*トワイライト・ゾーン*
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#1 [スピーディー]
第一章
第1部 旅立ち
第2部 試煉の道
第3部 二つの世界の激突
>>2 感想板
:11/02/21 23:22
:SH07B
:☆☆☆
#2 [スピーディー]
:11/02/21 23:22
:SH07B
:☆☆☆
#3 [スピーディー]
第1部 旅立ち
:11/02/21 23:25
:SH07B
:☆☆☆
#4 [スピーディー]
20××年9月15日、海堂ユータという名の少年が、陸と海とが接する砂浜に立っていた。
:11/02/21 23:28
:SH07B
:☆☆☆
#5 [スピーディー]
ジ―ンズのポケットに両手をつっこんで、おだやかな波をみつめている。
:11/02/21 23:30
:SH07B
:☆☆☆
#6 [スピーディー]
12歳にしては、背が高い。
潮風が長すぎるくらいの茶色の髪を吹きあげ、すけるように白い額をあらわにした。
:11/02/21 23:31
:SH07B
:☆☆☆
#7 [スピーディー]
この3ヶ月間ずっと、彼の頭をかきみだしているもやもやが、いまも胸にわだかまっていた。
:11/02/21 23:34
:SH07B
:☆☆☆
#8 [スピーディー]
いまから3ヶ月前、彼の母は東京のアパートの家を出、あわただしく家具を売り払ったり、不動産業者との交渉もそこそこに、
:11/02/21 23:36
:SH07B
:☆☆☆
#9 [スピーディー]
ニューヨ―クに移って、アパートを借りた。
だが、こんどはそのアパートも出て、ニューハンプシャ―州のささやかな海浜にあるこの静かな避暑地へと逃れてきたのだった。
:11/02/21 23:38
:SH07B
:☆☆☆
#10 [スピーディー]
生活の規則正しさは、いまやユ―タの世界からは消滅していた。
:11/02/21 23:40
:SH07B
:☆☆☆
#11 [スピーディー]
毎日の生活は、いま目の前にある海のように、波立ち揺れ動いているように思えた。
:11/02/21 23:41
:SH07B
:☆☆☆
#12 [スピーディー]
母はユ―タの手を引きずるようにして、何かから逃げまわっているようだ。
:11/02/21 23:42
:SH07B
:☆☆☆
#13 [スピーディー]
いったい、どうしてなんだろう。
ひとけのない浜辺の左のほうに目をやり、つぎには向きを変えて、右のほうをながめた。
:11/02/21 23:44
:SH07B
:☆☆☆
#14 [スピーディー]
左手のほうには、古びたいまや稼働していない遊園地があった。
いまは鼓動を止めた心臓のようにひっそりやすんでいる。
:11/02/21 23:47
:SH07B
:☆☆☆
#15 [スピーディー]
棒漠としたくもり空を背景にそそりたつ、ローラ―・コ―スタ―の骨組みが、木炭でえがいた線画のように見えていた。
:11/02/21 23:49
:SH07B
:☆☆☆
#16 [スピーディー]
あの下に、友だちになったばかりのトニ―・パ―カ―がいるはずだが、いまは彼のことを考える心のゆとりはなかった。
:11/02/21 23:51
:SH07B
:☆☆☆
#17 [スピーディー]
ここに着いた日、ユ―タはレンタカーから降りると、荷物をなんとかしてもらいたがっている母顔色を無視して、周りを見渡した。
:11/02/21 23:54
:SH07B
:☆☆☆
#18 [スピーディー]
「トランクを開けて、バッグを出してよ」と、母が声をかけた。
「このくたびれたお婆さんは、はやくチェックインして、飲み物にありつきたいんだから」
:11/02/21 23:56
:SH07B
:☆☆☆
#19 [スピーディー]
