*トワイライト・ゾーン*
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#201 [スピーディー]
「食べてない」

「じゃあ、ちょっと待ってなさい。

ママのお化粧がすんで美人になりしだい、何か食べさせてあげるわ。」

「うん」

とユ―タ

⏰:11/02/24 16:20 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#202 [スピーディー]
「1人じゃ、つまんないんだもの」

「きっと、あなたがつまんないのは…」

前に身をのりだして、鏡の中の顔をつくづくと眺める。

「リビングで待っててくれる、ユ―タ?

お化粧は独りでしたいの。 これは家伝の秘密なんだから」

⏰:11/02/24 16:22 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#203 [スピーディー]
ユ―タは無言で背を向けると、リビングにもどった。

そのとき、電話のベルが鳴り、ユ―タはびくっと跳びあがった。

⏰:11/02/24 16:24 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#204 [スピーディー]
「ぼくが取ろうか?」

彼は声をかけてみた。

「お願いするわ」

母の熱のない声がかえってきた

⏰:11/02/24 16:25 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#205 [スピーディー]
ユ―タは受話器をとって、「もしもし」 と言った。
「やあ、坊主、やっと捉えたぞ」

ナオト叔父さんの声だった。

⏰:11/02/24 16:27 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#206 [スピーディー]
「おまえの母さんは、いったい何を考えてるんだ?

母さんは、そこにいるんだろう?

私が話をしたい、と伝えなさい―大切な話なんだから。

四の五の言ってる場合じゃないんだ。

言うとおりにしなさい」

⏰:11/02/24 16:30 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#207 [スピーディー]
ユ―タはそのまま受話器受けにもどしてしまおうかと思った。

そしてまた、母と二人で車に乗り込んで、よその州のよそのホテルへ移る。 そのくりかえしだ。

⏰:11/02/24 16:31 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#208 [スピーディー]
だが、彼は電話を切らなかった。

「ママ、ナオト叔父さんから電話だよ。

大切な話があるんだって」
しばらく返事がなかった。

ようやく母の声がした。
「こっちで取るわ」

⏰:11/02/24 16:33 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#209 [スピーディー]
ユ―タはとっさにどうするか肚をきめた。

母がそっと境のドアを閉めた。

母がむこうの寝室の電話を取って、

「いいわよ、ユ―タ」

と、ドア越しに言った。

⏰:11/02/24 16:35 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#210 [スピーディー]
「わかった」

と、ユ―タも言い返す。
それから、受話器を耳に押し当て、こちらの息遣いを聞かれないように、片手で送話口をふさいだ。

⏰:11/02/24 16:37 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#211 [スピーディー]
「やるもんだな、妹よ」

ナオト叔父さんが言っている。

「あざやかなお手並みだ。
おまえがまだいまだに映画に出てるころなら、こいつを利用して 《スタ―女優はなぜ失踪したか?》 なんて、ちょっとした宣伝に使えたろうにな。

しかし、もういいかげんに分別のある人間らしく振る舞ったらどうだ?」

⏰:11/02/24 16:40 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#212 [スピーディー]
「どうしてここがわかったの?」

「見つからないとでも思ってたのか?

頼むから、ナオコ、東京へ戻ってくれないか。

逃げまわるのは止めにしなさい。」

⏰:11/02/24 16:42 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#213 [スピーディー]
「兄さん、あたし、逃げまわってるの?」

「おまえにはもうそんな時間はないはずだ。

私だって暇じゃない。

おい、ちょっと待て。 坊主のほうの電話はまだ切れてないぞ。」

⏰:11/02/24 16:44 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#214 [スピーディー]
「もちろん切ったわよ」

ユ―タは心臓が止まるかと思った。

「受話器を置くんだ、坊主」

ナオトの声がユ―タに言った。

⏰:11/02/24 16:46 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#215 [スピーディー]
「バカげたこと言わないで」
と、母が言った。

「バカげたことというのはな、ナオコ、おまえが入院していなければならんときに、そんなチンケな避暑地なんぞに隠れていることだよ。

子供の教育のことだってそうだ。」

⏰:11/02/24 16:49 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#216 [スピーディー]
「兄さんとは話し合いたくないのよ」

