
「はい…」
まるで説教されているような気がして、飛鳥はうなだれる。
:10/06/22 19:43
:N08A3
:3deUowRU
#423 [我輩は匿名である]
「まっ、あんな目に遭ったら2度とやらないだろうけどな」
「うん、無理だね」
話の最中に、直人はふと、ある事を考えた。
「………今思ったんだけどさぁ」
「ん?」
「薫、何でお前の事許せたんだろうな?
前は『石川晶』の名前聞いただけで、すげぇ顔してたのに」
「……何でだろうね」
「だってあいつ、お前の事相当恨んでたぞ?
俺が『何であんな女かばったんだ』とか言われるぐらい」
:10/06/22 19:43
:N08A3
:3deUowRU
#424 [我輩は匿名である]
「…まぁ、そう言われても仕方ない事したけどね、あたし」
飛鳥は暗い顔でため息をつく。
しかし、直人には不思議で仕方がなかった。
『初めて人を殺したいと思った』。
そこまで言っていた薫が何故…?
「…そんなに気になる?」
やけに考え込む直人に、飛鳥も首をかしげる。
「うん。だって、『殺してやりたい』とまで言ってたんだぞ?」
「そんなに…!?」
:10/06/22 19:43
:N08A3
:3deUowRU
#425 [我輩は匿名である]
ぎょっとしたように、飛鳥が声を漏らす。
「……そのうち聞いてみるか」
途中で面倒くさくなって、直人は考えるのをやめた。
:10/06/22 19:44
:N08A3
:3deUowRU
#426 [我輩は匿名である]
「もー、おばあちゃんも人使い荒いなぁ…」
2人が喋っている頃、奏子は買い物から帰っていた。
あの祖母に買い物を頼まれていたらしい。
「お腹減ったなぁー。お菓子買ってくれば良かっ…」
ぶつぶつ独り言を言っていた奏子の目に、ある光景が映った。
奏子は思わず足を止める。
:10/06/22 19:44
:N08A3
:3deUowRU
#427 [我輩は匿名である]
近所の公園のベンチに並ぶ、2人の男女。
その横顔は、直人と飛鳥だった。
「(…何で…?)」
一瞬、自分の目を疑った。
しかし、どう見てもあの2人だ。
奏子は逃げるように、早足でその場を離れた。
:10/06/22 19:45
:N08A3
:3deUowRU
#428 [我輩は匿名である]
月曜日。
「どうだった?カラオケ」
昼食の時間、薫が直人に尋ねた。
「楽しかったぜ。お前も来れば良かったのに」
直人は笑って言う。
しかし、薫の表情が一気に豹変した。
「『お前も来れば』……?……直人…お前…本気で言ってるのか…?」
「じょ、冗談に決まってんだろ!悪かったよ!」
「そうか、ならいい」
今の目は、かなり危ない目だった。
:10/06/22 19:45
:N08A3
:3deUowRU
#429 [我輩は匿名である]
直人は内心ちょっとびびりながら、慌てて弁明した。
「(…危ねぇ…。マジで殺されるかと思った…。……“殺される”…)」
飛鳥と話した、あの内容を思い出す。
「(…いきなり『何で神崎許せたの?』とか聞くの、変だしな…)」
「……何だよ?」
じっと見られて、薫は困ったように声をかける。
が、直人は全く聞いていない。
:10/06/22 19:46
:N08A3
:3deUowRU
#430 [我輩は匿名である]
「…………まぁいいや」
そう言って、止まっていた手を動かし始めた。
「(一体何なんだ…?)」
全く読み取れない直人の行動に、薫は呆れて首をかしげた。
:10/06/22 19:46
:N08A3
:3deUowRU
#431 [我輩は匿名である]
一方、女子達は。
飛鳥と響子は、じっと奏子を見つめる。
奏子は一言も話さず、ただ黙々と弁当を食べている。
「(……何かあったのかな?)」
「(さぁ…?)」
2人は目で会話する。
「飛鳥さぁ」
不意に奏子が口を開き、飛鳥はビクッとする。
:10/06/22 19:50
:N08A3
:3deUowRU
#432 [我輩は匿名である]
「……な、何?」
恐る恐る尋ねる。
「水無月の事好きだよね」
「…え」
目も合わさずに言われて、飛鳥は困ったように響子を見る。
響子も不安そうに飛鳥を見ている。
「この間、公園で2人で喋ってるの見たからさ」
「…えっ」
:10/06/22 19:50
:N08A3
:3deUowRU
#433 [我輩は匿名である]
