天使と悪魔の暇潰し
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#164 [匿名]
「あの、昨日は黙っていたんですけど…」
僕は深刻そうな暗い顔を作った。お母さんは首を少し傾げ、なにかしら?と目で伝えるように僕を覗き込んだ。
「さやちゃんなんですけど…昨日僕が会った時、死にたいって言ってたんです。私はもうすぐ死んじゃうと思うから、苦しくなる前に死にたいって。」
彼が昨日、ターゲットと話していた内容を思い出しながら言った。
え?と短く声にならない声を発したまま、お母さんは黙ってしまった。
:10/12/04 20:38 :F06B :☆☆☆
#165 [匿名]
「さやには、病気の事何も言ってないのに…。あの子、分かってたの?」
やっと話始めたお母さんの目には、やはり涙が溜まっている。
「悟ってるみたいでした。自分の体の事は、本人が一番分かっているのかもしれないです。」
何と言えばいいのか分からなかった。この人は、どれだけ泣くのだろう。涙が出なくなる魔法が使えるなら、僕はこの人に掛けてあげたい。
:10/12/04 20:47 :F06B :☆☆☆
#166 [匿名]
「支えてあげて下さい。」
何かもっと、人を勇気付けられる言葉を知っておきたかった。
「私がこんなんじゃ駄目よね。今日は先生に呼ばれててね。…でも覚悟が出来ないのよ。」
自分の子供が死んでしまう。どういう気持ちなのだろう。どれだけ苦しいだろう。
「良い話ですよ。覚悟だなんて…。決めつけちゃ駄目ですよ!さやちゃんは強いんですよね?」
他に何が言えただろうか。
:10/12/04 21:02 :F06B :☆☆☆
#167 [匿名]
「…ありがとう。じゃあ、さやの所に行ってあげてくれる?あの子、暇してると思うから。」
最後に笑みを見せると、慣れた足取りで歩いていく。
僕はターゲットの元へは行かずに、上へ戻って来た。医者とお母さんの話を聞こうと思ったからだ。
彼はいない。
:10/12/04 21:09 :F06B :☆☆☆
#168 [匿名]
四日目
今日は彼が、ターゲットのやり残した事一つ、叶えてあげる日。
これまでと同じ時間、同じ場所に、彼は向かう。
そこにはやっぱり、もうターゲットはいて、笑顔で彼を迎える。
「決まったか?」
彼はターゲットの座るベンチに腰を下ろすと、一言目にそう聞いた。
「うん。でも、まずはおはよう!って挨拶してよ!」
頬を膨らませて、ターゲットは彼に言った。
「はぁ?どうでもいいだろ!」
「どうでもよくないよ!」
「…おはよ。」
彼は面倒くさそうに呟いたが、ターゲットはそれで満足みたいだ。
「で、決まったのかよ。」
彼はもう一度聞く。
:10/12/04 21:21 :F06B :☆☆☆
#169 [匿名]
「キス。」
「ん?」
「キスがしたい。」
「誰と?」
「…誰でもいい。」
「じゃああそこにいる…」
「おじさんは嫌!」
「じゃああの…」
「子供も嫌!」
:10/12/04 21:26 :F06B :☆☆☆
#170 [匿名]
「誰でもよくねぇじゃねぇかよ!」
多分、ターゲットは決まっている。キスは、好きになった人としたいものだ。人間はそういうものだ。
「何で分かんないの!」
ターゲットはまた頬を膨らます。
「わからないの?って何だよ!分からねぇよ。」
:10/12/04 21:35 :F06B :☆☆☆
#171 [匿名]
彼がターゲットの方に顔を向けた。
一瞬だった。
ターゲットが彼にキスをした。
「本当は私からしたくなかったのに。」
ターゲットは前に向き直った。下を向いて、赤くなった顔を隠している。
:10/12/04 21:42 :F06B :☆☆☆
#172 [匿名]
彼は立ち上がり、ターゲットの前に立ち、
「立て!」
と命令をした。
「え?なんで?」
ターゲットの疑問は、彼によってかきけされた。彼はターゲットの腕を掴むと、無理矢理立たせる。
:10/12/04 21:51 :F06B :☆☆☆
#173 [匿名]
一瞬だった。
一瞬だけ、彼はターゲットの肩を抱きながら、キスをした。
「お前のやり残した事は、叶ったか?」
「…うん。」
下を向いたのは二人ともで、目を合わせようとしなかったのも二人ともだった。
:10/12/04 21:57 :F06B :☆☆☆
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