「マティーニだね」
とユ―タが言った。
「そんなときは、『まだそんな歳じゃないよ』って言うものよ」
車の座席から、降り立ちながら、母が言った。
:11/02/21 23:58
:SH07B
:☆☆☆
#20 [スピーディー]
「まだそんな歳じゃないよ」
母はきらりと光る目でユ―タをにらんだ
―20年にわたるB級映画の女王だった、元女優 海堂ナオコのあの目だった。
:11/02/22 00:01
:SH07B
:☆☆☆
#21 [スピーディー]
彼女は背をしゃんと伸ばして、
「ここなら大丈夫よ、ユ―タ。 ここはいいところなんだから。」
:11/02/22 00:02
:SH07B
:☆☆☆
#22 [スピーディー]
カモメがホテルの屋根の上を舞った。
「当分はうるさい電話から解放されるわね」
「そうだね」
母はナオト叔父さんから逃げたがっているのだ。
:11/02/22 00:05
:SH07B
:☆☆☆
#23 [スピーディー]
亡くなった夫の共同経営者とのいざこざから逃れて、いまはマティーニを飲んでベッドにもぐりこみ、頭からフトンをかぶってしまいたいのだ…。
:11/02/22 00:07
:SH07B
:☆☆☆
#24 [スピーディー]
(ママ、いったいどうしたっていうの?)
人がたくさん死んだ。
この世界の半分は死で成り立っているのだ。
頭上でカモメが啼き叫んだ。
:11/02/22 00:10
:SH07B
:☆☆☆
#25 [スピーディー]
(これまでは厄介なことが起こると、とにかくお爺ちゃんがなんとかしてくれたんだ)
だが、そのお爺ちゃんも死んだ。
その死を知らせる声は、いまも電話線の向こうで鳴り響いているように思えた。
:11/02/22 00:12
:SH07B
:☆☆☆
#26 [スピーディー]
トニ―・パーカ―と出会うまでのユ―タは、毎日ホテルで、まるで居眠りする犬のように、時の過ぎるのも意識せず、ただぶらぶらとすごしていた。
:11/02/22 00:18
:SH07B
:☆☆☆
#27 [スピーディー]
毎日の生活が夢の中のようで、すべてが朦朧とぼやけていた。
12歳のユ―タにとって、することが何もないというのは恐ろしいことだった。
:11/02/22 00:21
:SH07B
:☆☆☆
#28 [スピーディー]
そして気がついてみると、ユ―タは海辺に立っていた。
ここへやってきた記憶もなく、そもそも何をしにきたのかもわからなかった。
:11/02/22 00:22
:SH07B
:☆☆☆
#29 [スピーディー]
あの夜母と二人で観ていたテレビもろくに覚えていない。
「あっちこっち動きまわったから、疲れちゃったのね、きっと」
と、母が煙草をふかぶかと吸い、吐き出した煙をすかして彼のほうを見やりながら言っていた。
:11/02/22 00:25
:SH07B
:☆☆☆
#30 [スピーディー]
「あなたに必要なのは、当分ゆっくりすることよ、ユ―タ。 ここはいいところよ。のんびり寛ぎましょう」
母がにっこり笑いかけた。
:11/02/22 00:27
:SH07B
:☆☆☆
#31 [スピーディー]
電話が鳴ったのは、ユ―タが寝ようと思って立ちあがったときだった。
:11/02/22 00:29
:SH07B
:☆☆☆
#32 [スピーディー]
ナオト叔父さんは、とうとう居所をつきとめていた。
ユ―タはつっ立ったまま、母の顔から血の気が退いていくのを見ていた。
:11/02/22 00:30
:SH07B
:☆☆☆
#33 [スピーディー]
彼女はほとんど一語も発せず、ただ最後に、ささやくような声で、
「知らせてくれてありがとう、ナオト」
と言って、受話器を置いた。
:11/02/22 00:33
:SH07B
:☆☆☆
#34 [スピーディー]
