*トワイライト・ゾーン*
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#301 [スピーディー]
「いいから。
これ以上のことは、見せるものを見せないと、話すわけにはいかないのさ。
悪いこたいわない。
さあ、おいで」
:11/02/24 21:20
:SH07B
:☆☆☆
#302 [スピーディー]
トニ―はユ―タの肩を抱くようにして、外の広い道に出て歩きだした。
彼はトニ―の顔を見上げた。
こんどは何を見せてくれるの?
それとも、さっきのは意地の悪い冗談だったの?
そう訊いてみたかったが、ユ―タは何も言わなかった。
:11/02/24 21:26
:SH07B
:☆☆☆
#303 [スピーディー]
トニ―は例のダ―クグリーンの壜を出した。
「それが―」
ユ―タは言いかけた。
「おまえさんをむこうの世界へ連れていってくれるものさ」
トニ―は言う。
:11/02/24 21:28
:SH07B
:☆☆☆
#304 [スピーディー]
こんなものを使わなくても、むこうへ行ける人は大勢いるけどな。
おまえさんはまだこいつに頼るといいさ」
:11/02/24 22:09
:SH07B
:☆☆☆
#305 [スピーディー]
彼はトニ―の手から壜をひったくるようにして取り、危うく取り落としそうになった。
彼は慌てていたのだ。
:11/02/24 22:14
:SH07B
:☆☆☆
#306 [スピーディー]
彼はトニ―の目を見た。
(この人にはちゃんとわかってるんだ。
ぼくが何を考えているのか、みんな見通している。
トニ―、いったいあんたはだれなの?」
:11/02/24 22:15
:SH07B
:☆☆☆
#307 [スピーディー]
トニ―はユ―タが握っている壜のほうに顎をしゃくってみせた。
「こいつは特製の魔法ジュースさ、大丈夫」
:11/02/24 22:17
:SH07B
:☆☆☆
#308 [スピーディー]
「さあ、ちょっと飲んでみて、むこうへ行けるかどうか試してみな」
トニ―はニヤリとした。
:11/02/24 22:18
:SH07B
:☆☆☆
#309 [スピーディー]
ユ―タは怖くなってきた。
口中がからからに干上がって、日射しがやけに強すぎるように感じられ、こめかみのあたりがドキドキ脈打つのを意識していた。
:11/02/24 22:20
:SH07B
:☆☆☆
#310 [スピーディー]
舌の先に、銅をなめたときのような、いやな味があった。
(この" 魔法のジュース"は、きっとこんなふうな、ひどい味にちがいない)
と、ユ―タは思った。
:11/02/24 22:21
:SH07B
:☆☆☆
#311 [スピーディー]
「怖くなって、こっちへ戻ってきたいと思ったら、またそいつを飲めばいいのさ」
トニ―が言った。
:11/02/24 22:22
:SH07B
:☆☆☆
#312 [スピーディー]
「壜もいっしょについてくるんですね?
ぜったいに?」
病気の母とナオト叔父さんがこちらの世界にいるのに、自分だけ神秘の世界に行ったっきり戻ってこられなくなったら、それこそ目も当てられない。
:11/02/24 22:24
:SH07B
:☆☆☆
#313 [スピーディー]
「ぜったいさ」
「ならいいけど」
ユ―タは壜を口まで持っていった…が、また離してしまった。
ひどい匂いがしたのだ
―まるで油脂が腐ったような匂いだった。
:11/02/24 22:26
:SH07B
:☆☆☆
#314 [スピーディー]
トニ―・パ―カ―はユ―タをみつめた。
口許に微笑がうかんでいたが、目は笑っていなかった。
それどころか、甘えを許さない、厳しい目付きだった。
:11/02/24 22:29
:SH07B
:☆☆☆
#315 [スピーディー]
ユ―タは壜をトニ―のほうに差し出して、「お返しします」 と言ったが、それは弱々しい囁き程度の声だった。
「だめ?」
:11/02/24 22:30
:SH07B
:☆☆☆
#316 [スピーディー]
トニ―は返事をしなかった。
ユ―タの母が死にかけていることや、ナオト叔父さんがいまにもこの地にやってくるかもしれないことを、改めて指摘することもしなかった。
:11/02/24 22:33
:SH07B
:☆☆☆
#317 [スピーディー]
「オ―ケイ」