「(…反応薄いなぁ…)」
「え」しか言っていない飛鳥に、響子は少し呆れる。
なぜ奏子に見られたのか、飛鳥は全く理解出来ない。
1番起きてほしくない事が、早くも起きてしまった。
飛鳥の顔に、焦りの表情が浮かぶ。
「好きならそう言ってくれたらいいじゃん。
陰でコソコソされるの、あたし1番腹立つの」
「…奏子ちゃん、飛鳥ちゃんは別にコソコソしてたわけじゃ…」
:10/06/22 19:51
:N08A3
:3deUowRU
#434 [我輩は匿名である]
「響子は黙ってて」
止めようとする響子を、奏子はきっぱり黙らせる。
「あたしがあいつの事好きだって知ってるのに、よく出来るよね。
お守り買ってあげたり、2人で会ったり…」
「あれは…」
「悪いけど」
奏子はさっさと弁当を食べ終え、片付ける。
「あたし、そういうの見て黙ってられるようないい子じゃないから」
奏子はきつく吐き捨てて、早足で教室を出て行った。
:10/06/22 19:51
:N08A3
:3deUowRU
#435 [我輩は匿名である]
飛鳥も響子も暗い顔で黙り込む。
「………ごめんね」
しばらくして、先に口を開いたのは響子だった。
「…カラオケ、勧めなかったら良かったね」
「…響子のせいじゃないよ」
飛鳥は弱々しく笑う。
「……隠してたあたしが悪いんだ」
無理して笑う飛鳥を見て、響子も肩を落とす。
:10/06/23 18:08
:N08A3
:0Q5km5DM
#436 [我輩は匿名である]
言い出すタイミングが掴めなかっただけなのに。
それだけで、こんな事になるなんて。
飛鳥はどうすれば良いのかわからず、大きくため息をついた。
:10/06/23 18:09
:N08A3
:0Q5km5DM
#437 [我輩は匿名である]
「…1人で帰んの、久しぶりだなぁー」
飛鳥と奏子はバイト、薫と響子は寄り道するとか。
直人は独り言を言いながら、1人で帰っていた。
「(でも、あいつら今日別々にバイト行ってたな。何かあったのか?)」
今日は別々にバイトに行った、飛鳥と奏子。
2人がもめている事を知らない直人は、のんきに考える。
「(昼休み終わってから、神崎もなーんか元気無かったし…。
もしかして、喧嘩でもしたのか!?)」
珍しくその予想は当たっている。
:10/06/26 13:54
:N08A3
:sOCuCGLY
#438 [我輩は匿名である]
「(えーっ、困るって!あいつかなり落ち込むじゃん!
つーか、何で喧嘩したんだ!?そもそも喧嘩で合ってるのか!?)」
直人は歩きながら頭を抱える。
「(……明日、さりげなく声かけてみるか)」
「何て声かけるの?」
「『元気ないじゃん』って」
普通に答えて、直人は足を止めた。
今、直人に話し掛けたのは誰だ?
直人は素早く振り返る。
:10/06/26 13:55
:N08A3
:sOCuCGLY
#439 [我輩は匿名である]
しかし、直人以外に誰も歩いていない。
1人でいると怖くなったのか、直人はしばらく息を殺して黙り込む。
「そんなに怖がらなくていいじゃないか」
しかし、黙っていても、また声がした。
「……誰だよ、お前」
直人は恐る恐る呟く。
「水無月直人。16歳。7月20日生まれ。O型」
声は問いに答えるどころか、直人のプロフィールを次々に言い当てる。
:10/06/26 13:55
:N08A3
:sOCuCGLY
#440 [我輩は匿名である]
「何だよ?何で俺の事…」
付近を見回しながら、直人は更に問いかける。
「そりゃ知ってるよ。俺はお前の“一部”なんだから」
「“一部”?」
直人は繰り返す。
「まっ、そのうちわかるよ、俺が誰なのか」
それ以上、声は何も言わなくなった。
「(……俺の一部…?どういう事だよ…?)」
声が言ったその言葉の意味が、全く理解出来ない。
直人はなかなか足を動かす事が出来ず、しばらくその場に立ち尽くしていた。
:10/06/26 13:56
:N08A3
:sOCuCGLY
#441 [我輩は匿名である]
次の日。
飛鳥はいつも以上にボーッとしている。
「……あいつ、何かあったのか?」
「わかんねぇんだよなぁ、俺にも」
遠くから彼女の様子を見ながら、直人と薫は話し合う。
「聞いてこいよ」
「やっぱ俺!?」
「お前以外に誰がいるんだよ」
「お前がいるじゃん」
:10/06/29 16:57
:N08A3
:Kd8tcpI6