そのあとユ―タのほうを向いた母の顔は蒼白で、これまで以上に老け込んで見えた。
「しっかりしなければだめよ、ユ―タ。 いい?」
:11/02/22 00:34
:SH07B
:☆☆☆
#35 [スピーディー]
ユ―タは自分がしっかりできる自信はなかった。
「今日の午後、東京でお爺ちゃんが轢き逃げ事故で、亡くなったのよ」
:11/02/22 00:36
:SH07B
:☆☆☆
#36 [スピーディー]
体の中から空気が抜き取られてしまったような感じがして、ユ―タは喘いだ。
「散歩中に、ヴァンにはねられたんですって。 目撃者の話では、黒い車だったそうだけど、わかってるのはそれだけ…それっきり」
:11/02/22 00:40
:SH07B
:☆☆☆
#37 [スピーディー]
母は泣きだした。
それにつられて、ユ―タも泣き出していた。
それが3日前のことだった。
それがユ―タには、遠い昔のように思えた。
:11/02/22 00:41
:SH07B
:☆☆☆
#38 [スピーディー]
ユ―タの父が死に、お爺ちゃんが死に、いままた、母が死にかけているようだ。
このビ―チにも死は押しかけてきていて、そいつがナオト叔父さんの声で電話で話しかけてくる。
:11/02/22 00:45
:SH07B
:☆☆☆
#39 [スピーディー]
死はあらゆるもののなかに入りこみ、潮風にのって匂ってくる。
ユ―タは怖かった。
:11/02/22 00:46
:SH07B
:☆☆☆
#40 [スピーディー]
カモメが灰色の空を声もなく飛び交っていた。
浜辺の重苦しい静けさも、空の灰色も、母の目の下にひろがってゆくクマのように、死を暗示しているように思われた。
:11/02/22 00:49
:SH07B
:☆☆☆
#41 [スピーディー]
ぼんやりと時間の流れを漂うような状態が何日つづいたのか、はっきりとわからないが、ある日、遊園地に迷いこんで、トニ―・パ―カに出会ったときは、何かに"囚われている"ような無力感が、ふっと消えてなくなるような感じを味わった。
:11/02/22 00:52
:SH07B
:☆☆☆
#42 [スピーディー]
トニ―・パ―カ―は黒人で、髪の毛はちぢれ、頬にはふかい皺が刻まれていた。
:11/02/22 00:53
:SH07B
:☆☆☆
#43 [スピーディー]
昔はあちこちを旅する放浪のブルースミュージシャンだったのだそうが、特に変わったところや、すてきなところがあるわけでもなかった。
それに、何か特にすばらしいことを言ってくれたわけでもない。
:11/02/22 00:56
:SH07B
:☆☆☆
#44 [スピーディー]
それなのに、ユ―タはブラブラと歩いていて、トニ―の色の薄い目に出会ったとき、もやもやしたものがすっと遠退くような感じをおぼえたのだった。
:11/02/22 00:57
:SH07B
:☆☆☆
#45 [スピーディー]
ユ―タはふたたび、いつもの自分自身に返った。
まるでその年老いた黒人から、不思議な流れがジャックのからだの中に流れこんできたかのようだった。
:11/02/22 00:59
:SH07B
:☆☆☆
#46 [スピーディー]
トニ―はにっこり笑うと、
「おや、どうやら日本人の友だちがきたようだ。
風に吹かれて、どこぞの風来坊が入ってきたぜ」
あの"囚われている"感じが消えたのはそのときだった。
:11/02/22 01:01
:SH07B
:☆☆☆
#47 [スピーディー]
(あれ、英語がわかる…)
:11/02/22 01:01
:SH07B
:☆☆☆
#48 [スピーディー]
黒人が幅広の大きな箒の柄を握っているのに、ユ―タは気がついた。
:11/02/22 01:03
:SH07B
:☆☆☆
#49 [スピーディー]
黒人は、片手を腰にあてて背を伸ばした。