ユ―タは唐突に言った。
「どうしてもっていうのなら、飲みます」
ふたたび壜に口をあてて、何も考えずに飲んだ。
:11/02/24 22:35
:SH07B
:☆☆☆
#318 [スピーディー]
思っていたよりも、ずっとひどい味だった。
ひどく甘ったるい、腐ったような味で、いわば生きたブドウではなく、熟成しないままに腐敗したブドウで作ったワインのようだった。
:11/02/24 22:36
:SH07B
:☆☆☆
#319 [スピーディー]
ぐっと呑みこむと、かすかに温かいものが、喉をカタツムリのように這い下りてゆく。
ぎゅっと目をつむり、反抗しそうになる喉を押さえつけた。
:11/02/24 22:38
:SH07B
:☆☆☆
#320 [スピーディー]
「トニ― 」
ユ―タは目を開け、そのあとの言葉が出てこなくなった。
トニ―の姿はなかった。
:11/02/24 22:40
:SH07B
:☆☆☆
#321 [スピーディー]
大空に美しい曲線をえがいていたロ―ラ―・コ―スタ―も消えていた。
遊園地そのものがなかった。
:11/02/24 22:41
:SH07B
:☆☆☆
#322 [スピーディー]
ここはどこかほかの場所だった。
ここは―
「テリトリーなんだ」
ユ―タはそっと呟いてみた。
:11/02/24 22:42
:SH07B
:☆☆☆
#323 [スピーディー]
恐ろしいような嬉しいような、その両方が混じり合った気持ちが、全身を駆けめぐった。
:11/02/24 22:43
:SH07B
:☆☆☆
#324 [スピーディー]
口許には呆けたような笑いが浮かんだ。
「トニ―、ぼくは、ぼくはテリトリーにいるんだ! ぼくは―」
その驚愕の大きさに、彼は言葉を失った。
:11/02/24 22:45
:SH07B
:☆☆☆
#325 [スピーディー]
片手で口を押さえて、ゆっくりと体を回転させながら、トニ―の" 魔法のジュース" に運ばれてきた場所を眺めた。
:11/02/24 22:46
:SH07B
:☆☆☆
#326 [スピーディ]
ユ―タは眉をひそめて首を振ると、目をほかへ転じた。
海辺には雑草が丈高くおい茂り、さっきまでメリーゴ―ラウンドがあった岬までずっとひろがっている。
:11/04/07 00:05
:SH07B
:☆☆☆
#327 [スピーディ]
だしぬけにユ―タは、自分の頬を力いっぱいつねってみた。
痛さで思わず涙が出たほどだったが、まわりの景色には何ひとつ変化はなかった。
:11/04/07 00:06
:SH07B
:☆☆☆
#328 [スピーディ]
「やっぱり本物なんだ」
と、呟く。
ユ―タは道を歩きだした。 右手にはまだ、ダ―クグリーンの瓶を持っている。
:11/04/07 00:08
:SH07B
:☆☆☆
#329 [スピーディ]
もう1つの世界にいるトニ―が、この瓶の蓋を持っているはずだった。
(ぼくは突然、トニ―の前から消えたのかな? たぶんそうだろうな。
こいつはすごいや!)
:11/04/07 00:10
:SH07B
:☆☆☆
#330 [スピーディ]
ほぼ40歩ほど進んだところに、クロイチゴの茂みがあった。
トゲにかこまれたクロイチゴの実は、ユ―タがこれまで見たこともないほど大ぶりで、色濃く、みずみずしいようすをしていた。
:11/04/07 00:12
:SH07B
:☆☆☆
#331 [スピーディ]
あの" 魔法のジュース "の打撃からも立ち直ったユ―タの胃袋が、急にぐうぐう鳴り出した。
ユ―タは手を伸ばしてクロイチゴの実をひとつかみ取ると、いそいで頬ばった。
:11/04/07 00:14
:SH07B
:☆☆☆
#332 [スピーディ]
びっくりするほど甘くて、おいしかった。
自分でも少し頭がおかしくなったのじゃないかと思いながら、夢中でまたひとつかみ、またひとつかみ…と頬ばりつづけた。
:11/04/07 00:15
:SH07B
:☆☆☆
#333 [スピーディ]
あとになって考えてみると、たぶんそのおいしさはクロイチゴだけのものではなくて、澄んだ空気のおいしさも手伝っていたのにちがいなかった。
そしてまた、ゆっくり歩きだした。
:11/04/07 00:17
:SH07B
:☆☆☆
#334 [スピーディ]
クロイチゴの茂みを少し離れたあたりで、ユ―タは足を止めると、太陽を見上げた。
