記憶を売る本屋 2
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#651 [我輩は匿名である]
しばらく黙って歩いて、直人はまた口を開く。

「そういえば、何でさっき神崎の場所がわかったんだ?」

「俺には、神崎飛鳥を手助けできるように特別な力があるんだ。

まぁ言っちゃえば幽霊みたいなものだからね、俺。

幽霊がポルターガイスト起こせるのと同じような感じだと思うよ」

「…そんなもんなのか」

「期待外れ?」

「…ちょっとな」

直人は小さく笑う。

⏰:11/01/08 12:34 📱:N08A3 🆔:6qVLbmdA


#652 [我輩は匿名である]
「あんまり使い過ぎるのも神崎飛鳥の為にならないから、

必要以上に使わないようにしてたんだ。直人と話して助言する事は何回かあったけどね」

「……お前、最初から俺の中にいたのか?」

「うん。直人が全部思い出してから、ずっとね。

喋れる事に初めて気が付いたのは運動会の時だったけど」

「(運動会?あぁ、球技大会の時のあれの事か)」

「おかげで神崎飛鳥には幽霊だって恐がられるようになっちゃったけどねー」

2人は笑いながら話す。

思えば、こうやって要と話すなんて、あり得ない事だ。

⏰:11/01/08 12:35 📱:N08A3 🆔:6qVLbmdA


#653 [我輩は匿名である]
前世の自分と、生まれ変わった姿の自分。

「なんかでも…すげぇよな。前世とその生まれ変わりが一緒にいるんだぜ?」

「はははっ、そうだね。俺達だけじゃないの?」

「だろうな。でも…お前の事忘れるって事は、この事も忘れるんだよな…?」

「まぁ、そうなるね」

「あーあ、なんか残念だし、淋しいな」

「そうだね。それも今だけだよ。記憶が無くなれば、もう思い出す事はないんだし」

「……いつなんだよ?前世の記憶が無くなるの」

⏰:11/01/08 12:35 📱:N08A3 🆔:6qVLbmdA


#654 [我輩は匿名である]
「………今日、かな」

しばらく間を置いて、ぽつりと要が言った。

「お前なぁ、そういう事はもっと早く言えよ」

「あんまり早く言ったら、考え込んで元気無くなっちゃうじゃないか。

だから、わざわざショック受けてる時間が短くて済むように黙ってたんだよ」

「…それにしても急すぎだろ」

「本当はもっと早く消えようと思ってたんだけどね。でも良かったよ。今日まで残ってて」

「あぁ。お前がいてくれて良かった」

直人にそう言われて、要も小さく笑った。

⏰:11/01/08 22:46 📱:N08A3 🆔:6qVLbmdA


#655 [我輩は匿名である]
前世の記憶が無くなるなんて、今になっては全く想像出来ない。

思えば、『あの本をもらった者は死ぬ』と言われていた都市伝説。

それに自分が巻き込まれるなんて、あの時は思いもしなかった。

それがいつのまにか、前世の記憶がある事が当たり前の生活になっていた。

明日からは、ただの普通の男子高校性に戻る事になる。

淋しくなるな。実感がまだ全くわかないながらも、直人は心から思った。

すると、遥か遠くの方に人影がいくつか見えた。

「着いたみたいだね」

助けに来た人を見た瞬間、どっと疲れを感じ、直人はその場に座り込む。

⏰:11/01/08 22:46 📱:N08A3 🆔:6qVLbmdA


#656 [我輩は匿名である]
「…直人」

「ん?」

顔を上げると、要がこっちを向いていた。

「1つだけ、いい?」

「何だよ?」

「長生きしろよ。そして、…幸せになれ」

そう言って、要は笑った。

⏰:11/01/08 22:47 📱:N08A3 🆔:6qVLbmdA


#657 [我輩は匿名である]
直人も笑い返し、返事をする。

「おう、雲の上からちゃんと見とけよな」

2人は最後に笑い合う。

その直後、直人は強烈な眠気に襲われ、そのまま気を失ってしまった。

意識の遠くの方で、「さようなら、直人」と言う、誰かの声が聞こえた。

⏰:11/01/08 22:48 📱:N08A3 🆔:6qVLbmdA


#658 [我輩は匿名である]
「晶ちゃん」

誰かに名前を呼ばれて、飛鳥は静かに目を覚ます。

要がトラックにはねられて死んだ、あの横断歩道。そこに、飛鳥は立っていた。