「おまえが嫌でも、話し合わなければならんのだ。
そっちまで出向いていって、必要なら力ずくでも入院させるぞ。」

⏰:11/02/24 16:51 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#217 [スピーディー]
「おまえは会社の半分を所有してるんだ

―そいつはあんたが死ねば、ユ―タのものになる。
だからユ―タの面倒を、私がちゃんと見ようというんだ。」

⏰:11/02/24 16:53 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#218 [スピーディー]
「何がお望みなの」

母はうんざりしたような声で言った。

「わかってるだろう

みんなによかれと思ってるだけさ。

ユ―タの面倒は私が見るよ、よい大学にも行かせるさ。

おまえはユ―タを学校にも行かせてないじゃないか」

⏰:11/02/24 16:56 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#219 [スピーディー]
「ごりっぱなことね」

「それが返事か。 ナオコ、おまえにはいま助けてくれる人が必要なんだ。

それができるのは兄である私しかいない」

⏰:11/02/24 16:58 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#220 [スピーディー]
「それで、要求は?」

「よく知ってるじゃないか、私は公正な取り分しか要求しない。

海堂社のために、私は身を粉にして働いてきたんだ、社長だったおまえの旦那が死んだいま、当然私のものになってしかりべきなんだ。」

⏰:11/02/24 17:07 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#221 [スピーディー]
「兄さんと、亡くなったジュンノスケとは、成功しすぎちゃったんじゃないかと、ときどき思うことがあるわ」

「なにを偉そうに…!

自分の身の振り方さえちゃんとできない女が何を言うか!!!!」

ナオト叔父さんが声を荒げた。

⏰:11/02/24 17:11 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#222 [スピーディー]
「もう切るわよ、兄さん。
ここには近寄らないで。 それとユ―タにもよ」

「病院に行くんだ、ナオコ、いつまでも逃げまわってばかりいたら、いまに―」

⏰:11/02/24 17:13 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#223 [スピーディー]
ナオト叔父さんのセリフの途中で、母は電話を切った。

ユ―タもそっと、受話器を受け台に置いた。

⏰:11/02/24 17:14 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#224 [スピーディー]
ドアの閉まっている寝室からは、何の物音も聞こえてこない。

「ママ? 」

呼んでみた。

「なあに、ユ―タ」

なんとなくふらついているような声

⏰:11/02/24 17:16 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#225 [スピーディー]
「大丈夫? なんともない?」
「わたしが? もちろんよ」
母の静かな足音が聞こえて、ドアが少し開いた。

⏰:11/02/24 17:17 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#226 [スピーディー]
2人の目が合う。

母はドアをいっぱいに開いた。

またもや2人はみつめ合った。

ぎこちない一瞬。

⏰:11/02/24 17:18 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#227 [スピーディー]
「もちろん大丈夫よ。 どうして?」

からみ合っていた視線が離れた。

2人の間に暗黙の了解のようなものが流れた。

⏰:11/02/24 17:20 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#228 [スピーディー]
ユ―タはさっきの会話を盗み聞きしていたのを、母に悟られたのかな、とも思った。

だが、思い直し、2人の間の暗黙の了解というのが、母の病気、という事実であることに気がついた。

⏰:11/02/24 17:22 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#229 [スピーディー]
「つまり」

ユ―タは口ごもった。

「よくはわからないけど、なんだかナオト叔父さんの調子が…」

⏰:11/02/24 17:24 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#230 [スピーディー]
母は煙草を口にくわえて、ライターの蓋をぱちりと開いた。

その目がふたたびユ―タを刺すように見る。

⏰:11/02/24 17:25 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#231 [スピーディー]
「あの悪党のことなんか気にしちゃだめよ、ユ―タ。
ママはただ、あの男からうまく逃げられなくて、苛々してるだけなの。

ナオト叔父さんはママをいじめて面白がってるのよ」

⏰:11/02/24 17:27 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#232 [スピーディー]
「朝ごはんを食べる気分じゃなくなったわ。