すると、カモメが叫び声をあげ飛んでいた。
:11/04/07 00:20
:SH07B
:☆☆☆
#335 [スピーディ]
それがまた、とてつもなく大きなカモメだった。
その巨大カモメが、恐れるようすもなく、ユ―タのほうへ近づいてきた。
:11/04/07 00:21
:SH07B
:☆☆☆
#336 [スピーディ]
とたんに、カモメがぎゃっと啼いた。
そして、ニタリと笑った。
―まちがいなく笑った、とユ―タは思った。
:11/04/07 00:23
:SH07B
:☆☆☆
#337 [スピーディ]
そしてさらにそいつが近づいてくると、死んだ魚や腐った海藻のような不快な臭いがかすかに鼻をついた。
カモメはしゅうしゅうというような声をあげ、また翼を動かした。
:11/04/07 00:24
:SH07B
:☆☆☆
#338 [スピーディ]
「あっちへ行け」
ユ―タはどなった。
胸がドキドキしていたが、どんなに巨大だろうと、カモメなんかに負けてたまるかと思った。
「あっち行けったら!」
:11/04/07 00:26
:SH07B
:☆☆☆
#339 [スピーディ]
カモメが喉の奥を振動させるような声を出した。
「オマママ―シンゾゾ―…オマママ―シンゾゾゾ――」
(オマエノママハ、シヌンダゾ―…)
:11/04/07 00:28
:SH07B
:☆☆☆
#340 [スピーディ]
ユ―タは怖くなって、自分がなにをしているのかという自覚もないままにダ―クグリーンの壜に口を持っていって、中身を飲んだ。
:11/04/07 00:30
:SH07B
:☆☆☆
#341 [スピーディ]
またもやあのひどい味に襲われ、ぎゅっと目をつむった。
そして目を開けると、まわりを見わたして、自分のいる場所にたいるす感覚のあまりの食い違いに、打ちのめされる思いがしたら。
:11/04/07 00:33
:SH07B
:☆☆☆
#342 [スピーディ]
自分の目が信じられない気がした。
テリトリーではたしかに、60歩ほどしか歩いたにすぎない。
それなのに―。
:11/04/07 00:35
:SH07B
:☆☆☆
#343 [スピーディ]
ユ―タは振り向いて、自分のいた遊園地のア―チを見やった。
彼の視力は左右ともに2.0あるのだが、その彼の目ですら、文字がやっと見えるくらいにア―チは遠くのほうにあった。
:11/04/07 00:37
:SH07B
:☆☆☆
#344 [スピーディ]
テリトリーでは30メートルくらいしか歩かなかった。
それなのにこちらの世界では100メートルほども移動していた。
「どうなっちゃってんだ?」
:11/04/07 00:39
:SH07B
:☆☆☆
#345 [スピーディ]
「ユ―タ! おおい、ユ―タ! 風来ユ―タ!」
トニ―の声が、トラックのエンジン音といっしょに聞こえてきた。
:11/04/07 00:41
:SH07B
:☆☆☆
#346 [スピーディ]
そのトラックはユ―タのそばに停まると、トニ―は騒々しいエンジンを切ると、すばやく運転席から降りてきた。
「無事だったかい、ユ―タ?」
:11/04/07 00:43
:SH07B
:☆☆☆
#347 [スピーディ]
ユ―タは手にしている壜を、トニ―の前につきつけて、
「この魔法のジュースはほんとにひどい味ですね」
と、力のない声で言った。
:11/04/07 00:44
:SH07B
:☆☆☆
#348 [スピーディ]
「これで信じるだろ、ユ―タ?」
ユ―タはうなずいた。
「それだけじゃわからないぜ」
と、トニ―。
「はっきり口で言ってみな」
:11/04/07 00:46
:SH07B
:☆☆☆
#349 [スピーディ]
「テリトリーはほんとうにありました。
本物だった。それに鳥が― 」
絶句して身震いした
「どんな鳥だい?」
トニ―がすかさず聞き返した。
:11/04/07 00:47
:SH07B
:☆☆☆
#350 [スピーディ]
「カモメだけど、ばかでかいカモメで―」
ユ―タはかぶりを振った。
「とても信じてはもらえない」
そこで考えなおした。
「いや、あなたは別ですね。
ほかの人には、とても信じてもらえないようなでかい奴でした」
:11/04/07 00:49
:SH07B
:☆☆☆
#351 [スピーディ]
「そいつは喋ったかい?
