大量生産の屑みたいな短編集
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#6 [のっぺらぼうの国(5)]
意外と民主化運動のデモは国民の関心を得ていた。そしてある日を境に(一日二日のズレはあるが)日記は心を亡くしていた。

私は調べ上げる内にあることに気が付いた。民主化運動に参加した者たちは揃って一日早くのっぺらぼうになっているのだ。

そして私はある仮説を組み立てた。

将軍の豪邸に赴く。兵士や側近は揃ってのっぺらぼうになっていた。

将軍はげっそりしていた。肉が落ちている。かつての威光は見られない。

「何かわかったかね? 解決方法は?」
「将軍、これから話す内容は一つの仮説です。将軍の気を悪くしてしまうかもしれません」
「解決方法がわかったのか?」
「仮説をお話しします」

私が強調して言うと将軍は黙った。私は言った。

⏰:11/02/01 22:52 📱:biblio 🆔:R.sy3Skc


#7 [のっぺらぼうの国(6)]
「将軍は何らかの手を使って人々から心を奪ったんじゃないですか?」
「何故私がそんなことをする」
「民主化のデモを鎮静化させるため、ではないですか?」

将軍は黙っていた。眉間にしわを寄せ、厳しい表情を作る。

「私はやってない」
「将軍、最近鏡を見ましたか?」
「見とらん。鏡は嫌いなんだ」
「将軍、のっぺらぼうになりかけてますよ」

将軍は自分の顔を両手で撫で回した。

「私がのっぺらぼう? 嘘だ! 嘘だ! おい出てこいのっぺらぼう! 私の顔を返せ! 心を返せ!」

将軍は何者かに怒鳴り散らした。将軍の目の先には誰かがいるようだ。将軍の言葉からすると、人々をのっぺらぼうにした者だろう。

「将軍、心の無い者と接すると心を失うんですよ。それがわかったでしょう」

⏰:11/02/01 22:52 📱:biblio 🆔:R.sy3Skc


#8 [もし傘を貸さなかったら(1)]
◆もし傘を貸さなかったら

馬鹿みたいに暑い。もわっとした厚い空気が息苦しさを助長する。スーツからは汗の嫌な匂いがする。

私は会社帰りで駅を出ようとしていた。するとバケツをひっくり返したような激しい雨が勢いよく地面を叩いた。強めのシャワーだ。自然が生み出したシャワー。

私は鞄から折りたたみ傘を取り出した。夏の必需品だ。夕立はいつも突然現れる。そして気が済むまで雨を降らす。しかし折りたたみ傘があれば問題ない。

私は周りを見た。思った程多くの人が傘を持っていた。

⏰:11/02/01 22:56 📱:biblio 🆔:R.sy3Skc


#9 [もし傘を貸さなかったら(2)]
そんな中、魅力的な女性が暗い表情を浮かべながら雨を眺めていた。時々雲の様子を見て雨が止むのを待っている。

魅力的……なにが魅力的なのかはわからない。鼻は低く、目は少し離れていた。美人と言われるような人じゃなかった。それでも私は魅力を感じた。暗い顔をしていて飛びっきり良い顔をしているというわけでもないのに。

僕は彼女に歩み寄った。そして意を決して話しかけた。

「良かったら使ってください」

そう言って傘を差し出す。彼女は驚き、そして戸惑いながら「いやいいですよ。すぐ止むと思うので。お気遣いありがとうございます」と言った。

⏰:11/02/01 22:56 📱:biblio 🆔:R.sy3Skc


#10 [もし傘を貸さなかったら(3)]
普段なら引き下がる。いや、話しかけたりもしない。でもなんだか今日は違った。私は話しかけなくてはならない。そして傘を貸さなくてはいけないんだ。

「安物なんですよ。遠慮なく使ってください」

私は傘を差し出す。面倒だと思ったのかわからないが、彼女は傘を受け取った。

「じゃあ使わせて頂きます」
「ありがとう」

ありがとう? なんだか馬鹿みたいだ。でも嬉しかった。彼女と話せて、そして傘を受け取って貰えて。彼女は笑った。

⏰:11/02/01 22:57 📱:biblio 🆔:R.sy3Skc


#11 [もし傘を貸さなかったら(4)]
「こっちの台詞ですよ」
「そうでしたね」

そして私たちは別れた。私は鞄を傘代わりにしてシャワーの中を駆け抜けた。

変な人だと思われただろうか? まあそうだと思われても良い。彼女と少しでも話せて良かった。傘一本で話すことができたのだ。安い物だ。

⏰:11/02/01 22:58 📱:biblio 🆔:R.sy3Skc


#12 [もし傘を貸さなかったら(5)]
一週間くらいしてまた駅で彼女に会った。彼女から寄ってきてお礼を言った。そして傘を返してくれた。

「そこでコーヒーでも飲みませんか? お礼をさせてください」
「お礼なんていいですよ。私が勝手にしたことなので」
「じゃあ話だけでもしませんか?」

⏰:11/02/01 22:58 📱:biblio 🆔:R.sy3Skc


#13 [もし傘を貸さなかったら(6)]
私は頷いた。そして喫茶店に入り、コーヒーを飲みながらちょっとした話をした。そして私たちは別れた。

まさかまた彼女と話せるなんて思いもしなかった。実に良い時間だった。魅力的な女性と飲むコーヒーは格段にうまい。

私は思った。やはり傘を貸して良かったな、と。そして思った。あの場面でもし傘を貸さなかったら今の私は居ないんだな、と。

⏰:11/02/01 22:58 📱:biblio 🆔:R.sy3Skc


#14 [最低最悪のトンネル(1)]
◆最低最悪のトンネル

2012年世界は終末を迎えるらしい。そんな都市伝説を耳にした。結構。終わってくれ。あらゆる生命を死滅させ、不公平なこの世を木っ端微塵にしてくれ。欲を言うならば今そうしてほしい。

何故か? この世界から消え去りたいからだよ。わざわざ自殺しないで済む。不公平な世の中なんだ。最後くらい公平に死のうじゃないか。そうなったら素敵だと僕は思う。世界は最後に公平になるんだ。金持ちも貧乏も、顔の整った人も不細工な人も、背が高い人も低い人も、大人も子供も、女も男も、みんないっぺんに死ぬ。

⏰:11/02/01 23:02 📱:biblio 🆔:R.sy3Skc


#15 [最低最悪のトンネル(2)]
平等に苦しみながら(苦しむ暇なんてないかもしれない)死ぬ。

強い風が吹いた。どうせならもっと強力な突風が吹けば良いのに。それも後ろから。そうすれば僕は覚悟を決める間もなくこの屋上から飛び降りることができた。

怖い。地面に身体が叩きつけられる瞬間、想像を絶する痛みが身体の中を駆け巡るんだろうな。そう思うとあと一歩が出ない。怖い。

僕は気持ちを落ち着かせるため、一旦腰を下ろした。

⏰:11/02/01 23:02 📱:biblio 🆔:R.sy3Skc


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