そしてガードレールの所には、要が腰掛けている。

「要…」

「久しぶり、晶ちゃん。…いや………飛鳥ちゃん」

要は言い直し、飛鳥に微笑みかける。

ここは夢の中みたいだ。飛鳥はすぐにそう思った。

「……何で…?」

⏰:11/01/09 17:36 📱:N08A3 🆔:HkzzrEHw


#659 [我輩は匿名である]
「…ちょっと、会いたくなって」

「…あたしも、会いたかった」

飛鳥はきゅっと、体の横で手を握る。

「ずっと…要に言いたい事があったんだ。でも、いつまでも言えないままで…」

要は飛鳥を見つめたまま聞いている。飛鳥の目に涙が浮かぶ。

「……ごめんなさい」

言うのと同時に、飛鳥の頬を涙が伝った。

「私があの時、要の話をちゃんと聞いてたら…信じてたら…!」

⏰:11/01/09 17:36 📱:N08A3 🆔:HkzzrEHw


#660 [我輩は匿名である]
「飛鳥ちゃん」

要は立ち上がり、飛鳥と向き合う。

「良かったんだよ、これで」

下を向いて必死に涙を拭っていた飛鳥は、手を止めて顔を上げる。

「今の方が、きっと君は強くなれる。…直人と君を見ててそう思ったんだ」

「…見てたの?」

「まぁね。直人が言ってた幽霊って俺だもん」

なぜか自慢げに自分を指差す要に、飛鳥はきょとんとする。

⏰:11/01/09 17:37 📱:N08A3 🆔:HkzzrEHw


#661 [我輩は匿名である]
「…でも、それも今日で終わり」

要はやはり、どこか名残惜しそうにため息を吐く。

「飛鳥ちゃん、俺が言う事…よく聞いてね」

「…うん」

「…君が目を覚ました時、水無月直人は前世の記憶を全部失くしてる」

要のその一言に、飛鳥は目を丸くする。

「…何…」

「俺の事も、晶ちゃんの事も、前世に関わる記憶は何もかもね。

…信じられないと思うけど、これが俺達のルールなんだ」

⏰:11/01/09 17:37 📱:N08A3 🆔:HkzzrEHw


#662 [我輩は匿名である]
「ルールって…何…!」

言い掛けた瞬間、飛鳥の脳裏に、ある光景が広がった。

目の前にいる女性、交わした会話、示された“条件”…。

晶があの女性とした“取り引き”を、飛鳥は全て思い出した。

「……俺の言ってる事、わかるよね?」

全てを悟った飛鳥は、茫然としながらも静かに頷いた。

「大丈夫だよ、今の君なら」

要はぽんと、飛鳥の肩に手をおく。

⏰:11/01/09 17:38 📱:N08A3 🆔:HkzzrEHw


#663 [我輩は匿名である]
「…要…」

「ん?」

涙を拭ききって、飛鳥は小さく笑みを見せる。

「ありがとう。今まで、一緒にいてくれて」

泣かないようにとこらえているが、声が震えている。

「私、これから頑張るよ。もう『死にたい』なんか言わない。

友達と喧嘩しても、家族に見下されても、自分で何とかする。

…だから、ちゃんと見ててね」

飛鳥のその言葉に、要はホッとしたように笑い返した。

⏰:11/01/09 17:39 📱:N08A3 🆔:HkzzrEHw


#664 [我輩は匿名である]
「見てるよ、飛鳥ちゃんの事も、直人の事も」

そう言って、要はぺちっと、飛鳥の頬に両手をあてる。

「苦しくなったらまわりを見てみて。今の君には、支えてくれる人がたくさんいるから。

ここまで頑張って得た友達は、きっとずっと、君の宝物になる。

自信を持って」

⏰:11/01/09 17:39 📱:N08A3 🆔:HkzzrEHw


#665 [我輩は匿名である]
「…うん…!」

飛鳥は大きく頷いた。

「元気でね」

「うん。…本当に、ありがとう」

2人は再び笑い合った。初めて出会ったあの日の、長月要と石川晶のように。

⏰:11/01/09 17:40 📱:N08A3 🆔:HkzzrEHw


#666 [我輩は匿名である]
「(……どこだ…?ここ…)」

目を覚ました直人は、ボーッと天井を見つめる。

ゆっくり起き上がってみると、どこかの病院の個室のようだ。

「(……何で俺…病院にいるんだ…?)」

何があったか思い出そうとするが、全く頭が働かない。

頭を抱えつつ、窓の外の雪景色に目をやる。

「(…雪…そうだ…スキー実習に来たんだ…。