#442 [我輩は匿名である]
「何で俺が他の女の機嫌見に行かないといけねぇんだよ」
2人は小声で言い合う。
「ほらっ、あいつのお守りはお前の仕事だろ」
薫にシッシッと手を振られ、直人はムスッとしながら動き出す。
「よ、よぉ、神崎」
顔を引きつらせながら、直人が飛鳥に近づく。
「…あぁ、おはよ」
飛鳥は早くも疲れ果てた顔で挨拶を返す。
:10/06/29 16:57
:N08A3
:Kd8tcpI6
#443 [我輩は匿名である]
「おはよう」
様子を伺っていた薫の所に、響子がやってきた。
「おう」
「…飛鳥ちゃんは?」
同じように飛鳥を気にしている響子に、薫は一瞬きょとんとする。
「…今直人が偵察に行ってる」
薫は直人を指差す。
「あいつがどうかしたのか?」
「…実は…」
響子は薫の耳元で、昨日の話をしはじめた。
:10/06/29 16:58
:N08A3
:Kd8tcpI6
#444 [我輩は匿名である]
「元気ねぇじゃん」
そんな事も知らない直人は、少し緊張しながら尋ねる。
「そんな事ないけど」
飛鳥は笑って答える。
しかしその笑顔は弱々しく、目の下にはうっすらクマが出来ている。
「…本当か?クマ出来てるぞ?」
「大丈夫だって。いつも通り」
そう言われると、これ以上問い正すわけにもいかない。
:10/06/29 16:58
:N08A3
:Kd8tcpI6
#445 [我輩は匿名である]
「…そうか?まぁ、何か悩みあったら言えよ?」
「うん、ありがと」
飛鳥は小さく笑う。
困って、直人はフラフラと席を離れる。
「絶対大丈夫じゃないよ、あの子」
昨日の声が直人に言う。
直人はまた、立ち止まって周りを見回す。
「無駄だよ。お前に俺は見えない」
:10/07/10 10:13
:N08A3
:ZSYtSBPY
#446 [我輩は匿名である]
「ちっ」
声にあっさり言われて、直人は舌打ちする。
しかし、今声と話している暇はない。
さっさと薫の所へ戻り、椅子に座る。
「香月。いつ来たんだよ」
「ついさっき」
響子は笑って答え、「じゃあね」と教室に戻っていった。
:10/07/10 10:13
:N08A3
:ZSYtSBPY
#447 [我輩は匿名である]
「何しに来たんだ?あいつ」
「俺に“おはようのチュー”しに来ただけだよ」
「えぇっ!?こんな公共の場で堂々と…」
「冗談だって気付けよ!」
薫は冗談を言ったのを後悔したのか、少し赤面して言い返す。
直人は「何だよ冗談かよ」と、机に肘をつく。
「で、どうだった?」
:10/07/10 10:14
:N08A3
:ZSYtSBPY
#448 [我輩は匿名である]
「大丈夫って言われたけど、見るからに大丈夫じゃなさそうだ」
2人は深刻そうに話す。
「…あっ」
直人はひらめいた。
「安斎に聞いてくる!」
「えっ!?ちょっ…」
薫が止める間もなく、直人は教室を飛び出す。
「(おい…安斎は喧嘩相手だぞ…)」
事情を聞いた薫は、難しい顔でため息をついた。
:10/07/10 10:14
:N08A3
:ZSYtSBPY
#449 [我輩は匿名である]
「安斎ー」
直人は教室に入るなり呼び掛ける。
が、返事がくる前に奏子を見つけ、自分から走っていった。
「おはよ」
奏子はいつも通り笑って挨拶する。
「なあなあ、神崎が元気ないんだけど、お前何か知らない?」
直人は単刀直入に尋ねる。
すると、奏子は少し困ったように顔を背けた。
「……ちょっとね」
:10/07/10 10:15
:N08A3
:ZSYtSBPY
#450 [我輩は匿名である]
「(……やっぱり喧嘩かなんかしたんだな)」
奏子の反応を見て、直人は確信した。
「何だよー喧嘩か?仲良くしろよなー」
直人は面倒くさそうにポケットに手を入れる。
「女子だって喧嘩するんだよ!」
奏子はムスッとしたように言い返す。
「…つーか、何で喧嘩したんだよ?」
ちょっと勘がさえても、そこまでは頭が回らない直人。
:10/07/10 10:15
:N08A3
:ZSYtSBPY
#451 [我輩は匿名である]
何も気にする事なく、ずけずけと聞いていく。
「…女子の喧嘩の原因聞くか?」
「何だよ?いいじゃん、別に聞いたって」
直人はあっけらかんとした表情で答える。
「ちょっとは自分で考えてみな」
奏子は言いたくなさそうにそれだけ言って、そっぽを向いてしまった。