むこうにいる鳥には言葉を喋るやつが多いんだぜ。
たいがいろくなことは言わんし、それも嘘ばっかりつくんだ」
ユ―タはうなずいた。
:11/04/07 00:51
:SH07B
:☆☆☆
#352 [スピーディ]
「何か喋ったみたいでした。―ぼくの母が死ぬぞって、そいつは言ったんです」
トニ―は片手でユ―タの肩を抱いた。
:11/04/07 00:52
:SH07B
:☆☆☆
#353 [スピーディ]
二人はそうやって、しばらく黙ったまま、歩道の縁に腰をおろしていた。
トニ―がユ―タの顔を見て、訊いた。
:11/04/07 00:54
:SH07B
:☆☆☆
#354 [スピーディ]
「旅に出ようという気になったかい、風来ユ―タ?」
ユ―タの内部にはまだ恐怖心があったが、これまでよりはずっと弱まっていた。
:11/04/07 00:55
:SH07B
:☆☆☆
#355 [スピーディ]
「たぶん」
と、彼は答えた。
「それで、母が助かるのなら。 ぼくは母の命を助けることができるんですか?」
:11/04/07 00:57
:SH07B
:☆☆☆
#356 [スピーディ]
「もちろん、できるさ」
トニ―はまじめな顔で答えた。
「だけど―」
「だけど、だけど、といってたら、きりがないぜ、ユ―タ。
そりゃあ、決して生易しいことじゃないさ。」
:11/04/07 00:58
:SH07B
:☆☆☆
#357 [スピーディ]
「必ずうまくいく、とはかぎらない。 生きて帰ってこられるかどうかわからない。 たとえ帰ってこれたとしても、正気のままでいられるともかぎらない。」
:11/04/07 01:00
:SH07B
:☆☆☆
#358 [スピーディ]
「テリトリーではきっと、あちこち探し歩かねばならんだろうな。
テリトリーはこちらよりはずっと狭いんだ。
それは気がついただろう?」
「ええ」
:11/04/07 01:01
:SH07B
:☆☆☆
#359 [スピーディ]
「だろうと思った。 この道をずっと歩いてきたんだものな、そうだろ?」
さっき知りたいと思ったことが、ふたたびユ―タの心中に浮かんできた。
:11/04/07 01:02
:SH07B
:☆☆☆
#360 [スピーディ]
「ぼくの姿は消えたんですか? ぼくが消えたのを見ましたか?」
「消えたともさ」
トニ―は両手を打ち鳴らしてみせた。
「こんなふうに、パッとな」
:11/04/07 01:04
:SH07B
:☆☆☆
#361 [スピーディ]
するとトニ―はまるで子供みたいにクックッと笑だした。
ユ―タもいっしょに笑った。
笑っていると、あのクロイチゴを食べたときみたいに、とてもいい気分になった。
:11/04/07 01:06
:SH07B
:☆☆☆
#362 [スピーディ]
しばらくすると、トニ―はまじめな顔つきにもどって、
「おまえさんはテリトリーに行かなければならないんだよ、ユ―タ。
ありものを手に入れなければならんのさ」
:11/04/07 01:07
:SH07B
:☆☆☆
#363 [スピーディ]
「それがむこうにあるんですね?」
「そのとおりさ」
「それはぼくの母の命を救うもの?」
:11/04/07 01:08
:SH07B
:☆☆☆
#364 [スピーディ]
「そう…それともう1人の命もな」
「女王ですね?」
トニ―はうなずいた。
「それは何ですか? どこにあるんですか? いつ―」
:11/04/07 01:10
:SH07B
:☆☆☆
#365 [スピーディ]
「ちょっと待った! ストップ!」
トニ―は片手をあげて制した。
口許は微笑していたが、目には悲しげな色さえ浮かんでいた。
:11/04/07 01:11
:SH07B
:☆☆☆
#366 [スピーディ]
「そんなにいっぺんに訊くもんじゃないぜ。
それに、わしの知らんことは教えられない…それと、話すのを許されていないこともな」
「許されないって」
:11/04/07 01:13
:SH07B
:☆☆☆
#367 [スピーディ]
ユ―タは面喰らって、
「いったい、だれが―」
「ほらほら」
と、トニ―。
:11/04/07 01:14
:SH07B
:☆☆☆
#368 [スピーディ]
「いいかい、ユ―タ、おまえさんはできるだけ早く出立しなければならん、あのマサトの奴が邪魔だてしに来ないうちに―」
「ナオトですよ」
「そう、そいつさ。 奴があらわれないうちに、早く発つんだ」