「調子はどうだい? え?悪いほうかい、それとも、よくなってきたかい?」
「え、あの、よくなってきました」
と、ユ―タは答えた。
:11/02/22 01:05
:SH07B
:☆☆☆
#50 [スピーディー]
「だったら、ここへきてよかったわけだな。 名前はなんてんだい?」
"どこぞの風来坊"そうトニ―は言った。
またあとでは、"風来ユ―タ"とも呼んだ。
:11/02/22 01:07
:SH07B
:☆☆☆
#51 [スピーディー]
彼の喋る言葉はなんとなくリズムがあって、フレーズがバックビ―トを響かせる。
抱えているのはギターではなくて箒だったけれども、トニ―・パ―カ―はやっぱりミュージシャンだった。
:11/02/22 01:10
:SH07B
:☆☆☆
#52 [スピーディー]
たちまちユ―タは、ジャズが好きだった父なら、きっとトニ―を気に入ったにちがいない、と思った。
:11/02/22 01:12
:SH07B
:☆☆☆
#53 [スピーディー]
それから3、4日間、ユ―タはトニ―のあとにくっつきまわって、彼が仕事するのを眺めたり、自分にできることを手伝ったりした。
トニ―はユ―タに、釘を打たせたり、ペンキを塗る必要のある杭をヤスリでみがく仕事をやらせてくれたりした。
:11/02/22 01:14
:SH07B
:☆☆☆
#54 [スピーディー]
古びた遊園地で、こうしてトニ―の指示でやる単純な作業だけが、学校の授業の代わりのようなもので、ユ―タはそれが楽しかった。
:11/02/22 01:16
:SH07B
:☆☆☆
#55 [スピーディー]
東京からニューヨ―ク、そしてそこから来たこの静かな避暑地にきてからの最初の日々は、救いのないみじめな毎日だったが、新しく知り合った友だちがそこからユ―タを救い出してくれたのだ、という気がした。
:11/02/22 01:19
:SH07B
:☆☆☆
#56 [スピーディー]
こんな海外へと渡り自分と同い年くらいの友だちもいないユ―タにとって、トニ―・パ―カ―は誰よりも親しい友だちになったのだった。
:11/02/22 01:22
:SH07B
:☆☆☆
#57 [スピーディー]
だからいまも、お爺ちゃんの死の恐怖や、母がいまにも死ぬのではないかという恐れから逃れるために、あの暖かいトニ―の懐へとびこんで行きたいという強い気持に駆られていた。
:11/02/22 01:26
:SH07B
:☆☆☆
#58 [スピーディー]
それなのに、またもや、何かに"支配され、操られている"という厭な感じがもどってきていたのだ。
その見えない長い紐が、もしかしたらユ―タと母を、この海のそばの辺境へ引っぱってきたのではないのか。
:11/02/22 01:29
:SH07B
:☆☆☆
#59 [スピーディー]
だれだか知らないが、それがユ―タをここへ呼び寄せたのだ。
こんなことを考えるなんて、頭がおかしいのだろうか。
:11/02/22 01:31
:SH07B
:☆☆☆
#60 [スピーディー]
カモメが一羽、上空でぎゃっと啼いた。
ユ―タはやっぱり、自分の感じていることをトニ―に打ち明けよう、と思った。
:11/02/22 01:32
:SH07B
:☆☆☆
#61 [スピーディー]
頭がおかしいと、トニ―に思われてもいい。
笑われてもいい。
いや、トニ―はけっして笑わないはずだ、とユ―タは思った。
だって、どんなことでも話せる相手だからこそ、友だちじゃないか。
:11/02/22 01:34
:SH07B
:☆☆☆
#62 [スピーディー]
それでも、まだ決心がつかない。
なんだか狂気じみているし、自分でもまだよくわからないのだ。
:11/02/22 01:35
:SH07B
:☆☆☆
#63 [スピーディー]
ユ―タは後ろ髪を引かれる想いで遊園地のほうに背を向けると、ホテルへ向かって砂の上をとぼとぼと歩きだした。