そう言われてしまうと仕方がない。
直人は「わかった」と言って出ていった。
:10/07/10 10:15
:N08A3
:ZSYtSBPY
#452 [我輩は匿名である]
「(……あいつ、やっぱり飛鳥の事しか心配してないな…)」
直人が出ていったドアの方を、奏子は淋しそうにじっと見ていた。
:10/07/10 10:16
:N08A3
:ZSYtSBPY
#453 [我輩は匿名である]
その夜。
飛鳥はベッドの上に転がって、天井を見つめる。
「(…どうしたら…仲直り出来るんだろ…)」
奏子との喧嘩の事で頭がいっぱいの飛鳥。
要を除いて、初めて出来た友達。
あの自殺騒動の後、昼食に誘ってくれたのは奏子だった。
だからこそ、彼女に背を向けられたショックは大きかった。
:10/07/10 10:16
:N08A3
:ZSYtSBPY
#454 [我輩は匿名である]
今まで人を避けて生きてきた飛鳥は、仲直りの方法など知らない。
直人に聞こうにも、これ以上頼っている姿を見られると、
奏子はきっと今以上に腹を立てるだろう。
「(……あいつに頼ろうとするからダメなんだよ…)」
飛鳥は前腕を顔にあて、目を隠す。
晶の時もそうだった。
要だけを頼って、自分の物にしたいと思っていた。
:10/07/10 10:17
:N08A3
:ZSYtSBPY
#455 [我輩は匿名である]
だから要の死に耐えられなかった。
しかし、今は少し違う。
「(……響子に…相談してみようかな…)」
飛鳥はぼんやりと考えて、ゆっくりと目を閉じた。
:10/07/10 10:17
:N08A3
:ZSYtSBPY
#456 [我輩は匿名である]
「…………何?」
しかし次の日、響子は朝から良介に絡まれていた。
良介は響子の机に手をついて、彼女を見下ろしている。
「響子ちゃんが言ってた都市伝説、調べてみたんだ」
珍しく真剣な良介に、響子も黙っている。
「あれ、他人が見ても全く魅力を感じないね」
「…そう?」
「僕はね。だから思ったんだ。
君は…例の本をもらった人じゃないか、って」
:10/07/10 10:18
:N08A3
:ZSYtSBPY
#457 [我輩は匿名である]
あながちハズレではない。直接もらってはないが、同じ事だ。
響子はふうっと息をつく。
「もしそうだとしても、それがどうしたの?」
「あいつもそれを知ってるのか?」
あいつ、とは、おそらく薫のことだろう。
響子は少し考え込む。
薫とは前世で夫婦であった事。優也と交わした約束。
それをはっきり言ってしまえば、諦めてくれるかもしれない。
:10/07/10 10:18
:N08A3
:ZSYtSBPY
#458 [我輩は匿名である]
「…まぁ」
良介は机から手を離す。
「前世がどうであれ、僕はまだ諦めないから」
そう言って小さく笑い、自分の席に戻っていった。
「(…諦めてよ…)」
彼の後ろ姿を見た後、響子は思い悩んだ顔で外の景色に目を向けた。
「(…響子も何か大変そうだなぁ…)」
教室の外から一部始終を見ていた飛鳥は、がっくりと肩を落とす。
これでは安心して頼れる人がいない。
飛鳥も響子のように悩みながら、自分の教室に帰った。
:10/07/10 10:19
:N08A3
:ZSYtSBPY
#459 [なみ]
:10/07/10 12:50
:PC
:PPJ.LCPg
#460 [我輩は匿名である]
飛鳥達が喧嘩してから、2週間が過ぎた。
直人は授業中でありながら、腕を組んで考え込む。
「どうやったら仲直りさせれるだろうなー?」
直人の考えている事を弁明するかのように、声が言う。
この声の主が誰なのか、まだわかっていない。
それを考えている場合ではないのだ。
「…口に出さなくても分かんのかよ」
直人はかなり小声で言い返す。
「考えてる事は大体筒抜けだよ」
:10/07/22 08:58
:N08A3
:wAtNqTXQ
#461 [我輩は匿名である]
「(何だよこいつー)」
「何だよこいつーって思っただろ」
「(…やっぱわかんのか)」
「わかるんだってば」
「(じゃあいちいち喋らなくていいんだな)」
「そうだね。喋りたかったら喋っていいけど」
「(いいよ、変な奴だと思われるし)」
直人は机に肘をつく。
「でもさぁ、お前がどうこうする事じゃないんじゃないか?」
:10/07/22 08:58
:N08A3
:wAtNqTXQ