:11/04/07 01:16
:SH07B
:☆☆☆
#369 [スピーディ]
「だけど、彼はぼくの母をいじめるんです」
ユ―タはなんでそんなことを言いだしたのか、自分でもよくわからなかった。
:11/04/07 01:18
:SH07B
:☆☆☆
#370 [スピーディ]
「彼がどんな奴か知らないでしょう? あいつは―」
「知ってるさ」
トニ―は静かな声で言った。
:11/04/07 01:19
:SH07B
:☆☆☆
#371 [スピーディ]
「ずっと昔から知ってるんだよ、ユ―タ。
そして奴もわしを知ってる。
奴にはわしのつけた印がある。
表には見えないが、印がついてりのさ。」
:11/04/07 01:20
:SH07B
:☆☆☆
#372 [スピーディ]
「お袋さんは独りでも大丈夫、自分の面倒は自分で見られるさ。
おまえさんは行かなければならねェんだ」
「どこへ?」
「西へだ」
トニ―は言った。
:11/04/07 01:22
:SH07B
:☆☆☆
#373 [スピーディ]
「こちらの東の海から、むこうの西の海まで」
「えっ?」
その厖大な距離を想って、ユ―タは茫然となった。
:11/04/07 01:24
:SH07B
:☆☆☆
#374 [スピーディ]
「飛行機で行ってもいいんですか」
と、トニ―に訊いてみた。
「だめだ!」
トニッ―は目をまるくして、ほとんど怒鳴らんばかりだった。
:11/04/07 01:26
:SH07B
:☆☆☆
#375 [スピーディ]
片手でユ―タの肩をぐいとつかむと、
「何があっても、ぜったいに空を飛んじゃいかん!
ぜったいに、だめだ!
もしも空にいるときに、テリトリーへ移動してみろ―」
:11/04/07 01:28
:SH07B
:☆☆☆
#376 [スピーディ]
トニ―はそれ以上言わなかった。
言う必要もなかった。
ユ―タはふっと、自分があの雲ひとつない澄んだ空を、まるでパラシュートをつけないスカイダイバ―のように、まっさかさまに墜落してゆくところを想いえがいた。
:11/04/07 01:30
:SH07B
:☆☆☆
#377 [スピーディ]
「歩くんだぞ」
トニ―は言った。
「ヒッチハイクをするんなら構わんが…気をつけなよ。
おまえさんを襲おうと、ホモ野郎や殺し屋が狙ってるかもしれんからな。」
:11/04/07 01:32
:SH07B
:☆☆☆
#378 [スピーディ]
「それもふつうの人間じゃない。 両方の世界にまたがって、あっちもこっちも見ることのできる奴らだ。
遅かれ早かれ、おまえさんがやってくることを知って、見張っているかもしれん」
:11/04/07 01:33
:SH07B
:☆☆☆
#379 [スピーディ]
「そいつらは― ツイナ―(分身者)?」
「ツイナ―もいれば、そうじゃない奴もいる。
とにかく、おまえさんは、むこうの海まで行くんだ。
なんならテリトリーを歩いてってもいい。
それだけ速く行けるからな。」
:11/04/07 01:36
:SH07B
:☆☆☆
#380 [スピーディ]
「ジュースを飲めば―」
「あれは嫌いです」
「嫌いだっていいさ」
トニ―は容赦ない。
:11/04/07 01:37
:SH07B
:☆☆☆
#381 [スピーディ]
「西の海岸まで行ったら、むこうにアンハンブラという街がある。
そこへ行け。
そこはおっかないところだ。 ひでェところだ。
だけど、おまえさんはそこに入って行かなければならん」
:11/04/07 01:39
:SH07B
:☆☆☆
#382 [スピーディ]
ユ―タは唇をしめらせた。
「なぜそんなところへ行かなければならないんですか、そんなひどいところなのに?」
:11/04/07 01:40
:SH07B
:☆☆☆
#383 [スピーディ]
「それは、そこにトワイライト・ゾーンがあるからさ。」
「なんの話かさっぱりわからない」
「行ってみればわかる」
と、トニ―は言った。
:11/04/07 01:42
:SH07B
:☆☆☆
#384 [スピーディ]
立ちあがって、ユ―タの手を取った。
ユ―タも立ちあがる。
老黒人と少年は、向き合って立った。
:11/04/07 01:44
:SH07B
:☆☆☆
#385 [スピーディ]
「よく聴きな」
トニ―はゆっくり歌うようなリズムで言った。
「トワイライト・ゾーンを手に入れるんだ、ユ―タ。
大きくもなく、小さくもなく、水晶体のようなもの。」