あなた、下のロビーのレストランに行って、こんどは本当にお食事しなさい」

⏰:11/02/24 17:29 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#233 [スピーディー]
「いっしょに来てよ」

「しばらく独りでいたいの。 わかってちょうだい」
あなたが戻ってくるころには、ママも気分がよくなっているから」

母は言った。

「お約束するわ」

⏰:11/02/24 17:31 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#234 [スピーディー]
「何かか買ってきてあげようか?」

母はかぶりを振って、無理に笑顔をつくった。

ユ―タはしかたなく部屋を出たが、彼自信ももはや食欲を失っていた。

⏰:11/02/24 17:33 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#235 [スピーディー]
廊下をぶらぶら歩いてエレベーターへ向かう。

行く場所はまたもや1ヶ所しかない。

フロントに死人のような顔の意地悪なボ―イの前を通りすぎ、陰気なロビーを走りながら、すでにユ―タの心は決まっていた。

⏰:11/02/24 17:38 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#236 [スピーディー]
トニ―・パ―カ―は赤い小屋にはいなかった。

長い桟橋にも、姿が見えない。

ロ―ラ―・コ―スタ―の下の埃っぽい場所にも、トニ―はいなかった。

⏰:11/02/24 17:40 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#237 [スピーディー]
ひとけのない遊園地を、途方にくれて見まわしていた。

不安がしだいに募ってくる

もしかして、トニ―の身に何かが起こったのでは?

⏰:11/02/24 17:41 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#238 [スピーディー]
そんなはずはないと思うが、もしもナオト叔父さんがトニ―のことを知ったのだとしたら…

ユ―タは走りだした。

⏰:11/02/24 17:43 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#239 [スピーディー]
すると、前方に妙な形の白塗りの円形に似た建物の内部から、カン、カンカン、とリズミカルな音が聞こえてくる。

⏰:11/02/24 17:45 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#240 [スピーディー]
それは鉄パイプをレンチで叩いているような、だれかが作業をしている音だ―

ユ―タはその音に向かって走った。

⏰:11/02/24 17:48 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#241 [スピーディー]
白い板のまんなかに、ドアの取手がついていた。
ユ―タはその取手をつかんで、ドアを引き開けた。

⏰:11/02/24 17:50 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#242 [スピーディー]
「やあ、風来ユ―タ」

トニ―が一部分解体されたメリ―ゴ―ラウンドのそばの地面に、座っていた。

⏰:11/02/24 17:51 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#243 [スピーディー]
トニ―はレンチを地面に置いて、ユ―タに言った。
「こんどは話を聴く気になったかい? 」

⏰:11/02/24 17:53 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#244 [スピーディー]
「ええ、なりました」

ユ―タはまったく冷静な声音で言ってから、そのあとでわっと泣きだした。

⏰:11/02/24 17:54 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#245 [スピーディー]
「そら、そら」

トニ―は立って、ユ―タのそばにやってきた。

「なんでもないさ。 気をしっかり持ちな」

⏰:11/02/24 17:56 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#246 [スピーディー]
だがユ―タは、とてもその気になれなかった。

急になにもかもが耐え難く、どうにもならないように思えたのだった。

⏰:11/02/24 17:57 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#247 [スピーディー]
涙を見せるのは恥ずかしかったが、ここで泣かなかったら、ぎりぎりに張りつめた恐怖のために、死んでしまうような気がした。

⏰:11/02/24 17:58 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#248 [スピーディー]
「泣くがいいさ、風来ユ―タ」

トニ―の両腕がユ―タを抱いた。

⏰:11/02/24 17:59 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#249 [スピーディー]
ユ―タは熱くほてった顔を、大人の匂いのするトニ―の薄いシャツに押しつけた。

ユ―タは両腕をトニ―の体にまわした。

掌にトニ―の背中の、ほとんど肉のついていない、皮と骨が感じられた。

⏰:11/02/24 18:05 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#250 [スピーディー]
「それで気が治まるんなら、泣けばいい」

トニ―はあやすようにユ―タの体をゆすった。

⏰:11/02/24 18:06 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#251 [スピーディー]
「そういう時もあるさ。