それで…香月がインフルエンザにかかったり…班行動で薫がどっか行ったり…

あぁ…安斎に告られて…神崎が遭難したとかで…)」

⏰:11/01/16 23:29 📱:N08A3 🆔:DOuhzdZM


#667 [我輩は匿名である]
そこまで考えてやっと、自分のした事を思い出した。

「……そうだ…神崎は…?」

探しに行こうと布団をめくると、それと同時に病室のドアが空いた。

入ってきたのは、病衣を着た飛鳥だった。

「水無月…!」

起き上がっている直人を見て、飛鳥は驚いた顔で駆け寄ってきた。

「大丈夫!?あんた、いつまで経っても起きないから、心配で…」

「…今何時…?」

「朝の7時だよ」

⏰:11/01/16 23:29 📱:N08A3 🆔:DOuhzdZM


#668 [我輩は匿名である]
「……マジ…?」

そんなに寝倒したのか。直人は深く息を吐く。

「お前は…怪我してなかった…?」

「あたしは大丈夫。ちょっと手首ひねったぐらいで」

「そう…そりゃ良かった」

直人は笑って返すが、その笑顔にもどこか力が無い。

飛鳥は彼の様子がおかしい事に気付き、少し首をひねる。

「水無月…?」

「ん…?あぁ…なんか頭がボーッとしちゃってさ…」

⏰:11/01/16 23:30 📱:N08A3 🆔:DOuhzdZM


#669 [我輩は匿名である]
直人は眠そうに目をこすりながら小さく笑う。

「俺…どうやってお前を助けに行ったのかとか…全く覚えてないんだよ…。

何でお前の場所がわかったのかとか…何でお前が遭難したのがわかったのかとか…。

…それだけじゃなくて…何か…もっと大事な事忘れて気がするんだけど…全然…。

変だよな…。頭とか打ったわけじゃないのに…」

声を押し出すようにして話す直人を、飛鳥はじっと黙って聞いている。

「……水無月、……“長月要”と“石川晶”って名前、聞いたことある?」

直人が話し終えたのを見て、飛鳥が静かに尋ねた。

直人は「んー…」と頭をひねる。

⏰:11/01/16 23:30 📱:N08A3 🆔:DOuhzdZM


#670 [我輩は匿名である]
「…無い…と思う」

「両方?」

「あぁ…」

飛鳥は小声で「そっか」とだけ答える。

こういう答えが返ってくることはわかっていたが、聞かずにはいられなかった。

“もしかしたら”と、一縷の望みを捨てきれなかったのだ。

「そいつらが、どうかした?」

「う、ううん。…あたしの勘違い」

⏰:11/01/16 23:31 📱:N08A3 🆔:DOuhzdZM


#671 [我輩は匿名である]
「何だよそれ…」

直人は呆れたように笑う。

「でも…良かったよ。…お前が大した怪我してなくて」

「…うん」

飛鳥は返事をして下を向く。

「水無月」

「何…?」

「…ありがとう」

飛鳥の声が震えているのを聞いて、直人は飛鳥を見る。

⏰:11/01/16 23:31 📱:N08A3 🆔:DOuhzdZM


#672 [我輩は匿名である]
「嬉しかった。来てくれるって、思ってなかったし…。

あたしを背負ってくれたあんたの背中…すごい温かくて…、

『良かった、あたしまだ生きてる』って…そう思えて…」

安心したからか、遭難した時の事を思い出してか、飛鳥の目から涙がこぼれ落ちる。

それを見て、直人は焦り始める。

「ちょ、おい、何だよ、泣くなよ…」

「ごめん…。だって、こんな事思うの初めてで…。

助けに来てくれたあんたの顔見て初めて、『あぁ生きてて良かった』って思った…」

飛鳥は両手で涙を拭きながら笑ってみせる。

⏰:11/01/16 23:31 📱:N08A3 🆔:DOuhzdZM


#673 [我輩は匿名である]
「…俺も…お前が生きてて良かった。

あの吹雪の中で、お前が目を覚まして俺の名前を呼んだ時…すげぇホッとした。

何かよくわかんねぇけど…お前だけは死なせちゃダメだって思って…。

…気を付けろよな」

「あ、あたしのせいじゃ無いし!」

「…じゃあ何であんなとこに落ちたんだよ…?」

「…それは…」

2人はそれから、担任の教師が来るまでずっと一緒にいた。

⏰:11/01/16 23:32 📱:N08A3 🆔:DOuhzdZM


#674 [我輩は匿名である]
