記憶を売る本屋 2
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#622 [我輩は匿名である]
「結構降ってきたなぁ」
その頃、男子達は頂上付近でのんびり滑っていた。
直人達のグループの引率リーダーが空を見上げて呟く。
山の天気は気まぐれで、朝とはうって変わって、曇り空が広がっている。
「これってヤバそう?」
「んー、もうちょっとしたら吹雪いてくるかもなぁ」
先頭の男子が引率者の男性と話していると、男性の携帯電話が鳴りだした。
「そういえば、あのプレゼントいつ渡すんだよ?」
進めないので、直人はふと薫に尋ねる。
:11/01/03 22:34
:N08A3
:LGFlTx3A
#623 [我輩は匿名である]
「もう渡してきたよ」
「えっいつ?」
「昨日。今日『ありがとー(о^∇^о)』ってメール来てた」
「マジかよ」
「おい、それは僕への嫌味か?」
良介は不機嫌そうに薫に言う。
すると、電話中だった引率の男性が突然「えええ!?」と大声を上げた。
直人達は全員驚いて、男性に目を向ける。
「本当に!?どうするんですかそれ!?」
:11/01/03 22:34
:N08A3
:LGFlTx3A
#624 [我輩は匿名である]
「何かあったのかな?」
「……遭難だよ」
「はぁ?」
断言したのは、しばらく黙っていた要だった。
「(遭難って、誰が?つーか何でわかんの?)」
「…神崎飛鳥だからだよ」
その言葉に、直人は動きを止める。
「(…マジで言ってる…?)」
「残念ながら大マジだよ」
:11/01/03 22:35
:N08A3
:LGFlTx3A
#625 [我輩は匿名である]
頭の中で話していると、急に強い風が吹き抜けた。
空を見上げると、さっきよりも雪がひどくなってきている。
「この天気じゃ危ないですよ…。もうこっちじゃちょっと吹雪いて…えぇ…。
…はい、はい…わかりました…はい…」
男性の話からも、吹雪いてくるのは時間の問題だと思われる。
「あの!」
直人はスキー板を外し、男性の元へ駆け寄る。
「…遭難って、誰が助けに行くんですか?」
他の生徒に聞こえないように、小声で尋ねる。
:11/01/03 22:35
:N08A3
:LGFlTx3A
#626 [我輩は匿名である]
「…え、もしかして聞こえてた?」
「あ、いや…勘っすよ。女子が遭難したんじゃないんですか?」
図星らしく、男性は困った顔で「うーん…」と言葉を濁す。
「…どうなったんですか?生きてるんですよね?」
直人は男性に詰め寄る。他の生徒が気になって見ているが、それどころではない。
「生きてるとは思うよ。落ちた場所もそんなに危ない所じゃないし…」
どっかから落ちたのか。直人はそれを聞き逃さなかった。
「多分今救助要請してると思うけど、何せこんな天気だからなぁ…。
とりあえず、危ないから俺たちも今から降りよう」
:11/01/03 22:36
:N08A3
:LGFlTx3A
#627 [我輩は匿名である]
直人は仕方なく列に戻ってスキー板を履く。
少しは慣れただけなのに、板にはすでに雪が積もり始めている。
救助要請したって、この天気だと救助ヘリが飛ぶかわからない。
それ以前に、要請を受けて救助に来るまでにかかる時間もある。
おまけに、飛鳥が今どこにいるのかすら定かではない。
怪我で出血でもしていたら、下手すれば手遅れだ。
「(………要)」
「何?」
:11/01/03 22:36
:N08A3
:LGFlTx3A
#628 [我輩は匿名である]
「(神崎がどこにいるのか、わかったりする?)」
直人はぎゅっと、ストックを持つ手をかたく握る。
「……自分で行く気?」
「(場所がわかれば行く。じゃないと、いつ助けてもらえるかわからないだろ)」
直人の決意は、どうやっても覆らないようだ。
最初はあんなにグレていたのに、今では打ち解けようと頑張っている飛鳥。
ここまで立ち直ったのに、こんな所で死なせたくない。
その思いは、要も同じだった。
:11/01/03 22:37
:N08A3
:LGFlTx3A
#629 [我輩は匿名である]
「…自分も死なないって自信ある?」
「(大ありだ!無かったらこんな事考えねぇよ!)」
「…じゃあ、俺の言う通りに滑ってよ」
「(任せろ!)」
直人は答えると同時に、順番を無視して滑りだした。
「水無月!?」
驚いた男子達の声を振り切って、直人はさっさと滑り降りる。
:11/01/03 22:38
:N08A3
:LGFlTx3A
#630 [我輩は匿名である]
不思議な事に、救助に任せようという気にはならなかった。
“怖い”という気持ちも、“自分も遭難したら”という気持ちもない。
あるのは、“俺が行かないと”という、根拠の無い変な使命感だけ。
「右側にいて。あと、もうちょっとゆっくり」
「ゆっくり滑ってる場合かよ」
「じゃなくて、通り過ぎちゃったら意味ないだろ!」
「あぁ、そうか」
要に怒られて、直人はやっと蛇行し始めた。
:11/01/04 21:22
:N08A3
:CNkCJZG6
#631 [我輩は匿名である]
「…あそこじゃね?」
しばらく滑ると、斜面の右端で女子グループが留まっているのを見つけた。
「…みたいだけど、邪魔だな。もうちょっと降りて」
要に指示されて、直人はルートを変えて更に降りる。
「……あ、止まって」
直人は言われた通りに、右に寄って止まる。
女子グループが止まっている所とふもとの、ちょうど中間くらいの高さだ。
また、さっきよりも少し斜面が緩やかに見える。
:11/01/04 21:23
:N08A3
:CNkCJZG6
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