大量生産の屑みたいな短編集
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#46 [新聞から始まった再会と別れ(4)]
バーテンダーとちょっとした話をし、ナッツをつまみながらビールを呑む。時々隣(と言っても少し距離がある)の女性がチラチラとこちらを見ていることに気が付いた。しかし僕は気付かないフリをしてビールを呑み続ける。
「やあ、お姉さん。僕に興味があるの?」なんて言えるような体質じゃない。まあこれは馬鹿げた話だ。もっとマシな言い方がある。
彼女が爪でカウンターをコツコツと叩く。僕はチラッと彼女に目を遣る。すると目と目が合う。僕はドキッとした。女性が微笑みながら軽くお辞儀をする。僕はお辞儀を返す。
:11/02/01 23:29
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#47 [新聞から始まった再会と別れ(5)]
僕はビールを眺めながら考えた。彼女は昔付き合っていた女性に似ていた。それは中学から高校にかけて付き合っていた人で、少し複雑な出来事をきっかけに別れた人だ。
彼女なんじゃないか? と僕は思った。別れて以来何年も会っていないため確信は持てない。それでも時間が経つごとに彼女が元恋人である気がした。
話しかけてみよう。違えば間違えました、と言って謝ればいい。
:11/02/01 23:29
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#48 [新聞から始まった再会と別れ(6)]
僕は席を離れて彼女に近寄った。彼女がこちらを見る。
「気付いてくれないのかと思った」と彼女は言った。「気付いていたのなら話しかけてくれれば良かったのに」と僕は言った。僕は彼女の隣に座る。バーテンダーがビールを持ってきてくれた。
:11/02/01 23:29
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#49 [新聞から始まった再会と別れ(7)]
「気付いてくれなくても、それはそれで良いと思ったの」
「でも君は呼んだ」
「最後のチャンスを上げたのよ」
彼女はカクテルを一口含んだ。カウンターに置かれた綺麗で細長い指を持った左手。薬指には指輪がされていた。
「結婚したんだ?」と僕は話の種にでもと思い訊ねてみた。「二歳年上の人とね」と彼女は何でもなさそうに言った。
:11/02/01 23:29
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#50 [新聞から始まった再会と別れ(8)]
「地元の人?」
「東京の人。小さな会社を経営してるの」
「へえ。今日はなんでまた地元に?」
「特に用事なんてないわ。なんかふらっと帰りたくなったの。そういうのない?」
「僕はずっと地元で生活してるからわからないな。でもあれだろう? たまに卒業した学校が見たくなるとか、よく遊んだ場所を懐かしむとか、そういったことだろ?」
「まあ、そうかもね」
違うのか、と僕は思った。そういったニュアンスが含まれていた。僕はビールとナッツのおかわりを頼んだ。
:11/02/01 23:30
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#51 [新聞から始まった再会と別れ(9)]
僕たちは黙ったり、喋ったりを繰り返した。今何してるの? ああ、そう。そして沈黙。思い出話。そして沈黙。愚痴。そして沈黙。
沈黙の時アルコールがよく進んだ。アルコールが無くなればおかわりを注文した。若者が後ろで馬鹿みたい騒ぎ出したりした。高得点でも出したのだろう。それか賭でもして一人が負けたのだ。あるいは二人かもしれない。
:11/02/01 23:30
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#52 [新聞から始まった再会と別れ(10)]
時間は過ぎ去った。彼女は時計を見ると、そろそろ帰ると言った。勘定を払うと言ったが彼女はそれを許さなかった。
「東京に帰るのかい? それとも実家?」と僕は訊ねた。「実家」と彼女は言った。そうか、実家か。
彼女は歩いて帰ると言った。僕はタクシーを呼んだ方が良いと言ったが彼女は聞かなかった。
「ちょっと酔ってるんだからタクシーで帰った方が良い」
「歩いて帰りたいの。タクシーなんて嫌よ。吐くもん」
:11/02/01 23:32
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#53 [新聞から始まった再会と別れ(11)]
吐く。懐かしい台詞だ。彼女は高校時代吐き気に苦しめられていた。まあ、昔の話だ。
「歩くにしては結構距離あるぜ?」
「大丈夫」
「じゃあ家まで送る」
「いいの、本当に」
彼女は少し怒っていたので僕は仕方なく引き下がった。店の前の攻防は終わり、彼女は「さよなら」と言って歩き出した。
「さよなら」
彼女はたまにフラつきながら闇に消えた。
:11/02/01 23:32
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#54 [新聞から始まった再会と別れ(12)]
僕は彼女を誘うべきだったのだろうか? 彼女はそれを求めていたんじゃないかと思う。それでも僕は引いてしまった。彼女は結婚しているんだ、と理性を働かせた。その結婚がうまくいってないにしても(彼女の話や態度から想像できた)、僕は彼女と寝るべきじゃない。
僕はタクシーを呼んで家に帰った。
その日、彼女は自殺した。
:11/02/01 23:33
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#55 [新聞から始まった再会と別れ(13)]
彼女は電車にひかれて死んだ。事故だと思った。朝の新聞は地元欄で事故だと伝えていたからだ。
でも僕は考える内に自殺だと思った。彼女はこの街に死にに来たんだ。僕の予想以上に彼女はうまくいってなく、そして傷付いていた。
僕が最後の救いだった。あの日僕らは引きつけられるようにして再会した。そしてあの時、彼女は僕を求めていたんだ。彼女の命は僕の手の中にあった。でも僕はその命を落としてしまった。
深く考え過ぎかもしれない。
:11/02/01 23:33
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