:11/04/07 01:46
:SH07B
:☆☆☆
#386 [スピーディ]
「風来ユ―タ、風来坊、カリフォルニアに帰ってゆく。 だけど用心、ご用心。
取り落したら、すべてはオジャンだ」
「なんのことだかわかりません」
ユ―タは食いさがった。
:11/04/07 01:48
:SH07B
:☆☆☆
#387 [スピーディ]
「もっとくわしく―」
「だめだ」
そう言うトニ―の声には、いくびん優しさもこもっていた。
:11/04/07 01:49
:SH07B
:☆☆☆
#388 [スピーディ]
「わしはもどるし、おまえさんは出かける。
これ以上は話せない。
わしはおまえさんを見守ってるさ、ここでも…そしてむこうでも」
:11/04/07 01:51
:SH07B
:☆☆☆
#389 [スピーディ]
「でも、どうすればいいのかわからない」
ユ―タは古トラックの運転台に乗りこむトニ―に向かって言った。
「おまえさんは充分わかってるさ」
トニ―は言った。
:11/04/07 01:53
:SH07B
:☆☆☆
#390 [スピーディ]
「トワイライト・ゾーンを取りに行くんだ。
そいつはおまえさんを呼ぶ。」
「だってトワイライト・ゾーンってなんのことかも知らないのに!」
:11/04/07 01:57
:SH07B
:☆☆☆
#391 [スピーディ]
トニ―は笑ってエンジンキ―をまわした。
「辞書をひきな!」
そう怒鳴って、トラックをバックさせはじめた。
トラックはタ―ンすると、遊園地へ向けて、がたがたと走っていった。
:11/04/07 01:59
:SH07B
:☆☆☆
#392 [スピーディ]
ユ―タは歩道につっ立ったまま、それを見送っていた。
これほど自分が独りぼっちだと感じたのは、生まれてはじめてだった。
:11/04/07 02:00
:SH07B
:☆☆☆
#393 [スピーディ]
トニ―のトラックが遊園地のア―チをくぐって見えなくなると、ユ―タはホテルに向かって歩きだした。
トワイライト・ゾーンとか、アルハンブラの街とか、むこうの西の海岸とか、まるでさっぱりわからない。
:11/04/07 13:01
:SH07B
:☆☆☆
#394 [スピーディ]
じっさい、夢のような話だが、それでもテリトリーはたしかに存在していた。
いまのところ確かなのはそれだけだった。
:11/04/07 13:04
:SH07B
:☆☆☆
#395 [スピーディ]
テリトリーは現実の世界であり、ユ―タはまたそこへ行かなければならないのだ。
たとえまだわからないことだらけで、何をしにいくのかもはっきりしないとしても、彼は行かなければならない。
:11/04/07 13:05
:SH07B
:☆☆☆
#396 [スピーディ]
その前にまず、母を説得する必要があった。
「トワイライト・ゾーンか」
と、呟いてみる。
:11/04/07 13:07
:SH07B
:☆☆☆
#397 [スピーディ]
ホテルに着き、ぎょっとするほど暗く感じられたロビーを通りエレベーターに乗る。
これからしなければならないのは、独りでカリフォルニアへ行くと、母に話すことだった。
:11/04/07 13:10
:SH07B
:☆☆☆
#398 [スピーディ]
ドアがやっと閉まり、エレベーターは上昇しはじめた。
エレベーターを降りるとき、ユ―タの胸にはじめて、いとこの井上カズヤは自分の父親ナオトがどんな人間なのか、わかっているのだろうか、という疑問がわいてきた。
:11/04/07 13:13
:SH07B
:☆☆☆
#399 [スピーディ]
「ママ」
ユ―タは部屋に入りながら声をかけた。
「なんでドアを閉めとかないの? 無用心―」
室内にはだれもいなかった。
「じゃないの」
その言葉は家具にはねかえっただけだった。
:11/04/07 13:15
:SH07B
:☆☆☆
#400 [スピーディ]
室内をゆっくり一巡する。
寝室のドアは開いていた。
カ―テンを閉めきったままなので、なかはロビーとおなじように暗かった。
:11/04/07 13:17
:SH07B
:☆☆☆
#401 [スピーディ]
「ねえ、そこにいるんでしょう?」
そう言って、だれもいない寝室に入って行くと、バスルームのドアをノックした。
:11/04/07 13:18
:SH07B
:☆☆☆
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