#462 [我輩は匿名である]
悩む彼に、声が言う。
「(…でも神崎は、今までまともに友達出来た事もないし、
だからもちろん、どうすれば仲直り出来るのかもよく知らないし…)」
「それはそうだけど…」
声は、飛鳥の事もよく知っているようだった。
「でもお前が何でもしてやれば、あの子が何も出来ない子になるんじゃないか?」
声が言う事は正しかった。
直人は少し、何も考えずに黙り込む。
:10/07/22 08:59
:N08A3
:wAtNqTXQ
#463 [我輩は匿名である]
「(お前誰だか知らねぇけど、俺の考えてること、全部わかっちゃうのか?)」
「聞いてほしくなかったら聞かないよ」
「(じゃあしばらく聞かないでくれるか?)」
「いいよ」
声は快く言って、それ以降何も言わなくなった。
本当かどうかわからなかったが、直人はまた考え始めた。
「(確かに…俺が世話焼く事じゃねぇのかもなぁ…。
自分の事、何でも自分で解決できないと、晶みたいになっちまうかもしれねぇし…)」
自然と、「うーん…」と声が漏れる。
:10/07/22 08:59
:N08A3
:wAtNqTXQ
#464 [我輩は匿名である]
「(……しばらくは、様子を見た方がいいかな…?)」
何だかモヤモヤするが、これも飛鳥の為だ。
直人はあまり腑に落ちない顔で、自分に言い聞かせた。
「(…おい、幽霊)」
気持ちに一区切りつけて、直人は声に呼びかける。
「俺の事?」
声はすぐに答えた。
「(お前以外に誰がいるんだよ)」
「…まぁ、幽霊って言われると否定は出来ないけど」
:10/07/22 08:59
:N08A3
:wAtNqTXQ
#465 [我輩は匿名である]
“幽霊”と言われるのが気に食わないのか、声は言葉を濁す。
「考え事終わったの?」
「(あぁ。しばらくは様子見にした)」
「そっか。それがいいよ」
「(…で、改めて聞くけど、お前だれ?)」
直人はストレートに声に尋ねた。
「…直人、本当鈍感だよな」
「(うっせぇな、どいつもこいつも鈍感鈍感って)」
直人は黒板を見ながらブスッとする。
:10/07/22 09:00
:N08A3
:wAtNqTXQ
#466 [我輩は匿名である]
あげ
続き読みたいです
:10/08/01 10:29
:S001
:9MLNrBi6
#467 [我輩は匿名である]
age!
:10/08/05 00:44
:auKC3X
:☆☆☆
#468 [我輩は匿名である]
めっちゃ好きなんであげます
:10/08/25 00:08
:F02A
:Vnr3JSc6
#469 [我輩は匿名である]
続きお願いします!
:10/09/08 19:44
:SH01B
:yaC7Z24Q
#470 [我輩は匿名である]
とってもお待たせして本当に申し訳ありません


待っていてくださる方がたくさんいらっしゃって、感激です…(ノд<。)゜。
ちょっとずつしか進めれませんが、温かく見守ってもらえれば幸いです

:10/10/21 19:04
:N08A3
:yJnmi4cE
#471 [我輩は匿名である]
「月城薫は、俺が誰かわかってるみたいだったけど?」
「(そうなのか!?)」
「まぁ彼は勘鋭そうだしな」
声はからかうように笑っている。
「(…薫はお前の事知ってるのか?)」
「さぁ?全く知らないって事はないだろうけど」
直人は全くわからない。
ノートの端っこに、適当に図を書いてみる。
:10/10/21 19:05
:N08A3
:yJnmi4cE
#472 [我輩は匿名である]
真ん中に“幽霊”、その両脇に“オレ”“薫”と書いて、幽霊に矢印を引っ張る。
「(…お前、あと誰知ってる?)」
「お前の周りにいる人は大体知ってるよ。
月城薫、神崎飛鳥、安斎奏子、香月響子、あとロン毛の変な男子」
「(あぁ…あの自称・帰国子女な)」
最近あまり顔を見ないため、すっかり忘れていた。
「あと」
声が補足する。
:10/10/21 19:05
:N08A3
:yJnmi4cE
#473 [我輩は匿名である]
「石川晶」
直人はその名前にハッとした。
「(何であいつの事まで…!?)」
「さぁ?何でだと思う?」
声は問い詰めるように聞き返してくる。
晶を知っているのは、直人の近くでは薫と響子しかいない。
直人はさっきの図にいろいろ付け足し、それをじっと見つめる。