その後、直人も飛鳥も特に問題ないと判断され、他の生徒達と一緒に帰れる事になった。

あれだけ寝たというのに、直人は飛行機の中でもずっと眠っていた。

今までの直人とは打って変わって、はしゃぐ事もなかった。

スキー実習で疲れて眠る生徒もいたが、そんな軽症なものではない。

それに気付いた薫が飛鳥に事情を聞き、後日薫を通して響子にも伝えられた。

⏰:11/01/16 23:35 📱:N08A3 🆔:DOuhzdZM


#675 [我輩は匿名である]
代休を挟んだ休み明け。

まだ眠気とだるさが完全には抜けないが、直人は何となく早めに学校にやってきた。

「おはよう」

教室に入ると、珍しい事に飛鳥がすでに登校して来ていた。

「おう、珍しく早いな」

「今日日直だったからね」

「よく覚えてたな」

直人は笑いながら自分の席に着く。

飛鳥も直人の前の席に座る。

⏰:11/01/22 12:54 📱:N08A3 🆔:ZOWzt0vc


#676 [我輩は匿名である]
「…大丈夫?眠たいの治った?」

「ん?あぁ、だいぶな。まだちょっとだるいけど」

「そうだね。あの時より元気そうに見える」

飛鳥は安心したように笑う。

「家でずーっと寝てたからな」

鞄から机に教科書を放り込みながら、直人も笑って返事する。

「さて、あたしノート取ってくる」

「取って来なかったのか?」

「持てなかったんだよ。鞄も持ってたし」

⏰:11/01/22 12:55 📱:N08A3 🆔:ZOWzt0vc


#677 [我輩は匿名である]
「あぁなるほどな。暇だし、手伝いに行ってやるよ」

「ゆっくりしてればいいのに」

「いいよ別に。お前手痛めてただろ」

直人は飛鳥に笑いかけて、さっさと立ち上がって歩きだす。

飛鳥も直人について教室を出る。

「…なんか、いつも助けてもらってばっかりだね、あたし」

廊下を歩きながら、飛鳥は申し訳なさそうに言う。

「な、何だよ急に。気持ち悪い」

「だってそうじゃん。あたし全然お礼とか出来てないしさぁ…」

⏰:11/01/22 12:55 📱:N08A3 🆔:ZOWzt0vc


#678 [我輩は匿名である]
「お礼したいの?」

「そりゃしたいよ!」

「ふぅん。じゃあ楽しみにしてるわ」

直人はそれほど期待せずに返事をする。

「…何か、欲しいものとかある?」

階段を下りながら、飛鳥は直人に尋ねる。

今のところ特に何もない直人は、腕を組んで考える。

「今んとこ、無いかな」

「じゃあ、まぁ考えといてよ」

「あぁ」

⏰:11/01/22 12:56 📱:N08A3 🆔:ZOWzt0vc


#679 [我輩は匿名である]
話が終わるとほぼ同時に、職員室の前に到着した。

棚の中には、スキー実習前に提出したノートが約40人分と、プリントの束が入っている。

「な?俺が来てて良かっただろ?」

「うん」

ノート等の量を見て、飛鳥は大きく頷く。

飛鳥はプリント類を、直人はノートを抱えて、また教室に引き返す。

すると、誰かが後ろから2人の背中をポンと叩いた。

「おはよ♪」

後ろにいたのは、ちょうど登校してきた奏子だった。

⏰:11/01/22 12:56 📱:N08A3 🆔:ZOWzt0vc


#680 [我輩は匿名である]
「おはよう」

飛鳥は普通に挨拶するが、直人は奏子を見て思い出した。

「(…そうだ、こいつに返事しないと)」

しかし、今は飛鳥がいるし、自分も両手にノートを抱えている。

「(…後でちょっと話すか)」

直人はそう心の中で決めて、教室に戻った。

⏰:11/01/24 19:59 📱:N08A3 🆔:OV5OGioo


#681 [我輩は匿名である]
昼休み。直人は今までと同じように薫と昼食を摂っていた。

「そういえば、香月はまだ休んでんの?」

「あぁ。昨日はもう熱は下がってたらしいけど。

インフルエンザって熱下がってから何日かしないと学校に来れないからなぁ」

「お前毎年かかるもんな。さすが」

「うるさいな」

直人にバカにされ、薫はムッとして睨み付ける。

直人はからかうように笑い、弁当のおかずを口に運ぶ。

⏰:11/01/24 20:00 📱:N08A3 🆔:OV5OGioo


#682 [我輩は匿名である]
「(…今までと変わらないみたいだけど…本当に覚えてないのか…?

