大量生産の屑みたいな短編集
最新 最初 🆕
#91 [身分の低い男と王女の話(5)]
山村先生がガーゼに消毒液を付けている間、僕は先生の顔を眺めた。髪の色は黒で、ショートだった。顔は小さく、そして細かった。鼻が高く、左の目の下の泣きぼくろが非常にセクシーだ。白衣はとても身体に馴染んでいた。脚は黒のストッキングで覆われていて、これもまたセクシーだった。僕はこの時既に惚れていたのかもしれない。

先生が僕の右腕を手に取る。僕はその何気ないタッチにドキッとした。心臓が強く脈打った。先生はそんな事は知らずに、傷口をポンポンとガーゼで軽く叩いた。消毒液がしみた。

⏰:11/02/20 14:24 📱:biblio 🆔:A5igH2QY


#92 [身分の低い男と王女の話(6)]
傷口を消毒した後、絆創膏が貼られた。「これで良し」と山村先生は言った。「ありがとうございます」と僕は少し緊張しながら言った。

「今度は気をつけてね」
「はい」

保健室を出ると汗をかいてる事に気付いた。体操着の裾で汗を拭った。

そして僕は一瞬混乱した。先生の容姿を思い浮かべると動悸がしたからだ。胸や顔が熱くなった。今までそんな経験がなかったから、それが恋だと気付くのに時間がかかった。

部活動に戻っても、暫く集中できなかった。普段しないようなミスをした。この気持ちはなんなんだ、と自問する。何故、山村先生の顔がチラつくんだ、と。

⏰:11/02/20 14:26 📱:biblio 🆔:A5igH2QY


#93 [身分の低い男と王女の話(7)]
僕は恋をしたのかもしれない。一目惚れだ。セクシーな容姿に心臓をぐさりと刺され、あの何気ないタッチでトドメをさされた。

そうだ、きっとこれは恋だ。これが恋なんだ!

こうして僕は初恋をした。でもこの恋が報われないことを知っていた。相手は十歳以上年上(しかし年齢だけを考えるとそれほど障害ではないかもしれない)で教師だからだ。僕が好きだと告白しても先生は困るだろうし、迷惑かもしれない。だから僕はこの気持ちを胸の奥にしまった。深い暗闇の底に箱を置くように。

⏰:11/02/20 14:26 📱:biblio 🆔:A5igH2QY


#94 [身分の低い男と王女の話(8)]
でも僕は若かった。気持ちを抑える事なんてできなかった。僕は仮病を使って何度か保健室に行ったりした。

「お腹が痛いの?」
「はい」
「トイレには行った?」
「行きました」
「じゃあ三時間目が終わるまで寝てなさい」
「わかりました」

たったこれだけの会話だけど、僕は嬉しくてたまらなかった。気を抜いてしまうとにやけてしまいそうだった。

ベッドで寝ている間、カーテンの隙間から山村先生の姿を覗いた。先生はいつも書き物をしていた。一体いつも何を書いているんだろう? 時々何か考え、そしてまた書いた。僕はドキドキしながら彼女の姿を目にしていた。

⏰:11/02/20 14:27 📱:biblio 🆔:A5igH2QY


#95 [身分の低い男と王女の話(9)]
昼休み、僕はいつもテニスをしていた。でも時々テニスをしないで保健室に行ったりした。先生はいつも「どうしたあ?」と言う。僕は「眠いのでベッドで眠りに来ました」とクールに答えてベッドに横になった。

「ここは仮眠室じゃないんだぞ」と先生は笑いながら言った。でもベッドで寝るのを許してくれる。

山村先生は人気者で、よく女子が保健室に遊びに来ていた。先生は女子と楽しそうに話をしていた。その話声を聞いていると僕まで楽しくなる。

⏰:11/02/20 14:27 📱:biblio 🆔:A5igH2QY


#96 [身分の低い男と王女の話(10)]
「先生は好きな人いないの?」と女子が言った。おいおい、何て事を訊くんだい! 僕は思わず息を飲んだ。

「ええー、好きな人ー?」と先生は言った。「教えてよ先生」と女子は言った。僕も複雑な心境の中「教えてよ先生」と心の中で言った。でも一方で知りたくない、という気持ちがあった。

どうか神様、いないって事にしてください! いるなんて言われたらショックで吐いちまう!

僕が緊張感に包まれながら答えを待っていると、先生は「内緒」と言った。「ええー! 教えてよー」と女子は言った。「西野さんはどうなの?」と先生は綺麗に逃げた。

⏰:11/02/20 14:29 📱:biblio 🆔:A5igH2QY


#97 [身分の低い男と王女の話(11)]
「私? 私はねえ」と西野さんと思われる人は言った。お前なんかに興味はない、と僕は呟いた。とまあ、僕は吐かずに済んだけど、喜びもしなかった。真相は謎という服を着せられている。

「内緒」

先生は微笑みを浮かべながら言ったんだろうな。えくぼを作りながら、「内緒」と……。僕は実際それを目にしたわけじゃないけど、頭の中ではっきりと思い浮かべる事ができた。

「内緒」と先生は想像の中、微笑みながら言った。えくぼがチャーミングだ。

⏰:11/02/20 14:29 📱:biblio 🆔:A5igH2QY


#98 [身分の低い男と王女の話(12)]
こうして梅雨は過ぎ、夏がやって来た。夏休みの間、僕はひどくイライラしていた。何故なら山村先生に会えないからだ。部活のために学校へ行っても先生はいない。いるのはテニス部の顧問やその他部活動の顧問だ。

僕の欲求が強すぎたのか、夢に山村先生が出てきた事があった。僕はやはりベッドの上で寝ていて、先生と女子の会話を聞いていた。

会話は好きな人の話になり、先生は「内緒」と言う。余程あの場面が印象的だったのだろう。そんな夢を何回か見た。

⏰:11/02/20 14:29 📱:biblio 🆔:A5igH2QY


#99 [身分の低い男と王女の話(13)]
夏休みは終わり、やっと二学期が始まった。僕は嫌がられないよう、保健室に行くのを 自制した。「また来たの」と思われたくなかったからだ。でもやはり抑えられず、何度か保健室前まで行った。保健室前の廊下に腰を下ろし、先生と女子の会話を盗み聞きした。はっきり聞こえなかったけど、それでも十分だった。

たまに通りすがりの三年生(保健室は三年生の校舎にあった)が僕の姿を不思議そうに見て行った。

やがてイチョウの葉も落ち、冬がやってきた。二月頃になると先生の離任の話が出始めた。

⏰:11/02/20 14:30 📱:biblio 🆔:A5igH2QY


#100 [身分の低い男と王女の話(14)]
五人の先生がこの学校を離れると聞いた。その五人の中に山村先生は含まれていた。それを聞いた時、僕はぶっ倒れそうになった。意識が遠退いていく感じがして、友達の話が耳に入らなくなった。頭の中が真っ白になる。

山村先生がいなくなる……。僕はその事実を受け入れられずにいた。嘘だと言ってほしい。会えなくなるなんて考えられない。いつも保健室にいたのに!

でもその事実は否応なしに決定されていた。僕がどんなに足掻いてもこの事実はひっくり返らない。

保健室に行くとやはり女子がいた。僕はするするとベッドに上がり、寝た。

⏰:11/02/20 14:31 📱:biblio 🆔:A5igH2QY


★コメント★

←次 | 前→
↩ トピック
msgβ
💬
🔍 ↔ 📝
C-BoX E194.194