男の声。晶を知っている人物。薫じゃない…。
しばらく見ていると、直人はある人物を思い出した。
:10/10/21 19:06
:N08A3
:yJnmi4cE
#474 [我輩は匿名である]
自分とそっくりな顔をした、たった1人の晶の友達…。
「…お前…」
驚きのあまり、授業中だという事も忘れ、声を漏らす。
「…要か…?」
「…やっと思い出してくれたんだね」
声は、待ちわびたという感じで返事をした。
自分で言ったものの、直人は全く信じられない。
本を読んでいた時の直人と真逆の事が、要に起こっているみたいではないか。
「お前、何で…?」
:10/10/21 19:07
:N08A3
:yJnmi4cE
#475 [我輩は匿名である]
「声出てるよ」
声に言われて顔を上げると、周りの生徒が不思議そうにこっちを見ている。
直人は恥ずかしくなって、黙ってうつむく。
「(でも何で?つーかお前、どこにいんだよ?)」
「お前の中だよ。直人も同じような事あっただろ?5月ぐらいに」
言われてみれば、要の声によく似ている。
しかも“直人の中にいる”という事は、半年前の直人とほぼ同じ状態だ。
:10/10/21 19:07
:N08A3
:yJnmi4cE
#476 [我輩は匿名である]
「(何で!?お前にも本あんの!?)」
「無いよ」
「(じゃあ何でこんな事になってんの?)」
「…それは…今はまだ言えないな」
要は、なぜこんな状況になっているのは知っているようだ。
しかし、『今はまだ』という事は、いつか教えてくれるのだろうか?
「(まだって、いつか教えてくれんの?)」
「まぁ、言うべき時になったらね」
:10/10/22 22:24
:N08A3
:PoYSolQc
#477 [我輩は匿名である]
「(いつになんの?それ)」
「さぁ?」
「(何なんだよお前ー!)」
「何って、長月要だよ」
「(知ってるっつーの!)」
直人はわけがわからず、うなだれながら大きくため息を吐いた。
:10/10/24 22:22
:N08A3
:F3jbXIQM
#478 [我輩は匿名である]
昼休み、直人は不服そうに薫を見る。
「…何でわかってたわけ?幽霊の正体が要だって」
「逆に何でわからなかったわけ?」
呆れるように薫が聞き返す。
「石川晶が運動嫌いって話で『意外だ』って言うんなら、
あの女を知っている人間って事だろ?
その中から男の声ってので、今日子は候補から外れる。
で、『もう忘れたのか』って言われたんなら、お前が知ってる男だろ?
だったら長月要しかいないじゃないか」
:10/10/24 22:22
:N08A3
:F3jbXIQM
#479 [我輩は匿名である]
「さすが学年1位」
薫の解説に、要も納得している。
何だか疎外感を味わっている気がして、直人はムスッとする。
「…あーあー、どうせバカですよ、俺は」
「いじけるなよ」
要と薫の声が重なる。
「ハモるなよお前ら!」
「……え、今もいるのか?長月要」
「いるよ、24時間いるみたいだぞ」
:10/10/24 22:23
:N08A3
:F3jbXIQM
#480 [我輩は匿名である]
「えー迷惑な話」
「そんな事言われたって困るよ!」
『迷惑』と言われてショックだったのか、直人の中で要が叫ぶ。
「でも、何でそんな事になってるんだ?」
「えっ?俺だけ!?お前なってないの!?」
「なってない。響子も何も言ってないし、お前だけじゃないのか?」
「えーもう意味わかんねぇ…」
直人は椅子の背もたれにもたれて天井を見上げた。
:10/10/24 22:23
:N08A3
:F3jbXIQM
#481 [我輩は匿名である]
放課後、飛鳥はボーッと、自分の席で黄昏ていた。
「神崎、帰んねぇのか?」
直人は鞄を肩から掛けながら話し掛ける。
「うん…もうちょっとボケーッとしてから帰る」
飛鳥は相変わらず、元気ない笑顔で答える。
それを見て、直人は真顔で何かを考える。
「………何で悩んでるのかわかんねぇけどさ」
少しして、直人は口を開いた。
「いつまでも悩んでるとしんどくないか?」
:10/10/25 18:11
:N08A3
:B2OZUzic
#482 [我輩は匿名である]
「…んー、まぁ、疲れるね」
飛鳥は苦笑して答える。
「じゃあさ、何かに熱中して、ちょっと間悩み事忘れたら?」
そう言われて、飛鳥はきょとんとする。
「…え?」