そうさ。

トニ―にはわかってる、
ユ―タがどんな目に遭い、どんな辛い想いをしたか。

だから、気がすむまで泣くがいい」

⏰:11/02/24 18:07 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#252 [スピーディー]
言葉の意味などどうでもよかった―

―ただその響きとリズムが、ユ―タの心を和ませ落ち着かせた。

⏰:11/02/24 18:08 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#253 [スピーディー]
「ぼくの母は病気なんです」

トニ―の胸に顔を押し当てたまま、ユ―タは言った。

⏰:11/02/24 18:09 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#254 [スピーディー]
「父といっしょに会社をやっていた井上 ナオトという人から逃げるために、母はここに来たらしいんです。」

⏰:11/02/24 18:12 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#255 [スピーディー]
大きくすすりあげて、トニ―の体を離すと、後ろに退り、掌で腫れあがった目をこすった。

⏰:11/02/24 18:14 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#256 [スピーディー]
「だけど、お袋さんがこの町に来た理由は、それだけじゃないんだろ?」

「ええ」

ユ―タは低い声で答えた。

「たぶん…死ぬために来たんです」

⏰:11/02/24 18:16 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#257 [スピーディー]
「たぶんな」

トニ―はユ―タの顔をみつめた。

「そしてたぶん、そのお袋さんを救うために、お前さんがここにいるのさ。

お袋さんと…彼女に似たもう1人の女の人とをな」

⏰:11/02/24 18:18 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#258 [スピーディー]
「それはだれですか?」

ユ―タが麻痺したように訊いた。

それが誰かはわかっていた。

彼女の名前は知らないが、どんな女の人かはわかっていた。

⏰:11/02/24 18:20 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#259 [スピーディー]
「女王だ」

と、トニ―は言った。

「彼女の名前はロ―ラ・デラシアン。

彼女はテリトリーの女王だよ」

⏰:11/02/24 18:21 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#260 [スピーディー]
「お袋さんの命を救うためなら、なんでもやる覚悟はあるかい?」

ユ―タは慎重に、深くうなずいた。

⏰:11/02/24 18:45 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#261 [スピーディー]
「よし」

そう言ってトニ―は尻ポケットに手をやって、ダ―クグリーンの壜をひっぱり出した。

キャップを取って、一口飲む―瞬間、ユ―タはギョッとした。

⏰:11/02/24 18:47 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#262 [スピーディー]
トニ―の体が透けて見えるような気がしたのだ。
気がしただけでなく、トニ―は幽霊のようにたしかに透明になりかけていた。

⏰:11/02/24 18:49 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#263 [スピーディー]
(トニ―が消えてゆく。

それともどこかへ行ってしまうのだろうか)

でも、そんなバカなことがあるはずがない。

そんなのナンセンスだ。

⏰:11/02/24 19:21 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#264 [スピーディー]
やがて、トニ―の体はもとどおりになった。

いまのはたぶん、目の錯覚かなにかで、一瞬だけ―

⏰:11/02/24 19:22 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#265 [スピーディー]
(いや、そうじゃない。 ほんの一瞬だが、彼はここにいなかったんだ!)

―幻覚を起こしたのだろう。

トニ―の目がじっとこちらに注がれている。

⏰:11/02/24 19:25 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#266 [スピーディー]
彼は壜をユ―タのほうに差しだしかけてから、かぶりを振った。

思いなおしてキャップを閉めると、壜を尻ポケットにもどした。

そして、トニ―の顔に微笑がもどる。

⏰:11/02/24 19:28 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#267 [スピーディー]
「ただ…」

…ぼくにはどうしたらいいのかわからない、と言つもりだったが、内部からの声、というより記憶が遮った。

⏰:11/02/24 19:30 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#268 [スピーディー]
『いや、わかっている!

