大量生産の屑みたいな短編集
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#96 [身分の低い男と王女の話(10)]
「先生は好きな人いないの?」と女子が言った。おいおい、何て事を訊くんだい! 僕は思わず息を飲んだ。
「ええー、好きな人ー?」と先生は言った。「教えてよ先生」と女子は言った。僕も複雑な心境の中「教えてよ先生」と心の中で言った。でも一方で知りたくない、という気持ちがあった。
どうか神様、いないって事にしてください! いるなんて言われたらショックで吐いちまう!
僕が緊張感に包まれながら答えを待っていると、先生は「内緒」と言った。「ええー! 教えてよー」と女子は言った。「西野さんはどうなの?」と先生は綺麗に逃げた。
:11/02/20 14:29
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#97 [身分の低い男と王女の話(11)]
「私? 私はねえ」と西野さんと思われる人は言った。お前なんかに興味はない、と僕は呟いた。とまあ、僕は吐かずに済んだけど、喜びもしなかった。真相は謎という服を着せられている。
「内緒」
先生は微笑みを浮かべながら言ったんだろうな。えくぼを作りながら、「内緒」と……。僕は実際それを目にしたわけじゃないけど、頭の中ではっきりと思い浮かべる事ができた。
「内緒」と先生は想像の中、微笑みながら言った。えくぼがチャーミングだ。
:11/02/20 14:29
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#98 [身分の低い男と王女の話(12)]
こうして梅雨は過ぎ、夏がやって来た。夏休みの間、僕はひどくイライラしていた。何故なら山村先生に会えないからだ。部活のために学校へ行っても先生はいない。いるのはテニス部の顧問やその他部活動の顧問だ。
僕の欲求が強すぎたのか、夢に山村先生が出てきた事があった。僕はやはりベッドの上で寝ていて、先生と女子の会話を聞いていた。
会話は好きな人の話になり、先生は「内緒」と言う。余程あの場面が印象的だったのだろう。そんな夢を何回か見た。
:11/02/20 14:29
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#99 [身分の低い男と王女の話(13)]
夏休みは終わり、やっと二学期が始まった。僕は嫌がられないよう、保健室に行くのを 自制した。「また来たの」と思われたくなかったからだ。でもやはり抑えられず、何度か保健室前まで行った。保健室前の廊下に腰を下ろし、先生と女子の会話を盗み聞きした。はっきり聞こえなかったけど、それでも十分だった。
たまに通りすがりの三年生(保健室は三年生の校舎にあった)が僕の姿を不思議そうに見て行った。
やがてイチョウの葉も落ち、冬がやってきた。二月頃になると先生の離任の話が出始めた。
:11/02/20 14:30
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#100 [身分の低い男と王女の話(14)]
五人の先生がこの学校を離れると聞いた。その五人の中に山村先生は含まれていた。それを聞いた時、僕はぶっ倒れそうになった。意識が遠退いていく感じがして、友達の話が耳に入らなくなった。頭の中が真っ白になる。
山村先生がいなくなる……。僕はその事実を受け入れられずにいた。嘘だと言ってほしい。会えなくなるなんて考えられない。いつも保健室にいたのに!
でもその事実は否応なしに決定されていた。僕がどんなに足掻いてもこの事実はひっくり返らない。
保健室に行くとやはり女子がいた。僕はするするとベッドに上がり、寝た。
:11/02/20 14:31
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#101 [身分の低い男と王女の話(15)]
「先生がいなくなるなんて寂しいなあ」と女子が言った。「先生も寂しいよ。せっかく仲良くなったのにねえ」と先生は言った。
やはり事実なんだな、と僕は実感する。やはり先生はいなくなるんだ。今でも遠い存在だったのに更に遠い存在となってしまう。
僕は想いを伝えるべきかどうか考えた。この学校を離れるのなら告白してもいいんじゃないか、と思う。結果はどうであれ、この想いを伝えなければ一生後悔する気がする。
僕は決めた。想いを打ち明けよう。
:11/02/20 14:32
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#102 [身分の低い男と王女の話(16)]
ある日の昼休み、僕は教室を出た。とても緊張している。保健室に女子がいなければ、今日想いを打ち明けるつもりだ。
北校舎に入るとき、もう緊張で腹が痛くなるようだった。僕は一度トイレに入って気持ちを落ち着かせた。
トイレのひんやりとした空気は僕を少し落ち着かせた。小便をして、流し場で手を洗い、ハンカチで手を拭いた。
僕は保健室前に立ち、保健室に女子がいるかどうかチェックした。話し声はしない。どうやら今日はいないみたいだ。僕は保健室のドアを横に引く。
:11/02/20 14:32
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#103 [身分の低い男と王女の話(17)]
案の定女子はいなかった。女子がいないとまるで神様が僕に知らせてるみたいだった。先生に告白するべきだ、と。
先生はいつも通り書き物をしていた。そして顔を上げ、「こんにちは、水野くん」と言った。僕は「こんにちは、先生」と言った。
僕はベッドに座った。先生は書き物を再開した。
さあ、言うんだ僕。口に出すんだ僕! けれどなかなか言葉が出なかった。僕は迷惑がられる事を恐れていた。恐れが僕の口を閉ざしてしまった。
:11/02/20 14:32
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#104 [身分の低い男と王女の話(18)]
直接言うのは無理だ、と僕は思った。とてもじゃないけど好きですなんて言えない。でも何か言わなくてはならない。ここで想いを伝えなければ、僕はこれからも伝える事はできないだろう。そうなれば僕は一生後悔という念を背負って生きていく事になる。
「先生」と僕は言った。「なあに?」と先生は書き物をしながら言った。
「最近ファンタジー小説を読んでるんです。そのファンタジー小説なんですが、とっても悲しい話なんです。主人公は身分の低い男性で、王女に恋をしてるんです。激しい恋です。心臓を焼くような恋です。これは小説にあった表現なんですがね……」
:11/02/20 14:34
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#105 [身分の低い男と王女の話(19)]
僕は一息ついた。下を向いて話していたせいで、先生がこちらを向いている事に気が付かなかった。僕は顔を赤く染めた。
「続きを話して」
「あ、はい。えっと……それから男は耐えきれなくなり、王女に告白するんです。ほんの僅かな時間ですが、王女に会える時間があるんです。男は好きだと告げるんです。でも王女はやはり身分の違いから断るんです。こんな話なんですが、僕はこれを読んで強い衝撃を受けました。あまり本を読まなかったから、本ってこんなに素晴らしい物なんだって」
:11/02/20 14:34
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