「いや…ずーっと悩んでると、そのうち欝になりそうな気がしてさ。
だから、たまには何かで気分転換しろよ」
直人にしてはまともなアドバイス。
飛鳥は意外そうな目で直人を見上げている。
:10/10/25 18:12
:N08A3
:B2OZUzic
#483 [我輩は匿名である]
要も何も言わない。
「…そうだね」
少しして、飛鳥は小さく笑った。
「そうしてみるよ。ありがと」
「おう」
ちょっと元気になったような彼女の笑顔を見て、直人もニッと笑い返した。
:10/10/25 18:12
:N08A3
:B2OZUzic
#484 [我輩は匿名である]
「(…どうしよう…)」
一方、奏子も悩んでいた。
どうしてあそこまで言ってしまったんだろう、と。
確かに、飛鳥が黙って直人と会っていたのには苛立った。
お守りをあげていたのにも、正直腹が立った。
しかし、飛鳥が陰でコソコソやるような性格でない事は、奏子も知っている。
「(…飛鳥の話も、聞いてあげれば良かったな…)」
帰りながら、奏子は小さくため息を吐く。
腹が立つあまり、昼食も一緒にとらなくなってしまった。
:10/10/27 19:08
:N08A3
:EbC01sZ6
#485 [我輩は匿名である]
バイト先でも一言も口を利いていない。
飛鳥にも悪いところはあるが、その分、飛鳥は余計に気にしているだろう。
自分から謝るべきかどうか、奏子は悩みながら1人帰った。
その後、飛鳥は何故か、授業が終わるとすぐに学校に帰るようになった。
直人は理由を聞きたい気もしたが、今は聞かないようにしていた。
彼女なりに考え、悩みをコントロールしているのだろう。そう思ったからだ。
:10/10/27 19:08
:N08A3
:EbC01sZ6
#486 [我輩は匿名である]
ある日。
「ん?」
休み時間、飛鳥が薫と話している。
最近良く見る光景。
仲良くない事はないのだが、2人きりで話しているのは、最近まで見たことはなかった。
「何してるんだろうな」
要も不思議そうにしている。
直人は首をかしげ、話し掛けに行くか考える。
:10/10/27 19:09
:N08A3
:EbC01sZ6
#487 [我輩は匿名である]
するとちょうどよく、8組に響子がやって来た。
「香月香月!」
響子が薫の所に行く前に、直人は響子の元に走る。
「水無月くん」
「ちょっと聞きたい事があるんだけど!」
「ん?」
響子はきょとんとしている。
「神崎と薫が最近やけに仲良いんだけど、何か知らねぇか?」
腕を組んで直人は尋ねる。
:10/10/27 19:09
:N08A3
:EbC01sZ6
#488 [我輩は匿名である]
響子はそれを聞いて、少し考え込んだ。
「………知ってるけど…」
「えっ、マジで!教えて」
「んー、やだ」
響子はにっこり笑って答えた。
「はぁー!?」
「だって今言わない方が、後で水無月くんきっと喜ぶよ?」
「そうなのか?」
何かのどっきりの計画でもしているのか。
:10/10/27 19:09
:N08A3
:EbC01sZ6
#489 [我輩は匿名である]
「もしかして、俺の為のなんか…!?」
「別に水無月くんの為じゃないけどね」
嬉しそうにガッツポーズする直人に、響子がバッサリ否定する。
「ちっ…」と、直人は悔しそうに舌打ちする。
「まぁ浮気じゃないから、気にしなくて良いわよ」
それは想像つくのだが、何なのかは全くわからない。
しかし、響子いわく「直人も喜ぶ」事らしいので、
直人はそれがわかる時まで待つ事にした。
:10/10/27 19:10
:N08A3
:EbC01sZ6
#490 [我輩は匿名である]
それがわかったのは、12月の中旬だった。
すっかり寒くなって、ブレザーを着ても肌寒いくらいだ。
直人達が取り囲んで見ているのは、学期末テストの結果。
貼りだされた紙を見る輪のなかに、奏子の姿はない。
まず目についたのは上位の順位。
薫が1位なのだが、その近くに良介の名前がなかったのだ。
「…とうとう諦めたか」
「まっさっか!!」
4人の背後で声がする。
:10/10/27 19:10
:N08A3
:EbC01sZ6
#491 [我輩は匿名である]
来た。直人達は顔をしかめて目を合わせる。
薫は鬱陶しそうに振り向く。
案の定、そこには仁王立ちした良介がいた。
「…何だよ」
「僕が響子ちゃんを諦めるわけないだろう!?