でも石川晶と長月要を『知らない』って言ったんなら、やっぱり覚えてないんだろうな…)」

飛行機内で飛鳥に全てを聞いた薫は、そう思いながら直人を見る。

「でももう1月だろ?今年はかからねぇんじゃねぇの?」

「さあな」

「これから体でも鍛えたら?いくら前世の事で不健康になったからって、

お前が頑張ればどうにでもなるだろ」

「(…俺の事は覚えてるんだな。他人事みたいに言いやがって…)」

直人から見れば完全に他人事なのだが、薫は納得できなさそうな顔で直人を見る。

⏰:11/01/24 20:00 📱:N08A3 🆔:OV5OGioo


#683 [我輩は匿名である]
「でも、改めて考えてみたらすげぇよなぁー。自分の前世がわかるなんてさ。

俺の前世ってどんな奴だったんだろうな?もしかして、超大物だったりして!」

直人は楽しそうに笑う。

それを見て、薫は呆れたようにも、淋しそうにも見える小さな笑顔を見せる。

「何だよ、大物って」

「んー…徳川家康とか!」

「はぁ?ははっ、無いね。絶対無い」

「何で言い切れるんだよ!?わかんねぇだろ!」

直人は、薫にわかりきった言い方をされて膨れる。

⏰:11/01/24 20:01 📱:N08A3 🆔:OV5OGioo


#684 [我輩は匿名である]
「水無月」

昼食を食べ終えた飛鳥が、傍に来て話し掛けてきた。

「んー?」

「今日、放課後時間ある?」

「あぁ…あるよ」

「ちょっと…ついて来てほしい所があって」

「ふうん。いいよ、別に」

「良かった。ありがと」

飛鳥は小さく笑って、自分の席に戻っていった。

⏰:11/01/26 21:46 📱:N08A3 🆔:cSvZSEnk


#685 [我輩は匿名である]
放課後、飛鳥が日直の仕事を終わらせている間、直人は奏子を呼んで話をした。

「ごめん、遅くなって」

「忘れられたと思ってた」

奏子はからかうように笑う。

「…その…付き合ってって話なんだけどさ…」

直人は少し恥ずかしそうに下を向きながら言う。

奏子の表情も自然と真顔になる。

⏰:11/01/26 21:57 📱:N08A3 🆔:cSvZSEnk


#686 [我輩は匿名である]
「…悪いんだけど…お前の事、友達としか見れない」

直人は「ごめん」と頭を下げる。

奏子はそれをじっと見つめる。

そして早くも、諦めたように「あーぁ」と息を吐いた。

「やっぱりダメか。あんた鈍感そうだし、先に告ればOKするかなって思ったんだけど」

奏子の話を聞いて、直人は頭を上げる。

「“先に”って?」

「飛鳥より先にって事!どっちにしろ、あたしには勝ち目は無かったって事か」

⏰:11/01/26 21:58 📱:N08A3 🆔:cSvZSEnk


#687 [我輩は匿名である]
奏子はそう言って、くるっと背中を向ける。