初めはトニ―の力を借りなければならんだろうが、おまえにはよくわかっているはずだ、ユ―タ』
それは聞き覚えのある声 父の声だった。

⏰:11/02/24 19:32 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#269 [スピーディー]
「どうやればいいのか教えてくれたら、なんでもやります」

ユ―タの声は高くなったり低くなったりした。

⏰:11/02/24 19:33 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#270 [スピーディー]
「話してもいいことだけを話してやるよ…全部じゃないぜ。

全部知ることは、許されないことだからな」

⏰:11/02/24 19:35 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#271 [スピーディー]
トニ―は静かな口調で話はじめた。

やわらかくて優しい声だった。

ユ―タはときに眉をひそめ、ときには息を呑んで、聴き入った。

⏰:11/02/24 19:36 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#272 [スピーディー]
「おまえさんは白昼夢というやつをよく知ってるな?」

トニ―はうなずいた。

「あれは夢じゃないんだよ、ユ―タ。

白昼夢でも、夜の夢でもない。

あの場所はほんとうにあるんだ。

現実なのさ。

この世界とはまるで違うけど、やっぱり現実なんだ。」

⏰:11/02/24 19:41 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#273 [スピーディー]
「ぼくの母がよく言うんだけど―」

「お袋さんはテリトリーのことを知らないのさ…だけど、ある意味では、知っているとも言えるんだ。

おまえさんのおやじさんが知ってたからな。

それと、そのもう1人の男―」

⏰:11/02/24 19:44 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#274 [スピーディー]
「ナオト叔父さん?」

「たぶんそいつだ。

奴も知ってる。」

⏰:11/02/24 19:46 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#275 [スピーディー]
それから、トニ―は妙なことを言った。

「むこうでのあいつがだれか、それをわしは知ってる。」

⏰:11/02/24 19:48 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#276 [スピーディー]
「あのオフィスにあった写真…あれはアフリカじゃないんですね」

「アフリカじゃないさ」

「トリック写真でも?」

「トリックでもない」

⏰:11/02/24 19:49 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#277 [スピーディー]
「それで、ぼくの父はそこへ行ってたんですか?」

そう訊いたが、心の奥底ではその質問にたいする答えはわかっていた。

わかってはいたが、それを信じるかどうかは、また別の問題だった。

⏰:11/02/24 19:51 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#278 [スピーディー]
魔術の国とか、病気の女王とか、考えただけで、なんだか不安になってくる。

⏰:11/02/24 19:52 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#279 [スピーディー]
ユ―タが小さいときから、母はくりかえしくりかえし、白昼夢とほんとうの現実とを取り違えてはいけないと、彼に言い聞かせてきた。

その言い方がとても厳しくて、ユ―タはそんな母を怖がったほどだった。

⏰:11/02/24 19:54 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#280 [スピーディー]
だがいまから考えると、母自身が怖がっていたのだろう。

父と永いこと暮らしていて、しかも何一つ知らずにすごせたとは思えない。

⏰:11/02/24 19:57 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#281 [スピーディー]
(そんなにたくさんのことは知らなかったかもしれない…だけど、すこしばかり知っていて、それでママは怖がっていたんだ)
と、ユ―タは思った。

⏰:11/02/24 19:58 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#282 [スピーディー]
「そう、おやじさんはよくむこうの世界へ行ってたよ。

それと、そのもう1人の、え―と…」

「ナオト叔父さんです」

⏰:11/02/24 20:00 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#283 [スピーディー]
「それそれ!

そいつも行ってた。

だけどおやじさんは、むこうのことをよく知るために行ってたんだけど、そいつのほうは、金儲けを狙ってたのさ」

⏰:11/02/24 20:01 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#284 [スピーディー]
「ナオト叔父さんがお爺ちゃんを殺したのですか?」
ユ―タは訊いてみた。

「そんなことはわしは知らん。

それよりわしの言うことをよく聴くんだ、ユ―タ。
時間がないんだからな。

そのナオトってのはここにやってくると思うかい?」

⏰:11/02/24 20:04 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#285 [スピーディー]
「ひどく頭にきてるみたいだったから」

とユ―タは言った。

ナオト叔父さんがこの避暑地に現れるかもしれないと考えると、ユ―タは急に心配になってきた。

⏰:11/02/24 20:05 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#286 [スピーディー]
「―だとすると、もっと時間がないぜ。