受けれなかったんだよ!テスト!」
「何で?」
直人と飛鳥は首をかしげる。
:10/10/27 19:10
:N08A3
:EbC01sZ6
#492 [ま]
はう(´・ω・`)余計続きが気になる(´・ω・`)
:10/10/31 00:38
:P04A
:H9axVRIU
#493 [我輩は匿名である]
「風邪引いて追試になったからさ!」
良介は華麗に理由を言う。
が、薫はすでにげんなりしたように良介を視界から外している。
一応追試は出来るものの、その点数は順位には反映されない。
「おいっ!僕から目を逸らすな!」
良介は声を荒げて、薫の身体を自分の方に向ける。
「相変わらず鬱陶しいね、この子」
彼の暴走ぶりに、要が呆れている。
「次こそは!お前から響子ちゃんを奪い返す!!」
:10/10/31 08:42
:N08A3
:eAY8INGU
#494 [我輩は匿名である]
良介はビシッと薫を指差す。
「……なぁ、いい加減やめないか?」
薫はため息を吐きながら言う。
「何?」
「お前、本当に響子の事が好きなのか?」
「当たり前だろ!」
「だったら…」
「そんなに勝つ自信が無いか?」
:10/10/31 08:42
:N08A3
:eAY8INGU
#495 [我輩は匿名である]
良介はまるで見下すような目で薫を見る。
「そういう事じゃない」
「同じ事だろ?響子ちゃんと離れたくないなら、僕に勝てば良いだけの話だ。
1回僕に負けたからか?そりゃあれだけ自信満々に乗ってきたのに…」
「いい加減にしろよ」
薫は口調を強め、良介を睨む。
「ちょっと喋らせておけば調子に乗りやがって…。
“俺”とキョウコの事を何も知らない“ただの幼なじみ”が意気がってんじゃねぇぞ…!」
:10/10/31 08:42
:N08A3
:eAY8INGU
#496 [我輩は匿名である]
薫の話に、良介は眉をひそめる。
「(何だ…?こいつと響子ちゃんの間に、何かあるのか…?)」
前世の事について全く何も知らない良介は、薫のその言葉が気になった。
「……こわっ」
「完璧にキレてるな…」
隣で2人の様子を見ている直人達は、ちょっとハラハラしている。
響子も、いつもと違って、かなり不安そうな顔で薫を見つめている。
:10/10/31 08:43
:N08A3
:eAY8INGU
#497 [我輩は匿名である]
「…『何も知らないくせに』っていうんなら」
良介は真剣な顔で薫を見る。
「響子ちゃんと何があったか、僕に全部話してくれよ」
「言っても信じねぇよ。お前に言ったって、嘲笑われて終わるだけだ」
「そんな事わからないだろ!?」
珍しく、良介が本気で声を荒げる。
それを、薫は黙ってじっと見ている。
「…じゃあお前」
少し考えた後、薫は落ち着いた声で口を開く。
:10/10/31 08:43
:N08A3
:eAY8INGU
#498 [我輩は匿名である]
「生まれてくる前から俺と響子が知り合いだったって言ったら、信じるか?」
そう言われて、良介は理解できないという顔で首をかしげる。
「そんな事あるわけ…」
良介はそこまで言って、ハッとある事を思い出した。
「……もしかして、前に言ってた…」
「…ここでするような話じゃない」
やっと話を理解しはじめた良介に、薫は背を向ける。
「本当に知りたくなったら聞きに来い。
…軽い気持ちで来たら張り倒す」
薫は見向きもしないまま言い放って、教室に入っていった。
:10/10/31 08:44
:N08A3
:eAY8INGU
#499 [我輩は匿名である]
「……とうとう言わないといけなくなっちゃったな」
飛鳥がボソッと直人に言う。
直人も呆れたように「あぁ…」と返事して、ふと響子に目をやる。
響子は思い悩んだ表情でうつむいている。
そして、彼女も無言のまま教室へ去っていった。
「(どうしたんだろ?響子…)」
飛鳥は気にしながら、響子の背中を見つめる。
良介もその場を離れ、直人と飛鳥は顔を見合わせる。
:10/10/31 08:44
:N08A3
:eAY8INGU
#500 [我輩は匿名である]
「………あ、俺自分の順位見てねぇわ」
直人はちょっととぼけるように言って、また紙を見直す。
しかし、自分の順位を見つける前に目を止めた。
『7位:神崎 飛鳥(8組) 451点』
「………………なぁ」
「何?」
「…………これ、お前?」
直人は飛鳥の名前を指差して、目を丸くする。
「…あたししかいないじゃん」
飛鳥はかなり恥ずかしそうに答える。
:10/10/31 08:45
:N08A3
:eAY8INGU
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