亡き君に告ぐ
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#19 [不発花火]
―もっと気高く、美しい女性に出会いたい。

そんな女性に出会えたら、自分は恐らくは夢中になってしまうだろうことも青年は理解していた。

そんな中、青年は村の長から「外れにある森の奥に建つ亡者の館を取り壊したい。中に何もないか見に行って欲しい」と頼まれたのだ。

腰に剣を携え、青年は森の奥に進んでいく。

⏰:10/12/18 10:21 📱:SH04B 🆔:Agq75nzI


#20 [不発花火]
―気をつけて。亡者の館はとても危険よ。

村を出る前、そんな言葉を村娘にかけられた。

―亡者の館に入った人間は、二度と戻って来れないの。

そんなの迷信だと青年は笑い、引き止めようとする村娘に礼を言った。


だが幾ら迷信だと思っていても、亡者の館と呼ばれているだけあるこの館は、確かに他の風景とは違う怪しさがあった。

青年は微かに身震いするが、扉に手をかけた。

⏰:10/12/18 10:21 📱:SH04B 🆔:Agq75nzI


#21 [不発花火]
ギィ、と鈍い音がして扉が開くと、青年の目の前に広がったのは、壁にかけられた大きな美しい少女の絵画だった。


「Isabela(イザベラ)」と書かれた絵画に、青年は目を離せなくなっていた。

絵画の中の少女は『アルビノ』と呼ばれる人種だった。

色素欠乏のため、髪は銀に近い白髪に、血管が透けているため赤く見える瞳。

世間では『魔女の末裔』と呼ばれ、忌み嫌われている人種。

⏰:10/12/18 10:22 📱:SH04B 🆔:Agq75nzI


#22 [不発花火]
だが、そのアルビノすら少女の美しさを際立たせて見せた。

儚げに微笑むアルビノの少女に良く似合う、深紅のドレス。
あまりの美しさに青年は呼吸をすることすら忘れていた。


青年は強く、強くこの少女に会いたいと願った。


「恥ずかしいわ…余り見ないで下さる?」

澄んだ美しい声が埃に塗れた館に響く。
青年は声のする方に勢いよく振り返る。

⏰:10/12/18 10:22 📱:SH04B 🆔:Agq75nzI


#23 [不発花火]
「君、は…?」

青年の見た所に立つのは、まさしく自分が会いたいと強く願った絵画の少女、イザベラだった。

「私はエルジェーベトと申します。その絵画の女性の孫ですわ」

青年はエルジェーベトに近付くとひざまづき、深紅の手袋を身につけた手の甲に口づける。

「エルジェーベト。君はこのイザベラによく似ている。忌まわしきアルビノすら君の美しさを更に際立たせている。とても美しいよ」
「あら、お上手ね…」

クスクスと上品に笑うエルジェーベトに青年は自分が夢中になっていくのを感じた。

⏰:10/12/18 10:22 📱:SH04B 🆔:Agq75nzI


#24 [不発花火]
「でもなぜここに?」

「ここは昔祖母が住んでいた館だったのです。私の母が生まれると同時にここより西にある村に移動したのです。最近その祖母が亡くなったので何か遺品はないかと思いまして…」

エルジェーベトは悲しそうな顔をし、テーブルの上にあった埃を被った木箱のオルゴールを手に取る。

エルジェーベトがオルゴールを開くと、音が鳴りはじめた。

「知ってますか?」
「いえ、申し訳ないですが…」

⏰:10/12/18 10:23 📱:SH04B 🆔:Agq75nzI


#25 [不発花火]
音楽に嗜みがない青年には、エルジェーベトの手の中で奏でる音楽が何だがわからなかった。
だが酷く美しく、悲しい曲のように青年は感じた。

「レクイエムですわ。ここを『亡者の館』と呼ぶ方々が祖母の魂を沈めるために作ったの」


青年の耳に、心地好くイザベラのためのレクイエムが響く。

「さあ、そろそろ日も落ちるわ。また来て下さる?」

「毎日でも。エルジェーベト」


それから青年は、毎日のように亡者の館に足を踏み入れた。

⏰:10/12/18 10:23 📱:SH04B 🆔:Agq75nzI


#26 [不発花火]
村人や長に引き止められても「色々と価値のあるものが残っている。取り壊すなら全てを調べてから」と最もらしい言い訳を口にし、制止の声すら聞き入れなかった。


青年はエルジェーベトの美しさに魅入られていた。

エルジェーベトと館で小物を探したり、お喋りをする時間が青年はとても好きだった。


「エルジェーベト。今日は少し遅れてしまったよ。いるかい?」

扉を開けて館に入るが、エルジェーベトがいる気配はなかった。

仕方ない、と思い青年は再び扉に手をかけるが、館の奥で扉が閉まる音が聞こえた。

⏰:10/12/18 10:23 📱:SH04B 🆔:Agq75nzI


#27 [不発花火]
「なんだ、いるのかエルジェーベト。かくれんぼかい?」

そういえば今いる大広間以外の部屋に入ったことがないなと青年はふと思った。

音が聞こえた方に青年が足を運ぶと、錆びた鉄の扉があった。


「なんだ、これは…」

扉には『亡き君へ告ぐ』という文字が血液で綴られていた。

「エルジェーベト。入るよ」

青年は微かに恐怖を覚えたが、愛しいエルジェーベトのいるだろう部屋に足を踏み入れる。

ギィー―…

重い扉が開く。
冷たい空気を感じる。
恐怖を感じる。

⏰:10/12/18 10:24 📱:SH04B 🆔:Agq75nzI


#28 [不発花火]
「エルジェ、…!?」

扉の先に広がるのは密室。
窓すらない密室の隅に美しい深紅のドレスを着た白骨死体だった。


バタン、と鈍い音を立てて扉が閉まる音が後ろで聞こえたのを青年は感じた。

「エルジェーベト…君かい?」

白骨死体はエルジェーベトと同じ深紅のドレスを身に纏っていた。

⏰:10/12/18 10:24 📱:SH04B 🆔:Agq75nzI


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