そいつはお袋さんが死ぬことなんざ、たいして気にしないだろうからな。
そしてやつの" ツイナ― "も、女王ロ―ラが死ぬことを望んでいるんだから。」

⏰:11/02/24 20:08 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#287 [スピーディー]
「ツイナ―って?」

「こちらの世界には、テリトリーに ツイナ―(分身者) を有ってる人たちがいるのさ」

と、トニ―は言った。

⏰:11/02/24 20:10 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#288 [スピーディー]
「テリトリーには自分がもう1人いるってこと…?」
とユ―タが訊いた。

「おまえさんは頭が利口だな」

⏰:11/02/24 20:11 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#289 [スピーディー]
トニ―は話を進めた。

「大勢じゃないけどな。

なにせむこうは人口がずっと少ない―

こっちの10万人にたいしてむこうは1人、ぐらいの割合かな。

だけど ツイナ―どうしは、むこうとこっちを簡単に行ったり来たりできるのさ」

⏰:11/02/24 20:14 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#290 [スピーディー]
「女王って…その人がぼくの母の…ツイナ―なんですか?」

「そう、そうらしいな」

「だけど、母はいちどもむこうには―」

⏰:11/02/24 20:15 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#291 [スピーディー]
「そう、行ったことはない。

べつに理由はないさ」

「父には…ツイナ―はいたんですか?」

「もちろんいたさ。

いい人だった。」

⏰:11/02/24 20:16 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#292 [スピーディー]
ユ―タは唇をしめらした。

なんておかしな話なんだろう、ツイナ―とかテリトリーとか…。

⏰:11/02/24 20:17 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#293 [スピーディー]
「こっちの世界で父が死んだとき、むこうのツイナ―も死んだんですか?」

「そうだよ。

同時じゃないけど、だいたい同じ頃にな。」

⏰:11/02/24 20:20 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#294 [スピーディー]
「あの…?」

「なんだい?」

「ぼくにも ツイナ―が…テリトリーにいるんですか?」

トニ―がひどく真剣な目で見たので、ユ―タは背筋がゾクゾクとした。

⏰:11/02/24 20:21 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#295 [スピーディー]
「いや、いない。

おまえさんは1人きりなのさ。

おまえさんは特別なんだよ。

それで、そのマサトの奴―」

⏰:11/02/24 20:23 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#296 [スピーディー]
「ナオトです」

ユ―タは笑いそうになった。

「―なんでもいいや、とにかくあいつは、そのことを知ってるんだ。

それが奴がここへくる理由のひとつでもあり、おまえさんがここを出なけりゃならん理由でもあるのさ」

⏰:11/02/24 20:25 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#297 [スピーディー]
「どうして?」

ユ―タは突然声をはりあげた。

「ママが癌だとしたら、ぼくに何ができるっていうの?

癌なのに入院しないで、ここにきたのは、それは、ほかにしかたがないからで、つまり、それは―」

また涙が出そうになったが、ユ―タは懸命に堪えた。

⏰:11/02/24 21:15 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#298 [スピーディー]
「それはもう助からないってことでしょう?」

もう助からない。

そうなのだ。

ユ―タは心の奥底でそのことを知っていた。

母が急激に痩せるいっぽうで、目の下にいつもクマをつくっていることの真の理由を。

⏰:11/02/24 21:17 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#299 [スピーディー]
「それなのに」

ユ―タは涙声で言った。

「そんな夢の国なんかへ行って、なんの役に立つんですか?」

「少し喋りすぎたみたいだな」

と、トニ―は言う。

⏰:11/02/24 21:18 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#300 [スピーディー]
「ただ、これだけは信じてくれ、風来ユ―タ、なんの役にも立たないんだったら、わしがおまえさんに行けなんていうはずがないってことをな」

「だけど―」

⏰:11/02/24 21:19 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#301 [スピーディー]
「いいから。

これ以上のことは、見せるものを見せないと、話すわけにはいかないのさ。

悪いこたいわない。

さあ、おいで」

⏰:11/02/24 21:20 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


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