「良かった!すっきりした。飛鳥の事、ちゃんと大事にすんのよ!じゃあね!」

直人が言葉を発する間もなく、奏子はその場を走り去った。

階段を掛け降りて、奏子は足を止める。

明るく振る舞っていてもやはりショックだったらしく、その目には少し涙が浮かんでいる。

「(……はぁ…すっきりしたのかしてないのか……。

でも、飛鳥なら…仕方ない…かなぁ…)」

奏子は涙を拭って深呼吸をし、1人でとぼとぼ帰っていった。

⏰:11/01/26 22:01 📱:N08A3 🆔:cSvZSEnk


#688 [我輩は匿名である]
告白されたのも振ったのも初めてで、直人は「本当によかったのかな」と立ち尽くす。

しかし、考えていてももうどうにもならない。

複雑な気持ちのまま、飛鳥がいる教室に戻る。

直人が入ってきた事に気付いて、飛鳥がこっちを向いた。

「おかえり」

「ただいま。日誌書き終わったか?」

「あとちょっと」

「早くしろよなー」

「わかってるよ!」

⏰:11/01/28 22:19 📱:N08A3 🆔:07zwY3H6


#689 [我輩は匿名である]
飛鳥は言い返して、さっさとペンを走らせる。

直人は飛鳥の前の席に腰掛ける。

意外にも、きれいな字で丁寧に書いてある。

「よくそんないっぱい書けるな。俺なんか2行で終わるぞ」

「だろうね。むしろ1行しか書けないんじゃないの?」

「へっ、よくわかってんじゃん」

直人は笑いながら、何となく窓の外に目を向ける。

「……俺さぁ」

⏰:11/01/28 22:20 📱:N08A3 🆔:07zwY3H6


#690 [我輩は匿名である]
「うん」

「…今日、人生で初めて人振ったわ」

急な話に、飛鳥は思わず顔を上げる。

「……は??」

「俺、スキー実習ん時あいつに告られたんだ」

全く知らなかった飛鳥は、ただきょとんとする。

「……何で断ったの…?」

「…ん〜…」

直人は飛鳥と目を合わさず、髪をくしゃくしゃしながら答える。

⏰:11/01/28 22:20 📱:N08A3 🆔:07zwY3H6


#691 [我輩は匿名である]
「……そりゃ…好きな奴、いるし…」

それを聞いて、飛鳥はドキッとする。

「(…ちょっと待ってよ、こいつと仲良い女子って奏子と響子ぐらいじゃん!

響子は論外だし、奏子がダメなら他に誰もいないし…)」

気が動転しすぎて、“自分の事かも”という考えには至らないらしい。

手を止めて考え込んでしまった飛鳥を、直人も黙って見る。

「(……これは…俺が告る空気なのか…?)」

振った後に、今度は告白か。

直人はそう思いながらも、気持ちを落ち着かせる。

⏰:11/01/28 22:21 📱:N08A3 🆔:07zwY3H6


#692 [我輩は匿名である]
「(…これは、そいつが誰なのか聞くべき?それとも…思い切って言うべき?