:11/02/22 01:36
:SH07B
:☆☆☆
#64 [スピーディー]
昨夜、ユ―タは世にも恐ろしい夢を見た。
夢の中で、化物が母に襲いかかった。
目がへんてこな形についた、腐りかけたチ―ズのような肌の、小さな怪物だった。
:11/02/22 01:39
:SH07B
:☆☆☆
#65 [スピーディー]
そいつが、
「おまえのママはもうすぐ死ぬんだぞ、ユ―タ、どうだ嬉しいか」
と、蛙の鳴くような声で言った。
:11/02/22 01:40
:SH07B
:☆☆☆
#66 [スピーディー]
そいつが放射能を帯びていて、そいつに触れると自分も死ぬだろう、ということをユ―タは夢の中で知っていた。
:11/02/22 01:42
:SH07B
:☆☆☆
#67 [スピーディー]
彼は悲鳴をあげそうになって目を醒ましたが、全身汗びっしょりになっていた。
波の寄せる規則正しい音を聞いて、やっと自分がどこにいるのかを思いだした。
:11/02/22 01:43
:SH07B
:☆☆☆
#68 [スピーディー]
朝、その夢の話を母にするつもりだったが、母は機嫌が悪く、煙草のけむりの雲に隠れてしまったようで、取りつく島がない。
:11/02/22 01:45
:SH07B
:☆☆☆
#69 [スピーディー]
母がわずかに笑顔を見せたのは、ユ―タが口実をつくって、朝食をとっていたホテルのコ―ヒ―・ショップを出ようとしたときだった。
:11/02/22 01:47
:SH07B
:☆☆☆
#70 [スピーディー]
「今夜は、何か食べたいものある?」
「どんな?」
「どんなって、朝食みたいなものでなくてよ。」
「隣町の魚料理の店を試してみたら?」
「いいわね。じゃ、遊んでらっしゃい」
:11/02/22 01:49
:SH07B
:☆☆☆
#71 [スピーディー]
(じゃ、遊んでらっしゃい、か。
だれと遊ぶの? ママ、 どうしてここに来たの? なんでぼくたちはここにいるの?
ママは病気なの? なんでお爺ちゃんの話を避けたがるの?
ナオト叔父さんの狙いは何なの? いったい― )
:11/02/22 01:53
:SH07B
:☆☆☆
#72 [スピーディー]
疑問、疑問―わからないことばかり。
それに答えてくれる人がだれもいないのだから、どうしようもない。
:11/02/22 01:54
:SH07B
:☆☆☆
#73 [スピーディー]
(もしかして、トニ―が― )
いや、そんなことはバカげている。
知り合ったばかりの黒人の老人が、どうしてユ―タの疑問に答えてくれるというのか。
それでもユ―タは遊歩道を渡り、海岸のほうへ下りていきながら、トニ―のことを考えずにはいられなかった。
:11/02/22 01:57
:SH07B
:☆☆☆
#74 [スピーディー]
夕方、母と言っていたレストランで食事をとった。
料理がきて、ユ―タは貪るようにして食べた。
:11/02/22 02:04
:SH07B
:☆☆☆
#75 [スピーディー]
「こっちの学校は2週間前から始まってるんだよ」
と、食事の途中で、ユ―タは言った。
母が物問いたげな目でユ―タを見た。
彼女はすでにワイン二杯目を飲みおえ、ウェイターが3杯目を運んできたところだった。
:11/02/22 02:07
:SH07B
:☆☆☆
#76 [スピーディー]
ユ―タは肩をすくめた。
「ちょっと言ってみただけだよ」
「学校に行きたいの?」
「え? いやだよ、ここの学校はいやだ」
「それならよかったわ」
と、母は言う。
:11/02/22 02:09
:SH07B
:☆☆☆
#77 [スピーディー]
「あなたの出生証明とか持ってきてないのよ。それがなければ、学校にはいれてくれないのよ」
(坊主、どうして学校に行かないんだい?)