でも…怖いなぁ…。どうせ『ごめん』って言われるんだろうし…どうしよう…)」

2人はそれぞれ頭を悩ませる。

中でも飛鳥はかなり深刻な様子で、机に肘をついて本当に頭を抱え込んでいる。

「…お、おい…何でお前がそんなに悩んでるんだ?」

「そりゃ悩むでしょ!あたしだって…!」

飛鳥はそこまで言って、ハッと動きを止めた。

「“あたしだって”何だよ?」

「いや…その…」

⏰:11/01/29 13:10 📱:N08A3 🆔:.coV6bHI


#693 [我輩は匿名である]
つい口走ってしまい、困ったようにうつむく。

しかし、ここまできたら言うしかない。そう思った。

「……あたしも、…あんたの事好きだよ」

勢いに任せて、飛鳥は言った。

自分から言おうか迷っていた直人は、彼女の一言に目を丸くする。

2人の間に、しばしの沈黙。

「…お…」

少しして、直人が口を開いた。

「俺も好きだよ、お前の事!」

⏰:11/01/29 13:11 📱:N08A3 🆔:.coV6bHI


#694 [我輩は匿名である]
「え…」

飛鳥もまたぽかんとする。

「…本当?」

「当たり前だろ!冗談でこんな事言うかよ」

「そ、そうだよね…」

「……はぁ…何か、スッキリした」

「あたしも…」

張り詰めていた緊張が解けて、2人ともため息を吐く。

⏰:11/01/29 13:11 📱:N08A3 🆔:.coV6bHI


#695 [我輩は匿名である]
「…て事は…俺たち…両想い?」

「…になるよね」

少しずつ今の状況に慣れてきて、2人は照れながらも笑い合う。

飛鳥はまたせっせと手を動かし、日誌を書きあげた。

「お待たせ。行こ」

「あぁ」

2人は立ち上がり、教室の鍵を閉めて職員室に鍵を戻し、学校を出た。

⏰:11/01/29 13:11 📱:N08A3 🆔:.coV6bHI


#696 [我輩は匿名である]
「寒いなぁー」

直人はマフラーを鼻の高さまで引っ張り上げて、ポケットに手を入れる。

「…あの吹雪の中ぶっ倒れてから、あんまり寒さを感じなくなってきた」

「マジかよ。俺全然変わんねぇし」

「あんたも1回低体温なってみたら?」

「冗談じゃねー」

2人は冗談を交えながら帰り道を歩く。

「つーか、今からどこ行くわけ?」

⏰:11/01/31 22:36 📱:N08A3 🆔:uyvesmfk


#697 [我輩は匿名である]
「花屋」

「は!?何で!?」

「…供えに、ね」

飛鳥はぽつりと言った。

「…誰に?」

「……着いたら言うよ」

2人はそう話ながら、近くの花屋に行き、そしてある場所にやってきた。

⏰:11/01/31 22:36 📱:N08A3 🆔:uyvesmfk


#698 [我輩は匿名である]
何の変哲もない、ただの交差点。

「ここって…」

直人はぼんやり思い出す。飛鳥を追って、“1度だけ”来た事がある。

直人がぼーっと立ち尽くしている横で、飛鳥は信号機のポールの傍にしゃがみこみ、

そこに買ってきた花をそっと置いた。

「…誰か死んだのか?」

「…うん」

飛鳥は腰を下ろしたまま頷く。

⏰:11/01/31 22:37 📱:N08A3 🆔:uyvesmfk


#699 [我輩は匿名である]
「何年か前に…あたしの大事な友達がここで亡くなったんだ。

……飛び出して、トラックに撥ねられそうになったあたしをかばって」

そんな話を聞いたのは初めてだ。

直人は茫然としながら飛鳥の話を聞く。

「…そんなの、初めて聞いたぞ」

「………初めて、言ったし」

飛鳥は苦笑して言った。

⏰:11/01/31 22:37 📱:N08A3 🆔:uyvesmfk


#700 [我輩は匿名である]
「…でも、人かばって死ぬとか、女にしてはすげぇ勇気あるな」

「男だよ」

「男かよ!?」

女だと思っていたらしく、直人は驚く。

「(まぁ…女子の友達って言ったら、普通は女子だって思うよな…)」

飛鳥はそう思いながら、目を閉じて手を合わせる。

⏰:11/01/31 22:38 📱:N08A3 🆔:uyvesmfk


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