まるで現実に声が聞こえたような気がして、ユ―タは目をぱちくりさせた。
:11/02/22 02:12
:SH07B
:☆☆☆
#78 [スピーディー]
「どうかしたの?」
と、母が訊いた。
「べつに。ただ…遊園地の人が…管理人かなにかしてる黒人なんだけど、その人から、どうして学校へ行かないんだいって訊かれたから」
:11/02/22 02:14
:SH07B
:☆☆☆
#79 [スピーディー]
母は上体をのりだしてきた。その顔はもう笑っていなかった。
「その人になんて話したの?」
ユ―タはまた肩をすくめて、
「モノもらいで休んでるんだって言ったよ。」
:11/02/22 02:16
:SH07B
:☆☆☆
#80 [スピーディー]
母はいくぶんほっとしたらしい。
「知らない人と気安く口をきいちゃだめよ、ユ―タ」
「でも、その人は―」
「それがどんな人でもだめ。知らない人と話をするのはやめなさいね」
:11/02/22 02:19
:SH07B
:☆☆☆
#81 [スピーディー]
ユ―タはあの黒人のことを考えた。
あの灰色の髪、ふかい皺のきざまれた黒い顔、明るい色のふしぎな目。
:11/02/22 02:22
:SH07B
:☆☆☆
#82 [スピーディー]
このどこか薄気味わるいレストランに母と二人で座っているいま、ユ―タに問いかけているのは、あの黒人ではなくてユ―タ自身の声だった。
(ぼくはどうして学校に行ってないんだ?
ママの言うように、出生の証明書がないからさ。
そんなものをここに持ってこれたと思う? ママは逃げ出してきたんだ。 そのママといっしょに、ぼくも逃げてきたんだ。
だって―
:11/02/22 02:26
:SH07B
:☆☆☆
#83 [スピーディー]
―)
ユ―タの手が震え、コップがテ―ブルから落ちて、砕けた。
:11/02/22 02:27
:SH07B
:☆☆☆
#84 [スピーディー]
(おまえのママは、もうすぐ死ぬんだぞ、ユ―タ)
それはあの夢の中で聞いた声だった。
あれは、ナオト叔父さんの声だ。 それも幻聴なんかじゃなく、まるで現実の声でもあった。
:11/02/22 02:30
:SH07B
:☆☆☆
#85 [スピーディー]
帰りの車の中で、母がユ―タに訊いた。
「さっきはいったいどうしたのよ?」
「なんでもない。よそ見しちゃっててさ」
「ごまかさないで」
「してないよ」
「え?」
「ごまかしてなんかない。ちょっといらいらしただけだよ。ごめんなさい。
:11/02/22 02:34
:SH07B
:☆☆☆
#86 [スピーディー]
「いいのよ。 何か、カズヤ君に関係あることかと思ったから」
「ないよ」 (ただ、彼のお父さんが、夢の中で話しかけてきただけのことだよ。 まるでナレーションのように話しかけてきて、ママがもうすぐ死ぬって言ったんだよ)
:11/02/22 02:37
:SH07B
:☆☆☆
#87 [スピーディー]
「彼に会いたいと思う、ユ―タ?」
「だれに?」
「だれだと思ったの? もちろん、カズヤ君よ」
「ときどきね」
:11/02/22 02:39
:SH07B
:☆☆☆
#88 [スピーディー]
カズヤはユ―タのいとこで、ナオト叔父さんの息子だ。
いまカズヤは大阪の私立学校に行っている。
:11/02/22 02:41
:SH07B
:☆☆☆
#89 [スピーディー]
「そのうち会えるわ」
母はユ―タの髪をくしゃくしゃにした。
「ママ、ぐあいは悪くないの?」
つい言葉がとび出してしまい、自分で自分の腿をぐいっとつねった。
:11/02/22 02:42
:SH07B
:☆☆☆
#90 [スピーディー]
「悪くないわ」
そう言い運転しながら、2本目の煙草に火をつけた。
「こんなに調子がよかったことはないくらいよ」
:11/02/22 02:44
:SH07B
:☆☆☆
#91 [スピーディー]
「どれくらい体重が減った?」
「ユ―タ、痩せることとお金持ちになることは、どこまで行っても行きすぎってことはないのよ」
そう言って、ユ―タに笑いかけた。
:11/02/22 02:46
:SH07B
:☆☆☆
#92 [スピーディー]
その弱々しい、歪んだような笑いが、ユ―タの知りたかった真実を、如実に物語っていた。
:11/02/22 02:47
:SH07B
:☆☆☆
#93 [スピーディー]
「ママ― 」
「もうその話はなし。 大丈夫だといったら、大丈夫なの。」
「でも― 」
「それよりFMでジャズでもしてないかしら」
:11/02/22 02:49
:SH07B
:☆☆☆
#94 [スピーディー]
やがて夜空に、ローラー・コ―スタ―の巨大な骨格が見えてきて、つぎには四方にひろがる少し古びたホテルがあらわれた。
これでも家と呼ぶことができるとするなら、二人は家に着いたのだった。
:11/02/22 02:51
:SH07B
:☆☆☆
#95 [スピーディー]
トニ―はペンキが剥げかかったア―ケ―ドの建物の外で、桟橋に膝をついていた。
ふといコ―ドに絶縁テ―プを巻きつけていたのだが、頭がほとんど桟橋にくっつきそうなくらい前屈みになっているので、
:11/02/22 13:09
:SH07B
:☆☆☆
#96 [スピーディー]
痩せた尻をつつんでいるグリーンの作業ズボンの、擦り切れた尻当ての部分がうしろに突き出している。
ユ―タはそのトニ―を見たとたん、いったい何を話したらよいのか、そもそも何か話す気でここへきたのかどうかさえ、わからなくなってしまった。
:11/02/22 13:12
:SH07B
:☆☆☆
#97 [スピーディー]
トニ―は黒い絶縁テ―プを、コ―ドのまわりにもう一回りさせてから、よし、というように頷くと、作業シャツのポケットからナイフを取り出し、外科医のようにあざやかに、テ―プをスパっと切った。
:11/02/22 13:14
:SH07B
:☆☆☆
#98 [スピーディー]
ユ―タはできればいますぐここから逃げだしたい、という気持ちに駆られた。
トニ―の仕事の邪魔になるだけじゃなく、トニ―がかりにも力になってくれるだろうと考えたことだけでも、ばかげていると思った。
:11/02/22 13:16
:SH07B
:☆☆☆
#99 [スピーディー]
古びたいつ稼働するかわからない遊園地の雑役をしている年老いた黒人に、いったい何ができるというのか。
そのとき、トニ―が振り向き、ユ―タの姿をみると、笑うというのではなくて、いかにも、よくきた、という温かい表情をしてみせた。
:11/02/22 13:19
:SH07B
:☆☆☆
#100 [スピーディー]
それでユ―タは、少なくとも邪魔ではないのだ、ということを知った。
「やあ、風来坊」
と、トニ―は言った。
「もうここへは来ないつもりかと思ってたところだぜ。 おたがい友だちになったばかりなのにな。
また会えてよかった」
「ええ。ぼくも」
:11/02/22 13:23
:SH07B
:☆☆☆
#101 [スピーディー]
トニ―はナイフをシャツのポケットにもどすと、長身の痩せたからだを、まるで重量がないかのように軽々と伸ばして立ちあがった。
:11/02/22 13:24
:SH07B
:☆☆☆
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